≪天翔ける渡り鳥≫夏の海へ



<オープニング>


「……最近、どうにも暑くて参るわ……」
 蒼き鳥姫・エステル(a00181)が、夏の日差しを避けて木陰に入る。続いて、力を求める者・ニック(a00270)と錆び色の魔弾・マックス(a90083)も木陰に避難した。
「確かに、こう暑いとまいりますな。どこかいい避暑地を探したいね」
「……何か、去年もこんな会話したよな」
 何となく思い出したように言うマックス。
「そうそう。それで、結局はエリオス達の里帰りに付いて行ったのよね」
 エステルも懐かしそうに言った。
「…それで今年はどうする?」
「山は去年行ったしね。皆の希望もあるし、今年は海に出かけようと思うんだけど…」
「海か…」
 ニックが空を見上げる。頭の中で費用などの計算をしているのだろう。
「ま、たまにはいいでしょ」
 そしてしばしの沈黙の後、ニックは肩をすくめて言った。


「たのしみなのじゃー」
 海に行くこと事を聞いて、彩雲の天鳥・スピナス(a90123)が歓声を上げる。
「…でも、この時期だとくらげが出るんじゃ…?」
 隣で喜んでいるスピナスを気遣って声を落としながら、リボンの紋章術士・エルル(a90019)が尋ねる。他の皆も気になるところであるが。
 そんな中、マックスがあっさり答えた。
「実はクラゲの出ない場所を知ってる」
「…いつも、都合のいい場所をよく知ってるわね…」
 エステルが呆れ半分、感心半分に言う。
「まあ気にするな」
 誤魔化すように視線を逸らすマックス。そこに、スピナスがやってきて。
「どうしてそこには、くらげがいないのじゃ?」
 不思議そうな顔をマックスに向けた。マックスは昔の事を思い出すように首をひねりながら答える。
「知り合いの漁師は潮の関係がどうとか言ってたんだけどな。俺はよくわからなかった」
「まあ、安全に泳げるならそれに越した事は無いわね」
 満足な答えを得られず、まだ不思議そうな顔をしているスピナスとマックスを横目に、エステルが纏めた。そして、それが合図であったかのように、天翔ける渡り鳥の面々は各々の準備を始めるのだった。

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参加者
蒼き鳥姫・エステル(a00181)
竜翼の聖女・シノーディア(a00874)
晨明ノ風・ヘリオトロープ(a00944)
緋天の一刀・ルガート(a03470)
緑風の双翼・エリオス(a04224)
蒼翼の閃風・グノーシス(a18014)
白華の結風・ナツキ(a18199)
蒼輝神翼・ユウリ(a18708)
紅い城塞・カーディス(a26625)

NPC:錆び色の魔弾・マックス(a90083)



<リプレイ>


 頬を撫でる風に潮の香りが混じり始めて数刻もしないうちに、天翔ける渡り鳥の面々は海へと辿り着いた。夏も半ばを過ぎたとは言え、まだまだ熱い日差しは変わらず照りつけて来る。
「ついたのじゃー♪」
 彩雲の天鳥・スピナス(a90123)が歓声を上げて砂浜へと走り出した。
「うーみーっ♪」
 晨明ノ風・ヘリオトロープ(a00944)も、視界一杯に広がる海を見て歓声を上げる。
「ゆっくり久々海ーっ♪ 今回は好き勝手色々遊べる海ー」
「…随分、楽しそうだな」
 常に無いはしゃぎ様を見て、錆び色の魔弾・マックス(a90083)が声をかけた。
「今日は、着せ替え面子がいないから」
 そう答える彼女の笑顔は、正に夏の空のように爽やかである。今まで事あるごとに着せ替えられていたので、その面子が居ない今日は気楽らしい。
「同盟の海というのは大変美しいものですね。光の海とはまた違った趣があります」
 魂鎮の巫女・ナツキ(a18199)は、広がる海すべてを視界に納めようとするかのように、顔を巡らせている。
 その隣で、朱い城塞・カーディス(a26625)は目を細めて、日光を反射して輝く海面を見ていた。
「海なんて久しぶりだな」
 一体何年ぶりだろうか、と前に海に来た記憶を探る。前から来たいとは思っていたが中々機会がなかったのだ。
 そんなカーディスの言葉に、天翼の聖女・シノーディア(a00874)も思い返す。
「去年のセイレーン王国への旅行以来かしら…」
 同盟は今年も相変わらず慌しいけれど…だからこそ、こうしてゆっくり過ごせる時間は尊いもの。
 シノーディアは、隣にいた緑風の剣士・エリオス(a04224)に――ゆっくり過ごせる尊い時間を、一緒に過ごしたい人に、目をやった。彼もまた、去年の事を思い出している。
 彼は去年のこの季節、過去に囚われていた自分と、そしてシノーディアへの想いと向き合った。それが二人にとってのターニングポイントだった…。
 だが、思い出を懐かしむのも少しの間だけ。エリオスは千見の賭博者・ルガート(a03470)へと顔を向ける。
 こういう時に、普段なら真っ先に騒ぐはずの彼は、いまいち複雑な顔をしていた。その表情が、今の彼の心境を如実に表している。
 放っておくわけにはいかないよね。
 言葉には出さず、口の中でだけ呟いてエリオスは海に目を戻した。



 ヘリオトロープは、荷物を開けたままの姿勢で固まっていた。
 見覚えの無い荷物だとは思っていた。だが、不思議に思って開けてしまったのが間違いだったのだ。
 つい先ほどまで夏の空のように爽やかだった彼女の笑顔も、今は夕立の如く。
 中には、白のサマーワンピースとサンダル、そして水着も入っていた。去年のミスコンで着ていたものよりも華やかな感じなのが。
 誰の仕業かは考えるまでも無い。犯人の、静かだけど逆らえない極上の笑顔が脳裏に浮かび上がる。
「多分、測っても無いのにサイズとかぴったりなんだろうなぁ…」
 ヘリオトロープは、遠い目でぼやいた。

 そして十数分後。
「いくら着ないぞー、とか頑張って逃れても、いづれは簡単に絡め取られてしまうのは運命なんだろうねー」
 などとぶつぶつ言いながら水着で現れたヘリオトロープに、笑顔でコメントしようとしたマックスへと黄金の右が飛んだりもしたが。
 結局は、女の子同士の、誰の水着が可愛いとかそんな感じの会話の中に巻き込まれていった。


「涼むには、やっぱり海に入らないとね」
 去年と同じ青のビキニを着たエステルが、後から海に入ってきたリボンの紋章術士・エルル(a90019)に水をかけた。
「きゃっ」
 エルルは素早く飛び退いて、お返しとばかりに海の水に両手を浸し、手の中の水をエステルへとかける。
「お返しよっ」
「お返しなのじゃーっ」
 エルルに便乗してスピナスもエステルを狙って水を跳ね上げた。
「ほら、ユウリさんもっ」
 二人分の水を浴びながら、エステルは、今度は蒼穹天女・ユウリ(a18708)を狙う。ユウリは不意を疲れて水を被ったが、すぐに反撃とばかりに、しゃがんで水を掬う。そうしているうちに、はしゃぎすぎて足を縺れさせて転んだスピナスを助けるために、シノーディアも海に入って。遠泳勝負だと言って、カーディスとルガートが沖の方へと走って行き。
 そこら中に水飛沫が舞った。飛び散る水滴に日光が反射して、その場がキラキラと輝いているようだった。
 そんな光景を見つつ、マックスは呟いた。
「……良いな、こういう光景」
 因みに。
 エルルは、白色のワンピース型の水着。シノーディアも白のワンピースで、淡い紫の上着を羽織っている。ユウリは淡い青色のビキニとパレオ。
「そんな目で見てるとノソとフォーナ様達に蹴飛ばされるよー?」
「いや待て。そういう意味じゃ…っ」
 マックスの弁解が終わる前に、ヘリオトロープの幻の左が炸裂した。


「スイカ割りやるけど、グノーシスさんとナツキさんも来ない?」
 エステルの呼びかけに丁寧に断りながら、蒼翼の閃風・グノーシス(a18014)は、隣に座るナツキを見る。ナツキもグノーシスの方を向いていて、話しかけてきた。
「グノーシスさんがラフな格好をしてらっしゃるのは珍しいですね」
 ナツキの言葉に、グノーシスは笑って答える。
「いつもの格好ですと、皆さんに暑い思いをさせてしまいそうですので、偶には、と思いまして」
 言いつつも。そのくせ着方はきちんとしている。くすりと笑うナツキを見て、今度はグノーシスが言う。
「それはそうと、ナツキさんの洋装も珍しいですね」
「海に行くという事で、アオイさんから荷物を持たされたのですが…似合うでしょうか?」
 ナツキは、水色のフレアサマードレスに白いレースの上着を羽織っていた。
「ええ、色もとてもお似合いで素敵ですよ」
「ありがとうございます」
 グノーシスの言葉にナツキは少し頬を染めた。
 再び、海の方に視線を戻す。
「それにしても、ヘリオさんとマックスさんは本当に仲が良いですね」
 目隠しをしたまま木剣を振り上げ、スイカでなく真っ直ぐにマックスに向かっていくヘリオトロープと、来るなと逃げるマックスを見てナツキは微笑んだ。
 そしてまた、二人は心地よい沈黙を楽しむ。
「こう、風も吹くと気持ちがよいですね…ナツキさん?」
 気が付くと、ナツキはグノーシスの肩に頭を乗せて眠っていた。
「寝てしまわれましたか」
 グノーシスは、日光がナツキに当たらないように体をずらした。


「ちょっといいかい?」
 遠泳勝負から帰って来たルガートは、エリオスに声をかけられて渋い顔になった。
「君はどうしたいんだ?」
 他の皆から少し離れた所まで歩いて、エリオスはそう切り出した。
「……自分でも一応は分かってるんだ」
 ルガートは言う。
「ユウリを旅団に誘ってきたの俺だし、こんな中途半端な状態でグドン地域強行探索部隊に行ったらマズイと思ってるし…」
「なら、このまま離れてしまうとどうなるかは…分かるだろう? シノーディアの件の時に見せた、僕まで巻き込んだあの熱い情熱の力はどこへ行ったんだ?」
 エリオスが語気を強くして詰め寄る。
 ルガートは、答えずに詰め寄られた分だけ下がった。
 …多分、自分はあの失恋で臆病になっている。それが、らしくないのはエリオスの言うとおりだ。
 …どうしたもんか…
 ルガートは心の中で呟いた。


 エリオスがルガートを連れ出していた様に、エステルもまたユウリに話しかけていた。最初は何気ない話だったが。
「話は…やっぱり、ルガートの事?」
 エステルの様子から、ユウリは察していた。エステルは少し驚いた顔をして…察しているのなら、と本題に入る。
「何とも思わない? この旅団に来たのは、彼に誘われたからなんでしょ?」
 エステルも、ルガートとユウリの事を心配していた。傍目にもお互い気にし合ってるように見えるのに、長期離れ離れになると言うのに進展が無いから。
「関係無いでしょう? ルガートルガートと…彼が物好きなだけじゃない。ここに来たのも、楽しめる所だと聞いたからであって、別に…あの人とは何でもない」
「何でもないって言い張って…それなら何故、何でもない人から贈られたそのイヤリング、いつも大事に身に着けているの?」
 言われて、ユウリは自分の耳に付いているイヤリングに触れた。ルガートから送られた、光花入りのイヤリング。
「…これは、イヤリングが気に入っているから…」
 言いながらも、言葉とは違う思いが湧き上がって来る自覚はあった。


 海で騒ぐのも一段落した頃、カーディスはエルルへと歩み寄った。
「ちょっとそこら辺を見て歩かないか?」
「うん、マックスさんに聞いたら、あっちの岩場の辺りとかが綺麗で、見て歩くには良いみたい」
 頷くエルルに、自分が被っていた麦藁帽子を被せる。正午を過ぎても、まだ日差しは強い。
「じゃ、行こうか」
 言って、カーディスは歩き出す。エルルもそれに続いた。


「あー、楽しかったー」
 ヘリオトロープは砂浜に座って満足そうに言った。
「俺は怖かった。木剣は反則だ」
 言葉の割に、マックスも楽しそうに返す。
「それにしても、本当におとーさんは色々旅してるんだねえ…」
 そして、色々見たりもしている。いいなぁ、とヘリオトロープは言った。
「まあ、お前もこの先15年もあればな」
「ん……俺は、これからどれぐらい何か見られるのかな?」
 尋ねると言うよりは、まだ来ていない未来に期待するような口調だった。
「楽しみにしとけ。色んな事があって、その中には想像も付かない様な良い事だってある」
 その答えに満足したのか、ヘリオトロープは立ち上がった。
「海に潜ってみるのも楽しそうだよね。行って見ない?」
「泳げないんじゃなかったか? …あ、教えろって事か」
 マックスも立ち上がり、例によって都合よく知っていた潜るのに適した場所へと、二人は移動するのだった。


「ルガートと話してきたよ」
 ルガートと話し終わったエリオスは、ルガートと別れシノーディア達と合流していた。
「…シノーディアと僕が救われ、結びつけられたのは、彼のお陰の部分だってある。それだけに感謝してるし、何より…僕は彼を親友だと思ってる。だから…ルガートには、上手く行って欲しい」
「そうね…」
 エリオスの想いに、シノーディアは頷く。彼女も彼と同じように、ルガートの幸せを祈っていたから。
「どうしたのじゃ?」
 そんな二人を見てスピナスは尋ねた。
「それは…」
 言いかけるものの続く言葉は出てこず、二人は笑いスピナスの頭を撫でる。スピナスはわけが解らず、不思議そうな顔をするばかりだった。
 その後は三人で海辺を散策した。三人で手を繋いだり、走り出すスピナスを、転ばないか心配しながら見守ったり。
(……こんな風に3人で居ると家族みたいに見えるかしら…)
 シノーディアがの頭にそんな考えが浮かんだ瞬間、エリオスと目があった。
(ぁ…えっと…何考えてるのかしら私…)
 一瞬、考えが伝わったのではないかと思ってしまい、思わずシノーディアは目を逸らす。
 偶然か、それとも心が通じ合っていたからか。その時、エリオスも同じ事を考えていた。
(いつか今度こそ家族を持てた時も、やはりこんな風に触れ合いたい…)
(……でも、いつか…いいえ、きっと…エリオスとならこんな穏やかで幸せな時を築いていけるはずよね…)
 二人はどちらからともなく寄り添い、そっと互いの腕を取って、微笑んだ。



「友人のラザナスさんが以前、『夜の海もまた昼間と違って趣がありますよ?』と仰っていました」
 グノーシスはナツキを伴って砂浜を散歩していた。
「本当、その通りですね。昼間は賑やかでしたが、こうした静かな雰囲気も何とも言えませんね」
「ええ…それに、確かに昼間に見ることのできる景色と同じ筈なのに時間帯が違うというだけでこれだけ違うものですね…」
 昼間とは違う海の姿を楽しみながら、二人は砂浜を海に沿って回っていく。
 静かな海から響いてくる波の音に耳を傾けると、優しい気持ちに慣れる気がした。
 そっと、ナツキがグノーシスの手を握る。昼間から一転して涼しくなった夜風の肌寒さから、互いに身を守るように寄り添うようにして。
「グノーシスさんは今日一日どうだったでしょうか? 私は、こうして貴方と一緒にいられる事が何よりも嬉しいですから」
「私は…貴女が楽しそうにしている姿を見られただけで十分に幸せでなのですよ?」
 じんわりと心が暖かくなる。肌寒さは消え、涼しい夜風が心地よかった。
 こうした穏やかな日常がいつまでも続きますよう。満天の空の下、偶然見つけた流れ星に、二人は願った。


「気付くとふらっといなくなって一人で居ることが多いよな」
 ユウリを探しながら砂浜を歩いていると、岩陰に座った一人の人影が目に飛び込んできた。此方に一瞬遅れて、向こうも此方に気付いたようだった。
 人影は、驚いたようにびくりと震えて。逃げ出した。

 エステルと話していて湧き上がってきた気持ち。一人になって色々考えて…何も結論が出ないまま夜になって。
 物思いに耽っているときに彼に見付かってしまった。彼の姿を見た瞬間、考えていた事全てが消えてしまった。また何も解らなくなって…
 ごちゃごちゃした頭を整理できないままに、ユウリは走る。

 何故逃げるんだ!?
 ルガートは反射的に追っていた。


「二人は大丈夫かな」
 窓から夜の海を眺めつつ、エリオスが言う。
「少し心配だけど、夏の夜の魔法という事で…多分何とかなる、かな?」
 同じく窓から海を見ていたエステルのその答えに、エリオスは顔を綻ばせて、そうなるといいな、と言った。


 頭が混乱したまま走っていたユウリは、すぐに追いつかれ肩を掴まれた。その拍子に、ルガートに貰った淡く光るイヤリングが、光の軌跡を残しながら砂の中に消える。
 慌てて拾おうとするが、乱れた心が邪魔をして見つけられない。必死で砂を除けながら、
「何故追いかけてくるの? 何故、いつも私に手を差し伸べるの?」
「…お前が急に逃げるからつい反射的にだな…」
 ルガートは言いかけ…止めた。そして、僅かな沈黙の後に。
「放っとけないんだよ…お前のこと…なんでって言われても理由なんて…自分でもまだよくわからん! でも…気になるんだからしようがねぇだろ!」
 その答えを理解するのに、二呼吸かかった。少し遅れて、胸が熱くなってきて。

 ルガートは砂の中に落ちていたイヤリングを拾い上げた。淡く光るそれは、砂の中でも見つけることは容易い。
「…なあ…コレ一時預かってもいいか? いや…お守りっていうか…お前に…忘れられない為の願掛け…って奴?」
 返事を待つ時間が、長く感じられる。そのあまりの長さに、何か言おうかと思った時だった。
「…いいわ。必ず…帰ってきなさいよ…」
 彼女の口から出てきたその返事に、ルガートは安堵を隠しつつ満足げに笑って見せた。


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作成日:2005/08/31
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