波寄せる温泉の里 〜温泉で荒波に揉まれ〜



<オープニング>


●波寄せる温泉の里
 岩壁に穿たれた洞窟に初めて足を踏み入れた者は、誰もが驚き目を丸くする。
 誰が想像し得るだろう。
 洞窟の奥の大空洞にぽっかり開いた巨大な岩穴から――果てなく広がる大海原が望めることを。
 彼方に見ゆる水平線に、水深と潮流で色を濃く深く変える青き水面、そして岩に噛みつかんばかりに荒々しく打ち寄せる波に、激しく砕けて大きく飛沫を上げる白い波頭が、この洞窟が外海に向かって口を開けていることを物語っている。
 思わぬ景色に惹かれて足を踏み出すと、ようやく大空洞に白い湯気が漂っていることに気づく。外から吹き寄せる風が纏う潮の香りに、微かな硫黄の香りが混じることにも気づくだろう。
 そう、この大空洞には温泉が湧き出しているのだ。
 果てなき大海原と雄々しき荒波を眺め、潮の香をかぎつつ温かで柔らかな湯に体を浸す。
 それがどれほど快いものであるかは、想像に難くない。

●温泉への誘い
「と言うわけで、ぜひ皆様と温泉に行きたいんですの」
 藍染の扇をゆるやかにひらめかせ、藍深き霊査士・テフィンは僅かに首を傾げ微笑んだ。傍らではボギーが冷えたハイビスカスティーを杯に注ぎ、居合わせた冒険者達に甲斐甲斐しく配っている。
 その杯の一つを何気にテフィンに奪われつつ、ぽろりといらぬことを口にするボギー。
「この暑いのに温泉なんて物好きですねぇ」
 テフィンは眉ひとつ動かさず杯を口に運び、一口飲んでテーブルに置いた。
「まぁ、やはりボギー様は子供ですの。暑いからこそ、暑気疲れを温泉で癒すべく……それに海を眺めながらの入浴ですから、むしろ涼しいくらい……」
「あ、あそこですね! あそこならボギーも万難を排してお供するですよ!」
 嬉しそうに尻尾をくるりと回すボギーに頷き、冒険者達へ視線を戻すテフィン。
「雄大な大海原を眺め、潮騒を聞きながらゆっくりと湯に浸かるのはとても気持ちがいいんですの。冷えた発泡米酒に新鮮な海の幸……それはもう、帰るのが嫌になるくらい……」
 藍の瞳がとろけるようにうっとりと潤む。
「今回、温泉を貸切で使うことができますの。よろしければ皆様も是非ご一緒してくださいまし」
 幸せそうに会釈したテフィンはゆっくりとハイビスカスティーを飲み干し、「マグロの目玉の煮付けに胃袋の酢味噌和え……」と夢見心地で呟いて酒場を後にした。

 テフィンの姿が見えなくなったのを確認し、ボギーが深刻な顔で口を開いた。
「実は……お願いがあるです。温泉でテフィンさんを見張って欲しいのですよ」
「何だそりゃ」
 訝しげに眉を顰める冒険者。
「洞窟の温泉が面してる海って割と潮が荒いのですよ。波の高い時期には時々、海面より高いところにあるその温泉までざっぱーんと。はっきり言って『波を見ながら入浴』じゃなくて『波をかぶりながら入浴』なのですよ〜」
「そ、そりゃ豪快だな」
「面白いですよ〜。波かぶるの楽しいし、冷たくてとっても気持ちいいし。でもテフィンさん波かぶるのがあんまり好きすぎて、温泉の中じゃなくって岩穴の淵に座っちゃうんです。んでもって波に攫われそうになることがしょっちゅう……」
「そ、そうか……」
「流石に危ないってんで、地元の人が転落防止の柵を作ったんですけど、テフィンさんが駄々こねて柵をとってもらっちゃったんですよぅ」
「…………」
「と言うわけで、テフィンさんが危ないことをしでかさないよう見張ってくれる人大募集なのです!」
 ボギーは冒険者達を見回し、よろしくですよ〜と頭を下げた。

マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:藍深き霊査士・テフィン(a90155)



<リプレイ>

●荒波
 天然の岩回廊は幾重にも折れ曲がり、訪れる者を奥深くへと誘い込む。
 岩肌で囲まれた道の奥には宮殿ひとつをも抱え込めそうな空洞が広がり、奥には壁一面丸ごと抜け落ちたかのように巨大な岩穴が口を開け、遥か水平線を望む青い海原へと繋がっていた。
 空洞では至るところに翡翠がかった白い湯が湧き、岩穴の向こうに広がる蒼海には八重に波が立つ。寄せる岩波は穴の縁にぶつかり白く砕け、時には縁を大きく乗り越えて、湯気の立ち込める岩窟に冷たい飛沫を振りまいていた。
「凄く楽しそうなぁ〜ん!」
 岩を噛む荒波にすっかり心奪われたキティは、まっすぐ駆け寄り穴の縁から身を乗り出した。ふと隣を見ると既に霊査士が縁に腰かけている。しかし霊査士が波に攫われるより先にティキが岩穴の縁に縄を張っていた。波被りをするなという野暮を言うつもりはないようだが、誰かが波に攫われるのは落ち着かないらしい。
「あとは自力で流されないようにしてくれよな」
 てきぱきと縄を張り終え踵を返すティキ。返事をしようと霊査士が口を開いた瞬間、大きな白波が彼女とキティを呑みこんだ。
「思ったより凄いな……こういうのも、悪くない」
 湯に浸かったまま飛沫を浴びたブラッドは幾度か瞬きを繰り返し、満更でもなさそうに呟いた。凄い波だったなぁ〜んと霊査士と笑いあうキティの様子にも目を細める。だがもう一人の連れたるアルベドには相当危険な場所に見えたらしい。
「キティの分も温泉卵作ったぞ。いつまでもそんな所にいないでこっち来い……なぁ〜ん」
 食べ物で釣ってみた。

「ほらほらテフィンさん、マグロの目玉ですよ?」
 一方でもレイトがやはり料理で釣っていた。付き従うボギーが捧げ持つのはマグロの目玉の煮つけ。この地方の名物である。目を輝かせた霊査士がいそいそと腰を上げた。
「マグロの目玉ってお肌にいいんですよね?」
 しげしげと目玉を眺めていたテルミエールがふと顔を上げ、目を丸くした。
「て、テフィンさぁ〜ん!」
「きゃああぁっ!」
 霊査士の背後から彼女の背丈を軽く越す高波が襲いかかる。巨大な波頭が冒険者達ごと岩窟を洗い、引いていった。幸い波に攫われた者はいなかったが、ボギーが悲鳴を上げる。
「目玉がなくなったですよぅ!!」
「あ〜、ここやここや。目玉の煮つけは無事やで」
 ボギーの背後で、すば抜けた長身を誇るネジが煮付けの皿を高く掲げていた。咄嗟に皿を取り上げ波から庇ったようである。助かったですよぅと大きく息を吐くボギーに皿を返し、楽しげに笑うネジ。
「マグロの目玉は頭にええらしいな。ほな、食べよか」
 瞬間、横合いから驚愕の声が響いた。
「こ、これマグロの目玉だったの!?」
 見れば、一瞬前まで同じ煮つけを幸せそうにつついていたマーガレットが箸を宙に止めたまま立ち竦んでいる。どうやらその正体を知らずに目玉を食べていたらしい。今にも皿を取り落としそうになるのをサシャが慌てて支えた。
「ちゃんと見てないと零してしまいますよ……?」
 微笑つつその様を見守っていたファルクは、波の音に誘われふと外を見遣る。打ち寄せた波が岩穴の縁で飛沫き、ファルクの頬を軽く叩いた。
「これは……攫われてもおかしくない波だね」
「そこならもっとよく見えますか……?」
 奥の湯に浸かっていたリラも穴の縁へ歩み寄る。その時、大きく潮が引く音が聞こえた。
「高波が来るから気をつけ……!」
「きゃああっ!」
 セトが警戒の声を発した瞬間にはもう皆が波に呑まれていた。足を滑らせたセトをファルクが庇い、必死に手を伸ばしたリラが何やらふかふかしたものを掴む。
「あ……ありがとう」
「お兄ちゃん、大丈夫ですか……?」
 セトは頬を朱に染めて礼を述べ、サシャの心配そうな瞳で顔を覗き込まれたファルクは、自分は大丈夫と笑顔で答えた。重傷の身ではあるが幸い傷は開かなかったようだ。
 皿を持ったまま波を被ったマーガレットは「うわ……ホントに塩の味がする」と感慨深げに呟き、リラは「濡れててもふわふわです……」と波の中で掴んだボギーの尾を撫でほんわかと和むのだった。

●頻波
「混浴ってことは合法的に小さくて可愛い男の子の裸が見られ……う〜ん、眼福なぁ〜ん!!」
 海も温泉もそっちのけ。ただひたすら「可愛い男の子」を肴に飲み明かそうと意気込んでいたリュリュは、故郷の地酒を片手に温泉へ足を踏み入れ――愕然とした。
 男の子と呼べる年頃の少年が殆どいなかったのである。
 とりあえず手近にいたボギーをふん捕まえて怒りをぶつけた。
「詐欺なぁ〜ん! 『可愛い男の子達とウキウキ温泉』は嘘だったなぁ〜ん!?」
 逆巻く波が轟と唸り、リュリュの怒声と共に一際激しい波濤が打ち寄せる。
「うわああんっ! 誰もそんなこと言ってないですよぅ〜!!」
 怒涛の波が岩窟の奥へとボギーを押し流していった。
 奥まった一角でゆるりと湯に浸かっていたユダが、流れついたボギーを拾い上げる。
「ボギー……平気か?」 
 ボギーは「た、多分」と力なく笑ったが、海際で「ボギーさん、ジュース注いであげますぅ」とアスティナが手を振った瞬間、生気を取り戻したかのように溌剌と駆けていった。
 ふらふらと穴の縁へ近寄るアスティナを、ハラハラしながらウピルナが見守っていた。アスティナは軽い波を浴び「冷たくって気持ちいいですぅ〜」と嬉しそうにしているが、いつぼんやりとして波に攫われるかわからない。
「アスティナさん、気をつけてくださいね」
 やはりアスティナを見守っていたアクアローズが、慈愛を湛えた瞳を和らげ微笑む。そして、
(「アウラ様がいますし……少し位平気ですわよね」)
 こっそり酒杯を手に取った。
 しばらくして、三人の引率者(?)たるアウラが取り分けた料理を手にしてやって来た。
「皆そろってますか〜? のぼせないようにしてくださいね〜」
「はいですぅ」「わかりました」
 真面目に返事を返すアスティナとウピルナ。だが、
「あはは〜。ら〜いじょおぶらよ〜?」
 底抜けに明るい声で大笑いするアクアローズは明らかに出来上がってしまっていた。
「こ、こんなに早く団長が使い物にならなくなるなんて……アスティナだけ大変だって言うのに」
「大丈夫、私が面倒見るから……」
 がっくりと肩を落とすウピルナを虚ろな表情で慰め、アウラは誰彼ともなく絡み始めたアクアローズを押さえに行く。
「あ! またテフィンさんが危ないですよ〜!」
 そう叫んで走っていったボギーの背中をぼんやりと見つめた。
(「ボギーさん、お互い苦労しますね……」)

「折角面白い所に来ているんだ。存分に楽しまなくてはな」
 岩穴の縁に腰を下ろしたレイファは足を撫でる波の感触を楽しみながら、隣に腰かける霊査士に悪戯っぽく笑いかけた。
 その刹那、激しい風濤が押し寄せ、泡立つ奔流が二人を覆い隠す。
 冷たい波に揉みくちゃにされた霊査士が腰を滑らせたが、間一髪で飛び込んだボギーが腕を引き、レイファが腰を抱き寄せたおかげで難を逃れた。
 肩までしっかり湯に浸かり、冷たい波をたっぷり浴びたファオが目を瞬かせて嬉しそうに微笑んだ。
「すごい波……でも、気持ちよかったですね……?」
 ファオは誰かの同意を求めるように辺りを見回し、温泉にぷかりと浮かぶフィーとリンネを発見した。二人の体勢から推察するに、波に攫われそうになったリンネを助けようとしたフィーが巻き添えを食ったという所だろうか。
 二人の少女は同時にガバッと顔を上げ、海水を飲んだのか激しく咽た。
「の、飲み物……」
「こ、コーヒー山羊乳を……」
 ファオがコーヒー山羊乳を取ってきてやると、うら若き乙女達はおもむろに手を腰にあて、ぐいと一息に飲み干した。

●風波
 波の届かぬ場所に大きな料理の卓がしつらえられていた。
 卓では小さな岩に腰かけたチトセが「鰹の時雨煮とミョウガの煮凝り寄せ」に舌鼓を打っている。琥珀色の煮凝りは口の中でさらりと溶け、味の濃い時雨煮に淡く上品な旨味を絡ませて、しゃっきりとしたミョウガの食感と爽やかな風味が実に心地よい。だがそれだけではチトセの食欲を満たすことはできなかった。
「海鮮ちらし鮨10人前追加ねっ! あとここの名物もっ!」
「地元料理もいいですね。色々試してみたいです」
 霊査士に向かって元気よく手を振るチトセの隣では、リンがぷりぷりの帆立貝柱を炙っている。
 バターと黒胡椒を乗せた貝柱を軽く炭火で炙り、レモンをさっとを絞る。貝柱の甘味を活かしたなかなかクセになる味だ。
「地元名物ならこれが美味しゅうございますの」
 意味深な笑みを浮かべた霊査士が運んできた料理は、一見蒸し鶏の酢味噌和えのように見えた。近くで料理をつついていたシィナとカレンも興味深げに箸を伸ばす。
 口に入れてみればコリコリとした歯ごたえがあり、からしの利いた酢味噌に負けない旨味がじわりと口腔に広がった。
「美味しい〜。これ何ですか?」
「マグロの胃袋ですの」
 カレンの問いかけに、霊査士が満面の笑みで答えた。

「水饅頭なんかいかがでござるか? 冷えていて美味しいでござるよ?」
 シアンの涼しげな水饅頭にあちこちから手が伸びる。温泉で緑茶を飲んでいたコーキは特に嬉しそうな顔で受け取った。
 温かで柔らかな湯が日頃溜め込んでいた疲れを緩やかに溶かしていく。温泉は心をも穏やかにするのだろうか。連れのリオンが飲酒を止められた挙句にヤケ食いし、シュロを引きずって波被りに行ったのを止める気にはならなかった。
 穏やかに温泉を満喫する兄・コーキを陰からじっと見守っていたジェイドがぬいぐるみを強く抱きしめ呟いた。
「兄が覚醒したら止めるのじゃ……」
「い、一体何に覚醒するのでござるかっ!?」
 水饅頭を配りに来たシアンがその呟きを聞きつけたが、結局謎が解けることはなかった。

 発泡米酒は呑みやすいがその酒気は決して侮れるものではない。ずっと酒杯を放さなかった霊査士も、流石に休憩しようと思ったのかようやく杯を置く。その隣にハルクが空のワイングラスを並べた。
「ハルク様?」
 首を傾げる霊査士の目の前で、ハルクはくるりと体を回転させ、どこからともなく白ワインを取り出した。
「まぁ……素敵な手品ですの」
「酒は少量だと薬だが……飲み過ぎるなよ」
 ワインを注いでグラスを差し出すと、霊査士は嬉しそうに受け取った。飲酒休憩はもう終わったらしい。ワインと葡萄果汁を満たしたグラスが涼やかな音を鳴らす。

●徒波
「ふふ……やはり吟醸は海鮮に合うな」
 荒々しく飛沫を上げる波を背に、ミナトが雄々しく吟醸酒を呷る。隣に腰を据えた霊査士がその呑みっぷりを賞賛したが、これでも本人は量を控えているつもりらしい。
 向かい合っていたボサツはすっかり酔いが回った様子で、盛大な笑い声を上げていた。
「あっはっは、とか言って俺達酒ばっかであんまり食べてないけどねぇ。まぁ新鮮な海水が肴ってとこか?」
「確かに海鮮は海鮮……か?」
「嫌だ、お二人ともあんまり笑わせないでくださいまし」
 霊査士も目尻に涙をためて笑い転げている。こちらもかなり酔いが回っているらしい。
「おぅテフィン呑んでっかー?」
 ビリオンは霊査士の杯に自前の酒を注ぎ紙袋を差し出した。
「何だこりゃ」
 ボサツが紙袋をひっくり返すと、中からはらりと紐の塊……否、紐と申し訳程度の僅かな布地で構成されたきわどいビキニが落ちてくる。ビリオンはニヤリと口の端を歪めて霊査士に詰め寄った。
「これが似合うよ……ふふふふ」
「うふふ……嫌ですのそんな面倒なの着ませんの」
 霊査士は完璧な営業スマイルを浮かべ、でこぴんを喰らわせた。

「よ! 約束の酌しに来たぜ♪」
「儂は楓華仕込みの冷酒をお注ぎしようかの」
 イサヤとマツバが霊査士を見つけたのは、予想通り波飛沫の絶えない岩穴の縁だった。幸せそうに波を被る霊査士に酌をしつつ、イサヤは心配そうに眉を寄せる。
「波に攫われんなよ?」
 だが、その瞬間襲ってきた波がイサヤの足を掬う。
「おっと危ねぇ!」
 面白がっているのか体勢を崩しつつも笑顔のイサヤ。だが傍らのマツバが哀しげに呟いた。
「儂の酒がぁ……」
 どうやら丁度酒を注いだところを波にやられたらしい。苦笑しながらイサヤが酌をしてやった。
「酒が零れたらまた注げばいいのさ」

 またもや腰を滑らせた霊査士はサリエルに引き寄せられていた。波が引いたのを確認し、安堵の息をつくサリエル。
「危なかったね……けど、波を被るのも冷たくてなかなか……」
「病みつきになりますの」
 懲りずに微笑む霊査士につられてサリエルも笑う。一緒にいられるのが嬉しいと囁けば、霊査士の頬がほんのりと色づいた。

 波被りをたっぷり堪能したルリとトールは、岩穴から適度に距離を取って料理を楽しんでいた。卓には海鮮料理の他にアリアレスタが持参したこんにゃくの胡麻辛味噌炒めと冷やし甜茶が並べられている。
「トールさん、イソギンチャク退治の節はお世話になりました」
「いえ、俺の方こそ。そうだ団子は如何ですか? ……あ!」
 団子を取り出そうと振り返ったトールは、次第に波が荒くなっている岩穴の縁へ向かう霊査士を見つけた。
「そろそろ危ないですね……止めてきます」
「迷子になったりしないわよね、トール?」
 ルリが冗談交じりに声をかけると、トールは乾いた笑みを浮かべた。

 今日のユウは非常に気合いが入っていた。虫のいない場所を選んで完璧な舞台を整え、誘い出した霊査士にストレートに迫ってみた。
「今宵こそ……貴女を奪いたい」
 霊査士の瞳に蠱惑的な光が宿る。
「まぁ……うっかりその気になってしまいそう……」
「……なって下さっていいんですよ……?」
 だがユウが唇を重ねようとした、刹那。
 突然霊査士が意識を失い、二人は強力に粘つく糸に絡め取られた。
「波が来ますよ〜!」
 粘り蜘蛛糸を放ったトールの声と共に荒い波が二人を打ち据える。
 トールは二人を波から助けるつもりだったのだが、気絶した霊査士は勿論、拘束されたユウも咄嗟に反応することができず、波の勢いで温泉に叩き込まれた。意識のないまま温泉に沈む霊査士をすかさず駆け寄ったバルアが抱き上げる。
「テフィン、いくら波が楽しいからって周りに心配かけるようなことはやめろ……って、気絶してる人間に言っても仕方ないな」
 バルアは独り言のように呟き、そのままスタスタと奥へ霊査士を連れ去ってしまう。残された二人は互いに乾ききった笑みを交わした。
「あ、あははは……すみません」
「ふふふ……どうせこんな事になるだろうと思ってましたよ……」
 呪いを込めたようなユウの笑声が、いつまでも大空洞に響いていた。
 
 淡き翡翠の湯が心と体の疲れを溶かし、冷たく飛沫く波が心と体の火照りを鎮めていく。
 波寄せる温泉の里を訪れた者は、夏の疲れを癒し活気を甦らせて帰途につくのだった。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:43人
作成日:2005/08/27
得票数:ほのぼの28  コメディ1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。