はむいち



<オープニング>


「少し南の町で、ハムスターを売る市が立つの。鞠ぐらいの大きさの籠を、リボンをかけたり、色を塗ったりして可愛く仕上げた中に、ハムスターを1匹入れて売るのが特徴なのだけど……」
 話し始める霊査士・リゼルは、ちょっと瞳がきらきらしている。
 ハムスターはその籠のままお持ち帰り出来るだけではなく、籠入りのままでレースをさせたりもするらしい。まあ、賭け値が跳ね上がったりというのはそうなくて、まったりと楽しむレースのようだが。
「楽しそうでしょ?」
「それで、お仕事は何をするんですの?」
 同じようにきらきらの瞳で聞いていた護りの天使・メイリィ(a90026)は、早く教えて、と言うようにせがむ。
「お仕事じゃないですよ。そこに行きませんか? というだけ。私は仕事があるけれど、皆さんにもしお暇があれば、行ってみたらどうかしらと思って」
「……!!」
 メイリィはポカンと口を開けてビックリしている。
「遊びに行くですのーっ!」
「……あ、でも、猫は連れて行かないようにね?」
「……!!!!」
 飼い猫・フェイを抱きしめていたメイリィは、再びショックを受けたように固まった……。

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参加者
NPC:護りの天使・メイリィ(a90026)



<リプレイ>

「行くぞ、野郎共!」
 キリリと顔を引き締めて『梁山泊』の旅団長・シェンが団員達に声をかける。旅団の厨房に大発生したハムをさばきに行くつもりで、手にした木箱には、苦労して捕らえたハム、ハム、ハム……。誰も動物に詳しくなかったのが禍したのか。雄雌いっしょに詰めてあるのが恐ろしい。
「あたしは野郎じゃないんだけど……まあ、いっか」
 ぶつぶつ言っているプラティコドンの手にもハム箱。一体、何匹いるのかは誰も知らない。幾つも並んだつぶらな瞳が、『売らないで』と言ってくる気がして、蓋を開けるのすら躊躇われる。これからドナドナされて行くハム達に、情を移している場合ではないのだ。
「ちゃんと売ってしまわないと、シュハクちゃんが壊れちゃうもんね。……あっ! ティンちゃんも手伝ってよぅ」
 ティンを見つけたプラティコドンは、有無を言わせず「はいっ」とハム箱を押し付けた。
「僕は力仕事より金勘定が得意なんだけど……」
 こちらもぶつくさ言いながらハム箱を受け取る。代わりにプラティコドンは手ぶらになって「わーい♪」と駆けて行った。
「……まあ、レディって事で」
 深くは考えるまい、と独り頷く。その、はるーか後方。伏せ耳(イメージ) でカタカタと震えるシュハクがいた。
「……べ……べ、べ、別に買いに来た訳じゃないからネっ。お弁当作ってきただけヨ?!」
 旅団仲間の誰にも聞こえていない位置だが、本人は必死だ。何せ極度の鼠嫌い。語尾なんか裏返っちゃったりして。……あんまり震えてると、茶器セットが割れてしまうぞ?
 彼の傍らを、はむいち御一行様がわらわらと通り過ぎてゆく。
「……フェイは連れて行けないからお留守番ですの」
 言いながらキュッと愛猫を抱きしめるメイリィに、
「誰か呼んだのか?」
 と眼鏡の耳長お姉さんから声がかかる。
「???」
「私も同じ名なのだよ。……む。素晴らしく平らな胸だな。とてもヨロシイ。『清く、正しく、慎ましく』をモットーに、世界の平和を実現するため頑張っている貧乳宣教使節団を訪ねてみると良いぞ! では、サラバだっ!」
 言いたい事だけ言うと、貧乳を布教する巨乳のお姉さんは疾風の如く去って行った。
「ぬかった!」
 顔を真っ赤にしているメルメルの隣りで、ハリセンツッコミの機を逃したリッカが舌打ちした。ま、舌打ちする程の事かは置いておいて。
「フェイさんなら、私が会場の外で預かっていても良いですよ? その代わり『おつかい』をお願いします。可愛いハムさんを買ってきてもらえますか?」
 そう言ってくれるヴェノムの顔とフェイを交互に見ながら、メイリィは「良いですの?」と尋ねる。
「ええ」
 ふわりと微笑するヴェノムに、メイリィもにこっと笑った。
「ボクもちょっとは遊んでおいてやるよ」
「やぁん♪ カワイイ〜っ!」
 猫じゃらし片手に顔を出したタロットの横合いから、シンシアがメイリィをかいぐりかいぐり。緑の髪に揺れる百合の花に、周囲が「うっ」と固まる。何だか危険な妄想が、ごくごく一部に広がった。というか、百合の前にロリ○ンという問題も……。

「さーて。『リーフウィンド』の皆は俺に付いて来いよ?」
 張り切るアリエに、「わ〜い♪」とモコモコが付いて行く。実はリーフじゃないけど。
「俺はこっちー♪」
 逆にバーミリオンの方へと駆けて行ってしまったジェイは、リーフにも所属していたり。
「……」
 フクザツ。
「まあまあ。男にモテるより、子供にモテた方がいいだろ?」
 腹が捩れる程、タロット達と声を殺して笑ったのは内緒にして、ピートはアリエの肩をぽむ。
「ボクは一緒にいるよぅ」
 笑って言うリウルが窺っているのは、タロットの様子だが……。
 ジェイが合流したのは『空のささやき』の仲間。何だかしょぼんとしているバーミリオンに、「とうっ」と抱きつく。
「なに落ち込んでるんだ? ハムサンドが待ってるんだぜっ」
 慰めにしては何か違う。気持ちだけは沢山詰まっているのは分かるが……。
「『可愛いハムが待ってる』とは言わないんだね」
 苦笑するリュカに、瞳をキラキラさせたラシェスが「ほう」と溜息をついた。
「やっぱり……可愛いわよね」
 キラキラキラキラ、キラ、キララ。ハムがラシェスの心を席巻する。

 同じキラキラながら、今日はちょっとはぁとが飛んでいるナオ。傍らのチッペーをチラと伺っては頬を染める。そっと手を伸ばしては引っ込め、を繰り返していた。
「ん? ……しょうがないなぁ」
 気付いて、チッペーがその手を取ると、感極まってナオはうるうるし始めた。
 これぞデートって感じ♪
 そして、デートにはちょっと早いお子様ミリアムは、ダグラスを「早く早く」と引っ張っている。
「「ふふふっ」」
 と目を煌かせて狙うサンタナとリトルには、まだダグラスは気付いていない。


 さて。ハムを愛でる会御一行様、会場到着!
「わ〜い♪」
 1番手にモコモコが駆けて行く。気持ちばかりは追いかけたいけれど、さすがに19では世間体が気になるアルシー。精一杯の早歩きで天幕を潜り……ハム籠の並ぶ前でピタリと止まった。
(「ああっ 可愛いわっ!」)
 小さなカタマリがもぞもぞもぞっ 茶色のブチがごそごそごそっ つぶらな瞳がうるるるるっ
「「「かわいいーっ!」」」
 ミライやアンリ達も一緒になって覗き込む。
「もう買って行く事に決めているんです。ああっ 雄と雌、どっちがいいでしょう?」
 両手に雄雌の籠を乗せて、ミライは「うう〜ん」と悩む。
「ボクも、どんなのがいいか悩んでるんだよね」
「私はつがいで飼う予定ですよ。飼育用の籠も用意しないといけませんね」
 それぞれにお目当てを探すイサヤやネルケ達ににこっと笑い、アンリはつがいの籠を見て回る。もちろん、お持ち帰り用籠以外に、ここには飼育用の籠やらハム用遊び道具が豊富に揃っている。
 飼い方のレクチャーにイサヤやネルケと耳を傾けた後は、アルビノの子を探しに他の場所へと出て行った。
「……」
 トロくて小さくて役に立ちそうにもないのに、どうして皆、欲しがるのだろう? そんな風に思いながら見ていたスイシャは、つぶらな瞳をじーっと覗き込んだ。
「……っ!」
 つい、呪縛されてしまった彼女。
(「これが武器でござるねっ」)
 何だか勘違いをしつつ、1匹購入。忍ハムとして躾けようと心に誓う。
「可愛いっ この子が可愛いよぉっ ね、そう思うでしょ? ティキさん。ね? ……あれ?」
 すっかりハムに悩殺されていたエレアノーラは、傍らのティキに話しかける。が、当の本人はふらりとハムレースの方へと行ってしまっていた。
「ティキさーんっ」
 一目惚れのハムを購入し、籠を抱えて、エレアノーラはティキ探し。
 出かけてみれば、記憶の欠片が見つかるかと……思っていたシャライナは、そんな皆の様子をぼんやり眺めて……はたとハムと目が合った。合ったと思った。
「…………可愛らしいですわね」
 じぃ〜〜〜〜〜っ。
 ハムの呪縛に、彼女はしばらく立ち尽くす。

「ミサリヤとエイルはどこに行くのじゃ? わしもハム初体験したいのじゃ」
「もちろんレース! サンディと応援するんだっ♪」
 シリアに言うと、ミサリヤは彼の手を引き、レース会場を探してキョロキョロと辺りを見回す。
「私はマイハムと出場するの! もちろん、目当ては優勝商品の向日葵の種3か月分っ!」
「やはりマイハムでレースが基本でしょうか?」
 エイルの言に「ふむ」と頷いて、ヒカリはキリを見る。
「ソフトくりぃむを賭けて、出てみる?」
「いいですよ」
 キリの挑戦にふふっと笑って、ヒカリはレースと言う名のデートコースへ。キリと腕を組みながら歩いて行く。
「私達も行ってみるか?」
 アゼルはメイプルを誘ってみる。お互いの手にはハム籠。メイプルのそれが、心の中で『アゼル』と名付けられている事までは知らなかったが。
「はい……」
 頷いて、メイプルは言えない秘密に頬を染めた。
(「あっちもこっちも……」)
 なんだかはぁとが飛んで見えるぜ、と心の中で文句を言うダグラスは、しっかり自分もミリアムと一緒。ハムの可愛さにダラけそうになる顔を引き締め、あっち、こっち、と歩き回るミリアムに連れられている。
「もしもし、そこの兄ちゃん。ハム籠のお代を払ってくれないか?」
「……へ?」
 声をかけられ振り向くと、リトルがハム籠屋のおやじの後ろでニカッと笑っている。
「よろしく頼んだよ!」
 戦利品のハム籠を手に、リトルは脱兎。
 ダグラスがあんぐり口を開けて見送る間に、サンタナがハイドインシャドウでコソリと近付く。そして、彼のローブにハムを1匹、2匹、3匹とシュート!
「プレゼントじゃ♪」
「ぬおっ?!」
 すっかり遊ばれているダグラス。そして目の前には、「お勘定」と差し出されたおやじの手……。
 ミリアムが見ていなかったら、どこかがぶっちり切れたかもしれない。

 ハムレースに賭けられるのは、予め購入したヒマワリの種。賭けたハムが勝つと、そのハムに種が贈られ、自分にはちょっとだけ儲けが返ってくる。
 エントリーしているハムを興味津々で見回っては、シリアはこっそり指を差し伸べる。
 ふかふかふか。
 小さな温みについ頬を緩める。
(「……欲しいのぉ」)
 気持ちに逆らえず、応援しているミリアムを置いて、フラフラとハム籠屋へ。
 仲間のカップル達が参戦してくる中、ハムサンド片手に元気に応援しているジェイはともかく、ティキとリルミア、リッカは寂しい独り者状態。
 ハムの愛くるしさに、心はグラグラ揺れていたものの。やっぱり生き物を飼うのは苦手だから、と思案したリルミアは、ふと視線を巡らせて見つけたハムぬいぐるみ売り場に目を輝かせた。こちらも吸い寄せられるように店へと歩いていく。
「(メルメルに気をきかせてあげたんだもんねー)」
 なんて、強がりを言いつつ賭けに興じていたリッカは、リルミアが抜け、『仲間』と思っていたティキの元にエレアノーラがやって来るのを見て、しばらく固まった。
 きっと、後で誰かが八つ当たりハリセンの犠牲に……。


 一行から少し離れて、ゼミューティオがぼんやり歩いていると、視界の端をもぞもぞと小さなものが動く。
「???」
 ハムが1匹。ひょいと捕まえてみると、カシカシと指を噛まれた。
 そしてまたハムが1匹。
 続いてまたまたハムが1匹……。
「……?」
 カシカシと指を噛まれつつ、手の平に白いもこもこが溜まっていく。不審に思ってハムの来る方を見ると、アリエとピートがせっせと売り物のハムを逃がしている!
「……いいのか?」
 いや、良くない。案の定、店主に見つかって怒られている。タロットとリウルにまで見咎められ、リーフ年長者の威厳(あったのか?) は無くなってしまった。
「まったく、何をやっているのかしらね?」
 ハム籠を手に乗せながら呟くと、ローズマリーはモコモコを見つけて呼び止める。
「あ、モコモコさん。この子の通訳してくれないかしら?」
「ん? いいよぉ〜」
 それを手始めに、モコモコはフェンネルと2人がかりで、獣達の歌を歌ってはハムハムの通訳に回る。
 リュカは旅団仲間を引き連れて、その輪の中に入って行った。
「「「カワイイーッ」」」
 リュカも、ラシェスも、落ち込んでいたバーミリオンも、つい上げた声は同じ。あれやこれやと籠を見回し、白いふわふわを手に乗せて見つめてみたり。
 座り込んで、ヴェノムの分の1匹と、クロノシンに頼まれハムを選んでいたメイリィの隣りには、さりげなくメルメルが並ぶ。お揃いの春組ハッピで、気分もなんだかほわほわしてくる気がする。しかし。
「メイリィはフェイがいるから、ハム飼えなかったりする? だったらハムのぬいぐるみはどうだ? お礼にプレゼントするぞ?」
 なーんて、メイリィの選んだハム籠に気を良くして話しかけるクロノシンが、気になって仕方なかった。
「初めまして、メイリィさん。メルメルさんの婚約者さんですね! お会いできるの、楽しみにしてました!」
 助け舟のつもりか、アーシアがそう言って強引に割って入る。
「コンニャクシャ?」
「え? 私、何か間違えました?」
 首を傾げるメイリィに、彼女はわたわたと慌てた。カーッと更に真っ赤になるメルメルは「あわわわわっ」と二の句が継げない。
「まあ……それはさすがに……早すぎると思いますけれど?」
 アキレギアは言うと、中腰になってメイリィの頭をぽふぽふする。そしてふと顔を上げて……倒れた。どうやら人込みに酔ったらしい。
「「「あ……っ」」」
 取り落とされるピンクのリボンのハム籠を、フェンネルがはっしと受け止める。慌てて皆でアキレギアをはむいち本部の天幕へ運ぶと、タイガーハニーが簀巻きにされて転がっていた。……虎覆面で不審者扱いされたらしい。
「「「…………」」」
「覆面を外すなんて出来ないのです……。ううっ ハムちゃんとの出会いが……うううっ」
 警備員に抵抗してチョップで沈めてしまったから、冒険者達が交渉しても、市が終わるまでは、と解放してもらえなかった。
「私も、散々お願いしたのですが……」
 入口で待っていたヴェノムが、フェイを抱きしめつつ事の顛末を説明してくれる。
 仕方ないと諦めて、皆はタイガーハニーを置いていく事にした。
「タイガーハニーさんも、ハム、欲しいですの?」
「いいのです。覆面を外される屈辱に比べたら、ハムに会えないくらい……っ」
 じょーっと滝の涙を流す彼女に、ハム土産を約束したメイリィ。さて、戻ろうと天幕を出たら、皆からはぐれてしまっていた。
「……ふ、ふぇ……っ …………う?」
 心細くなって泣きそうになっていたところに、レイクの姿が目に入る。指人形でフリフリフリフリ。頭の上でダンスをさせて、子供達の注目の的になっていた。
「ん……? 皆とはぐれたのか、メイリィ?」
 泣きそうになっていたのも忘れてコクリと頷く彼女に手を伸ばし、
「レースでも見に行くか?」
 とレイクは微笑した。


 はむいちもそろそろ仕舞いが近付く。
 さて、シェン達の売り上げはどうなったかと、アゼルとメイプルは連れ立って覗きに行く。手には、ハム籠と、レースでちょっとばかり手に入ったヒマワリの種。
 シェンやプラティコドン達は、ハムをすっかり売り切って、シュハクのお弁当をつついているところだった。
「……」
 何かシュハクの服の裾あたりで動いた気がしたり、ティンがごそごそと怪しい動きをしているが……。
 まあ、その顛末は、後日のこと。

 それぞれにお気に入りのハム籠を手に入れ、午後にはハムサンドでお腹がいっぱい。
 心も身体も幸せになって帰る冒険者達。
 天幕の撤収まで、忘れ去られていたタイガーハニーは……待ちつかれてぐーすか寝ていたらしい。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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わからない
参加者:49人
作成日:2003/12/12
得票数:ほのぼの29  コメディ1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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