<リプレイ>
星のない夜だった。 星の代わりに夜空を大きな満月が座している。明るすぎる夜に思えるが、鬱蒼と広がる竹林の中には想像以上の濃い闇が広がっていた。 ●スタート地点 「……それではいってらっしゃいませ……お気をつけて」 ライムから蝋燭を受け取り、ジェネシスの裏表の無さそうな微笑みで見送られ、左手に赤い蝋燭を持ち、カルトはルシアを振り返る。 「それじゃ行こうか」 「う、……うん」 頷きつつ、ルシアは暗い入口をぽっかりあける竹林を、それからカルトの顔を、不安そうな笑顔で見つめた。 「だ、大丈夫だよね!怖くないよね!」 「怖いに決まってる!怖いから肝試しだ」 「……まあまあ、ライム様」 受付の二人に冷やかされ、「ひ〜」と小さく息を飲むルシア。 カルトは小さく微笑み、右手をルシアの方に伸ばした。 「!」 その掌をじっと見つめるルシア。なんだかこれに捕まっちゃうって負けたって気分がしなくもないけど……。でも……。 決心を決めて、ルシアの手もそこに重なる。……とても暖かい掌だった。 ●竹林の奥に潜むモノ達 (「…きた!」) 竹林の影に隠匿技能を使い身を隠していたティキは、ゆっくりと近づいてくる足音に気づき、小さくほくそ笑んだ。 闇の中に浮かぶ橙色の蝋燭。一緒に光るは美しい蒼硝子のカンテラ。 アルクスとコトナの二人のようだ。 コースのまだ序盤地点だが、アルクスの後ろを歩くコトナの表情は既に強張っている。 「さっき……この辺りで悲鳴が聞こえたのじゃ……」 「仕掛けがあるってことでしょうね……」 ティキは闇の中で小さく微笑む。さっきはとびきりうまくいった。 声の矢文を使い、その耳元で唸り声を響かせてやったのだ。誰だったか解らないが大きな悲鳴をあげて走り去って行った。今度はどうしようか……。 「真っ暗の竹林って……何だか不気味じゃのう……」 コトナはぽつりと呟く。 「……しかも本物が出るわけですからね」 そうアルクスが呟いた時だった。二人のうなじに何か冷たいものがぴちゃり!とあたった。 刹那。二人の耳元で低い声が響く! (「フフフフフ」) 「わぁぁぁっ!!」 「(ひぃぃぃ!)」 咄嗟にアルクスの背中に飛びつくコトナ。アルクスは目を見開きつつも彼女の前に立ちはだかり、辺りを見回した。 再び静まり返る竹林。 「……び、びっくりしましたねー」 「……も、もう何もおらぬかえ?」 暫しの沈黙。その後、びくびくと歩き出す二人。その影でティキが全身を震わせつつ喜んでいたのは内緒内緒♪オバケは3分やったらやめられない。いぇい。
暗闇の中、緑色の蝋燭の芯がぼんやりと照らしている。 あくまでもクールでドライなクラウディアはけして口には出さないが、とても困っていた。 「いやぁぁぁ!!!こっちくるぁぁぁ!!」 右腕には火の玉に向かって叫び、彼の腕を掴んだまま脱兎しようとするシュゼット。 左腕には蝋燭があるが、その肘から下の部分にしがみついているアリシア。。 (「先が思いやられるな……」) クラウディアが苦笑した……その時だった。 3人の目の前に、めりめりめり!!と何かが倒れてくる。! 朱染め……包帯人形だ。それがが視界に大きく飛び込んでくる! 「いやぁ!!!怖いのは、怖いのはきらいぃぃぃ!!」 シュゼットの悲鳴がつんざく。それより右腕を引っ張って逃げるな。 反対に左腕のアリシアはクラウディアを前に押し出す。「?」。背中に回りこむ彼女の行動に、一拍遅れて盾にされたのだと気がついた。 「……ただの人形だ」 ぽつりと呟く。 「あ……」 顔を見合わせて、ほっとしたような表情を見せる女性陣。 クラウディアはその二人の後ろをちらりと見、急に眉を潜め、表情を強張らせる。 「おい……後ろ……」 「「「え!!」」」 思わず飛びずさる二人。そして恐る恐る振り返る……その背中に向けて。 「「「「わーっ!!」」」」 つんざく悲鳴。続いて笑い声。 とてもとても賑やかな一行であった。 「……この先……怖いですか? セーラさん」 「さあ……どうだったかしら」 「セーラさぁ〜ん……」 白色の蝋燭の一行。先頭を歩いているのはネミン、その隣にアーシュ。 その後ろ少しだけ距離を置き前の二人を観察しているようなセーラとレティシアがいた。レティシアは本物のおばけがどこにいるか真剣に目をこらしている。セーラは準備にも携わっているから、全ての仕掛けを熟知している。だから少しも驚かない筈。それどころか……。 よろしくね……、とばかりに竹林の闇に小さく微笑むと、次の瞬間ネミンとアーシュが悲鳴をあげた。隠れていたおばけ役にとびきりの歌声を声の矢文で響かせてもらったのである。 「……今のはちょっと驚いたな」 「ちょっと……じゃない」 胸を押さえるネミン。アーシュが楽しそうなのが何だかちょっぴり悔しいけど。 セーラの方を振り返ると、彼女の周りにふよふよと舞う火の玉に手を差し伸べているところ。 「セーラさん!」 「……これランタンだから」 鬼火風ランタンだなんて、……なんて趣味のいい……。 肩を落としかけたネミンのその足元にぎゅむ!と何かが触れた。濡れていてぬるぬるして、足に絡み付いてくるモノ……。 「わぁぁぁぁ!!!」 触感的なものは駄目。本当に駄目。ネミンは思わず隣のアーシュに飛びついた。アーシュは受け止めながら「大丈夫大丈夫」と笑っている。地面にばらまかれていた海藻を踏んづけただけだった。 「うー……」 「仲睦まじいですわね……フフ」 楽しげに響くセーラの声がとっても恨めしく思えるネミンであった。 ●往復地点(おばけ軍団待機中) 往復地点に置かれた祠。その前にある台の上には勇気石という色とりどりの石がある。蝋燭と同じ色の石を持って帰るのがルールだ。 だからここで脅かして、石をとらせてあげないっていうのは正統法といえよう。 白いシーツおばけに扮し、挑戦者を待ちうけようとやってきたチェリーは、その祠の側にたくさんの樽が並べてあるのに気がついた。 「……こんなものあったっけ……?」 「チェリーちゃん?」 名を呼ばれて振り返ると、祠の後ろからマリキン様!……じゃなかった半魚人の扮装をしたリリスが手を振った。 「久しぶりだね」 「リリスさんだ〜♪」 近づいていくと、だきゅだきゅ撫で撫で。それから高いたかーい♪のフルコース。 ……ちょっぴり目が回ったけど、嬉しいチェリーであった。ふらふら。 「あの樽なんだろう?」 「……見てれば解るさ。さあ、そろそろ人が来るよ」 「うん!」 近くの竹林に飛び込む二人。よく見ると周りにはもっともっとおばけがいっぱいいた。 (「……うわぁ……」)
桔梗色の蝋燭と灰色の蝋燭が近づいてきた。 桔梗色のはソフィアを支えるように歩くリアスの手に握られたものだ。 「……結構本格的ですよね……。大丈夫ですか? ソフィアさん」 「……早く出たいです〜……」 リアルな仕掛けには弱いのである。しかもここまで来る間、色々あったわけで。 血塗れ包帯人形はうようよ現れるし、足元に長くてぬめぬめする海藻みたいなものが足元に絡みつくトラップもあった。 ぐちゃ、っと変な音がすると思ったら、途端にすごい匂い。腐った果物を踏んづけたときは、怖さよりも悲しかった。 「おばけさんいっぱいでしたしね」 リヴァが慰める。リヴァとユーティリスは灰色の蝋燭組だ。 ソフィア達の方が順番が先だったのだが、追いついてしまったので一緒に来たのである。 初めての肝試しとわくわくしながら参加したリヴァ。しかし怖がるというよりはすっかり仕掛けに面白がっている。楽しそうなのでそれもよし♪だ。 「あれが往復地点の祠らしいな。あの前にある石をとれば、もう後は戻り道だけだ」 リヴァがはぐれないよう、その手をしっかり握っているユーティリスが視線で道の先を示した。 「もうすぐ終わりますからね」 励ますようにリアスが優しく言う。リアスとソフィア達の手もしっかりと繋がれている。彼がいなければとてもとてもここまで歩いてこれなかっただろう。四人はゆっくりゆっくり祠に近づく。その時。
……ぺと。
ソフィアとリヴァのふくらはぎあたりに押し当てられるぬめぬめとしたもの。見下ろすと、びちびちとイワシがはねている。 「「「「「!!!」」」」」」 「ソフィアさん!?」 「リヴァ!!」 崩れ落ちるソフィアを支えるリアス、飛びついてきたリヴァを抱き止めるユーティリス。 しかし驚愕はそれだけではなかった。その男性陣の視界にはただの樽と思ってたものが立ち上がる驚きが加わる。さらにその後ろから一斉に。
「「「「わーーーー!!!!」」」」
半魚人にシーツおばけ、一つ目小僧にからかさおばけ、血まみれ包帯人形、いろんなおばけが一斉に飛び出したのだ。 「……」 「……」 胸にそれぞれ大切な女性を抱きしめ、目を点とさせる男性陣。 おばけ達は反省した。 どうせならやっぱり女の子を怖がらせるべきだ。男性の前で派手なことをしてもリアクションに乏しい。イコールつまんにゃい。 「……確か3組目は女の子ペアだった!」 「次はうまくやろうぜ!」 「えいえいおー!!」 再び配置につく彼らである。
「そろそろ祠ですね。……何が出るかしら〜」 「ものすごく……怖そうですわね……」 若草色の蝋燭と共に仲良く手を繋ぎながら歩いてくる美少女二人。 百花輪虚月・エイル(a00272)と神速のつまみ食い女帝・ウィンディア(a00356)達だ。 「祠……きっと何かありますわよね」 「あると思いますわ……」 みるからにおしとやかそう。 おばけ達は期待した。 そして……。 「「「「きゃーーーー!!!!」」」」
祠に近づいた瞬間を狙い樽オバケはイワシを放出した。刹那。 「イワシですわ!」 「イワシ!」 どの樽かわからないはずなのに、狙いすまして、樽は思いっきり突き飛ばされた。 刹那。一斉におばけ達は登場する。「「「「わーーー!!!!」」」」 「「「「きゃあああああああ!!!!」」」」
ばしっ「うっ!!」 びたっ「うがぁ!」 ばこっ「わぁ!!」
前方にいたおばけ数名が同じく悲鳴をあげた。 「……?」 恐る恐るシーツおばけチェリーは目をこらす。エイルとウィンディアはきゃあきゃあ言いながら、エイルが右から、ウィンディアが左から掌を振り回し手の届く範囲のおばけにびんたを決めていたのである。 (「……怖い」) 思わず他のシーツおばけ達と共に後ずさるチェリーであった。 (「次こそは!!」) おばけ達は期待した。次のペアは男女らしい。先ほどの二の舞にならないように気をつけよう。
「こんくらいは平気じゃ……まだ」 「……わ、私もまだ、多分」 それは手を繋いで一緒に歩いてくれるガラコがいるおかげ。怖い仕掛けに出会うたびに、しがみつく私をしっかり支えてくれたから。 ベルは頼もしくガラコを見つめた。 「カッコいいのです、ガラコさん」 「な!」 耳まで赤くなり、ガラコは慌ててベルから目をそらす。 ベルを護らなきゃいけないから、実は少しだけ無理してる。さっき遭遇したワカメ女は実は怖かった……。ぎちこぎちこと硬い動きのガラコ君。傍から見れば緊張しきってるのは解る訳で。 おばけ達はこのなんだか初々しい可愛らしいカップル達をうっかり暖かく見守りかけた。樽おばけのイワシは空振りし、一斉に「わーー!」もなんとなく迫力不足。 「……なんじゃここ、全然怖くなかったな」 「そうです、ね……でもガラコさんが一緒だからです、多分」 にこにこにこ。 「……(照)」 幼いカップル達は仲良くそこから遠ざかっていったのであった。 ●おばけがんばる (「次こそは!」) メラメラと闘志を再び燃やすおばけ達。 次にやってきたのは、虹色の蝋燭を持ってきたダグラスだった。 彼の姿を見て、樽おばけががさがさと動き出す。その正体がヒースだった事に漸くおばけ達は気がついた。 「ダグラスさん!」 「よう、ここにいたか」 同じく準備の時にも参加していた二人はこのコースを熟知している。ダグラスは知り合いを案内する予定でここに来たはずだった。 「あれ……? サンタナは?」 途中まで一緒に来ていたはずのサンタナの姿が見えない。 「?」 辺りを見回すダグラス。確かに少し前までいたのに。 「少し休憩します」 おばけ達に言って樽から出てくるヒース。その背後……。 ちりーん。 鈴の音が響いた。 「?」 振り返るヒース。そこには……。蝋燭で顔を下から照らしたサンタナがにや〜りと笑っていて……。 「「「「「「わーーーー!!!!」」」」」」 空気が震動する程の悲鳴。きっと今夜の大声チャンピオン候補になれそうな轟きであった。 「も、もう帰りましょう〜マモル〜」 「帰るたって……一番奥だよ、ここ。さあさあ、きりきり歩いた歩いたー」 「ひ〜」 闇の中背中を押され、ただでさえ身を小さくしていたマライアが悲鳴をあげる。 マモルは明るく笑いながら、そういえばこのあたりにリリスがいたな、と思い出し、祠の周囲を見回した。 何故か樽が散らばっている。祠の後ろから、水かきのついた手がふよふよと揺れた気がした。 「……マライア! あの祠から勇気石を取るんだ!」 「わ、私がですか〜? マ、マモルさんが……」 「さあ早く!」 マライアの背中をぐいと押すマモル。押されて「わわわ」と前に出たマライアの正面に突然半魚人のアップが広がる。 「!!!!!!」 「あはは」 恨めしそうに振り返るマライア。ガッツポーズを決めるマモルと半魚人おばけリリス。 ちっちゃな抗議と笑い声が響く中、三人の背後遠くシーツおばけが一体、ふよふよと関係ない方向に移動を始めていた。
紫色の蝋燭の炎が小さく揺れる。 ワスプと、軽く濡れ髪&浴衣姿のエルミーシャだった。 「まだ見つからないのか……もう倒されているかと思ったのに」 彼女の左前に立ち、ボディガードを兼ねた位置を歩きながらワスプは呟いた。出発前に彼女に保険アビもかけておいてあるから、何かあっても安心……だが。 「「「「わーーー!!!」」」」 道端から飛び出す血塗れ人形(効果音つき)。 「……! 違いますね。本物、なかなか……現れませんですね」 「そうだな……」 「……」 おばけが悲しくなる程、少しも怖がらない二人である。 そのうえ、これから出ようとこそこそ竹林の隅を移動しているおばけ達に気づくと、ワスプの鋭い視線が先に彼らに突き刺さるのである。その表情の恐ろしさに思わず硬直するおばけ達。 「出口、もうすぐですね」 「そうだな……」 肝試しコースというには少し物足りなかったかもしれない。でも薄暗い蝋燭の明かりだけが頼りの細い道。 その雰囲気のよさは早々無いものだ。二人はいつしかそっと寄り添い、ゆっくりと掌を重ねる。 美しい名月が優しく二人を見下ろしていた。
●さまようおばけ ふよふよと竹林の中をふわりと浮かび上がり、移動しているおばけ一匹。 どうも彼が炎を吹く条件とはめぐり合わなかったらしい。 「……」 一人肝試し大会に参加していたスイはそれを目にした。人のとても届かない高い場所を移動するアビリティが何かあったかどうか一瞬悩んだが、これは肝試し。怖がらせる罠かもしれないと動じないことにした。 ルビーナもまた、それを見かけた。 しかし彼女もまたそれを追おうとは思わなかった。ルビーナはおばけ役ではないが、肝試しのコースから少し離れた見晴らしのいい場所を選び、肝試しに参加していた知り合い達を眺めていたのである。 (「……暫しのお別れじゃ……」) 誰にも何も告げずに旅立つけれど。 どうか許して……。でもきっと、また戻ってくるから。 秋風ひゅるり、と竹林を揺らして去っていく。月を見上げ、彼女はゆっくりと立ち上がった。
●おつかれさま! 「お帰りなさいませ」 戻ってきた参加者を再びジェネシスが優しい笑顔で出迎えた。 大したことないという人も、やりすぎだよー!っていう人もいた。 様々な笑顔とむくれ顔と泣き顔と、いろんな表情が揃ったけれど、彼らが用意してくれたお茶会の席で皆はゆっくりしてから記念品を受け取った。 素敵な思い出になってくれたら嬉しいけれど。
全員がゴールしたらおばけ達も一休み。 「シリウスさんお留守番してるって言ってたんだよね」 チェリーはお茶を飲みながらそっと月夜を見上げた。行く前にこわーい話を聞かせてくれて脅かされたのがちょっと怖かったことは内緒内緒。 「星が出てきましたね」 ジェネシスが空を見上げた。いつしか空も晴れて、満天の星空が広がり始める。 テーブルで語り合う仲良しの人達の夜は、まだまだ始まったばかりなのかもしれないね。

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参加者:32人
作成日:2005/09/19
得票数:ほのぼの25
コメディ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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