もぐら



<オープニング>


「モンスター退治の依頼があるんだけど、誰か行ってくれないかい?」
 とある日の昼下がりの酒場。ストライダーの霊査士・キーゼルは、その場にいた冒険者達に、そう声を掛けた。何人かの冒険者が集まって来るのを待ってから、キーゼルは再び口を開く。
「山のふもとにある農村で、畑の世話をしていた人々が、いきなり地面の下から襲われる事件が起きたんだよ。何人も怪我人が出たそうでね……このままじゃ満足に畑仕事ができないから、何とかして欲しいって依頼が来たんだけど……」
 キーゼルが霊視してみたところ、この事件は、モグラのような姿をしたモンスターの仕業らしい。モンスターは地中に潜んでいて……地面の上を通りかかる生き物を襲っているのだという。
「モンスターは物凄い勢いで地上に現れると、そのまま相手に体当たりしたり、爪で引き裂いたりしているようだね。幸いにも命を落とした人はいないけれど、いつそうならないとも限らないし……それに、さ。このモンスター、今は畑の近辺にしか現れないようだけど、村の方へ近付かない保証は無いからね。モンスターが村のある方へ移動して来たら……大惨事になりかねないだろ?」
 そんな事態になる前に、このモンスターを倒しに行って欲しい……そうキーゼルは言う。
「モンスターの大きさは2m位かな。さっきも言った通り、地上に現れながら体当たりしたり、爪で引き裂いたりしたりといった攻撃が中心みたいだね。その素早さと力の強さはかなりのもののようだけど、反面、このモンスターは打たれ弱いようだから、上手く攻撃を防いだり、避けたりしながら、確実に攻撃を加えていくのがいいと思う」
 キーゼルは霊視した内容を元に、そう冒険者達に助言すると、それじゃあ頼んだよと冒険者達を見送るのだった。

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参加者
悪代官・スケベエ(a04439)
狩人・ルスト(a10900)
路傍の花・セリンデ(a15599)
蒼天の蒼き閃光・シオン(a19573)
混沌の群・フォアブロ(a20627)
紅い瞳の黒刃使い・ルチア(a22362)
戦慄の翼・ハクホウ(a23008)
蒼天を翔ける虹色の翼・ハリエット(a24345)
邪龍の巫女・カムナ(a27763)
青玉白髪鬼・レイチェル(a28432)


<リプレイ>

●山のふもとの農村で
 依頼を受けた冒険者達は、モグラのような姿をしたモンスターが現れたという、農村を訪れていた。
「いくつかお聞きしたい事があるんです」
 狩人・ルスト(a10900)と混沌の群・フォアブロ(a20627)は、村人達の元へ向かうと、モンスター退治に必要な情報を集めていた。
 ルストは、モンスターとの戦闘に向いた場所を求めて、大きな岩や木など、逃走を阻むような障害物のある場所は無いかと尋ね、フォアブロは、モンスターが出現して村人を襲った場所とは、具体的にどの辺りなのかを訪ねる。
「あの化け物が出てきたのは、あそこと、そこと……」
「うーん、障害物、ねぇ……とりあえず、村には昔からある大木があるけども……」
 二人の質問への村人の答えを纏めると……モンスターは畑の周囲の何ヶ所かに現れたが、一番回数が多かったのは、西にある畑の一つの脇の辺りらしい。
 一方、障害物はというと……村には大木があるそうだが、畑の周囲は見晴らしがよく、障害と呼べそうな物は何も無いらしい。
「そうなると、囮が立つのは、その西の畑の側が良いでしょうか……」
 得た情報を元に、考え込む仕草をしながら呟くルスト。
 今回は作戦として、囮を用意してモンスターの出現を待ち、地中からモンスターが現れた所で、囮が待機している他の者達の所まで誘導し、包囲した上で拘束して倒す……というものを考えていた。
 その為には、囮がモンスターを待ち構える場所と、他の者が待機する場所が必要で……前者はモンスターの現れやすい場所、後者はモンスターが現れにくく、かつ逃走を行いにくい場所が適していそうだという訳だ。
 だが、かといって村まで誘き寄せる訳にもいかない為、適した場所がないなら、囮の立つ位置から少し距離を置いた位置で待機する事になるだろうか、とルストは思う。
「あのね……もしかしたら、モンスター退治の為に、畑を少し壊す事になるかもしれないんだ……」
 一方、二人の情報収集の後、村人達の方へ一歩進み出て……そう口にしたのは、月天子・ルチア(a22362)。
 モンスターと戦えば、どう心掛けたとしても被害が出てしまう可能性はある……なら、最初からその事を話してみた上で、ちゃんと村人から了承を得ておきたいとルチアは考えたのだ。
「ううん……」
「……まあ、それも止むを得ないだろうさ」
「ああ。それよりも、皆の安全の方が大切だからな」
 ルチアの言葉に、村人の表情は決して明るくない。けれど、彼らにも解っている。畑を大事にしすぎて、それ以上にもっと大切なものを、失ってしまうかもしれない可能性を……。
「畑が傷付くのを歓迎する訳じゃねぇが……作物はまた、育てりゃ良いんだからな」
 とある村人の言葉に、他の者達もうんうんと頷くと「あんたらこそ、モンスター退治は任せたからな」「頑張ってくれよ」と、反対に冒険者達に言葉をかけ……彼らの言葉を受けながら、冒険者たちは畑へ向かうのだった。

●広がる畑とモンスター
「この服を着て、あの畑の側を歩いて下さい」
 紋章術士・セリンデ(a15599)は土塊の下僕を召喚すると、予め用意しておいた服を羽織らせながら、そう命令を出した。下僕達が向かうのは、西のある畑の一つ……そう、モンスターが最も多く現れたという畑の側だ。
 そこへ下僕を向かわせて、モンスターを誘き寄せる囮として使おうというのである。もっとも、仮初の命しか持たない下僕が、どこまで囮の役目を果たすかは、セリンデ自身にも解らなかったけれど……。
 そうして下僕を向かわせながら、セリンデ自身は畑から距離を置く一方。下僕を追うように、畑へと向かっていく者がいた。悪代官・スケベエ(a04439)である。
「おとなしく穴に潜っておればよいものを。わざわざ出てくるとはおろかな奴じゃな」
 スケベエは畑を見ながら呟くと、見習い重騎士・レイチェル(a28432)に鎧聖降臨をかけて貰った上で、畑に近付く。目的は同様に、モンスターを誘き寄せる囮となる為だ。
「さて、モグラの奴はどこにおるのやら……」
 スケベエは霊査士からの助言を胸に、モンスターの最初の一撃をまともに受けないよう、敵の気配を探る。接近に気付いたらライクアフェザーを使い、それを避ければ良い……そう考えながら気を配り待つスケベエだったが。
「ん?」
 ふと、足元の土が盛り上がったかと思うと……一瞬にして足元が崩れ、スケベエの体に衝撃が走った。
 スケベエの気配に気付いたモンスターが地中から接近すると、狙いを定めて……地上へと現れながら、体当たりを行ったのだ。
 それは、地上に現れる前触れから衝撃が走るまで、僅かに一瞬の事で――スケベエが、何かを行う暇など無く、気付けば足元の不安定さと衝撃から、地面へと転がっていた。
 それでも、傷自体はさほど深くなかったのは、レイチェルから受けた鎧聖降臨の効果が大きいだろう。
「来たね。さあ、これが開戦の狼煙だよ!」
 モンスターの出現を見た、悠久の奇跡を奏でる穢れなき翼・ハリエット(a24345)は、迷わずエンブレムノヴァを放った。とにかく姿を見かけたら攻撃する……そう予め決めていたハリエットから飛ぶ火球は、同時に活性化していた紋章筆記によって大きく威力が引き上げられ、モンスターに大きなダメージを与える。
「はあっ!」
 間髪置かず、黒炎覚醒を使っていたフォアブロも、黒炎をモンスターへと飛ばす。
 本当は、その標的はモンスター自身ではなく、モンスターの出て来た穴……それを狙う事で穴を塞ぎ、モンスターの地中への逃走を阻みたかったのだが、モンスターは穴から全身を出すのではなく、半身しか出していなかった為、塞ぐにも穴自体を狙うことが出来ず、攻撃の対象をモンスター自身とするしかなかった。
「止まれーっ!」
 ルチアは紅蓮の咆哮を使い、モグラの動きを止めようとするが、響き渡る声にも動きを止める様子は無い。
「攻撃は、囮が敵を誘導してからでは無かったのか……?」
 彼らの行動に、白銀の狼・シオン(a19573)は微かに戸惑いを見せながらも、当初の予定通りに敵を誘導しようと、スーパースポットライトを使う。
 円陣を組んで待っている仲間の元へ、モンスターを誘導し、取り囲んだ上で拘束すると共に攻撃を行う……その予定だったはずなのだが、どこかで何かがすれ違ったのか、冒険者達は、シオンらのように誘導した上での行動を前提にした者と、誘導を待たずに行動へ移る者の、二通りに別れてしまっていた。
「……だめか」
 誘導を行うのは、もはや難しそうに思えた。既に始まってしまった戦闘……モンスターの方もすっかり戦闘の態勢に入っている。スーパースポットライトを使っても、モンスターの視線はシオンではなく、自分を攻撃して来る冒険者の方を向いたままだ。
 全員で逃げ出しでもすれば別だろうが、この状況でモンスターを別の場所へ誘導するのは至難の業だろう。
「こちらが動くしかないか」
 戦慄の翼・ハクホウ(a23008)は、鮫牙の矢を作り出しながらモンスターへ近付く。今日ハクホウが携えているのはサーベル、弓の時とは違い、牙狩人のアビリティを使うには、矢を投げて届く距離まで近付く必要がある。
(「裏目に出ましたね……」)
 敵が誘導されるまで待機を、と後方にいた、邪竜の巫女・カムナ(a27763)も、顔を曇らせながら前に急ぐ。敵を誘き寄せたら、地中へ逃すのを防ぐため、暗黒縛鎖を使おうとしていたカムナだったが、相手が来ないのならばこちらから、敵を射程に収められる位置まで、近付かなければならない。
「ウゥゥゥ……」
 そして。当のモンスターはというと、攻撃によって出来た傷の痛みに呻き声を漏らすと……攻撃が途切れた隙を生かし、身を屈めると、そのまますっと地中に消える。
「しまった……!」
「どこへ?」
 既に通って来た道を戻る事は、モンスターには容易かったようだ。焦りを浮かべながら辺りを見回す冒険者達……その中の一人の足元に、異変が起きる。
 それはフォアブロの足元だった。そして……またも、気付いた時には遅かった。力自慢のモンスターに対して、彼が身に着けていた拘束服は殆ど防具の役目を果たさず、手にしていた盾が軽減できたダメージも、ほんの僅かな量だけ。何より、彼自身がそもそも体力に乏しく――姿を現しながらのモンスターの攻撃に、フォアブロは、一瞬にして体力を失い、戦闘不能に陥る。
「それ以上の手出しは許しませんよ」
 そのまま更に攻撃を、と身構えるモンスターだったが、カムナがそれを阻むように動く。モンスターを範囲内に捕えたカムナは、暗黒縛鎖を使うと、体内から無数の呪われた鎖を放出し、モンスターを攻撃すると同時に拘束を試みる。
「っ……」
 その鎖によって拘束され、身動きが取れなくなるモンスター。反動でカムナ自身も動けなくなるが、それと引き換えにモンスターの動きを封じられるなら、安いものだ。
「毒消しの風を使えば、モンスターの拘束も解けてしまうかもしれません……私の事は、お気になさらずに」
 そしてカムナは、毒消しの風を活性化しているセリンデに、マヒの回復は要らないと首を振る。毒消しの風とヒーリングウェーブ、どちらを使うか逡巡していたセリンデは、その言葉に、スケベエとフォアブロを射程に収めながら、癒しの光を放つ事に決める。
「彼は俺が」
 レイチェルはフォアブロを担ぐと、彼を連れて後ろへ下がる。相手は地中を移動するモンスター、後ろへ下がる事は、あまり意味が無いかもしれないが、戦闘不能に陥った彼を、そのまま敵のすぐ側に倒れたままにするよりは、遥かにマシだといえるだろう。
「はっ!」
 一方ハクホウはモンスターに詰め寄ると、鮫牙の矢を投げる。突き刺さった矢はダメージを与えるだけでなく、じわじわと血の滲み続ける傷を刻んで、その体力を奪い続ける。
「先程はやってくれおったのう」
 反対側からはスケベエが飛燕連撃を放ち、素早く二度連続で放った刃が、次々に深く突き刺さる。
「はあぁぁっ!」
 その直後、モンスターへと詰め寄ったルチアは、闘気を極限まで高め、デストロイブレードを叩き込む。
「紋章が描きし灼熱の炎よ。その力を以って、邪なる者を焼き払え!」
 更に、今度はハリエットによるエンブレムノヴァが飛び……間髪置かず繰り出される攻撃の数々に、大きな傷を刻まれたモンスターは、苦しげに唸り声を上げる。
「――はっ!」
 そこへ続けて繰り出されたのは、シオンによるゴージャス斬り。優雅なステップと共に放たれた一撃は、鋭く敵を切り刻む。
「! まずい!」
 だが、その直後。モンスターは暗黒縛鎖の拘束から逃れて、自由の身となる。また地中に潜られてしまっては大変だと、牽制に矢を放つルストだったが……モンスターの動きの方が、一瞬だけ早かった。
「く――!」
 矢は無情にも何も無い空を飛んで行き、モンスターは地中へと姿を消す。
 次は一体どこから現れるのか……今まで以上に強い警戒を抱いて、様子を伺う冒険者達だったが――辺りは、静かで、モンスターが現れる気配は無い。
「……まさか?」
 もしや、と、誰からともなくハッとする。モンスターは身を隠し、先程のように攻撃を行おうとしたのではなく。幾度も攻撃を受け、大きく傷付いた事で、これ以上戦うのは得策では無いと判断して……逃走を試みたのではないだろうか、と。
 そう思い至った時には、もう、遅かった。近くにモンスターの気配は全く感じられず……戦いは決着のつかぬまま、モンスターの逃走という結末で幕を閉じた。
(「逃がしてしまった……」)
 冒険者達はその事実に、ただ唇を噛むしかなかった。

 ――のちに、風の噂によると。
 モンスターを倒す事こそ出来なかったものの、あれ以来、件のモンスターが村の側に現れる事は、無くなったという。
 それが何故なのか……負った傷が深く、どこかでそれを癒す事に専念しているのか。それとも、この場所は危険だと察して、どこか他の場所へと旅立ちでもしたのか――それは、冒険者達には判らなかったけれど。
 ただ、あのモンスターが、再び人を傷付ける事が無いようにと……祈るしかなかった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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作成日:2005/07/30
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重傷者:混沌の群・フォアブロ(a20627) 
死亡者:なし
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