開催、大絶叫祭り



<オープニング>


「ザウス大祭前に、我が南国でもひとつ祭りをぶち上げる事にしたぞ。今日はそのお知らせに来た」
 酒場にぬっと入ってきた筋肉霊査士ヴルルガーンが、酒場の壁にペタペタと勝手に紙を貼り始めた。
 それには太い字で、

『大絶叫祭り』

 と、ある。
「読んで字の通り、とにかく海に向かって叫ぶ、それだけの祭りだな。日頃の鬱憤、喜び、疑問、恋の告白から意味のない言葉まで、とにかくなんでも良いから海に向かって叫んでしまおうという祭りだぞ。叫ぶのは一人でも、二人、三人、それ以上のグループでも良い。とにかくあらん限りの力で叫ぶのだ。時期的に見て、ザウス大祭の意気込みなどでも良いだろう。叫ぶ言葉は基本的に各自にお任せだし、何かコスチュームを着て参加するのも自由だ。心のままに、好きな格好で、思うままに叫ぶと良い。ただし……」
 と、ここでじろりと冒険者達を見渡すと、重々しい声でこう付け加えるのだった。
「当日は一般参加者を始め、老若男女、いろんな者が見物に来るだろう。叫ぶ内容はもちろん、格好も公序良俗に反しないようにするのだぞ。それが唯一無二の決まりであり、ルールだ。それに反した場合は、問答無用で叫ぶ言葉に修正が入る他、大会実行委員の筋肉自慢達が寄ってたかっておしおきするのでそのつもりでな。では、よろしく頼むぞ。お主らの心の叫び、存分に南の海に響かせてやるがいい。はっはっは!」
 胸を反らせて豪快に笑うヴルルガーンなのであった。

 ──五分後。
 店に勝手に変なモノを貼るなとか、ツケを早く払えとか店のオヤジに言われ、小さくなっている筋肉霊査士の姿があったという……。

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参加者
NPC:酔いどれ霊査士・ヴルルガーン(a90049)



<リプレイ>

「椰子の実入りまーす!」
「よろこんでー!」
 霊査士のヴルルガーンと今週のビックリドッキリ・ポチョムキンが、揃いの貝殻ビキニを着て、椰子の実片手にニッコリ微笑んだ。
 晴天の空の下、波打ち際に置かれたお立ち台の上での事だ。頭上には『第一回大絶叫祭り』と書かれた横断幕もある。
 祭りが開始されて僅か1分あまり、まず最初の絶叫がそれであり、見物人の多くが目を押さえてバタバタと倒れていく。
 ふと、壇上の2人の目に、砂浜の上でキラリと光る何かが映った。
「んまあ、あれは!」
「素敵! 金の鉄アレイねぇ〜ん!」
 肩を組み、身をくねらせてジャンプする両名。
 ──が。

 ──ずずーん。

 着地点には落とし穴が掘られており、さらに巨大なザルにつっかい棒を施した危険な罠も仕掛けられていたのだ。
「悪く思わんでくれ……これも目的と正義の為」
 目をキラリと光らせ、蒼の閃剣・シュウが、手にした紐を引く。するとザルは2人の筋肉の上に被さり、捕獲完了。
 それを確認すると、シュウはいそいそとお立ち台の上に乗った。格好は木桶を片手にパンツ一丁。頭の上にはタオルという姿だ。
「入浴に行きたいかー! 罰ゲームは怖くないかー!!」
 と、嬉しそうに叫ぶ。
 その間に、朱の烈刃・シャンデーがザルを荒縄でグルグル巻きに縛り上げ、巨大な岩を上に乗せ、仕上げに『コワレタモノ注意』と書かれた張り紙を貼り付けていた。一仕事終えた漢が、満足げな笑顔で額の汗を拭う。

「……第二級神罰執行」
 呟きと共にその背後に忍び寄るひとつの影。

 ──かっきーん☆

「にょわぁぁぁぁぁ〜〜〜!」
 釘を打ち込んだ手頃な棒の一振りで、シャンデーを見事にかっ飛ばしたのは、猫の姿のにゃんこスーツに身を包んだぺ天使・ヒカリである。
「あぁっ! 兄貴〜!」
 駆け寄るシュウも返す刀でお空の星にすると、すっくと台の上に登り、
「ヴルルガーンさんの最後の一本を抜くと幸せになるらしいです!!」
 思いっきり、叫んだ。真偽は無論不明だが、新たな伝説の誕生と言えるかもしれない。
「……なんか、いきなり大変な事になってない?」
「ほほほ、海に向って叫ぶは浪漫、思いの丈ぶつけるは戦……熱き戦い故、多少の犠牲は仕方のない事ですわ。倒れた皆様方も、きっと本望でしょう」
 目をぱちくりさせる天真爛漫颱風・シャルムと、艶やかに微笑む闇咲き月華・シファレーンは、共にブランケットに包まりながら、すっかり観戦モードだ。
 その隣では、
「うーん……もうちょっとこう、一捻り欲しいかな〜。でも、飛距離はすごいかも」
 仔猫チャーリーの恋人・エリスが『審査員席』と書かれたテーブルに座り、ニコニコと微笑んでいた。黒い猫耳ローブを羽織り、腕には愛猫チャーリーを抱いている。
「何時までも、ペタンなんかにうつつを抜かせないんだからねー、ルートォォォ!!」
 次に叫んだのは、縁紡ぎし矢・イツキであった。流れるような美しい金髪の、豊満なおねいさんだ。なにやら色々とややこしい事情があるらしい。
「イヂメ反対ー! シバくイヂメっ娘たちは反省しろー!!」
 哀愁を帯びた瞳の犬の着ぐるみを着た者が、続いた。
 顔が見えなかったので、パッと見で誰かは分からなかったのだが……。
「ええと……あの方は〜、朽澄楔・ティキさんですね〜。いぢめっ娘というのは、ニューラさんとエレアノーラさんの事だそうですよ〜」
 エリスが、関係者以外閲覧禁止と書かれた帳簿を眺めつつ、平和な声でそう解説する。
「こぉぉぉぉおおおおおおっっっっきゅぅぅうううううっ……へぇぇぇいぃぃぃわぁぁぁぁああああああがががががががぐああああっほすぃっすー!!」
 さらに、今度はフードをすっぽり被って同じく素顔を隠したシスター服の男が叫ぶ。
「こちらは……ナナイロ・ハチャックさんですね〜。『恒久平和がほしいっす』と言いたいもようです。だから男なのに、シスター服なんですね〜」
 罪のない笑顔で、やっぱりエリスが解説した。
「ちょこれーと大好きっす〜〜〜!!」
「チョコレートばんざ〜い、と、考える!」
 閑の位・ハロルドと、その背中に背負われた、なにやら白黒の熊みたいな形をしたリュックが続けて大声を張り上げた。ハロルドの方はともかく、リュックの方はなんで声が出るのか、よく仕組みが分からない。
 ふわりと、薔薇の花が風に舞う。
「さて、では俺の番だな」
 タキシード姿の男が、薔薇吹雪と共に現れ、華麗なステップを踏みながら壇上に上がった。
 峻刻なる翠緑の諦視者・スィーニーである。
「ああ……ヴルちゃん、好きじゃぁぁぁ!」
 のけぞりつつ、目を潤ませて放たれる、熱い漢の絶叫。
 それが抜けるような青空に吸い込まれていくと……。
「ぬおぉぉぉぉぉぉ〜〜〜っっ!!」
 封印されていた(?)ヴルルガーンとポチョムキンが、轟音と共に砂を爆発させ、蘇る。
 これぞまさしく、愛の奇跡に違いない。
「んまぁ! 愛ねっ! 愛なのねっ!」
「どうしましょう……あたしぃ、恥かしいわぁ〜ん」
 恥かしそうにくねくねする筋肉霊査士と、目を輝かせるポチョム筋。
 なんで女言葉なのかとか、ツッコミ所も多いが、実際この貝ビキニの2人にツッコめる勇者はそうはいない。
「いやあの……冗談のつもり、というかネタに走ろうとしただけなのだが……」
 さすがに、スィーニーもヤバ気な空気を感じて後じさる。
「椰子の実特大! 入りま〜す!」
「ああん、よろこんで〜♪ スィーニーちゃん受け取って〜んvv」
「うわぁぁぁぁ〜〜〜!!」
 逃げるドリアッドの忍びと、追う筋肉×2。
「ふふ……その幸せの一本毛、頂戴します!」
 さらに、ブルルガーンの頭頂部を光る目で見つめるヒカリが、巨大な鋏を手にして走り出した。
 ……そんな狂乱はさておき、祭りはどんどん進んでいく。
「はぁ、どっかにええオトコ、落ちてへんかな……ウチより小そうても構へんで。て言うかウチは身長にはこだわれへんし」
 なにやら呟きつつ、身長180オーバーの紋章術士の菓子職人・カレンが壇上に上がった。
 着ているのは紺の水着。胸元が大きく開いたワンピースだ。胸には自信があるらしい。
 そして、
「彼氏募集中ーーーーーーーー!!」
 心のままに、叫ぶ。
 叫んだ後、被っていた頭のとんがり帽子を手に取り、愛想良く客席に手を振る事も忘れない。
「……」
 続いて、ピンクのふわふわ毛皮ベストに尻尾付きミニスカート、頭にはウサミミというウサギルックの女性が現れた。ドリアッドの邪竜導士・エリオットだ。
「そんなにみつめちゃ……やんだべさ」
 ぽっと頬を赤らめつつ、側にいた係員の男に腰の入ったアッパーを叩き込む。
「エリオットわぁ〜、これでも夢見る乙女なんだべさ〜! やんだこっぱずかしぃ〜〜!!」
 アガると言葉が訛るらしい。それに気がつきもしないで、次々と係員を拳とキックで海に叩き込みつつ、ようやく壇上に上がると、
「恋人がほすーー!!」
 恥らう乙女が、心の叫びを声に乗せた。
 それに合わせて背後には荒波がどっぱーんと打ち寄せ……ついでに彼女のベストがハラリと落ちそうになる。
「きゃぁ!!」
 慌てて胸を押さえてしゃがみ込むと、
「やぁんだぁ〜! 恋人ができるまでわぁ〜、エリオットは皆のエリオットだもんっv」
 恥かしそうに微笑みつつ、再び係員達を薙ぎ倒し、海へと放り込み始めるのだった。
「……ふむ、やっぱりというかなんというか、こうなるので御座いますね……」
 追いかけっこをしている筋肉達と、海へと次々に飛んでいく係員達を遠い目で眺めつつ、葱神様の御使い・リークがやってきた。
「フィーナ殿ぉ〜〜ラーーーヴで御座いますぞーーーー! 早く我の元に帰って来てくださいませ〜〜!」
 やや物悲しい表情で、海の向こうに吸い込まれていく言葉は、男の純情……だったろうか。
「わー! そこどいてくれー!」
「あぁ〜ん、リークちゃんの叫びもステキよぉ〜ん!」
「胸の奥が、じゅんって来ちゃったー!」
「…………ゑ?」
 そこに、筋肉達が駆け込んでくる。
「いやあの、こ、困りますぞっ、こ、こちらに来ないで下さいませーーーーー!!」
 たまらず、リークも脱兎と化した。
「……僭越ながら、私も叫ばさせて頂きます」
 空になった壇上には、入れ替わりでポニーテールに袴姿の若い娘が上がる。侍娘・ミカヅキである。
「この国で冒険者の殿方は、皆どうして衆道に走られるのでございましょう」
 良く通る声でそう言った後、ほぅとため息をつき、
「ヴルルガーン殿もそのようでございますし、他の参加者の殿方も……慣れなくてはいけないのでしょうか。楽しまなくてはいけないのでしょうか。いっそ割り切って楽しむことが……例えばヴルルガーン殿に花嫁衣装を着ていただくとか……」
 ……何かを思いついたらしく、ぽんと手を打ち、顔を上げた。
「私、ヴルルガーン殿を立派な花嫁に仕立て、送りだしとうございます!」
 晴れやかな顔でそう叫んだかと思うと、どこからともなく白無垢の花嫁衣裳を取り出し、筋肉達の追いかけっこに自らも加わっていった。
「まあまあ、人の世の想いは色々ですわね……楽しい方ばかりで、本当に飽きませんわ。シャルムさまも、そうお思いになりませんこと? あら……いない……」
 機嫌良さそうにニコニコ微笑むシファレーンがふと隣を見ると、小柄な少女の姿がいつのまにかなくなっていた。
 目を転じると、そのシャルムが、トコトコ壇上に走っていくのが見える。
 ペコリとお辞儀をすると、彼女は、
「……大好きな人とず〜っと一緒にいられますように!」
 頬にクローバーが描いてあるウサギのぬいぐるみを大切そうに抱きしめて、元気に声を出していた。
 その”大好きな人”が誰かは口にしなかったが、きっとその想いは通じたに違いない。
「ふふ、割と積極派でしたのね、シャルムさまは」
 シファレーンも微笑ましそうに、顔をほころばせていた。
 そんな和やかな叫びがあったかと思うと……。
「変態!」
 マントにシルクハット、真紅のアイマスクという格好のニュー・ダグラスが、空に手鏡をかざし、仁王立ちになる。
 瞬間、彼の身体が光に包まれ、むくむくと巨大化したかと思うと、海の向こうから現れた怪獣と海の平和を賭けた死闘を演じ始め……。
 ……などという妄想を頭の中で膨らませて一人ふっふっふと低い笑みをこぼしていた彼を、係員数人が担ぎ上げて運び出していった。
「求む!! 団員!! こんな大腸……いや、団長でも良けりゃ入ってくれ!!」
 そんな叫びが、次第に遠ざかっていく。
「ザウス大祭、勝ち負けは関係ござらぬ! 拙者は目立ちますぞ〜!! 金髪美女のハートをゲットするのでござる〜〜!!」
 派手な隈取りを顔面に施し、身につけているのは極東の島国に伝わる真紅の下穿き一枚という格好の紅蓮の闘鬼・カゲキヨが、熱い言葉を口にした。
 そして、はっはっはと高笑いをしながら去っていく。
「……よし。ではいよいよ俺の出番だな」
 すぐ近くで腕立てを繰り返し、筋肉に磨きをかけていた漢がゆらりと立ち上がる。漢・アナボリックだ。
 上体の服を脱ぎ捨てると、下から現れたのは見事な筋肉であった。
 さらに、マッスルチャージをかけ、極限まで筋肉を張り詰めさせると、壇上でポージング。
「俺は!」
 両拳を胸の前で合わせるようなオーソドックスなスタイルから、観客に向かって上体を正面に残しつつ横を向き、足をややくの字に曲げ、両手を腹筋の横で握る形に変える。
「イロモノじゃ!!」
 最後に両腕を開いて顔の高さで力瘤を作り、前面から見えるすべての筋肉を見せつつ、逆三角形のシルエットも同時に強調するポーズで決め、叫んだ。
「ないっ!!!」
 どどーん、と、背後に荒波が打ち寄せ、飛沫がアナボリックに降り注いだが、オイルが塗られた鋼の肉体と、彼自身の筋肉の熱気がそれを残らず跳ね返す。
 キラキラと陽光に輝く海を背景にした漢の肉体は、どこか一枚の絵画のような趣すらあるようだ。
 見事、と、誰かが小さく言葉を漏らしていた。
 感嘆の声と拍手が送られる中、白い歯を見せて逞しい笑みを見せるアナボリック。
「うわー! 許してくれー!」
「フィーナ殿ーーー! 我は貴女を想い、どんな境遇でも負けませぬぞーーーー!」
 傍らでは、筋肉に取り押さえられたスィーニーとリークが、顔中にキスマークをつけて悶絶していた。
「……偉い目にあったな、弟よ」
「でも兄貴、格好良かったぜ」
「ふっ、お前もな」
 ようやく海から上がってきたシュウとシャンデーが、兄弟愛を感じつつ、がっちりと腕を組む。
 その身体にはコンブやらワカメやらが絡みつき、頭の上にはクラゲやヒトデが乗っていた。
「あれ、どこ行くの、シファレーンさん?」
 不意にふらりと歩き出した背中に、声をかけるシャルム。
 シファレーンは美しい笑顔で振り返り、ひとこと、
「ええ、勇者達に祝福を……ちょっと踏みに参ります」
 と、こたえる。
「そっか。がんばってねー!」
「はい、それはもう」
 なんだかよく分からなかったが、とにかく元気に手を振って送り出すシャルムだった。
 一応、シファレーンは酒浸りの霊査士の身体を心配して、お弁当も携えていたのだが、なにやら鈍い輝きを放って不気味な存在感を示す彼女の靴を見ると……どちらが主目的なのか少々疑問だ。
「さあ、いくわよぉ〜ん、濃厚バージョン、魂のパトスをあげちゃうわぁ〜んvv」
「あぁ〜ん、あたしもぉ〜vv」
 筋肉2人が、自らの貝ビキニに手をかけた。一体何をするつもりなのか。
「……」
 震える手で、弓と矢を構えるティキ。遠く離れた安全圏にはいるものの、気を抜いたらこっちの身も危ないという危機感が全身を駆け巡っていた。
「恐い人ばかりでごめんね〜。おいしいお魚買って帰るから、ご機嫌直してね〜」
 野生のカンに触れるのか、警戒している様子の愛猫チャーリーをそっと抱きしめ、ほおずりするエリス。
 やがて……海岸にはその日一番の絶叫が響き渡る事となったが……それが誰のものだったかは、言わない方が良いだろう。ここは個人の名誉のために、伏せさせて頂く。
 ……そんな感じで、大盛況というか阿鼻叫喚というか……とにかく第一回大絶叫祭りは、その名に恥じないものとなったのは間違いなかった。
 果たしてこの調子で第二回、三回と続いていくのかは……当然不明である。
 不明ではあるが……一応最後は、この言葉で締めさせてもらう事としよう。

 ──次回をお楽しみに!

■ END ■


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