【トップブリーダー推奨!】かたくなな真珠



<オープニング>


● 友人の誕生日
 狐の尾を持つ未亡人ブリリアには女友達がいた。
 彼女の誕生日に真珠のネックレスを贈ることにした。金持ちの彼女であるから、宝石などは良質の業者にも知り合いが多い。懇意の店もある。
「誕生日にちなむものだからね。年の数の四十八粒の真珠。色は白だね。粒は……」
 真珠貝を養殖している男は、待ってくださいと冷や汗をかきながらブリリアの言葉を遮った。
「なんだい?」
「実は今、真珠貝の養殖場で困ったことがおきておりまして。大変申し訳ありませんが、それだけの数は揃えられません」
 ブリリアは眼をつり上げた。
「私と彼女の、四十五年にわたる友情にケチをつけてくれるのは、いったいなんなんだい?」

● 酒場にて
「私のお気に入りの真珠業者のところで、化け真珠貝が出たそうだよ。なんでもそいつは他の普通の真珠貝を全部口の中に入れてしまって、出そうとしないそうだ」
 ブリリアは苦り切った顔をして言った。
「なんで早く退治してもらわないんだ、と聞いたら、どうやら冒険者が荒っぽく化け貝を退治したら、ほかの真珠貝に傷がつくんじゃないかと心配したかららしい。だからまあ、退治して欲しいんだが、貝の中にいる普通の真珠貝は生かして無事に取り出して欲しいんだよ」
 霊査士がそこから先を引き継いだ。
「変異体なので、退治は難しくはないでしょう。ただ、大技は控えてください。……貝をぱっくりと開けて、噛み付くというか飲み込むという攻撃だけの敵です。業者さんが協力してくれるので、浅瀬までは網でその化け貝を引っ張りあげてくれるそうです。貝は浅瀬まではわりとすんなり来ますが、陸にあげようとすると必死に抵抗して網を破ってしまうので、戦う場所は腰ぐらいの深さの海の中で、地面は砂地ということになりますね」

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参加者
北海黒龍王敖炎・オイスター(a01453)
冷静なる侍女・リューナ(a05021)
流るる蒼碧と射干玉の雫・メイファ(a08675)
徹夜明け紅茶王子・デュラシア(a09224)
エルフの邪竜導士・チコ(a15701)
斬空術士・シズマ(a25239)
神聖爆乳帝國皇女・ミシェル(a27427)
銀木犀・シーザー(a28779)


<リプレイ>

● 激辛貝を作ろう。
 凪いだ穏やかな海に、小舟が数艘浮いている。
 とても平和な光景だ。この砂浜からさして離れていない場所に、大きな化け真珠貝が棲息しているといっても、この平和そうな景色の与える安らぎは変わるまい。
 海風もとても爽やか。太陽はちょっぴり厳しいが、すでに残暑である。これから水に浸かると思えばちょうど良い暑さ。
「本当はゲキカランを栽培して使うといいんだろうけど、今回は三日待ってられないからせんべいで代用しましょ〜」
 幼いエルフの少女が楽しそうに浜辺で調理の用意を始めた頃から、海風は香辛料の香りが混ざり、刺激臭が漂う。
 爽やかさよ、さようなら。
 袋の上からせんべいを叩いて粉にしている。
「ぜんぜん料理なんてしないから〜♪ 食べられないものを作るのは割と得意〜♪」
 歌いながら楽しそうに怖いことを言っているのは、エルフの邪竜導士・チコ(a15701)だった。料理というより理科の実験を行っているような手つき。だからよけい、できあがりが怖い。
 その横で狐の尾を持った青年が愛飲している紅茶の葉を、香辛料で辛く味付けしていた。
「んー、貝が貝を食っちまうんだぁ。困ったもんだねぇ〜」
 徹夜明け紅茶王子・デュラシア(a09224)だ。
「せっかくだからサービスサービス♪」
 不自然なまでに大きな化けきのこをすりおろして元はせんべいだったものに混ぜ、真珠貝の養殖業者に用意してもらった貝に塗りつけてるチコ。
「三分あればどんな素材もばっちりだいなし〜♪ …はぁ、料理練習しよ」
 最後にがっくり肩を落とす。
 用意完了。
 実にまがまがしい、奇妙に赤い色に変色した貝の山が出来上がった。
 それを冷静なる侍女・リューナ(a05021)が盆の上に山盛り載せていく。
「すてきな料理ですこと」
「真珠かー。プレゼントしたら喜ばれるかな? 恋人がこの前、十八の誕生日だったんだよね」
 と、海の方を見つめながら幸せなお惚気を口にするドリアッドの青年、碧海の羅針盤・シーザー(a28779)。
 依頼人と真珠貝業者と宝石店店主は椅子とパラソルと双眼鏡を持参して、成り行きを見守ろうと、すぐそばに陣取っていた。

● まずは言葉で説得してみる。
「なぜ化け貝ちゃんは普通貝を飲み込むのかしら? ひょっとして、普通貝を口の中に入れて守っているのかも? だったら、ムリヤリ退治するのはかわいそうよね。何とか説得で解決できればいいけど、なぁ〜ん?」
浮世離れしたお嬢さん・ミシェル(a27427)が言う。
 海のことは海に詳しい業者さんがやってくれる。
 小舟が四艘、一つの場所をぐるぐると回ると、網を投げ込み、何か大きな獲物を砂浜の方へと近づけてくる。
 あるていどまで近づくと、その網の中の物体が激しく抵抗を始めた。陸揚げされてしまうのを拒んでいるのだ。
「一体何を食べたらそんなに大きくなるのでしょうか?」
 と、小柄な自分を気にしている北海黒竜王敖炎・オイスター(a01453)が羨ましそうに呟いてはふはふとため息をつく。十七歳。自分にいろんなコンプレックスを抱く多感な年頃である。
 そんな彼は今回、砂浜で戦うと言うことで、上着を着ないで下着の上から鎧を着ている。
布地は水を吸うと重くなるのでこうして少しでも動きやすくしたのだった。
 浅いとはいっても大人の腰まではある深さ。
 小柄なチコと、やっぱり小柄なリューナは暴れる貝が起こした波のせいで危うい状態だ。
 ぎりぎり歌の届く範疇で、流るる蒼碧と射干玉の雫・メイファ(a08675)が控えている。濡れてもいい服を着ている。足首手首が少し覗く程度のきっちり着込むタイプ。人前に肌をさらしたくない彼女の選んだ水着だ。
(「無事に真珠貝を取り戻します為にも、心してかかりませんと……)」
 しっかりと気を引き締め、おもむろにメイファは歌い始めた。
「♪ 真珠貝を返してくださいませんか? ここに控えます者は力尽くでも真珠貝を取り戻そうと用意しております。出来ますならば、手荒な真似はしとうございません」
 真珠貝の反応が鈍い。
「……お化け真珠貝に獣達の歌は通じるのでございましょうか?」
 一歩前に出て歌を繰返してみたが、やはり同じ。
「♪ あまり取り過ぎないように、漁師さんに貝を大事にしてもらうから」
 と、ミシェルも口添えした。魅惑のキャミソールに身を包み……濡れて体のラインが見えている。
 なるたけ、殺したくはない。中の真珠貝も傷つけたくはない。
 だから説得ですむのなら、それがいい。冒険者たちの大半はそう思っていた。
 だが、化け貝はそんな気持ちを汲まなかった。水中で歌が聞こえにくいということもあったのだろうし、そもそも貝は音を認識しているのかわからない。もしくは人間となれ合う気などまったくなかったか。
 緩慢に体を揺すり、貝の口を開いたり閉じたりしながら網を破きにかかっている。破けたらきっと逃げてしまうだろう。
 それはまずい。
「非力な私ではお役に立てそうもございませんゆえに……」
 メイファは危なくない位置まで引き下がった。

● 力技で解決。
「中にある真珠を傷つけたく無ぇし、それになるべくなら殺したく無ぇからねぇ〜」
 と、デュランは口にした。
 こちらがそう思っていても、化け真珠貝は戦う気はともかく逃げる気はまんまんだ。つっかえ棒を持って、隙をうかがうが、なかなか上手くいかない。
 オイスターが黒き凶星・シズマ(a25239)に向かって鎧聖降臨を施す。腕などをはさみ込まれた時に痛くないように、手首や腕の部分が分厚く硬い鎧に覆われた。
 チコが惚けた表情で何かつぶやき始めた。
『ほたて さざえ あさり しじみ はまぐり あわび おなかすいた』という、無数の漆黒の文字列が鎖のように繋がっている。
 周囲が少しあっけにとられた。ずいぶん健康的なエゴだ。というか、食欲……。終りに『焼いたらたべられないかなぁ』という文字が追加され、化け貝をぐるぐる巻きにした。化け貝が文字を読めたらきっと、そういう身の危険を感じてびびっただろう。
 シズマは波と砂地のせいで動きにくい中、可能な限りの速度で走り寄った。スーパースポットライトを使用して、貝の注意をこちらに向けた。そして口をこじ開けようと近づいたが、しっかりと閉じていて一人では無理そうだ。
 碧海の羅針盤・シーザー(a28779)はエゴというか食欲を表に出し切って身動きが取れなくなっているチコを支えた。小さなチコでは腰より深い水深のため、倒れたりしたら危険だからだ。
「俺はチコさん連れて、一度浜辺に戻るよ」
 シーザーはみんなに声をかけ、腹の虫をぐるぐるっと騒がせているチコを抱え上げた。
 水面下では漆黒の鎖を引きちぎりそうな勢いで化け貝は暴れている。
 メイファは高らかな凱歌を歌う。
 鎖が引きちぎれる。
 貝が噛み付こうとしたのは、もちろん、囮を買って出ているシズマだった。
「今だっ!」
 デュランとシズマはその開いた口に無理矢理棒をねじ込み、さらに大きく開かせると、縦にして閉じないように突っ返させた。
「これでよし」
「よくもまぁ、ここまで詰め込むとは……」
 中を覗き込んだシズマは呆れた。
 手を中に突っ込むと、ざくざくざく。
 小さな貝が海にこぼれ落ちないように、拾い集める。
 シーザーも戻ってきた。今度は貝を安全なところに運ぶ。
「もう大丈夫だよ」
 と、シーザーは貝に語りかけた。
 化け貝は普通の真珠貝を食べてしまっていたわけではないようだ。その証拠に、壊れた貝や死んだ貝はいなかった。最後に大きく捻れた真珠が取り出された。
 貝質救出完了。
 リューナはしずしずと、例の盆を運んできた。山盛りの、刺激臭を漂わせる真珠貝の貝殻とたくさんの紅茶の葉っぱ。
「紅茶の葉を食えるなんて幸せだねぇ。うらやましいわー」
 と、デュラシアはほがらかに笑いながら鷲づかみした葉を貝の内部へと突っ込む。
 ミシェルも用意されたゲキカランせんべい仕込みの貝殻をすべて中に入れてみた。この「激辛貝作戦」は、赤ちゃんを乳離れさせるために、お母さんが乳首に辛い(苦い)ものを塗ることからミシェルが考案したものだった。
 すべてが詰め込まれると、二本のつっかい棒をはずした。
 化け貝は蓋をがちがちと震わせて苦しそうにのたうち回ると、仕込まれた貝を吐き出そうとした。味がどうというより、香辛料などの刺激物が辛いようだ。
 暴れている貝の口が開かぬように、オイスターが押さえている。貝は閉じる力は強くても開く力はそう強くない。
 貝はそのうち大人しくなった。
「気絶したみたいですね」
 オイスターはとても気の毒そうに言った。
 これに懲りてもうこなければいいのだが、とみんなが思う。
 オイスターはそろりと手を放した。
 シズマもまた「これで、逃げてくれれば良いんですが」と言いながら、得物に手を添えた。意識を取り戻した化け貝がこちらに向かってきたら即ソニックウェーブを撃つつもりだった。
 が、杞憂だった。
 口を開けて中身を吐き出した貝は沖の方に全速力で逃げていく。その後ろ姿は泣いているようだった。

● 真珠貝
「人魚の涙とも謳われる真珠……」
 うっとりとメイファは真珠貝から取り出されたばかりの石に見入った。お湯を用意してもらい、手早く海水を洗い流していつもの装いに着替えていた。
 すでに業者は優しく、貝の中から真珠を取り出していた。
 真珠は貝殻の中に入った異物を貝が無害化した結果の品だ。石やゴミを貝の成分で包み込むのだった。
 ブリリアは少しばかり離れたところで、あれやこれやと見立てていた。
 その後ろで、真珠の美しさに魅せられた歌姫メイファが真珠の歌を歌い始める。
 沖の方から視線を感じて振り返ると、化け貝がこちらを見ていた。……目らしいものは見えなかったが。
 業者は真珠貝を一つたりとも殺してはいなかったし、そのまま再び海に戻していた。真珠一つ採るのに、業者はいちいち真珠貝を殺したりはしない。ただ見た目では、ヘラやナイフに見えるような道具で貝をこじ開けたりするので、そんな風に見えるだけだ。
 全部を戻すのを見届けて。
 貝はまた遠くに行ってしまった。
 業者は少しだけ寂しそうに言った。
「あんな大きな子なら大きな真珠がとれるだろうに」
 惜しいな、と。
 のど元過ぎればなんとやら……。
「これとこれとこれとこれと……」
 ブリリアの方は真珠を選び抜いたらしい。そして、それを宝石商に渡した。
「この粒をお願いするよ。もう日数もないからね」
 てきぱきと指示すると、冒険者たちに向き合った。
 ブリリアはそれはもう嬉しそうににっこりと笑う。
「今日はありがとうさん。ここの真珠は私のツケにしておくから、一つずつ持ってお帰り。今回のお礼だよ」
 その言葉に、彼女の誕生日を目前に控えているシーザーと、目利きのチコは真剣に吟味を始めた。
 他のみんなも、涼しげな白い珠を掌に転がして、あれがいいこれが綺麗と、おみやげ選びを楽しんだ。
 そしてそれぞれが、これと思った真珠を満足そうに抱えて家路をたどった。

● ブリリア友情劇
 親友との付き合いは親と過ごした歳月より長くなっているし、子ども達もたちうちできない。死んだ亭主なんぞ、差が開く一方だ。
 ブリリアはきつめの老婦人だが、彼女は優しい顔立ちをしている。
 胸を飾った真珠のネックレスはしっとりと親友になじんでいた。
 子ども達が独立して、お互い夫も早々と去ってしまった身だ。
「こんな良い物をどうもありがとう。これからもずっとこうやってお祝いをしあいたいものねえ」
 ブリリアにお礼を込めて焼いたケーキを切り分けて、老婦人はほほえんだ。
「そうだね」
 ケーキに混ぜられた果物はブランデーがほどよく効いていた。甘過ぎなくていい。
「そのネックレスを贈るために、けっこう大変だったんだよ」
 ブリリアは今回の顛末を話し始めた。
 二人は楽しく時を過ごした。
 贈り物よりも、今回の真珠貝の土産話の方を親友は喜んで、品良く笑い声をあげた。


マスター:無夜 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2005/09/06
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