か。



<オープニング>


 蚊が出た。
 ……何名かの冒険者は、そのあとに続く霊査士の言葉に気付いて、嘆息したという。
 どのくらいの大きさか、と。

 元々、そこは蚊の多い地域なのだそうだ。
 村の側に湿地があり、冬でも弱々しいながら、蚊が飛び回っているというのだから……暖かくなってからの大発生は、想像に難くない。
 そんな、最早恒例行事となった小さな軍団との日々の戦いの最中、でかいのが現れたという。
 流石に大きさだけのことはあり、蚊は家畜一頭を容易く吸い殺してしまう。
 活動時間は夕方から明け方にかけて。腹が減ったら飛んできて、それを満たせば飛び帰る。とはいえ、一晩の内、襲うのは一頭分だけ。恐らく、満腹になる血の量がそのくらいなのだろう。
 人々は、香草を燻す、戸締りの敢行、寝ずの番等で蚊を寄せ付けない工夫をしている。そのお陰か、今の所の被害は家畜だけで済んでいる。
 しかし、このまま蚊を放っておいたのでは、いつなんとき、吸い殺されてしまうとも限らない。
 大きいとはいえ、蚊には違いない。冒険者の力で以って数発当ててしまえば、すぐに退治できると思われる。
 問題は、現れる時間や場所に規則性がないことと、あの蚊特有の回避力だろう。
 仮に、一旦逃がしてしまっても、蚊は縄張り付近から遠ざかる事はないらしい。チャンスは何度も巡ってくるが、なるべるくなら一晩で仕留めたいところだ。

 どうか、村にいつも通りの夜を取り戻して欲しい。

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参加者
紅・フラト(a07471)
緋色の炎・ローズウッド(a13735)
黒の狼牙・バルド(a16025)
幼き眩惑の狐姫・セレス(a16159)
黒焔の執行者・レグルス(a20725)
絡まる糸・クレイファ(a27195)
ヒトの重騎士・メロン(a28648)
斧っ娘・プレセア(a28815)
偽りの贖罪者・ローリィ(a29503)
魔法騎士・フィーナ(a30520)


<リプレイ>

●真夜中の訪問者
 暗く沈む村。いつもの灯りは消え果て、戸という戸を閉め切った人家からは、微かな煙が漏れるだけ。
 巡回中の耳元に響く特有の音に、紅・フラト(a07471)が不快な表情を浮かべる。
「鬱陶しいわね」
 雰囲気だけでもと手にした豚の香炉に本来の役目をさせられたなら、どれ程ましになるやら。
 唯一、紫の光に照らされている一件の小屋。
 頭上にホーリーライトを掲げた、いのちだいじに・ローリィ(a29503)が、見張りついでの運動に、小屋の周囲を巡って回る。
 光の下、これでもかと飛び交う蚊の大群。
 幼き眩惑の狐姫・セレス(a16159)の被る網越し、右を見ても左を見ても必ず視界に入る姿。これの大きいのとなると……正直、あまり触りたくない。
 標的出現に備え待機する、緋色の炎・ローズウッド(a13735)の耳にも、四方八方から例の不快な音。
「……最悪〜」
 暑い上に厚着をして、更にこの状況。頑張れ俺、と自分を励まし、暴れそうなのをぐっと堪える。
 彼よりも更なる厚着……覆面に眼鏡で露出部位を極小に抑え、標的の出現を待っているのは、絡まる糸・クレイファ(a27195)。
「もーっ、大っ嫌い!」
 音も痒みも、何もかも。それがでかくなって迷惑を掛けているというのだから……かなりご立腹。
 それとは対照的に。
「ふぅ……まさか蚊の為に汗かく日が来るたぁな……」
 小屋の中、攻略者・バルド(a16025)が、昼からの運動で溜め込んだ汗の香りを解き放っていた。
 上半身裸で。
 今も腕立て伏せをして、新鮮な汗の臭いを供給中。
 そして、それに釣られてやってくる蚊軍団。
「えぇい、ウゼェぞ、蚊!」
 握り掴み叩き。
「そう簡単に俺の皮膚を貫けるとか思ってんじゃねぇぞ!」
 片っ端から潰す。
 一方で、虚ろな魂・プレセア(a28815)はすっかり蚊に群がられている。
「むずむずします……」
 たんまり取り付かれた所で、力を込めて蚊が離れないようにすると、準備しておいた水を頭からざぶり。
 溺死で一網打尽にされる蚊。しかし、そんなものでは到底追いつかない大群が、相変らず飛び交っている。
 とりあえず鎧の隙間を網布で塞いで蚊をやり過ごしつつ、ヒトの重騎士・メロン(a28648)は一生懸命息をして、臭いに貢献。
 まぁしかし、想像しただけでも十分痒かったのに、現状を目の当たりにするともっと痒い。
 黒焔の執行者・レグルス(a20725)は身体をぼりぼり掻きながら、ランタン一つを手に小屋のすぐ側に潜む。痒いのは想像のせいなのか、実際に刺されているのかは、正直良く判らない。
 と、じっと澄ましていたその耳に。
 明らかに違う羽音。
 蚊の猛攻をじっとやりすごしていた、魔法騎士・フィーナ(a30520)の頭上を、雑音にも似たそれが、通り過ぎた。

●真夜中の蚊取
 バルドの体臭、もとい、汗の臭いが相当なのか、それとも、単純に発汗量のせいなのか。
「出やがったな『で蚊』」
 ちょっぴり微妙な略称と共に、小屋に向かってまっしぐら、徐々に近付く音の先に視線を飛ばすレグルス。
 橙色に変わるホーリーライト。
 合図に気付き、皆が注意を向けた瞬間。
「キモっ!」
「うゎ、キモチ悪っ」
「……うぇ〜」
 暗闇から上がる様々な感想。
「どうしたらこんなに大きくなれるのでしょうか……?」
 様子を覗うように、で蚊は蚊特有の動きで小屋の周囲を暫し飛び回り……尚一層嫌っぽい音と共にふわっと中へ入り込んだ。
 その瞬間、セレスが動く。
「こんな虫だらけの場所でず〜っと待ってたんだからねっ!」
 被っていた網を跳ね除け、小屋への突入と同時に飛び上がり、振り上げた脚に生まれる輝く軌跡。
 だが、それがまさか空を斬ろうとは。
 粒のように飛び交う蚊の間を抜け、天井に張り付くで蚊。
 それ目掛け、ある意味怪しい姿のクレイファが、突入早々粘り蜘蛛糸を投げつける。
「逃がさないからねっ!」
 しかし、で蚊はまたその隙間とすいっと飛翔。
「なんと歯痒い……!」
 で蚊を迎え撃たんと不動の鎧で構えるメロン。抜けた前歯のその部分を思わず掻きそうになるくらい、本当に歯痒い。
 その目の前を、突入早々撃ち放ったローズウッドの気高き銀狼がすっ飛んで行く。
「止まれー」
「ちょこまかすんな!」
 食らいつく銀狼。何を考えているのか良くわからない例の動きで、銀狼をぶら下げたまま飛び上がろうとするで蚊に向かい、レグルスの体から無数の鎖が迸る。
 ……が、その鎖の合い間をすすいのすいっ。
「てめっ、避けんな!」
 自分だけ麻痺してしまうレグルス。
「大丈夫ですか」
 回復手段がない事に少し困りつつ、止まったレグルスに群がってくる普通の蚊を追い払うローリィ。
 そして、で蚊はごはん――バルドにまっしぐら。
「来やがったな、この吸血虫……!」
 距離を取りつつ構えたブーメランを、羽を狙って素早く投射。
 で蚊、ひらりと回避。
 そのまま取り付こうとするそこへ、巡回から駆けつけたフラトが一撃。
「黒焦げにしてやるわ!」
 それは、果たして言葉どおりに。
 撃ち放たれた電刃衝に、で蚊はよろめき、慌てて戦線離脱。
 そんなで蚊目掛け、闘気を纏った斧を振り上げるプレセア。
 渾身のファイアブレードはしかし、無念にも空を切り、斧は地面に突き刺さる。ひょろりとかわしたで蚊は、反動で動きの止まってしまったプレセアに急接近。
 それを阻むメロン。
「くたばれ化け物!」
 ヤー、という掛け声と共に大地斬で繰り出される、重槍ギザーム。
 残念ながら手応えはなかったが、動けぬプレセアからで蚊を引き離す事には成功する。
 ただ……
「……歯痒い」
 弱っているのか、元気なのか、さっきから一向に変化のないあの飛び方が、とてもとても心証に宜しくない。
 ひたり、と。
 壁に止まったで蚊へ再び迫る、軌跡を描くセレスの蹴り。
 今度こそ羽を切り落としてやるっ。
「今日のボクは機嫌が悪いんだからッ!」
 しかし、狙ったはずの場所から、で蚊はもう消えていた。
 頭上に響く耳障りな音。
「避けないのーっ!」
 伊達に蚊ではないらしい。
 これは、特定の場所を狙うより、とりあえず当てようとする方が得策か?
 鋭くなった目つきで、戦況を見据えるフィーナの目の前。
 ぷんすか怒るセレスごと覆う勢いで、部屋中に広がるねばねばの糸が。
「大人しく掛かるっ!」
 少々苛立った様子で投網よろしく放ったクレイファの粘り蜘蛛糸。
 それは山盛りの小さい蚊と共に、遂にで蚊の身体を捕らえた。
「やった……!」
 糸に塗れ、ぽとりと落ちるで蚊の姿に、誰からともなく零れる歓喜の声。
 待ってましたとばかりに、ローズウッドが手にした武器に紋章の力を込め……
「やっぱり叩き潰すでしょー」
 糸の下、きっと必死なのにそうは見えない悠長な動きでもがくで蚊へ、一気に振り下ろされるエンブレムブロウ。
 ぐにゃっとひしゃげるで蚊の胴。
 入れ替わりに電刃衝を打ち放つ、その一瞬。
「気持ち悪っ!」
 思わず目を逸らすフラト。更に武器を伝う感触に、言い知れない不快な表情が浮かぶ。
 しかしながら、このたった数初で、で蚊は既に満身創痍。
 動けなければこっちのものだ、というのはまさにこれ。
「飛んで火に入る夏の虫、ってかぁ!」
 自らの放った鎖の束縛から開放されたレグルスが、焼き尽くす勢いでのスキュラフレイム。
 燃え上がる魔炎。無言で身体を痙攣させるで蚊。
 それでも最後の力を……全くそうは見えないが、多分、振り絞って、で蚊は続くプレセアのファイアブレードを、よれよれっとかわしてみせる。
 続いてローリィの打ち込んだエンブレムシュートをも、で蚊は糸の隙間を縫うように、ただただ回避。
「蚊さん……」
 避けられたことより、生きるのに必死なで蚊を目の当たりに、哀愁の眼差しを向けるローリィ。
 そして、ここまできてもまだ粘るで蚊は、メロンの二度目の大地斬も糸塗れのままでかわして見せた。
 だが、流石ので蚊も、もうそこまでが限界のようだった。
「こいつで終いだっ!」
 迸る稲妻。
 一閃、撃ち放たれたバルドの電刃居合い斬りが、遂にで蚊の身体を粉々に粉砕したのであった。

●真夜中の痒み
「村の人達もこれでゆっくり眠れるよね♪」
 当てられなかった事には、少々不満が残りつつも、無事倒せたことには素直に喜ぶセレス。
 幸いにして、怪我人もでなかった、が……
「終わり……です……」
 手にした斧を一旦離し、思わずまた水を被るプレセア。流れ落ちる無数の蚊。
「……痒ぅ〜」
「ああっ、いつの間に」
 僅かな露出部も逃さない蚊軍団。
 戦闘中は集中していたせいか余り気にならなかったのが、安堵した瞬間沸き上がる、あの特有の痒みに、ローズウッドとメロンが身体をくねくね。
 レグルスも麻痺している間に結構やられたらしく、そこらじゅうをぼりぼり。
「あーもー、どこがどう痒いんだか判んねぇっ」
「痒ぃ……小さかろーが、デカかろーが……蚊は脅威だな」
 特に、上半身を露出の上、わざと汗だくのバルドはしみじみと掻き掻き。
 いや、むしろ、一匹の巨大蚊より、大集団の蚊のほうが怖いのでは。
 今も尚飛び交い続ける蚊に、フラトはそんな感想を抱かずに居られない。
「良く考えたら、こっちのほうがずーっと怖いよ〜」
 セレスも同じ心境なのか、待機中に使っていた網を再び被って防御態勢。
 そうして、皆が痒がったり戦ったりしている中、で蚊の残骸はクレイファの掘った穴の中へ。
「次生まれてくる時は蚊にだけは生まれてこないでね」
 合掌、のついでに二、三の蚊を叩き潰し、祈るクレイファ。
 墓とも言えない、ただ埋めただけのそれに、ローリィも青い瞳を細める。
「蚊さん、ごめんなさいね」
「……痒いのも毒消しの風で治れば宜しいですのに」
 げんなりした表情で嘆息するフィーナに、皆、身体を掻きながら頷いたという。


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重傷者:なし
死亡者:なし
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