【夏の終わりに】カ



<オープニング>


「蚊を退治して欲しいのよ。具体的には、32体」
 霊査士が言ったとき、酒場に微妙な空気が流れた。
「蚊か?」
「そう。巨大……とはいっても全長20センチ程度の奴が、ある村の近くのため池に出没するようになっちゃってね。運良く霊視で総数を把握することはできたから、32体全てをしっかりと始末してきてちょうだい」
「ほぅ……。で、どんな攻撃をしてくるんだ?」
 冒険者が問うと、霊査士は微妙に視線をそらす。
「数は把握できたのだけど、そっちの情報は手に入れられなかったわ。また、強力な広範囲攻撃アビリティをくり出した場合何体始末したか数えられなくなる可能性があるし、大きな割りに音も気配もほとんど無くて、不意打ちされる危険もあるわ。注意深く行動して依頼を成功させてちょうだい。……言い忘れていたけど、ため池に被害が出ないようくれぐれも注意してちょうだいね。ため池は村の生命線なんだから、被害が出たら来年村が悲惨な生活を送る可能すらあるんだから」

マスターからのコメントを見る

参加者
星をみる瞳・カリナ(a18025)
嫉妬兵士・バルダ(a24630)
暁の彦星・アルタイル(a25248)
昏黒紺碧・ライカ(a25264)
愚者・アスタルテ(a28034)
焔をはらむ風と共に・セルシオ(a29537)
虹架け星の白夜・パロット(a31761)
不思議黒翔剣士・ミスティア(a32543)


<リプレイ>

●聞き込み
「蚊の生息場所ですか?」
 青年団のまとめ役をしている男は不思議黒翔剣士・ミスティア(a32543)に問われ、日に焼けた顔に珍妙な表情を浮かべた。
「樽の中に水を入れ忘れてると大量に発生しますけども? 今年もやらかしてしまって、嫁さんに散々怒られてるんですよねぇ」
 あっはっはと笑い出しながらなら、男は目を細めながらミスティアを見ている。
 ミスティアを見くびっている訳ではないらしいが、小さな体にバニースーツ風衣装をまとった彼女が可愛くて仕方がないらしい。
 ひょっとすると自分の娘や妹の事を思い出しているのかも知れない。
「わたくしを、怒らせないで下さい……」
 にっこりとミスティアが微笑むと、男は慌てて咳払いをして表情を改めた。
「生息場所と言われましてもねぇ」
 自分の3分の1程度の年月しか生きていないストライダー少女を、あくまで冒険者として扱いながら男は答える。
「池の近くで不審なものをみかけたのが何人もいたんで、あそこら一帯立ち入り禁止にして、冒険者の酒場に連絡を入れたらあなた方が来られた訳で」
「ということは詳しい情報は一切無しですか?」
 男より背が高い漆黒の夜の彦星・アルタイル(a25248)が穏やかに問うと、男は素直にうなずく。
「下手に手を出して人死にが出たら悔やんでも悔やみ切れませんから。……そろそろ水も必要になる時期なんで、よろしくお願いします」
 深々と頭を下げた男に対し、ミスティアとアルタイルは静かにうなずくのであった。

●おびき寄せ
「ここは少しだけ涼しいわね」
 虫除けのためにマントをしっかりみにつけた剣魔使い・アスタルテ(a28034)が、ため池の土手の上で小さく息を吐く。
「予想外に広いわ」
 普段かけている眼鏡を外し、虹架け星の白夜・パロット(a31761)から借りた遠眼鏡を覗き込む彼女は、少なくとも十代後半には見えない。
「まず敵が現れないことには、誘き出すこともできないですわね」
 ミスティアはちらりとアスタルテの胸を見、続いて自分の胸を確認してから、なぜか満足そうにうなずく。
「何か?」
 にっこりと、しかし目は全く笑っていないアスタルテが問うと、ミスティアは涼しい顔で話題を変える。
「よくよく考えると、おびき寄せの方法って、全然考えていませんよね」
 別に無策であったわけではない。
 特にミスティアは村人に対して巨大蚊が寄ってくる条件を聞くつもりだったのだが、村人が徹底的に割り切った考え方をしていたため、全く情報が得られなかったのだ。
「守るべき民が賢明に危険を避け、わたくし達を頼ってくれるのはとても素晴らしいことなのでしょうけど」
 向こう岸まで数十メートルはある湖面をみつめて、紫の眉を寄せる。
 湖面にはあちこちに巨岩や木々が顔を出しており、視界は良くない。
 20センチというと蚊としては法外なサイズだが、これだけ距離があると視認するのはかなり困難だ。
「あっ」
 アスタルテが声をあげ、再び遠眼鏡を覗き込む。
「あの木のあたりから2……いえ3体、こちらに向かってきます」
「確認しました。一度に処理する数としては少ないですが、まずはあの集団を片づけましょう」

●難航
「甘い!」
 散々に討ち減らされ、冒険者のあまりの強さに気付いた巨大化は逃げだそうとするが、飛んできた鎖付の槍に貫かれて絶命する。
「ようやく第二派撃破ということですか」
 嫉妬兵士・バルダ(a24630)は、蚊に一撃された太ももをコツコツと叩きながら一息つく。
「……7。撃破すること自体は簡単そうだね。アスタルテさんが選んだ迎撃場所が適切だったということもあるだろうけど」
 蚊を処理する毎に声をあげて確実に撃破数を数えていた風炎の武人・セルシオ(a29537)が、斧を空振りさせて蚊の体液を払い落とす。
「撃破は容易でも、捕捉すること自体が大変です」
 性能はともかく、貧しい兵士時代とさほど変わらない見かけの装備のバルダが、太ももをごりごりかきながら渋い顔をする。
「半日かけて1回程度しか敵がつれないとはいえ、こちらから攻撃をしかけるために池の中に入り込んだ場合、我々の戦闘能力が激減します。地面に足がつかない状態ではまともに戦えませんからね」
 バルダは自分の頭は弱いという認識をしているらしいが、敵の戦闘能力を正確に推測した上で威力より射程を重視したアビリティを準備するあたり、知識はともかく知恵はかなりのものだ。
「ならばいっそ土手の上に陣取って戦うか?」
 夕闇を抱く紺碧・ライカ(a25264)が、慣れた手つきで弓を整備しながら提案する。
「今回は半数以上が10メートル以上の距離に対応できる。根気よく敵を探してスーパースポットライトなどで引き付けていけば、多少時間はかかっても全て片づけることはできるだろう?」
 特にライカは、威力はそれほどでもないが30メートルの距離まで攻撃できる。土手の上からでの射撃で大きな効果が期待できるのだ。

「……これを見てください」
 しかしバルダ首を振り、片手で太ももをかきながら地面を指さす。
「あ。そういうことですか」
 盛大にデコボコが出来た茂みと地面を見て、セルシオが額をおさえてうめく。
 冒険者達は荒らそう思って荒らした訳ではない。
 敵の攻撃を回避するために動き、あるいは一撃をくり出す際の踏み込むとき、自然と地面に傷を付けてしまうのだ。
 舗装された石畳であったり、徹底的に踏み固められた街道ならそう影響はないのだろうが……。
「土手の上で自分達が戦闘したら、下手をすると崩れかねませんよ」
 バルダはそう言ってため息をつく。
 彼は村に到着した直後、ため池を羨望のまなざしでみつめていた。
 ため池が農業においてどれほど価値がある存在であるか、知っているのだ。戦闘しても壊れない可能性の方が高いだろうが、これほど価値のある存在を危険にさらすわけにはいかない。
「蚊は積極的に人を狙ってくれるかと思っていたが、期待はずれだったか。……ところでバルダ、先程からいったい何をしている?」
 バルダはライカから目をそらす。
「いずれにせよ、刺されると面倒なようです。ええ」
 彼の太ももは、鱗の上からでもわかるほどに腫れている。
 戦闘時には無視できる程度のかゆみでしかないが、面倒なことは確かだ。
「いっそ積極的に刺しに来てくれれば良かったのですけど」
 バルダとは対照的に、虫除けのため袖口に布を巻き黒頭巾まで被っているセルシオは、額に浮かんだ汗を拭きながら肩をすくめる。
 肌を隠しても装甲は厚くならないが、蚊から多少狙われにくくなる程度の効果はある。
「巨大ボウフラ用の網を借りにいったときに、小さなボートをお持ちの人を見かけました。なんとかお願いしてみましょう」
 セルシオに促され、一行は再び村へと向かうのであった。

●湖面
「で、結局2人きり?」
 頼りなく揺れるボートの上で、星をみる瞳・カリナ(a18025)は杖を握りしめてバランスをとっている。
 ため池の土手では、セルシオ達が巨大化をおびき寄せて安全地帯まで連れ出す作業を地道に行っている。
 とはいえ、それにひっかかる巨大化の数は多くはない。
 これほど巨大化した生物に常識を当てはめて考えるのも虚しいが、この巨大蚊達は、野生動物や通常の人間とは根本的に戦闘能力の異なる熟練冒険者を避ける傾向があるようだ。
「仕方がないのネ。船小さいシ」
 独特な口調でカリナに答えるのは虹架け星の白夜・パロット。
 飄々としたみかけとは裏腹の鋭い視線で周囲を警戒している。
 無意識に自分の肩に手を伸ばしてその度に空振りさせているのは、普段はそこが相棒のオウムの指定席だからである。
 とはいえ、冒険者が赴く戦場では並の動物などあっさり命を落とす。どれほど付き合いが深くても連れてくる訳にはいかない。
「それはそうだけど」
 近くの木々の間から、音もなく2匹の巨大蚊が現れる。
 カリナは首筋から頬にかけて禍々しい血の刺青を浮かび上がらせてから、ふととあることを思い出す。
「刺されるとすごく痒いらしい……よね?」
 翔剣士らしい華麗な防御を駆使するミスティアはともかく、おびき寄せ担当者の中からは蚊に刺される者が続出している。
 すぐに蚊を追い散らすことは可能で、傷口から入った毒も、アスタルテが準備よく用意している毒消しの風奥義にりあっさり消すことができるのだが……。
「蚊だしネ」
 治った後も痒い。
 とにかく痒い。
「冒険者って、大変だ」
 カリナは杖で黒い炎を作り出し、蚊に向かって打ち出す。
 サイズこそ蚊としては桁外れに大きいものの、空を飛ぶためさほどの耐久性を保たない巨大蚊は炎に飲まれて息絶える。
「あらン? 数が減ってないノネ」
 足場の悪さに苦労しながら鋼糸を操っていたパロットが、形の良い眉を跳ね上げる。
 カリナの放ったアビリティの炎は巨大な蚊の姿になり、カリナの意に従ってパロットを襲う蚊を横から攻撃している。
「何が起こるかわからないから、使える者は使わないとね」
 デビルフレイム奥義を放ったカリナがどこか得意げに言うが、パロットは気付かれないようにため息をついてから、言った。
「クローンをつくられると倒した数を数えるのが難しくなるのネ」
 鋼糸が命中するたびに巨大蚊の体が刻まれ、その一部が水面に落ちていく。
 残骸からもとの敵の数を推測するのは非常に難しいだろう。
「ご、ごめんっ」
 カリナは慌てて巨大蚊クローンを、仲間も巨大な蚊もいない場所めがけて動かす。
「32体、倒しきれるカナ?」
 巨大蚊の頭部を切り落としとどめを刺したパロットは、オールを操って移動を再開するのだった。

●撤退
「1体残ってるっ!?」
 村の青年が、よろめく。
「ええ。申し訳ありませんが、31体を倒した後数日たってもみつけられませんでした」
 アスタルテが深々と頭を下げるが、青年はそれに気付いていない。
「これからどうすれば……」
 何しろ村全体の生き死にがかかっている。
 ため池に人を向かわせるたびに怪我人や死亡者が出ていては、この規模の村ならそれだけで離村とう展開になりかねない。
「巨大なボウフラは確認できなかったから、数が増えることだけはないと思うけど……。確か、ため池って水門を開けたり閉めたりして使う物でしょ? ボク等が少しだけ開けておくというのはどうかな?」
 心苦しさを感じながらアルタイルが提案すると、青年は虚ろな瞳でうなずく。
「とりあえず、村長に相談してみます……」
 これから数週間後、死亡した巨大蚊の死体がため池の土手から転がり落ちてくるまで、村人達はため池をほとんど利用できなくなった……。


マスター:のるん 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2005/09/10
得票数:冒険活劇2  戦闘16  ミステリ1  ダーク2  コメディ1 
冒険結果:失敗…
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。