桃の力だ



<オープニング>


 そろそろ、桃が美味しくなる時期だ。
 桃には神秘的な力がある。白桃を食べると頭が良くなる。緋桃を食べると寿命が延びる。黄桃を食べれば、恋愛成就!
「まあ、迷信のなんだろうが、その村ではそう信じられている」
 生真面目霊査士・ルーイは酒場の冒険者達を見渡し、そう言った。
「その村の近くの森には、白、緋、黄、三色三本の桃の木が並んで立っている。村人達は、この時期その桃をとって食べ、「桃祭り」をやってきた」
 その「桃祭り」が今年は開催が危ぶまれてるのだ。
「桃の森に、大きなトカゲが住み着いたんだそうだ。不幸中の幸いか、トカゲは完全な肉食らしく、桃に被害は出ていないが、このままでは桃を取りにいけない」
 それはそうだろう。桃は植物だろうが、人は肉だ。美味しく食べられてしまう。
「知ってのとおり、桃の旬は短い。村人達は気が気ではないようだ。第一、そんな危険な生き物が人里近くにいることを許すわけにはいかないだろう」
 幸いこのトカゲ、縄張り意識が強いようで、あまり遠出はしないらしい。おかげで今のところ人的被害は出ていない。
「トカゲの大きさは、熊ぐらいはある。動きは遅いが、相当タフだ。ちょっとやそっとでは死なない。また、口から相手をマヒさせる息を吐く。気をつけてくれ。
 俺の霊視ではこれが限界だ……すまない」
 ルーイはそう言って、静かに頭を下げた。

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参加者
アルカナの・ラピス(a00025)
蒼冷姫華・クリスト(a17149)
闇夜に虚ろう漆黒・ハルト(a21320)
太陽の風車・ハルト(a21776)
暁の鬼狐・ユウキ(a24790)
紅蓮を纏いし黒鴉・コウ(a26919)
雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)
蒼月華・チョウブ(a30426)


<リプレイ>

●村、出立前、挨拶
「冒険者の方々ですか。どうかよろしくお願いします」
 頭を下げる村長に、惣暗に囚われた芥子舞妓・クリスト(a17149)が応える。
「うん、頼まれたよ。戦闘中は絶対に近づかないようにね」
 ニッコリ笑って念を押す。冒険者の戦いぶりを一目見んと、好奇心に駆られた子供が近づいてくるのは、ない話ではない。
「そうだな、念のため家の中からでない方が良い」
 雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)がそう付け足した。三本の桃の木と、この村はそう離れていない。戦闘中、逃亡した大トカゲが村にやってくる可能性もゼロとは言えない。
 村長は、声を震わせながら、答えた。
「わ、わかりました。村の者にはそう伝えておきましょう」

●桃の木、トカゲ、戦闘
「むう、許せぬの。妾の桃を」
 大トカゲの様子を覗き、どろり濃厚ピーチ姫・ラピス(a00025)が憤慨する。
 霊視で、トカゲはマヒの息を吐くことが分かっている。一同は、風上からトカゲに近づいていく。
 当初の予定通り、囮役の二人がまず木陰から飛び出す。
「ほらっ、こっちだよ!」
 純粋なる愛を唄う桃姫・ハルト(a21776)が、頭上で「スーパースポットライト」を点灯させる。
「こっちを見ろ」
 同様にユダも「スーパースポットライト」を使用し、トカゲの注意を引く。
 大トカゲは頭上を光らせる桃姫・ハルトとユダに視線を移し、ゆっくりとした足取りで近づていく。との時、
「今じゃ!」
「鎧聖降臨」を使い、身の守りを固めたラピスと、
「いくよっ!」
 クリストが、素早く、大トカゲの左右を駆け抜ける。
 二人は、大トカゲの背後に回ったところで、立ち止まり、桃の木とトカゲの間に陣取った。最優先事項は、桃の木の安全だ。
「よいぞ!」
 しっかりと盾を構え、背後に桃の木をかばった体勢で、ラピスはそう合図する。
「よし、絶対逃がさないからねー」
 暁の永遠を狩る赤き狐の鬼姫・ユウキ(a24790)の放った「影縫いの矢」が狙い過たず、大トカゲの影を縫い止める。
「シュー!」
 突然動きを拘束された大トカゲはその場でもがく。
「このカードが何を意味するかその身で知るといい」
 血に濡れし孤高なる漆黒の影・ハルト(a21320)は、冷たく嘯くと、「バッドラックシュート」で生成したカードを、投げつける。カードはトカゲの表皮に黒い不幸の爪痕を刻み込んだ。
「安らかに眠っていただきます」
 蒼月華・チョウブ(a30426)は、慎重に大トカゲの側面に回り込み、両手で持つ巨大な大剣を振り下ろした。冒険者として、熟達しているとは言えない自分を自覚しているチョウブは、突出しないように心がける。
「さあ、いくわよ」
 陽光を言に籠め飛ぶ黒鴉・コウ(a26919)は身動きのとれない大トカゲに向かい、後方から「エンブレムシュート」を放った。
 さらに、前方を塞ぐラピスとクリストの二名も攻撃を加える。
「まいるぞ!」
 ラピスは頭上に召還した守護天使の力を乗せ、「ホーリースマッシュ」をうち下ろす。
「君の身に薔薇を咲かせてあげようか」
 クスリと微笑を浮かべ、クリストは細い鋼糸で、華麗な連撃「薔薇の剣戟」を放つ。
 おびき出し、背後を絶ち、動きを止め、攻撃を加える。
 全ては、冒険者達の計画通りに進んでいた。ここまでは。

「ちっ、またか!」
 血塗れの大トカゲの一撃を、影・ハルトは素早いバックステップでかわす。
「むっ、こっちは行き止まりじゃ!」
 盾をかざすラピスに、トカゲは濁った吐息を吐き掛ける。
「くうっ!?」
 ラピスの五体に、鈍いしびれのようなものが奔った。
「清涼なる浄化の風よ」
 天然毒舌桃色薔薇姐さん・アイル(a26695)の放った「毒消しの風」が一瞬にしてラピスの四肢のしびれをぬぐい去る。
「緑よ、木の葉よ、束縛の手を!」
 コウの呼び声に答え、辺りの木の葉が大トカゲを掴み、縛り付ける。
 もうどれくらいになるだろうか。戦闘は冒険者達の予想を超え、長時間に渡っていた。
 苦戦しているとは言えない。常に何からのアビリティで大トカゲの動きを束縛しているため、攻撃をくらった数は極わずかだ。
 対してこちらの攻撃は、ほぼ全てクリーンヒットさせている。しかし、それでも大トカゲの動きに変化は全く見られなかった。
「動きは遅いが、相当タフだ。ちょっとやそっとでは死なない」
 一同は、そんな霊査士の言葉を思い出していた。
「このっ、くらいなさいっ!」
 ひょっとして単にタフなのではなく、自然治癒能力を有しているのでは? そんなことを考えた、ユウキは治癒能力を阻害するアビリティ「鮫牙の矢」を放った。
 効いたのかどうかは分からない。ただ、大トカゲの様子に変化は見られない。
「効いていない訳じゃないんだ。畳みかけるぞ!」
 素早く流れるような連撃「スピードラッシュ」を放ちながら、ユダがみんなを鼓舞する。
「むうっ、木から離れなさい!」
 チョウブが大トカゲの巨体を両手で持ち上げ、「剛毅投げ」で叩きつける。
「皆を困らせる悪いトカゲさんには、おしおきしちゃうよ!」
 落ちてきたトカゲに桃姫・ハルトが「薔薇の剣戟」をくらわせる。
「逃がさないよっ、動かないで!」
 束縛を解き放とうとする大トカゲを、純粋なる愛を唄う苺姫・ヤツキ(a21261)が「緑の束縛」で再び、その動きを封じる。
 永遠にこのまま続くのかと、思えたが、やがて 、
「シュルー……」
 ついに大トカゲの動きが目に見えて鈍ってきた。
 影・ハルトはスーッと細めた目で、トカゲの巨体を見据えると、
「諦めるんだな。お前の命運は既に失われている」
 鮮血に染まる赤い鋼糸が、丸太のような大トカゲの首に巻き付け「カラミティエッジ」で、ゴトリと切り落とした。 

●村、桃祭り
「ありがとう御座います。早速、桃祭りの用意を始めましょう。是非皆さんの参加していってください」
 村長は、戻ってきた冒険者達に満面の笑顔で礼を言うと、村全体に「桃祭り」の開催を宣言した。

 村の中心には大きなキャンプファイヤーと、その周りに三つの桃の山。すなわち、白、緋、黄の三色の桃の山。たった三本の木からよくぞここまで採れたものだと感心する。
 チョウブは、三色の桃を食べ比べた。白桃は水気が多く、緋桃はネットリとしている。黄桃は一番甘みが強い。
 チョウブは「恋愛成就」を詠う黄桃を囓りながらポツリと呟いた。
「これで良い女性が見つかればいいのですけれど……」

ユダは心ゆくまで三色の桃を堪能しながら、旅団の仲間や師匠に持って帰る土産物になる物を探していた。
「という訳なんだ。なんか良いモノ無いか?」
「土産? うーん。……そうだ、こいつなんてどうだい?」
 そう言って村人が持ってきたのは、桃の種で作られた首飾りだった。木枠に種をはめ込んであり、種自体には傷一つ付けていない。そのまま植えれば、芽を出すという。
「へえ、面白いな」
 ユダはそのユニークな首飾りを手に取った。

「ふふっ」
 コウは借りた民家の台所で、桃のコンポートづくりに挑戦していた。
 皮を剥いた桃と、水、白ワイン、砂糖、レモン汁を一緒に、コトコト鍋で煮込む。
 しばらく煮込めば出来上がり。しかし、本当に美味しくいただくには、完全に味が染み込むまで、一晩くらいこのままにして置いた方が良い。
「明日が待ち遠しいわ」
 コウはフワリと微笑んだ。

 クリストは、三種類の桃を前にして悩んでいた。
「さて、どれがいいかな。頭は別に今の知識があればねぇ。寿命なんて興味ないし。となると……黄桃かねぇ」
 別段三種類全部食べても良いのだが、それでは面白みがない。
「気休めでも願いを込めるのは……良いことだからね。あ、そこのお姉さん。ちょっと台所を借りたいんだけど、いいかな?」
 クリストは、台所を借りると桃のタルトを作り始めた。
 小麦粉、砂糖、バター、ミルク、卵の黄身で生地を作り、その上に桃をトッピング。オーブンで綺麗に焼き上げる。
「ふふっ、良いお土産が出来たよ」
 クリストは会心の笑みを浮かべた。
 
「作るのじゃ。新たなるどろり濃厚ピーチミルクを作るのじゃ!」
 ラピスは楽しげに笑いながら、「どろり濃厚ピーチミルク」の制作に没頭していた。
 三色の桃をドロドロに煮込み、混ぜ合わる。決を取れば、固体と液体で票が真っ二つに割れそうな濃厚な飲み物? を作り上げる。
「出来たのじゃ。名付けて「どろり濃厚ピーチミルクトリニティ」じゃ!」
 ラピスは出来上がった、白、緋、黄色の三色のマーブル模様を描く液体を、誇らしげに掲げた。
 
 影・ハルトは隣で美味しそうに三色の桃を食べるヤツキを横目で見ていた。ふと、ヤツキと目が合う。
「ん」
 ヤツキは嬉しそうに、桃を一つ恋人に差し出す。影・ハルトは受け取らず、訊ねる。
「美味しかったか?」
「うん」
 無邪気な返答に、影・ハルトは桃を受け取り、一口囓る。
 甘い。ハルトは無言のまま、心地よい甘さを噛み締めていた。

「どれにしようかなあ。頭の良くなる白桃は外せないし、長生きできる緋桃もいいな。でも、恋愛成就の黄桃も気になる……もういいや、全部食べちゃえ!」
 しばし迷った後、ユウキは結局三色全ての桃を食べることにした。
「いただきまーす」
 隣では桃姫・ハルトも同様に三色の桃にかぶりついている。
 ユウキはちょっと離れたところで仲睦まじくやっている、影・ハルトとヤツキのカップルを見つけた。
「ふふ、たのしそ」
 ニヤニヤ笑うユウキの視線の先に、桃姫・ハルトも遅れて気づく。
「あ、ヤツキくんとハル兄ちゃん……相変わらずだなあ〜」
 思わず、桃姫・ハルトに顔に笑みがこぼれる。
「……あれ?」
 と、ふと胸の辺り抑える桃姫・ハルトにユウキが横で首を傾げる。
「どしたの? モモちゃん」
「ん、何でもない」
 理由の分からない胸の痛みに、桃姫・ハルトは首を傾げた。それが、仲睦まじい兄カップルを羨む気持ちであることに、桃姫・ハルトはまだ、気づかない。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
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