白い肌と輝く太陽



<オープニング>


「……緊急を要する依頼よ」
 蒼荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)はそう告げると冒険者たちを呼び集める。大真面目な顔――と言っても普段と変わらないが――をして、僅かに硬い声音で告げる。
「皆には、海で日焼けをしてもらうわ……」

 酒場がちょっと静まり返った。

「グドン退治やらで尽力した我らにリゾート気分を味わえ、と言う依頼か」
 無表情に尋ねる毀れる紅涙・ティアレス(a90167)に、霊査士は少し唇を尖らせる。
「……大変な依頼なのよ。砂浜で日焼けを楽しんでいる間に、うとうとと眠り込んでしまう人が居るようなの。そして起きると、おなかに『肉』って墨が塗られていたらしいのね?」
 うわあ、と誰かが声を漏らした。
 墨で塗られた文字と言うことは、墨を洗い落としても其の部分だけは白い肌が残ると言うこと。周囲は綺麗に小麦色な肌だけに、白い文字はくっきりと浮かび上がる。
「当然、特に女性は凄く怒るし……『特上』とか『ハラミ』とか『ホルモン』とか……やっぱり女性は凄く怒って。犯人を捜して殺してしまいかねない雰囲気なの。で、でも……セクハラと言うか、犯罪は犯罪なのだけれど、殺されて良い、と言うわけでもないでしょう……?」
 霊査士は困ったように眉を下げる。
「だから、危険だけれど……女性の対応をする班と、犯人を捜す班に別れると、良いかも……犯人を誘き出すには、やっぱり囮を使うのが一番良いと思うわ……」

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
黒衣の閃迅・レオニード(a00585)
人間失格・リリス(a00917)
射手・ヴィン(a01305)
誘いの花束・フィルティ(a04119)
陽光を纏いし癒しの姫君・ナオ(a04167)
砕喰兼備・オルド(a08197)
黄金の林檎を抱く黒翼・エリス(a19530)
電撃眼鏡っ子・ミフェル(a27037)
銀蒼の癒し手・セリア(a28813)
NPC:毀れる紅涙・ティアレス(a90167)



<リプレイ>

●輝く太陽
 依頼日和の良い天気だった。

 ぎらぎらぎら。

 毀れる紅涙・ティアレス(a90167)は相変わらず長袖の黒衣を纏っていた。そんな格好で体育座りをしているのだから、夏の砂浜で非常に悪目立ちする。
 周囲を見渡せるような小高い位置に立ち、天地人獄全てを喰らう・オルド(a08197)は人々の注目を集めながら冒険譚を語っていた。基本的に戯けたことを言うオルドに、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)がのんびりペースでツッコミを入れる。
 何やら「ちゃいまんがなー」「あんたとはもうやっとれんわー」「わ、我を巻き込むなー」などと微笑ましい会話だ。次第に観光客や地元の子供などの視線がそちらに向かう。
 ラジスラヴァは微笑みながらも集まった人々を見回し、特に子供らに注目した。流石に人目につく状態で得物――墨と筆――を持っているほど、犯人は間抜けでは無かったようだ。「海辺にそぐわない怪しい人物」と言うならティアレスとオルドが筆頭だろう、と自分を除いて勘定する。この漫才が持つ目的を思えば、この作戦はかなり失敗だった。

 怒りに燃える女性たちは息を荒くして犯人探しを続けている。肌を見られたくないのか、大抵が長袖のパーカーを羽織っていた。三人の漫才を一瞥すると「違うか……」「違うわね……」と舌打ちし、再び捜索を開始する。熱い太陽の下、何故か彼女らの背後で炎が燃えているように思えてならない。
 昊天を翔ける探求の風・ミフェル(a27037)は木陰からそんな人々の様子を見やり、いざとなればアビリティの行使も辞さぬ勢いで制止を頑張ろうと心に決めた。しかし漫才――女性抑止班――のフォローは難しく、如何すれば良いものか、と眉を下げた。

●女の子と水着
「そんなに怒ることなのかね……?」
 それにしても、と人間狂・リリス(a00917)は呟いた。面白くて良いじゃないか、と言うような口振りの彼に、陽光を纏いし癒しの姫君・ナオ(a04167)もうんうんと頷いている。
「ハラミは美味しーですよねー」
「ティアレス君は……ロースっぽいけど」
 二人だけに通じる会話と言うものだ。其の頃、漫才に強制参加させられていたティアレスの背筋を怖気が走ったと言う。いや、食べないけど、とリリスは虚空に向けて呟く。水着姿が見れないのが残念ですねぇ、などとナオも相槌を打つ。
「じゃあ、俺は稼いで来るよ……」
 サンバイザーを被り、四角い木箱を肩から掛けた紐で固定し、売り子さんルックでリリスは人込みの中へと消えていく。そして後にはナオと、不味い、不味すぎる、などと呟く黒衣の閃迅・レオニード(a00585)が残された。脂汗をだらだらと垂らしている彼に、ナオは満面の笑みを向ける。
「レオニードさんはァ〜どーしてェ怯えてたりィするんですかァ〜? リラックスりら〜っくす」
 嫌な予感しか感じることが出来ないのは何故なのだろう。

 黄金の林檎を抱く黒翼・エリス(a19530)はその豊満な肢体に白と黒の水着を身に着けた。ホルダーネックタイプのセパレーツ。自分に似合うものを、と時間を掛けて選んだ逸品だ。日焼けをしないようにと特製クリームを肌に塗ったし、サングラスも確り装備。化粧もナチュラルメイク、と完璧装備。
 魅力的な少女で、しかも背中に羽根が生えているとなれば、色々な意味で周囲からの注目を浴びてしまう。確かに犯人も彼女の存在には気付くだろう。しかし、一般人の視線が集中している人間に近寄ると言うのは「捕まえてください」と言っているようなものだ。
 姿を現さない犯人を待ちながら、探求する銀蒼の癒し手・セリア(a28813)は犯人も自分が悪いことをしている自覚はあるのだなあ、と今更のように悟っていた。そんな犯人がいざ犯行に及ぼうとした際、「友達を探すのを手伝って」などと声を掛ければ即座に逃げられるのではないか。作戦の穴に気付き、セリアは長く沈黙した。
「冷たい飲み物はいかがですか〜。浜焼き、焼きソバ、食べ物も色々揃えてありますよ〜」
 砂浜にはリリスに良く似た声が響いている。親しみやすい雰囲気を持った小柄な彼は、年頃の御姉様たちに人気のようだった。既に随分稼いでいるらしい。怒り狂っていたパーカーの一陣も、いつの間にか彼からたこ焼きを買っている。リリスの存在が、奇しくも怒れる女性の足止めになったのだった。

●白い肌と囮
 背に当たる柔らかな感触。

 ぷに。

 取り合えず落ち着こう、と樹上の射手・ヴィン(a01305)は思った。彼は兄から借りてきた青い色の水着を着て、万一の時の為にと癒しの力を宿した櫛で髪を留めている。荷物は日傘の下に纏めてあるし、何ら問題は無い、筈だ。

 ぺちょ。ぷにぷに。

「……」
 困ったことに白いビキニ姿で現れた無意識お色気爆撃・フィルティ(a04119)に、何とか日焼け止め用らしいオイルを塗り終わったところだった。布地が少ないタイプ、と言うか素直に言えば露出の多いタイプの水着に抉るようなダメージを受けながら、ヴィンは何とか勤めを果たした筈だった。途中「前も御願いしたいですの〜♪」と言われたときは、思わず砂浜に顔を埋めてしまったのだが。
「……ふぇ? 男の人はこうしたら嬉しいんですよね……?」
 硬直しているヴィンの耳元にフィルティが囁く。ふぅ、と耳に掛かる息。当然故意にでは無いのだが、この状態で耳に息は苦しい。色々と苦しい。
 背中から聞こえてくる音はそろそろ規制が掛かりそうだ。ヴィンは漸く、先程彼女が「わたしもヴィンさんに日焼け止め塗ってさしあげますの♪」と言っていたことを思い出す。つまり、フィルティはオイルをたっぷり掛けた豊満な胸を両手で持ち上げ――
「……ふ、フィルティちゃん?」
 振り向いて止めなければ、と焦る脳味噌でヴィンは其れを上回る危険を察知する。胸でオイルを直接、と言うだけでも危険なのに、と言うことはつまり彼女はビキニの上をもしかすると。もしかすると。
 そう言えば周囲の男性から、凄まじいばかりの視線が突き刺さっている。ヴィンに対する嫉妬の眼差しと、其れ以上に彼の背後のフィルティの――
「フィルティちゃんー!?」
 人目を集め過ぎた彼らにも、流石に犯人は近付いてくれなかった。しかしヴィンは、正にそれどころでは無かったのである。

「レオニードさん、サンオイル塗ってもらえるかしら?」
 突然に大人びたナオの素振りに息を呑む。
 この依頼を恋人に知られてしまうと、怒られる、では済まなくなりそうだった。殴られるかもしれん、と遠い目で思いながらレオニードはオイルを手にした。依頼は依頼と開き直り、手っ取り早く塗ってしまおうとナオの身体に手を伸ばす。
 実は案外と豊満な彼女の身体を、出来る限り直視しないようにしながらオイルを塗り始めた。
「ふふ。どうしたんですか、レオニードさん? 手が震えてますよ?」
 寝そべったナオが甘い声音で囁いてくる。
「い、いや……何でもない」
 大丈夫だ、などと早口に言うレオニード。ごくり、と生唾を飲み込んで作業を再開する。が、力を入れ過ぎてしまったのか、ナオの身体がびくりと震えた。
「……ぁン、変なトコ触らないで」
 痛いです、と身をくねらせるナオ。
 れおにーどにつうこんのいちげき。
 目を逸らしていなかったら危なかっただろう。近くに居た男性がその威力を諸に受けてノックアウトされた。前のめりで海に倒れる男性の周囲に、何故か赤い色が滲んでいく。本気で色々と危険な事態に陥りかけたが、ナオが早めに眠りこんでくれたおかげでレオニードは窮地を脱したのだった。

●悪戯
 深い溜息と共に砂浜に倒れ付す。真っ白に燃え尽きたレオニードの耳に、くすくすと言う笑い声が聞こえて来た。最期の力を振り絞り、顔だけを其方に向けると、何とナオの腹に「肉」と書いている小さな男の子の姿。
「……」
 取り合えず捕まえてみた。
「面白いよね!」
 事情を聞くと男の子は目を輝かせて言って来た。確かに面白いかもしれないのだが、根本的に問題がある。周囲の女性の目を警戒しながら、レオニードは仲間との合流を急いだ。

「キャー!?」
 砂浜で突然に上がる悲鳴。
 漫才をしていた三人が駆けつけると、其処にはでっぷりと脂肪の乗ったおじさんが居た。身体中に墨で色々と書かれている。
「キャー、と言う悲鳴は問題だな」
「……豊満な人じゃなくて、肥満な人を狙っていたんでしょうか?」
 呟くティアレス。ラジスラヴァは、くすくすと笑っている子供を発見した。離れた位置でおじさんの反応を伺っていたようだ。さりげなく踊り出し歌いだすラジスラヴァ。その子供だけが的確に眠りを誘われ、ばったりと砂地に倒れ付した。

 女性に殺されそうになっていた子供を助けたり、筆を持ったまま歩く不用意な少女を捕まえたりと、幸運もあって何とか犯人側に死者は出さずに済んだ。犯行理由はやはり「面白いから!」だったと言う。役人に引渡し、きつく御灸を据えて貰うことにした。
「これで日焼け対策、ばっちり」
 子供たちの使っていた墨を全身に塗りたくってミフェルが言う。ラジスラヴァも肩の荷が下りたと言う風に色気たっぷりの水着に着替え直した。
 青く大人しいデザインの水着を着、セリアも海の中へと入る。泳ぎ慣れた仕草で波間を行き、ぷかぷかと海を漂いながら、
「あー……気持ち良いー……」
 と心地よさげな息を吐いた。ちなみにエリスはナンパしてきたらしい男性に食べ物を奢らせている。奢らせ終わった後は当然置き去りにする予定だ。目覚めたナオは腹に「肉」と書かれた姿のままで優雅に舞い踊り、観光客の視線を集め放題だった。
 ヴィンとレオニードは疲れきった風に砂浜に突っ伏している。ティアレスは取り合えず――

「あの。これは一体………っていうか怒ってるの? ちょっと〜もしも〜し……」
 波打ち際で寝ていたオルドを埋めて帰ることにした。海は夕陽に照らされ、満ち潮は無情にも彼女へと迫っていく。


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作成日:2005/08/17
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