とげ。



<オープニング>


 無造作に転がっている真っ白な球状の物体。
 人一人が入れるくらいの大きさで、表面には沢山の小さな穴が空いている。
 通常時は、ただただ、転がっている。
 じっとしていることもある。
 だが、何がきっかけかは判らないが、突然活発に動き出し、生き物に襲い掛かる。
 球は空洞らしく、中にいる本体が、細い穴から棘のようなものを出し入れして、移動や攻撃を行なうらしい。
 正確な穴の数は不明だが、五十や百は超えているのではないかと、霊査士は言う。穴そのものの大きさは、多少のばらつきはあるものの、凡そ親指一本分くらい。棘も細長いものが各穴から無造作に出たり入ったりするそうだ。
 棘もさること、球は相当な強度を持っていると思われる。力押しで叩き壊す事も……相当な時間を要するのは察して余りあるが、不可能ではないだろう。ただ、迅速な対応を望むなら、防御を貫通できる攻撃を用意するほうが確実と思われる。

 目撃者の証言によると、今はまだ、人の少ない街道に転がっているらしいが、襲撃を繰り返すうちに、徐々に人里に近付いてきているという。
 更なる被害が出る前に、この危険な球を退治して欲しい。

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参加者
緋の剣士・アルフリード(a00819)
閼伽栗鼠・シュリ(a04615)
無限のファンタジア・チアキ(a07495)
蒼狂・ジェレイド(a24550)
瞬殺の白銀魔狼・フェンリル(a24763)
猿蓑・クライテ(a24938)
燦涙・メイフィルフィ(a26538)
幻の桃色ガイア・エンフェア(a26732)
淑女式姐御・カナ(a28879)
お魚大好き・アラカブ(a30616)


<リプレイ>

●球
 砂利道を転がる白い球。
 距離があるせいか、今は未だ、ただの白くて丸いものに見える。
「……あれか」
 光沢はそれなりに美しいな、ここから見る分には。緋の剣士・アルフリード(a00819)は細剣を抜き放ち、そんなことを考える。
 それにしても……
 ユリシアのためなら死ねる・チアキ(a07495)には、一つ判らない事があった。
 うになのか、栗なのか。
 うにっぽいと言う事はうになのか? しかし棘の具合から栗の可能性も……
 巡る思考の中で決まった事、それは。
「便宜上『マリモ』と呼ぶ事にしよう!」
「あかんて! 海栗(うに)か栗かはっきりさせな!」
 超高速で反応する、橙壊猿・クライテ(a24938)。
 別に、うにっぽいもの退治だし、略してうに狩りでいいと思う。
 体力の消耗を抑えているせいか、仲間の移動にも最短で追尾しつつ、瞬殺の白銀魔狼・フェンリル(a24763)がひっそりと心でそう呟く。
 そんな会話に首を傾げる、高邁なる小豆色タコ・エンフェア(a26732)。
「その……うにってナンですか?」
「ほら、海におるやん、とげとげの」
 言いながら、クライテは盾代わりの土塊の下僕を捏ね捏ね。
 いや、というよりは、棘のない状態の目標は、余りにも白くて。
「……卵?」
 中には何が入って居るのかな。いつでも弓を射られる姿勢で、閼伽栗鼠・シュリ(a04615)が徐々に距離の縮む球の影の側へ回り込んでいく。
 まだ動きはないが、敵はもう気付いているかも知れない。
 淑女式姐御・カナ(a28879)は、表情を引き締めながら、時折足を止め、前衛陣から更に距離をおく。
 それにしても、この状況である意味緊張感のない会話ができるというのは、やはり経験のなせる業なのだろうか。
 まだまだ判らない事が一杯だ。せめて、足手まといにならないよう頑張ろう。遅咲きの冒険者、ヒトの医術士・アラカブ(a30616)は、年下……に見える先達達の動きに倣い、心持ち後方に居場所を据える。
 エンジェルの邪竜導士・メイフィルフィ(a26538)は、宝珠を握り締め、いつもの微笑の中に僅かな苦笑を含ませた。
「とげ……触ったら、痛そぉだね」
 そうだな……さぞかし痛いのだろうな……
 感情の読めない表情で、蒼狂・ジェレイド(a24550)がぼんやりと思考を巡らせた、その時。
 球の表面に、赤紫色の細いものが、無数に派生した。

●棘
 地面と接する部分に派生した棘が、白い球を持ち上げる。
 脚のように生えた棘のうちの数本が蠢いた……かと思うと、球はそのまま、文字通り走り出したではないか。
 今だけたこっぽい……!
 数名の脳裏に過ぎる感想。
 いや、そんなことを考えている場合ではない。
 地面に刺し傷を残して向かい来る球へと、赤い瞳を開いたフェンリルが、最小限の動きで矢を番える。
 鋭く撃ち放たれた貫き通す矢は、球の内部へ吸い込まれるように消えた。
 直接響く痛みに、棘の動きが乱れる。
 転びそうになった球へと、続け様に襲い掛かる衝撃波。
「今のキミ、とーっても美しくなぁい」
 下部にだけ飛び出た棘を残らず分断したい衝動に駆られながら、アルフリードの撃ち放ったソニックウェーブが球の内部を揺るがす。
 よろめき動きを鈍らせる球に、今だとばかりに急接近する影。
「ふっ……コレぞ自分の最適攻撃ポイントを探しつつ、敵の攻撃のリズムを崩す最強の型『円の動き』!」
 接近と同時にソニックウェーブを打ち込み、更に動きを牽制して、チアキが周囲を回り始める。
「この動きについて来れるかな? ふはははははははは!!」
 体表を突き抜ける衝撃波と、チアキの奇怪な行動に、一瞬まごつく球。
 その隙を逃すまいとするように、順光に回り込んだシュリが、止まった影へ影縫いの矢を投射する。
 びしりと突き立った矢はしかし、球の動きを止めるには至らない。
 矢の拘束力が弱いのだろうか?
 少し強張った表情で、シュリは次の矢の為に狙い定めて弓を引き絞る。
 回るチアキを鬱陶しく感じたか、球が全方位に棘を発したうに形状となって、移動を再開しようと……した、その目の前に、土塊の下僕を前面に押し出しつつ接近してきたクライテが。
「ウニかクリか分からない。そんな中途半端な奴いらへん!」
 棘を伝い、中身に送り込まれる気。
 破鎧掌の衝撃に中身を揺さぶられ、飛び出た細い棘……のように尖っていた触手が、くしゃりと曲がる。
 いそぎんちゃく……!
 誰ともない脳裏に浮かぶ単語。
 しかし、棘のしなびた今は絶好の機会。
 大盾を構えたエンフェアが、最も棘の密度の薄い場所を狙へと急接近。
「一意専心、乾坤一擲ッ!!」
 マッスルチャージを併用し、デストロイブレードで力押しの一撃。
 叩き付けられた闘気に、遊んでいた触手が何本か千切れ飛び、球全体がぐらりと揺れる。
「……ってやっぱりかたいですぅ〜」
 刃から伝わる硬度。
 剣を取り落とさぬようしっかりと握りなおし、一歩下がったその目の前で、撹乱の為にジェレイドの撃ち放ったブラックフレイムが球の表皮を焦がす。
 と、千切れた棘がさっと引っ込んだ。
 かと思った刹那。
 全周囲の触手が、一気に棘状に噴出。
 蜂の巣にされる土塊の下僕。棘は後ろにいたクライテにまで達し、盾の隙間からもエンフェアの身体を穿つ。
「ちょっと、大丈夫!?」
 即座にカナがヒーリングウェーブで二人を包む。
 エンフェアの後ろ側に位置していたアラカブも、その動きに倣うようにして、クライテも範囲に入るように少し移動。
「貴方も髭を生やすと似合いますよ」
 ちょっぴり場違いなことを言いながら、癒しの光で辺りを包む。
 だが、塞がりきらない二人の傷。
 追撃はさせない。
「黒焔の獣、敵を喰らいて煉獄となれ……!」
 別方向から打ち込まれるメイフィルフィのスキュラフレイム。
 飛来した三頭の炎とその爆炎に、球は気を逸らし……いや、逸れ過ぎて、なんとメイフィルフィの方に転がり始めたではないか。
 いけない。気をそらさなくては。
「こっちに来なさい、このウニモドキ!」
 あえて少し距離を詰めたカナが、横合いから気高き銀狼。
 棘に食らいつく銀狼を振り払い、球は思惑通りに標的変更。
 更に、その目の前をチアキが駆け抜けたせいで、球は標的を定め損ね、一瞬動きを止める。
「ふは……ふはは……ふ……うぷ……目が回ってきぼちばるい……」
 少し減速気味。
 それにしても、随分浮気性なうにだな。
 無駄のない動きでフェンリルの引いた弓から、内部へと届く闇色の矢が投射された。
 内部にまで届く矢の一撃に、球の動きがまた一瞬鈍る。
 そこへぐるぐる回るチアキが、衝撃波をプレゼント。
「バターになる前に決着つけないと!」
 表面の数本を切り飛ばしながら、内部に達する衝撃。
 またぐにゃりと曲がる触手。
「……今が一番美しくなぁい」
 不服そうな顔で続け様に放たれたアルフリードのソニックウェーブ。球は痛みに耐え切れなかったのか、棘の硬度を維持できずに地面に転がり落ちる。
 その瞬間を狙い済ましたかのように、シュリの弓から放たれた稲妻の矢が、雷光を描いて球へ突き刺さった。
 内部へのダメージはさほどではないかも知れないが、連続する衝撃に押し返されるかのように、球は街道方向へ転がり逃げる。
 しかしそんな球の軟くなった棘を、クライテが傷も構わずむんずと掴む。
「頭蓋骨をブチ抜け!」
 投げ飛ばされる球。
 地面に打ち付けられ、痙攣したような動きを見せる触手。
 断続的に続く衝撃に、中身は相当参っているようだ。
 このまま押し切れるか。
 距離を慎重に測りながら治療を続けるアラカブのヒーリングウェーブの中、エンフェアが盾を前に、更に接近する。
「中身に届けッ!」
 打ち下ろされる闘気と、腕に響く硬い感触。
 だが、最後に一矢報いてとでも思ったか、球は構わずに棘をありったけ伸ばすと、接近中の者達に襲い掛かった。
 しかもその中に。
 何故か無表情に範囲に入っているジェレイドが。
「迫り来る鋭針、何人も逃れる術を知らず……!」
 食い止めるべく、メイフィルフィが針の雨を降らせるも、球は止まらない。
 エンフェアに新たな傷を穿ち、今度はかわしたクライテを越えて、更にジェレイドへ。
「ちょっ……ヒールウェイブ!」
 一応は武器でやり過ごそうとしているものの、ぐっさりやられてるジェレイドに、カナが半ば慌てて癒しの水滴。すぐにアラカブのヒーリングウェーブも辺りを包むが、ジェレイドは既に戦闘不能に陥っていた。
「もういっぱーつ!」
 引き離すように、クライテがデンジャラススイングで球を放り投げた。その隙に、何だか危ない表情のジェレイドを退避させるシュリ。
 衝撃に、動きを止める球。
 だらりと垂れ下がる触手。
 そして、そこへフェンリルの貫き通す矢が、最後の一矢となって飛来した。

●中
 敵が完全に沈黙したのを確認し、チアキはでろりとしながら回転停止。
 結局中身は何なんだろう。
 まじまじとシュリが穴から中を覗いてみるが、さっぱり判らない。
「結局ウニかクリか分からんやったなぁ」
 アラカブのヒーリングウェーブに少しずつ癒されながら、クライテが目の前の物に色々と思いを巡らせる。
 ハリセンボンの可能性や、未知の生物の可能性や……
 結局その後数時間、モンスターだからという根も葉もないツッコミを受けるまで、クライテの妄想は続く。
 戦闘終了と共にいつもの様子に戻ったカナは、ジェレイドを重点的に治療中。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「ええ。は〜、やっと終わりましたね」
 頷きを返すエンフェア。じんじんと痺れる手の感触が敵の固さを物語り、今更ながらに戦慄を覚えた。
 なにしろ、結局球は割れなかったのだ。
 結局正体わからぬまま、球は埋葬される事に。
 墓の周囲に流れるメイフィルフィの歌。
 だが、中身の正体など気にも留めず、はみ出た棘を回収して食おうとしている若干一名。
 むしろ食ってた。
「栗か!? ウニか!?」
 問い掛けるチアキに、フェンリルは一言。
「……まずい」
 アルフリードだけは、美しくなぁいし当然だなという顔をしていたそうな。


マスター:BOSS 紹介ページ
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