黒桔梗の森〜【七色の魔物】インヴィシヴルブルー〜



<オープニング>


 近頃、黒桔梗の森で不思議な出来事が起きているという。
 それは森の中を歩いていると、いきなり身体が切り裂かれ、身体を切り裂かれた者が狂った様に仲間に襲い掛かるというものだった。
 それも一度や二度の出来事ではなく、最近では黒桔梗の森に腕試しに向った多くの冒険者達が、この不思議な出来事によって仲間同士で争い、命を落としかけているらしい。
 何故急に身体が切り裂かれるのか、何故身体を切り裂かれた者が狂った様に仲間に襲い掛かるのか、その原因は全て謎に包まれているが、噂を聞いた死者の手と闇に囚われたままの・ユウ(a18227)は、この不思議な出来事に何か感じる物があった。そう、この出来事にはモンスターが絡んでいるのではないか……と。
 だが、モンスターの姿を見たという者は誰もいない。モンスターが絡んでいるかもというのはあくまでユウの直感でしかないが、彼はその原因を探り、それがモンスターの仕業であれば倒そうと考え、仲間と共に黒桔梗の森へと向っていった。

「どこから襲い掛かってくるか、まったく分かりませんからね。皆さん、今回は特に気をつけて下さい」
 僅かな物音や木々の揺れにも注意しながら、ユウ達はゆっくりと一歩一歩確かめるようにして、森の中を進んでいく。
 噂ではその出来事は特定の場所の起こっている訳ではない為、ユウ達は常に神経を使いながら進んでいかなければならない。
 さすがに冒険者といえども、常に緊張した状態でいるのは精神的にも肉体的にも疲れる。ユウ達は何度も休憩を取りながらじっくりと探索を続けるが、ついにその正体を掴む事もできずに日が暮れてしまった。
「残念ですが、今日はもう諦めるとしましょう……」
 溜息混じりにユウが呟くと、同行していた仲間達もそれに同意する。
「そうと決まったら、さっさと帰りましょうか。随分と霧も濃くなってきましたし……!?」
 と、自分の言った言葉にユウははっとなった。噂では不思議な出来事が起こる場所は特定されていなかったが、どの噂にも一つ共通している事があった。
 それは濃い霧の中で起きている事。そう、まさしく今の様な状況なのだ。
「この霧は偶然? それともモンスターの能力ですか? 皆さん、気をつけて下さ……!?」
 ユウが仲間に注意を呼びかけようと後ろを振り返ったその時、光り輝く2本の短剣が視界に入った。
「くっ!」
 ユウは咄嗟に身体を捻って、振り下ろされる2本の短剣から逃れる。
 もし後ろを振り返っていなければ、2本の短剣によって切り裂かれていた事だろう。
「……やはりモンスターの仕業でしたか」
 攻撃をかわしたユウは、自分に襲い掛かった者の正体をしっかりとその目に焼き付ける。
 それは青い忍び装束に身を包んだ人型のモンスターであった。

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参加者
至高の光・サルサ(a09812)
白竜の語り部・ラト(a17147)
雪月纏いし暁の天使・ヒース(a18007)
魔王様・ユウ(a18227)
千華繚乱・ティンシア(a18556)
夜天を切り裂く銀闇の剣・アス(a21807)
気紛れな魔女・シラユキ(a24719)
前進する想い・キュオン(a26505)


<リプレイ>

●霧の中から現れし者
 濃霧の中から姿を現したのは、2mはあろうかという巨躯に、青い忍び装束を身に纏った人型のモンスターだった。
 この巨躯で物音を立てず、気配すら感じさせずに冒険者達へと近づけるのならば、多くの冒険者達が命を落としかけたというのも頷けると、紅月に舞う鮮血に濡れた鴉・ユウ(a18227)は思った。
「おそらくこの霧もモンスターの仕業でしょうね。ならば!」
 辺りを包み込んでいる霧が、モンスターがアビリティによって作り出したものであれば、同じ領域のアビリティを使い、相手の成功レベルを上回れば掻き消す事ができる。
 そこでユウがストリームフィールドを発動させると、戦場全体に不思議な風の流れを作り出され、辺り一帯を覆っていた霧が一瞬で消滅した。
「一発で掻き消せるなんて運が良いね」
 幸先良いスタートに笑みを浮かべ、前進する想い・キュオン(a26505)は仲間達と素早く円陣を組んだ。
 冒険者達が組んだ円陣は術士の3人を中心にし、それを護る形で残り5人が周りを囲めというものだった。こうする事で死角が減り、背後を狙われる危険性も減るだろうという考えからだ。
「コレでもタフ型術士の端くれっ! ぜってぇ耐えてみせるぞぉっ!」
 術士でありながら前衛を担当する天翔招光龍・サルサ(a09812)が、両手杖を振るって、頭上に紋章を描き出す。紋章の力を集約した火球がサルサの頭上に作り出されると、紋章筆記の力を得て更に輝きを増して燃え上がった。
「いくぞぉっ! 俺の持てる最高アビをお見舞いしちゃるっ!」
 撃ち放たれた火球がモンスターに命中し、その身を焼き焦がす。
「よっし、これで暴れ回れるよ!」
 千華繚乱・ティンシア(a18556)の発動させた鎧聖降臨が、月影に舞う銀闇の剣・アス(a21807)のリングスーツに強大な力を注ぎ込み、その形状を大きく変化させて、防御力を高める。
「霧に紛れて気配を殺して攻撃するモンスター。現職の忍びとしては……負けられないよな」
 モンスターを強く睨みつけ、アスが飛燕連撃を放つ。
 迫り来る気の刃をモンスターはバク転して後ろに飛び退いてかわした。が、その動きは攻撃をかわすにしては少々大げさすぎる。
「まさか、逃げる気か!?」
 モンスターの動きの不自然さに気付いた雪月纏いし暁の天使・ヒース(a18007)が、緑の束縛でモンスターの拘束を試みる。
 手の形をした無数の木の葉が宙を舞い、モンスターを捕まえようとするが、モンスターは素早い動きで緑の束縛の間合いから抜け出し、木の陰に隠れた。
 冒険者達はモンスターの隠れた木の周囲に注意を払いながら、徐々に間合いを詰めていく。今のところ、モンスターが他の場所に移動した様子は無い。
 冒険者達は自分達の間合いに入った事を確認すると、顔を見合わせて無言で頷く。それを合図に散開し、モンスターが隠れている木を一気に取り囲んだが、そこにモンスターの姿は無かった。

●忍び
「いない……? どこに隠れたというんだ……?」
「木を登ったのかなん?」
 推定少女・シラユキ(a24719)が辺りを注意深く見渡し、風唄う白竜の涙・ラト(a17147)が木を見上げてみるが、やはりモンスターの姿は見当たらない。
 モンスターが木の陰に隠れてから、冒険者達は一度も目を離さなかった。もしモンスターが他の場所に移動したり、木に登ったのであれば、それを見逃す筈は無いが……。
「モンスターの姿を見失ってしまった以上、散開しているのは危険ですね……」
 冒険者達は再び円陣を組み、武器を構えてモンスターの襲撃に備える。
 額や武器を持つ手に汗が滲み、張り詰めたピリピリした空気が辺りに漂う。
「がはああっっ!!」
「「「!?」」」
 キュオンの絶叫が静寂を切り裂く。
 冒険者達がキュオンに視線を向けると、2本の短剣をキュオンの肩に突き立てて、倒立しているモンスターの姿を捉えた。
「今度は逃がさないぜ」
 キュオンの肩から短剣を引き抜き、間合いを取ろうとするモンスターにヒースが緑の束縛を放つ。
 手の形をした木の葉が1枚、また1枚とモンスターの身体にへばりつき、動きを封じていく。
「素直にお休みしてな……」
 モンスターの動きが止まると、すかさずシラユキがデモニックフレイムを撃ち込む。
 動きを封じられたモンスターにかわす術は無く、漆黒の炎にその身を激しく焼かれる。
「前の時みたいに大怪我して足手纏いにならないようにしなきゃね!」
 両拳に力を込めて、ティンシアが渾身の力で何度も何度もモンスターを殴りつける。
 モンスターの顔面から血が噴き出し、飛び散った鮮血が、青い忍び服に赤黒い染みをいくつも作り出した。
「動きを封じられたら、お前も終わりだな」
 アスはアビリティの力で不吉な絵柄のカードを作り出すと、それをモンスターに投げつけた。カードが命中した辺りが黒く変色していき、モンスターに不幸を与える。
「よしっ! この調子でガンガン攻めてやるぞぉっ!」
 サルサの描き出した紋章から、激しく燃え盛る火球が撃ち出される。
 攻撃をかわそうとモンスターは必死でもがくが、緑の束縛から逃れる事はできず、まともに攻撃をくらってしまう。
 この流れに続けとばかりにキュオンが弓を引き、鮫牙の矢を撃ち放つ。
 鋭い逆棘の生えた矢が腹に突き刺さり、傷口から鮮血が滴り落ちる。その激痛に耐えられず、地面に膝をついたのはモンスターではなく、仲間であるはずのサルサだった。
「キュオンどうしたなん!? サルサは敵じゃないなん!」
 ラトの声に反応し、ゆっくりとキュオンが顔を向ける。
 その瞳からは仲間を見るとは思えない、激しい殺意が満ち溢れていた。
「キュオンは混乱しているのかなん? だったらラトが治すのなん! 慈愛深き白竜よ、キュオンを癒すのなん!!」
 ギターをかき鳴らして、ラトが高らかな凱歌を歌い出す。
 仲間を励ます力強い歌がギターの音色に乗せてキュオンへ届くと、傷が癒され、殺意に満ちていた瞳が生気を取り戻していく。
「霧で視界を遮る。姿を消す。仲間を混乱させる。まったく……厄介な事をしてくれますね……」
 詠唱を終えたユウが指を鳴らすと、異形の悪魔の様な頭部を持つ漆黒の炎がモンスターに喰らいついた。
「ガアアアアアアアッッ!!」
 灼熱の炎に身を焼かれ、モンスターが絶叫する。
「さっきの借りを返させてもらうよ!」
 キュオンの放った鮫牙の矢が突き刺さると、モンスターは更に絶叫して、地面に倒れた。
「まだまだ。これで終わりじゃないんだからね!」
 倒れこんだモンスターに休み暇も与えず、ティンシアが攻撃を仕掛ける。
 力を込めた拳をティンシアが振り上げた瞬間、彼女の目の前でモンスターの身体を拘束していた木の葉が四散した。
 拘束から逃れたモンスターは、ティンシアの放つパンチを軽々と避ける。
「くそっ、効果が切れたか」
 ヒースが紋章を描き出し緑の束縛を放つよりも早く、モンスターの手から粘り蜘蛛糸が放たれた。
 冒険者達は何とか反応して蜘蛛糸をかわそうとするが、サルサ、ラト、ヒース、アス、シラユキの5人が糸に絡まれ、動きを封じられてしまった。

●青が朱に染まる時
 5人も動きを封じられてしまった事で、冒険者達は先程までの圧倒的有利な立場から、一気に不利な状況に追いやられてしまった。
 拘束されずに済んだ3人は、傷を癒す事も異常状態を回復させる事もできない。
 かなりのダメージを受けているが、モンスターの攻撃力はまだまだ侮れないものがある。
 拘束された5人、いや、少なくとも回復系アビリティを使う事ができるラトとシラユキが動けるようになるまでは、3人で耐えなくてはならない。
「本当に厄介な相手ですよ、貴方はっ!」
 モンスターを睨みつけ、ユウがデモニックフレイムを撃ち出す。
「グアアアアッッッ!!!」
 灼熱の炎に身体を焼かれる苦痛を、モンスターは雄叫びを上げて一瞬だけ紛らわす。
 その瞬間に地面を蹴り、ユウの懐に入り込むと、2本の短剣をユウの身体に突き立てた。
「がはっ!!」
 激しく吐血して、ユウはその場に倒れた。
 戦闘不能になったわけではないようだが、かなりの深手を負ったようで立ち上がる事もままならない様子だ。
「あったれ〜!」
 キュオンの放ったホーミングアローがモンスター目掛けて飛来する。
 モンスターはユウの身体から短剣を抜き、矢を避けようとするが、ホーミングアローは光の軌跡を描きながらモンスターを追尾して命中した。
 矢を受けたモンスターがバランスを崩したところへ、ティンシアがワイルドラッシュを叩き込むが、モンスターはしっかりとガードして、ダメージを最小限に抑える。
 そしてティンシアの攻撃の手が止まった瞬間を見逃さず、闇の闘気を込めた2本の短剣で身体を×字に切り裂いた。
「きゃああっ!!」
 甲高い悲鳴を上げて、ティンシアもその場に倒れこむ。ユウよりは余裕がありそうだが、それでももう一撃くらえば、間違いなく戦闘不能になる危険な状態だ。
「この蜘蛛糸さえ無ければ、ユウパパ達を助けられるのになん! 悔しいなん!!」
 どれだけ必死にもがいても、身体を拘束している蜘蛛糸を振り解く事はできない。
 仲間のピンチを目の当たりにしても、何もする事ができない自分に対し、ラトがやりきれない想いを吐露する。
 このまま黙って仲間が殺られるのを見ているしか無いのか。そんな思いが脳裏をよぎった時、事態が好転した。
 サルサとシラユキの2人が蜘蛛糸の拘束から逃れる事ができたのだ。
 サルサがエンブレムノヴァを放ってモンスターを牽制し、その間にシラユキが高らかな凱歌を歌って、仲間の傷を癒し、状態異常を回復させる。
「チイッ!!」
 再び劣勢に追い込まれた事を悟ると、モンスターは悔しそうに舌打ちをして、冒険者達から距離を取り始めた。
「おっと、逃がさないよ〜♪」
 また木の陰に隠れて姿を消されたり、姿を隠している間にミストフィールドを発動させられたりでもしたら厄介だ。
 キュオンは逃げるモンスターに狙いを定め、鮫牙の矢を撃つ。
 鋭い逆棘の矢がモンスターの足を射抜き、逃走を阻止する。
「ここまで追い詰めて逃がしたら、シャレにもならねー」
 続いてヒースが緑の束縛を放つと、モンスターは後ろに飛び退いてかわそうとする。
 しかし数枚の木の葉がモンスターの足を掴んで動きを止めると、その隙に残りの木の葉が一気にへばりついて、モンスターの動きを完全に封じ込めた。
「これで終わりだ!」
 身体の自由を奪われ、最早ただの的と化したモンスターに、アスがバッドラックシュートを放った。
「アンギャアアアアアーーッ!!」
 不吉な絵柄のカードがモンスターの額に突き刺さり、そこから鮮血が噴き上げる。
 モンスターは立っている事もできなくなって、その場に崩れ落ち、そして絶命した。

●恒例儀式
「あ〜疲れたぁ〜……」
 ピクリとも動かなくなったモンスターを見て、キュオンが安堵の笑みを浮かべて呟いた。
「私も〜。みんなー……生きてるー?」
 ヘトヘトのティンシアが仲間に問いかけると、あちこちから同じ様に疲れた声が返ってきた。
 誰1人欠けていない事を確認すると、今までの緊張が解けたのか、ティンシアはその場に座り込んだ。
「さて、今回は何を記念に持って帰りますかね……」
 仲間達の多くが疲れた表情を浮かべているというのに、ユウの顔からは笑みがこぼれる。
 ユウは軽い足取りでモンスターの死体に近づくと、いつものように戦利品の物色を始める。
 どれにしようか悩みながらモンスターの死体を眺めていると、ユウはモンスターの手の近くに落ちている短剣を発見した。
(「今回はこれにしますかね」)
 が、ユウが短剣に手を伸ばすと、その後ろから現れたシラユキの手が素早く短剣を拾い上げた。
「あ!」
「使える物は何でも頂く、それが私のジャスティス……」
 ぼそっと呟くと、シラユキはスタスタ歩いてその場から立ち去っていく。
「まあいいでしょう……。短剣はもう1本ありますし……」
 気を取り直してもう1本の短剣に手を伸ばすも。こちらも既にアスが拾い上げていた為、手に入れる事はできなかった。
「……残りはこの忍び服だけみたいですね。まあ、忍びタイプのモンスターを倒した良い記念になるでしょう」
 そう言ってモンスターから忍び服を剥ぎ取っていると、ヒースが口を開いた。
「なあ、墓を作ってやらねーか? 流石に今まで服を着てたモンスターを全裸で放置っていうのは、ちょっと気が引けるんだよなー」
「そうだな。俺は同じ忍びとして、敬意を持って墓を作ってやりたい」
 アスもその意見に同意し、冒険者達はモンスターの墓を作り、丁重に葬る事にした。
「いよぉっし、これでOKだなっ!」
 モンスターの墓に、木で作った十字架をサルサが勢い良く突き立てる。
「それじゃあ、いつもみたいに鎮魂歌を歌うのなん!」

 深い眠りの中で。
 優しい夢を見るよ。
 いつか二人繋いだ手を。
 離さないように。

「お休みなん……。夢の世界に……お帰り」
 鎮魂歌を歌い終えると、ラトは胸の前で小さく十字を切って、モンスターに祈りを捧げる。
 こうしてモンスターの弔いを済ませた冒険者達は、笑顔で黒桔梗の森を後にした。


マスター:月影絶影 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2005/09/19
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