【読書の時間?】洞窟碑文



<オープニング>


 ストライダーの霊査士・ルラルが冒険者たちに依頼を紹介するべく顔を向けると、エルフの紋章術士・カロリナが笑顔で食事しているのが目に入った。
「カロリナちゃん、何食べてるの?」
 何か美味しいものを食べているに違いない。依頼のことはさて置いて、興味津々といった表情でルラルは訊ねる。
「まずいパンだけど……ルラルちゃんも食べる?」
「……まずい? ル、ルラルいらない」
 わざわざまずいと言うからには本当にまずいのだろう。賢明なルラルはそう判断した。
「美味しくはないけど、栄養はあるわよ。体に良いと思い込んで食べると本当に調子が良くなったような気になるわ」
「それって栄養があるとは言わないよぅ……」
 涙するルラル。心なしかうーちゃんの円らな瞳にも哀れみが溢れているように見える。
 対してカロリナは先程からずっと笑顔だ。
「でも、どうしてそんなににこにこ嬉しそうなの?」
「レア山の麓にある洞窟の奥に古い石碑があって、現地の人にも読めない文章が刻まれているっていう話を聞いたの。これからそれを調べに行こうと思って。もしかしたら失われた物語とかが……」
 そこでルラルが「あっ!」と小さく叫んだ。
「どうしたの?」
「思い出したの! さっき依頼があってね、レア山の洞窟におっきなモグラさんが現れたんだって。モンスターじゃなくって、普通のモグラさんが急におっきくなっちゃったみたい。
 特に暴れるわけじゃないけど、放っておくと大きな穴を掘って危ないから、みんなに退治して欲しいの」
「何だか物騒ね。私は先に行って石碑を運び出すわ」
 慌てて立ち上がったカロリナをルラルが止める。
「それが……洞窟の壁はモグラさんのせいで穴だらけになっちゃって、いつ崩れるか分からないの。危ないから諦めた方が良いよ」
 カロリナは少し躊躇う。が、
「ここで諦めたら私は『エルフの紋章術士』じゃなくて『笑顔でまずいパンを食べる変なエルフ』になってしまうわ。
 それに今日の私は運が良いような気がするの。多分大丈夫よ」
 そう言うとルラルを避けて酒場を飛び出した。
 そして外に出た途端、酒場に入ろうとしていた従業員と正面衝突してしまった。しかも間の悪いことに、その従業員は新しい高価な皿を店に運び入れる途中だった。心臓に悪い大音響と共に何十枚もの皿が割れ散らばる。
「ごめんなさい、今度弁償します!」
 カロリナは素早く走り去った。

「……ルラル、とっても嫌な予感がするの」
 ルラルが割れた皿の片付けを手伝ったり、冒険者たちが集まるのを待っている間に、カロリナはかなり先行してしまっている。
「みんな、依頼はモグラさん退治だけど、余裕があったらカロリナちゃんを助けてあげてくれないかな」

マスターからのコメントを見る

参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
大凶導師・メイム(a09124)
北落師門・ラト(a14693)
朧月の紋章術士・ネフィリム(a15256)
蒼き仙人掌の華・サラティール(a23142)
雷獣・テルル(a24625)
瞬殺の白銀魔狼・フェンリル(a24763)
聖剣の王・アラストール(a26295)
ヒトの邪竜導士・ディグヴァイス(a30059)
笑顔の底に秘めた闇・アスコット(a31009)
NPC:次のページへ・カロリナ(a90108)



<リプレイ>

●ミミズ
 レア山の麓。目の前には洞窟がぽっかりと黒い口を開けている。
「やっぱりカロリナは洞窟の中らしいね」
 それを覗き込むようにしながら、ヒトの邪竜導士・ディグヴァイス(a30059)が言った。
 彼は道中もカロリナの姿がないか注意していたのだが、見つけることはできず、代わりに洞窟の中へと続く真新しい足跡を発見した。

「地面を掘って、ミミズや何かのさなぎを集めて下さい」
 夢見る箱入り狐・ネフィリム(a15256)が土塊の下僕たちにそう命令する。

「わたしたちは急いでカロリナさんを探しましょう」
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)はそう言うと、大凶導師・メイム(a09124)、不吉の月・ラト(a14693)、仙人掌の華を臨みしは・サラティール(a23142)、雷牙・テルル(a24625)、瞬殺の白銀魔狼・フェンリル(a24763)と共に洞窟に入っていった。

「んっと……ボク、モグラさんの巣穴を探してみようかな?」
 動物の習性に詳しい、エルフの牙狩人・アスコット(a31009)は茂みをかき分け、山の奥へととことこ歩いていく。

 数十分が経った。ネフィリムとディグヴァイスの元に、下僕たちが帰って来る。
 数体の下僕たちはいずれも、両手いっぱいにミミズや得体の知れない芋虫を抱えていた。
「うう……上手くいったみたいですね」
 それを見たネフィリムは半泣きになりながらも、塩をひとつまみ取り出してそれに自らの生気を分け与える。塩はクリスタルインセクトへと姿を変えた。
「ネフィリムさん、ディグヴァイスさん」
 と呼びかける声に2人が振り向くと、万年欠食腹ペコ騎士・アラストール(a26295)が手を振っている。
「たくさん手に入りましたよ」
 アラストールが背中に背負っていた袋をどさりと降ろすと、中のものがうねうね蠢いた。アラストールは養鶏場などに寄ってミミズや虫を分けてもらっていたのだ。
「確認しますか?」
 中身を改めようとするアラストールをネフィリムが制止した。

 土塊の下僕たちを使ってクリスタルインクセクトの胴体に大量のミミズを巻きつかせ、それを洞窟内へ送り込もうとした時、洞窟の奥から大きな音が聞こえた。

●エルフ
 時間は少し遡る。
 洞窟の中に入ったメイムはじっと耳を澄ませた。
 タッタッタッ……ドシャッ。誰かが走って転ぶ音が、洞窟内に響く。
「……あちらだな」
 メイムの指差す方向に向かって、一行はできるだけ静かに、だが素早く移動する。
「便利ですよねこれって」
 フェンリルのホーリーライトのおかげで周囲は明るく、さほど足元に注意する必要もなかった。

 途中モグラが掘ったらしい横穴がいくつかあり、分かれ道のようになっていた。
 その度に立ち止まってメイムが耳を澄まし、誰かの足音が聞こえる方を選ぶ。
「道を覚えているか?」
 ラトの言葉にサラティールは頷いた。
「ええ。それに風の流れがありますから、それからも地上に繋がる道は分かります」

 曲がりくねり、下へと向かう道をしばらく行くと、松明を掲げたカロリナに追いついた。
「カロリナさん、お久しぶりです」
「……また無茶をする」
「怪我はないか?」
「あ……皆さん、モグラ退治ですか? 今のところは無事ですけど、この洞窟は危険ですよ。早く出た方が良いです」
 その言葉を裏付けるように、先程から岩の軋む音が聞こえている。さらにはパラパラと上から砂が落ち始めた。
「私たちはカロリナさんを連れ戻しに来たんです。一緒に出ましょう」
「自分で運がいい、って思う時は危険っすよ、カロリナさん……」
 サラティールとテルルの言葉に、カロリナはかぶりを振る。
「私は石碑を運び出します」
 このゴネを受けて冒険者たちの反応は分かれた。

「後で掘り返せば読めるだろうに」
 ラトが言う。
「でも割れて読めなくなるかも知れません」
「どうしてもというなら、今運び出すか……」
「そうだな。俺たちも協力して」
 メイムとテルルが頷きあう。
「急いで行って済ませてしまいましょう」
 ラジスラヴァも主張した。
 様子を見る限り、危険そうでもあったが、確かに間に合いそうでもあった。
 結局、再び走り出したカロリナの後を追い、冒険者たちはさらに奥へと進むことにしたが、これがいけなかった。
 ルラルは『カロリナを助けて』と言った。つまりルラルの予感を信じるなら、カロリナを勝手にさせておいたら助けが必要な状況に陥ってしまうのであり、カロリナのペースに付き合ってはいけなかったのだ。

 さらに行くと洞窟は行き止まりになっており、そこに一枚の石碑が立っていた。
 石碑は岩から削り出されたらしく、根元が岩の地面と繋がっている。
「よし、良いぞ」
 テルルがスコップでその根元を突き割り、運べるようになった石碑をカロリナが背負った。
 一行は外への道を急いだ。が、半ばほどまで来た時、モグラに穴を空けられて脆くなっていた壁面ががもう駄目だというように真ん中から折れ、天井が落ちてきた。
 洞窟は岩の層にあったが、その上には土砂の層もあり、土砂が流れてくる勢いと重みに耐え切れずに天井部分がどんどん割れていき、洞窟は潰れていった。

「助かったようですね……」
 落ちてきた岩と岩の隙間にできた空間に、フェンリルは滑り込んでいた。
 ホーリーライトのおかげで明るく、広さも確認できた。あまり広くはないが、数人なら入りそうだった。
 突然、土砂の壁面が突き崩されて何かが出てきた。
 フェンリルは牙王を抜いて身構えたが、出てきたのがテルルであることに気づくと武器を鞘に収めた。
「大丈夫なんですか?」
 武人の体力に驚くフェンリル。
「ああ、もう一回埋まったら不味いけどな」
 テルルは辺りを見回してフェンリル一人なのを確認すると、シャベルを構える。
「埋まっても安心、軽くて丈夫な蒼天印の工作シャベル! これで皆を探さないとな」
「おそらく、埋まっているのはあちらの方だと思いますが……」
 流石に助ける余裕まではなかったが、フェンリルは洞窟が崩れる時も、冷静に全員の位置関係を把握して覚えていた。
 フェンリルの指す方向へ、テルルが慎重に掘り進む。幸いあまり離れていない位置に、サラティールもラトもメイムもラジスラヴァもカロリナも埋まっていた。
 テルルに助け出された皆はアビリティも使えなくなる程のダメージを負っていたが、死者はいなかった。

「皆さん、すみません。私のせいで……」
 体の節々を骨折してぐったりしたカロリナが弱々しい声で言う。
「これに懲りたら、もう無茶をやって心配をかけんようにな」
 メイムが何とか動く右腕でカロリナの頭を撫でた。
「石碑はどうなった?」
 ラトが聞く。
「落ちてきた岩にぶつかって粉々になってしまいました……」
 狭い場所に沈黙が広がった。

「あ。風の流れがあります」
 指を舐めて空気の動きを調べていたサラティールが沈黙を破った。
「完全に土で埋まったわけではなくて、ところどころ隙間があるようですね。それが外と繋がっているのでしょう」
「その方向に掘っていくか」
 テルルがシャベルを取った。

●モグラ
 大きな音を聞いたネフィリムが、視界の端で蠢くミミズを我慢しながらクリスタルインセクトに探らせてみると、洞窟は少し入ったところで埋まってしまっていた。
 洞窟の幅一杯に土塊の下僕を並ばせ、岩と土砂を取り除かせていると、アスコットが慌てた様子でやって来た。
「ほわぁ……どうしちゃったの?」
「洞窟が崩れてしまったようです。冒険者はちょっとやそっとでは死なないとは思いますが……」
 アラストールが答える。
「アスコット、モグラの穴は見つかった?」
「うん。やっぱりお山の中にあったよ」
 ディグヴァイスの問いにアスコットは頷いた。
「……ここはこれ以上対処のしようがありませんし、そちらの穴に向かいましょうか」
 うるさく下僕を働かせていてはモグラが現れる可能性も低い。
 アラストールの一言で、冒険者たちとクリスタルインセクトはモグラの穴へ向かった。

 穴の周りで静かに待ち伏せし、クリスタルインセクトを侵入させる。
 山の地面に空けられた穴は、下へ向かって伸びていた。しばらく行くと、崩れた洞窟と繋がっていたらしいこの穴も埋まってしまっていた。
 だが、その行き止まりの壁がむくむくと蠢き、餌の匂いを嗅ぎつけた大モグラが土の中から現れた。
「出ました!」
 ネフィリムが囁き、クリスタルインセクトが戻って来るよう念じる。
 クリスタルインセクトはモグラの攻撃を受けず、引き離さずに距離を測りながら、来た道を引き返した。
「今です!」
 ネフィリムの囁きと同時にクリスタルインセクトが、次の瞬間モグラが穴から出てきた。
「……来た」
 ディグヴァイスとアラストールが動く。
「えいっ!」
 アスコットの放った影縫いの矢が、モグラの動きを止めた。
 ネフィリムの紅波璃が薔薇色に輝き、エンブレムシュートがモグラを貫く。かなり前から作っていたクリスタルインセクトは効果時間を終えて消えた。
 アラストールの名剣ヴァルトロードが稲妻を発して煌き、モグラを斬りつける。
「……終わりだ」
 ディグヴァイスが黒い炎を撃ち出して敵を焼き尽くし、戦いは終わった。

「良かった〜♪ みんな無事だったんだね」
 モグラを退治し、アスコットたちが洞窟に戻ると、重傷者たちを背負ったテルルとフェンリルが出てくるところだった。
 ディグヴァイスの癒しの水滴で歩ける程度まで治ったカロリナに、ほっとした様子でネフィリムが語りかける。
「カロリナさん、あまり無理をしないで下さいね……」
「皆にかける心配や迷惑のことも考えて下さい」
「はい……分かりました……」
 アラストールにも言われてカロリナは深く反省したようだった。

 モグラを退治して依頼を果たした冒険者たちは、レア山を後にする。
「そういえばカロリナさん。非常に言い難い事だが……割った皿の弁償はきつそうだぞ。
 『泣きながらまずいパンを食べる変なエルフ』になるかも知れぬ」
 メイムの言葉に青ざめるカロリナを見て、フェンリルが内心面白がる。
「……皿の弁償代は我が立て替えておいた。……さすがにこのままだと見ていられない状況になりそうだからな」
 ラトの話を聞いてカロリナがメイムの方を向くと、彼女はいたずらっぽく微笑んでいた。
「カロリナさん、今日は私がおごりますから美味しくて栄養のある料理を一杯食べてください」
「皆さん、何から何までありがとうございます……」
 ラジスラヴァに向かって、カロリナは申し訳なさそうに笑い返した。

 無事に初依頼を終えたアスコットはサラティールとテルルから洞窟内での出来事を聞き、楽しそうにしていた。


マスター:魚通河 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2005/08/17
得票数:冒険活劇7  ダーク1  ほのぼの4 
冒険結果:成功!
重傷者:次のページへ・カロリナ(a90108)(NPC)  想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)  大凶導師・メイム(a09124)  北落師門・ラト(a14693)  蒼き仙人掌の華・サラティール(a23142) 
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
 
雷獣・テルル(a24625)  2009年09月12日 13時  通報
【まなんだこと】
武人はスコップ1本で落盤から生還できる。