宝地図屋グレッグ 〜湖に眠る遺跡〜



<オープニング>


 のどかな昼下がり、宵闇を蹂躙する白焔の銀狐・リア(a26220)は酒場の窓辺の席で手に入れたばかりの地図を眺めていた。
「七色に輝く宝……」
 地図に秘められた宝のことを考えてリアはくすくすと笑った。 
 一体どんな宝が眠っているのだろうか? 宝石で飾られた宝なのか、自然が生み出す物なのか?
 そう考えただけでリアの心はワクワクした気持ちでいっぱいになる。
「湖の遺跡なんて素敵ですわ」
 手にしたお茶を飲み終わるとリアは席を立つ。これから冒険のための準備をしなければいけない。
 どんなことが起こるのか、何を持っていくか、それを考えるだけでも冒険というのは楽しいものだった。
「そういえば……」
 小首を傾げてグレッグの言葉を思い出す。
 侵入者用のトラップが仕掛けられている可能性があると言っていた。遺跡なのだからそれくらいは当たり前だろう。あえて口にするのだから要注意、と言うことなのだろうか?
「あとグドンが住み着いているとも言ってましたわね」
 とはいえ、そのくらいの危険は冒険にはつきものだ。逆にそれくらいの障害がなければつまらないというもの。
「危険があるのなら万全の準備を整えるだけですわ」
 そう考えて、リアは足取り軽やかに酒場を後にした。

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参加者
紫龍摩天楼・セシム(a08673)
狂月兎・ナディア(a26028)
紫銀の灯・リア(a26220)
不変の千日紅・タマユラ(a27959)
狂戯夜・ヨキ(a28161)
あったか戦法にこにこの術・コトナ(a28487)
獣眼の獣使い・クロウディア(a30431)
異邦からの家出娘・トワ(a31464)


<リプレイ>

●激流落楼クラッシャー
「綺麗だなぁ〜ん!」
 キラキラと輝く水面を見ながら狂いし闇が裂け戦士・ナディア(a26028)は、湖と遺跡を繋ぐつり橋へと駆けていった。その後に一緒に宝探しをする仲間たちが続く。
「七色に輝く宝、どんな物なのでしょうか。楽しみですね」
 宵闇を蹂躙する白焔の銀狐・リア(a26220)が遺跡を見上げる。
「それに皆での冒険じゃからの、わくわくするのぅ」
 あったか戦法にこにこの術・コトナ(a28487)の言葉にリアは頷いた。彼女の言う様に今回は普段から仲の良い仲間達との冒険でもあった。それでけで楽しさも増すのだろう。
「お宝って喰えるのかなぁん?」
 そんな事を言うナディアの姿に微笑みつつ、皆は遺跡へと足を踏み入れた。

 い、やぁーーーーーーーーっっ!!
 遺跡の中に悲鳴が響き渡る。
 冒険者達はいま、巨大な通路を滑り落ちていた。
「見ちゃダメですわっ!!」
 リアが真っ赤になって裾のはためくローブを手で押さえる。
「いえ、別に好きで見てるわけでは……っ」
 彼女の足元では、風と流るる探究者・ヨキ(a28161)がうつ伏せになった状態で滑り落ちていく。顔面を擦りむかない様に顔を上げると、目の高さがリアのローブから覗く足と重なっていた。
「きゃーーー」
 羞恥心により理性をふっ飛ばしていたリアは、たまらずヨキをゲシゲシと蹴りつける。蹴られた勢いでヨキは体が傾ぎ、くるくると回転しながら更に加速して滑り落ちていった。
 新たに哀れな悲鳴が響き渡る。
「何気に酷いことをするのう……」
 リアの上を滑る不変の千日紅・タマユラ(a27959)が呆れたとばかりに呟いた。
 うっかりトラップを作動させて巨大な滑り台と化した通路を落ちて楽しそうな者は少なかった。が、
「ひゃっほーーなぁ〜〜〜んーー」
 ご機嫌なナディアの声が上から聞こえてくる。
「楽しむのは良いが、少しは減速する方法を考えるのじゃ! 出た所に壁でもあったら大怪我するぞっ」
 タマユラがそう言った時、前方に天井からぶら下がるツタが見えた。迷わずにそれに手を伸ばす。
 ぐんっ。
 手に制止の力が加わり、体が一瞬停止する。だがそれはほんの一瞬で、ツタは天井に絡む部分で切れた。
 切れたツタがナディアを強打する。短い悲鳴が聞こえたが、ツタで支えられていた天井の一部と一緒に落ちてきた大量の木製たらいの音にかき消される。
 カコン、カコンッ、との間抜けな音が響く。上手く転がったたらいの幾つかが、ナディアの頭をジョリッと踏み台にして宙に飛び跳ねる。
「痛いなぁ〜んっ、ってこれ腐ってるーーっ! くっさぁ〜〜〜〜い……」
 涙交じりのナディアの叫びが耳を打つ。
「湖の湿気にやられたのかのぅ……?」
 場違いな位に冷静になったタマユラが一人ごちた。

 巨大滑り台から脱した冒険者達は、更に遺跡の奥へと足を踏み入れていた。
 カンテラの明かりが通路を照らす数歩先は薄暗い闇が広がっている。通路を進みも幾つもの角を曲がっていくと、広めの部屋へと辿り着いた。
 部屋の中程まで進むとぼんやりと天井まで届く大扉が照らし出された。
「横にレバーがついているぞ」
「それを引いて扉が開く様になっているのね」
 指差す紫蝶を纏いし狼・クロウディア(a30431)を下がらせ、コトナはロープをレバーと結びつけ、部屋の真ん中と下がってくる。
「罠かもしれないので気をつけてください」
 ヨキがいつでも詠唱出来る様にロッドを構える。
「引くぞ!」
 掛け声と共にコトナはロープを引っ張る。
 ガコンッッ! と音を立てて足元の床が押し扉の様に下に開く。
 ひゅるーーーーーーボチャンッ、ドボンッ、バシャンッ!!
 コトナ、クロウディア、ヨキが仲良く落とし穴へと落っこちた。
「きゃーーーッ。大丈夫ですか?」
「普通は扉の前の床とかじゃないか?」
 リアの慌てる一方、紫閃光・セシム(a08673)の妙に冷静な言葉に皆、呆気に取られつつも頷いた。おそらく、警戒する人達の考えを逆手に取った罠なのだろう。意味があるのか無いのか良く分らない罠だった。
「生きてるかーーーー?」
 セシムが床下を覗きこむと聞こえてきたのは悲鳴だった。急いでカンテラで照らす。するとそこには無数の蛇の様なものが動きまわっていた。
「毒蛇か?!」
 ぞくっと背筋を冷たいものが駆け抜ける。水音を立ててそれらは三人の体に絡みつく。
「いやーーーーっ」
 コトナの叫びが部屋に響いた。
「ロープを掴め、引き上げる!」
 セシムがロープを落とし穴へと放り込む。
「あ、これ、ウナギですよ」
 のほほんとしたヨキの言葉にセシムは足を滑らせて落っこちた。
「ふ、服の中に……入らるでないっ!」
 うひゃひゃぁと悲鳴の様な笑い声をコトナは上げる。その姿を見て残された者たちは脱力する。
「毒蛇でなくて、よかったですわ……」
 リアはほっと胸を撫で下ろす一方、精神的には笑う気力すらなかった……。
「ウナギで昼飯にでもするか?」
 楽しそうなクロウディアの言葉に答える者はいなかった。

 無駄な事(?)に精神を消耗しつつも扉を抜けて先に進む一行。
 何が起ころうとも気は抜けない。此処にはグドンが住み着いているのだ。
 通路を歩いていたリアの顔が一瞬、引き締まる。その表情の変化を見て取ったタマユラが耳の後ろをぽりぽりとかいた。
「ふむ……なにか居るようじゃな」
 タマユラの言葉にクリスタルインセクトを操っていたリアが頷く。
「皆さん、気をつけてくださいね」
 十歩程先の角へ慎重に進んでいく。
「来ますわ!」
 その言葉を合図にクロウディアがアクスを構えて、様子を伺いつつ角を飛び出す。
 直ぐ目の前に剣を振り上げたグドンの姿が迫り、クロウディアはアクスで受け流した。グドンの剣がギィンっと音を立てて石畳の床に叩きつけられる。
 カチッ。
 そんな音が聞こえたと思った途端に、壁が開いて中から大量の野太い杭が飛び出してきた。
「うおおぉぉぉっ!!」
 クロウディアは慌てて身を引き、何とかかわす。急だったので武器を手放さない様にするのがやっとだ。クドンの方は逃げ損ねて杭に体を貫かれて絶命していた。
 体制を立て直すクロウディアに難を逃れたグドンが矢を向ける。
「させないっ」
 異邦からの家出娘・トワ(a31464)が飛燕刃を打ち出した。僅かな透き間を通り抜け、刃はクドンの腕を切り落とす。
「これじゃ戦えないなぁ〜ん」
 ナディアの言うとおりだった。グドンとの間は杭に塞がれてしまった。切り落とすにしてもその間に飛び道具で攻撃されてしまう。奥にはまだ五匹程のグドンが武器を手にしているのが見える。
「ならばこれでどうじゃ!」
 タマユラがニードルスピアを放つとそれはグドン達を容赦なく貫いた。飛び散る血が壁や床を赤く染めていく。
「終わったか?」
 セシムが倒れたグドンを見つめる。
「いや、まだですよ」
 ヨキの言葉に振り返ると後方から三匹のグドンが襲い掛かってきた。
「地の利は向こうにあります」
「こちらが気を取られている内に背後をとるなんて造作も無い事ってわけね」
 トワの言葉に頷き、ヨキは先頭のグドンを緑の束縛で動きを封じる。動きの封じられたグドンをセシムの飛燕刃が切り裂く。
「今度こそ」
 そう言ってグドンに駆け出したのはクロウディアでアクスを握りなおすと、振り下ろされるグドンの剣をかわして、アクスで切りつける。
 ザックリと肩から胸まで切り裂かれたグドンはくぐもった声を上げながら倒れた。
 返り血を拭い、クロウディアが顔を上げると、残ったもう一匹もコトナとナディアによってあっという間に片付けられていた。
「此処は通れぬから別の道を探さねばならぬのぅ」
 タマユラが地図を広げて通ってきた道を確かめる。数箇所にチェックが入っているのは、今まで通って来た道だった。
 武器をしまうと冒険者達は道を戻り、別の道へと進んでいった。

●君を待つもの
「これが七色の宝?」
 リアが目の前の物を見つめて呟く。 
 冒険者達がいるのは小さな部屋だった。幾つもの通路を通り、時には落ちて登って流されたを繰り返した果てに辿り着いた部屋。
 その部屋の置くの壁に頭一つ分位のへこみがあって、そこに小さな小箱が置いてあった。両手の平に乗る位の大きさで、表面に僅かばかりの彫り物が施されている。
 コトナがトラップが無いかを確認して、箱を取り出した。蓋を開けると綺麗なメロディーが流れる。
「オルゴールですわね」
 リアがメロディーを聴きながらそっと目を閉じる。街で聞く曲とは違う、ゆったりとした優しいメロディーだった。
「いい曲だわ」
 トワがコトナの持つオルゴールを覗き込む。
「あら、蓋の裏に何か彫ってあるわよ」
 コトナが目に近づけて良く見ると『七色の宝』という言葉が刻まれていた。
「この曲のタイトルが宝の名前として残ったんじゃろうな」
 コトナの言葉に皆が頷いく。
「手紙がありますよ」
 そう言ってヨキがへこみに手を差し込む。失くさない様に小さく畳まれて、オルゴールの下に隠してあったようだ。幾つもの折り目がついていて、湿気のせいで所々腐食している。
「何が書かれているの?」
 トワが尋ねる。手紙を読んでいるヨキの顔が段々赤くなってきた。
「……………」
 ヨキは顔を真っ赤にして返事をせずにトワに手紙を渡した。直接読んでみろとの事だ。
 トワが手紙を読む。すると同じ様に顔を真っ赤にて視線を彷徨わせた。
「あげます」
 と、手紙を今度はリアに手渡す。リアもあっという間に真っ赤になって、火照った顔を手で覆った。
「何が書かれているのじゃ」
 コトナが首を傾げて尋ねる。が、帰ってきた返事は、
「子供は読んじゃいけません!」
 だった。ヨキとトワもこくこくと頷いている。
「俺は大人だから」と言ってセシムはリアから手紙を受け取って読むと、なるほどと納得したようだ。
 読んでいない者達の好奇心いっぱいの視線がセシムに注がれる。
「これはとある吟遊詩人が恋人に宛てた手紙だよ。手紙に愛を綴ってオルゴールと一緒に送ったんだ。でも受け取った恋人はその後で亡くなってしまったから、想いを残す為にここに保管したんだ」
 宝として残せばいつの日か誰かが訪れて見つけ出すだろう。そして、その人を介して曲は、吟遊詩人の思いは後世の人に伝えられる。伝えられる限り、二人の愛はこの世の残ることになる。永遠に……。
「恋人達の想いが秘められた宝……それって素敵ですね」
 にっこりと微笑むリアに皆が笑みを返す。
 その後、皆で話し合った結果、オルゴールはそのまま残すことになった。
 いつの日か自分達と同じ様にこの遺跡を訪れる者がいるかもしれないから。

 陽が西に傾き、湖を照らしていた太陽も後数時間で沈もうとしていた。
 日差しを遮る木陰で、冒険者達はのんびりとくつろいでいた。
「またお酒を飲もうとして! 未成年の飲酒はダメですわ。没収です!」
 コップに入ったお酒をリアはヨキから取り上げる。ヨキが何か言おうとしたがリアに満面の笑みで返されて口を閉じた。
「はい、とうぞ」と言って代わりにリアが差し出したおにぎりとジュースを黙って口に運ぶ。そのヨキの膝の上ではナディアが気持ち良さそうに昼寝をしていた。
「このお煎餅美味しいですね」
 セシムお手製煎餅を頬張り上機嫌なのはトワだ。持参した酒でセシムのお酌をしていた。
「タマユラのお菓子も結構いけるな」
 酒を片手にセシムはタマユラの故郷のお菓子を口に運ぶ。これが意外とお酒に合っていた。
「皆が用意していたから結構なご馳走になっておるのう」
 セシムに褒められ、タマユラも機嫌が良かった。コトナと共に皆が持ち寄ったお菓子を頬張る。彼らの傍らには串焼きにされたウナギが置かれている。誰かがこっそりと捕まえていたらしい。
「コトナ達も湖に入ってきたらどうだ? 結構涼しいぞ」
 湖で足をひたしていたクロウディアが戻ってきて、コトナのクッキーを摘む。
「風も涼しくなってきたようじゃから気持ち良いかもしれんのう」
 湖から吹く風に身を受け、コトナはジュースを飲み干す。
 その後しばらくの間、涼やかな風に包まれて、冒険者達はのんびりと冒険の疲れを癒した。


マスター:暁なお 紹介ページ
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