≪恋愛探求旅団 『赤い糸』≫甘い果実は恋の味



<オープニング>


「秋と言えば食欲の秋なわけだと思うのです!」
「なぁんv ジルちゃんは大事なものを見落としてるなぁ〜んvv」
「ふ、ふぇっ?」
「秋と言・え・ば……恋のき・せ・つ、なぁ〜ん♪」
「!!! た、確かにそれはっ……む、寧ろ『赤い糸』でそれ以外の秋を楽しんじゃ駄目ですよね! 恋愛探求ですものね!」
「ジルちゃん、判ってくれたのなぁ〜んね♪」
 誰とは言わないが深雪の優艶・フラジィル(a90222) と壁に耳あり障子に・メアリー(a14045)に良く似た人影が、旅団の片隅でぼそぼそと言葉を交わしている。
「と言うわけで、ジルちゃんは『秋』と『恋愛』って言うキーワードを満たした地元案内をしてくれれば良いのなぁ〜ん♪ ホワイトガーデンで旅団結成一周年記念パーティを執り行うなぁ〜ん♪ そしてメアリーはスバルちゃんと……はぁはぁv……」

 一方其の頃。
「……どうか……したの……?」
「今、何か凄く嫌な予感が――」
 ゾクゾクと悪寒がする某氏。
 風邪かな、と横の少年は首を傾げた。

「わ、判りましたです。秋の味覚で考えて一発目に『いのしし』が思い浮かんだジルですが、実は凄く凄く可愛らしい果樹園の話を知っているのです!」
「流石ジルちゃんなぁ〜ん! 全然後付けっぽくないから安心して欲しいなぁ〜ん?」
「なんとっ! 全部の果物がハート型なんですよぅ。しかも凄く美味しいらしいのです☆」
「なぁんv 素敵なぁんvv」

 一方其の頃。
「また旅団でどっか出掛けんのか……」
「今度こそアニキの想いが成就すると良いよねー」
「……」
 爽やかな笑顔を浮かべる少年の横で、顔を引きつらせる青年。

 しかしフラジィルは知らなかった。
 そのハート型の果実と言うのはかなり風変わりな果物で、何と食べた果実の色によって其の時の気分が左右されてしまうと言う恐ろしいものなのだ。
 ただ、個人差はあるものの効果時間は然程でも無い。最短で十分程度、最長でも数時間と言ったところ。我に返るまでの時間を、長いと見るか短いと見るか……
 かくして波乱万丈なパーティの幕が開ける。

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参加者
射手・ヴィン(a01305)
堕落論・スバル(a03108)
暁に誓う・アルム(a12387)
壁に耳あり障子に・メアリー(a14045)
華散里・コノハ(a17298)
双子月夜堕天使・シャンデリア(a23308)
天上皇胤・ラリマー(a23309)
凶狼・ヴォルグ(a24791)
凶殲姫・ルルティア(a25149)
影刃影迅・アギリ(a27358)
盾となりし白雛菊・シトリ(a30012)

NPC:深雪の優艶・フラジィル(a90222)



<リプレイ>

●不思議な果樹園
 周囲には可愛らしいハート型の果物が、まるで葡萄のように蔓に絡まり実っていた。色取り取りの果物は正に天上のものとしか思われず、此処がホワイトガーデンであるのだと感じさせる。
 カミサマに愛される子供・シャンデリア(a23308)は一生懸命果物を集めるのだが、彼の左手を優しき天帝・ラリマー(a23309)が握ったまま離さないので「両手に一杯の果物」を集めることは出来ないでいた。シャンデリアとて手を握っているほうが嬉しいのだし、自ら離そうともしない。
 本当に綺麗な実が一杯なんだなあ、と実った果実を見上げラリマーが呟く。よく熟しているだろう赤い果実に手を伸ばし、しゃくりと一口味見をした。
「……」
 隣を行く少年のことが、何故か愛しくて堪らなくなる。がばっとシャンデリアの身体を後ろから抱き締め、
「シャン……もう、世界で一番愛してるぞーーーっ!!」
 と天に誓うかのように大きな声で叫び始めた。
「……ラリマ?」
 手からぼろぼろと果物が落ちる。突然の事柄に目を瞬くシャンデリアだが、他団員が傍目から見ている範囲では、その行動は非常に普段通りの事柄であるので、取り立てて不審も抱かない。悲しみ絶ち切る刃となる・アルム(a12387)は航海に出ている恋人を想い、
「マシロと一緒に……来たかったなぁ」
 と溜息混じりに呟いた。そして手近に実る白い果実をもぎ取ると、其の侭一口味見する。
「……うん……」
 唐突に胸に生まれた感情に、アルムは違和感も抱かない。
「こんなに美味しいなら……皆にも食べさせてあげなきゃね……」
 こうして誰にも気付かれること無く、静かに果実の魔力は行き渡り始めていた。

「ヴォルグ、妾はあのピンクの木の実が欲しい!」
 実った果実を指差して、漢女凶戦姫・ルルティア(a25149)が言うも、相方は「……そうか」と呟くように答えるのみ。素っ気無く横を通り過ぎてしまう。最初は「……欲しい実があるときは私に言え。何色だ? 取ってやろう」などと優しく微笑んでもくれていたのに、先程黄緑色の実を食べた辺りから、妙に態度が余所余所しい。
 むぅ、と膨れながらに手直にあった果実を一口味見。
「……ふははははは」
 果実の色は山吹色だった。
 怪しげな笑いに凶嵐の刃・ヴォルグ(a24791)が思わず振り返ると、ルルティアは何故か鞭を持っていたりする。
「ヴォルグぅ〜……御主はどぉ〜していつもそうなんじゃ! 反省じゃ! 反省するのじゃ!」
 凄惨な笑みを浮かべながらヴォルグに掴みかかり、持っていた果物を押し付けたりする。もがもが、と無理矢理口に嵌められた果実を振り落とすヴォルグ。食べてしまった欠片を咀嚼しつつ、
「大体、ルルティア。お前は最初、私の兄のことが好きだったのではないのか!?」
 ずっと気になってしまったことを口にして、怒鳴り散らしたりしてしまったりした。睨み合い怒鳴り合うこと数分、は、と我に返った二人の間に深い深い沈黙が落ちた。

「想像以上にファンシーだな、おい」
 言いながら、愛らしいピンク色の果実をがりっと齧ったのは掃除戦隊アギリんジャー黒・アギリ(a27358)だ。内心凹んではいるものの、表面上にはそれを出さず、極普通に果実取りを楽しんでいたのだが――
「……ん?」
 何かムラムラと湧き上がる激情。
 其れも前を歩く樹上の射手・ヴィン(a01305)に向けて。いやいやいや、とアギリは首を左右に振る。義兄弟に手を出す気は流石に起きないと言うか、寧ろ大人のアギリお兄さんにとってはこの程度のエロマッソゥ、普段から抑え込めねば生きていけない。気のせい気のせい、と欲情を振り払いつつ果物取りに精を出した。
 後方で恐ろしい何かが起こりかけたことには気付かず、ヴィンは笑顔を浮かべたまま深雪の優艶・フラジィル(a90222)の手を取り果樹園の中を進んでいた。色取り取りの果実に目が奪われる。遠くから「そろそろ集合して欲しいなぁ〜ん」と団長の呼び声が聞こえ、二人は顔を見合わせると果実を抱えてパーティ会場へと戻って行った。

●無礼講パーティ
 正直に言えば、パーティはいつ始まったのかも判らなかった。会場に戻るとまず目に飛び込んで来たのは、甘い果実好きな小夜曲に舞う粉雪の花・シトリ(a30012)が、何か変なものでも摘み食いしたのか、散る為に咲く華・コノハ(a17298)を抱きかかえて猫可愛がりしている。
「あぁあっもうッ!! 可愛い可愛い可愛いったらぁ……v」
「な、なぁ〜ん!?」
 すりすり、と頬摺りをされるコノハ。仲が良いのは良いことですよね、と周囲は微笑ましげに見詰めていたりする。流石に、今日のシトリは弾けているなあ、と異変を少なからずも察した面々も居るには居たのだが――恐らく全員の頭の中に、この旅団だからなあ、と言う油断があったのだろう。果物のせいとは欠片も気付かなかったのだ。
「兎に角旅団一周年なぁ〜んv」
 くるくると回りながら壁に耳あり障子に・メアリー(a14045)が満面の笑みを浮かべて見せた。
「『赤い糸』の更なる発展と、スバルちゃんの誕生日と、永久の愛に……乾杯なぁ〜〜ん♪」
 団長の言葉に、わあ、と歓声が上がり拍手が起こる。配られたジュース入りのグラスを持ち上げて、「乾杯」と言う言葉を繰り返した。ジュースを一息に飲み干したメアリーは、至極当然のように蒼穹の守護者・スバル(a03108)へ向けて突撃した。猪突猛進と言う言葉は多分このためにある。
「スバルちゃん、愛してるのなぁ〜んv」
 誕生日のプレゼントを受け取って欲しいなぁ〜ん、と言いながら早速服を脱ぎ始める。すりすり、と頬を寄せてくる恋人の肩を掴んで、スバルは「取り合えず折角のパーティなんですから」とテーブルに並べられた果物を指差した。
「なぁん?」
 少し不満げな顔をしたメアリーであったが、アルムがフルーツポンチを運んできたのを見て、確かに折角の果物だし、とスバルから少し身体を離した。自分では服を着直そうとしてくれないため、何とも言えない笑みを洩らしながらスバルは恋人に服を着せなおしてやったりもする。
「……さぁ…皆も食べて」
 何かに酔って居るかのような、とろんとした瞳でアルムが言う。「カラフルで菓子みてぇなフルーツポンチだな」とアギリも出来栄えを褒め称えた。
 何処か気まずい雰囲気のままで居たヴォルグが、「美味そうだな」と誤魔化すような素振りでフルーツポンチを器に盛った。甘く柔らかな果実を噛み締めている最中、胸に沸き起こる感情。
 思わずルルティアの身体を抱き寄せる。彼女の手に持っていた器が、草原の上にからからと転がった。むぐむぐごくん、と口の中の果物を慌てて食べるルルティアを、ヴォルグは優しい眼差しで見遣って言う。
「……ルルティア、すまなかった……だが……」
 更に強く彼女の身体を抱き締めて、
「私にはもうお前しか見えない……」
 と愛しげに囁いた。その言葉にか、ルルティアの身体も火照っていく。
「妾は、ヴォルグとなら……ううん。ヴォルグじゃないと……嫌だよ?」
 抱き返すように腕を絡めて身体を寄せる。
「ほれ、妾の果実もこんなに実って……」
 囁くけれど、返って来るのは沈黙のみ。
「超実ってるもん! 禁断の果実だもんッ!?」
 泣き出しそうなルルティアを宥めるヴォルグ。こんなところでこんなことをしちゃうんですね、のような甘い空間が広がっていく。しかし周囲もそんなことを気にしていられる状況でも無く、
「ジルちゃんジルちゃん〜v」
「メアリーさんと結婚したら、いや今すぐにでも私たちの娘に!」
 フラジィルもコノハに抱きつかれ、スバルにもふもふされる。あわわわ、と暴れつつ「ヴィンさん助けてください〜!?」と悲鳴を上げたりもするフラジィルだったが、彼はぷいと顔を背けてしまったりもした。ヴィンも果実の魔力に囚われ済みのようである。
 ちなみに彼に果物を食べさせたのはアギリであった。天使の翼を思わせる白い果実を手に取って、彼女に告げようと思っていた言葉を胸の奥で反芻する。そして溜息を零しながら、もしゃもしゃと果実を食べるのだ。そして果実の魔力によって、他団員に果実を食べさせる側に回るのである。

「うっふふ……どーぉ? おネェさんのおムネに抱かれてみなぁい……?」
 前屈みなシトリに迫られて慌てるシャンデリア。そんな彼の身体を、ラリマーが背後から捕まえた。
「だーめっ。この子は俺の子v」
 にっこりと笑って、其の侭シャンデリアを茂みに拉致する。
「ふにゃ……ラリマァ〜……」
 目を潤ませて甘えてくる少年の額に、ラリマーは軽く口付けた。果物の魔力に背中を押されるようにして、皆、普段通りに見えてやはり何処か可笑しいようだ。
 さっきはごめんね、と謝りながらヴィンはフラジィルの手を引いて現場から離れた。何であんなことしたんだろう、と頭を振りながら色々色々起きているパーティ会場から距離を取る。「皆はしゃぎすぎだよね」等と言葉を交わして適当な木の根元に腰を下ろした。
 会場から持って来たピンク色の果実を見せて、「ジルちゃん色だね」と微笑んでみせる。フラジィルも相変わらずの花丸笑顔で、こっくりと頷いて見せた。何故か嫌な予感も胸を掠めながら、一緒に食べよう、と笑って果実を口に運ぶ。

「メアリーさんは、その強引過ぎるところを何とかした方がいいと思います」
 スバルは恋人の身体を引き離しつつ呟いた。メアリーは不思議そうに首を傾げる。スバルは照れたように頬を赤らめ、誤魔化すようにフルーツポンチを口へと運び続けながら、
「……そんなところも好きですけどね」
 などと、もごもご呟いた。
「……」
 同じくフルーツポンチを食べていたメアリーは、うっとりと潤んだ瞳で愛しい王子様を見詰め返す。其の侭がばっと彼に抱きつき、
「スバルちゃん、愛してるのなぁ〜んv」
 と愛を囁く。こう見えてもピンクの実の効果を受けているのであって、決して普段通りと言うわけでも無いのだ。フルーツポンチを食べていたスバルも、何だかピンクの実が当たったようで今度は何とも抵抗し難い。少女特有の甘い香りが鼻腔を擽る。
 抵抗する力の抜けた少年の手を抑えて、少女の柔らかな唇が押し付けられた。乱れ始めた吐息の下で、甘い甘い果実が口の中へと転がり落ちる。その実によって暫しすれば二人の感情は僅かに収まることになるのだが、今は唯、混沌とした流れに身を任せている。

 果実を一口齧った直後、数秒の沈黙を置いてヴィンはバッタリ倒れてしまった。何か際どい妄想でもしてしまったのか、美少年に有るまじきことに鼻血を吹いての卒倒である。
 そのようなわけで慌てているフラジィルなのだが、彼女自身も先程から何故か胸の鼓動が早いようで、妙に身体が熱いのだ。胸に沸き起こる想いが、自分に何をさせようとしているのかが判らない。
「じ、ジルはどうしたら……!」
 頭がぐるぐるとして来た辺りで、
「好きだよ」
 と言う振って沸いた低く甘い囁きに硬直した。肌に爪先で触れられるような、くすぐったい疼きに似た何かが身体の内側に生まれる。
「僕のこと……好き?」
 ヴィンの漆黒の瞳は真っ直ぐに少女の姿を捉えたまま、彼女の腰を抱き寄せる。胸のぐるぐるを何とかしようと、混乱したフラジィルは少年の身体をぎゅうと抱き返した。
「ジルちゃんを恋人にしたいな――」
 囁いた辺りで、ヴィンの瞳から蕩けが消える。
「……」
 さあ、と血の気が引いたのは言うまでも無い。諸事情あって無言でしゃがみ込むのだが、困ったことにエンジェルの御嬢さんはまだ木の実の効果が切れていない様子。抱きついたまま離れてくれない。
「……!」
 掛ける言葉も思い浮かばず、少年の両手は宙を彷徨う。

●宴の終わる頃
「ショコ……ショコ……なぁ〜ん……」
 ぐすぐすと泣きべそをかきながら、コノハは泣きつかれたらしく眠ってしまった。いつの間にか青の実を食べていたらしく、恋人が居ない寂しさが一気に膨れ上がったらしい。
 そして同様に青い実を食べたらしいアギリも、
「俺がネタキャラなのが悪いのか……?」
 想い人に嫌われたのでは無いかと、哀しい想像を続けていた。
 そんなどんより沈んだ空間とはまた違い、シトリはそろそろ実の効果も切れる頃だろうに、相変わらずのカップルたちに視線を向けて、憤ったように溜息を吐く。
「まぁったく、いちゃいちゃ幸せそうにしやがって……」
 其の言葉に、ぼんやりとアルムが答えた。
「……僕だって……いちゃつきたいよ」
 ぽろりと洩れた本音である。彼の手には山吹色の木の実があった。
 数分後、暴走を続けたシトリも我に返り、思わず頭を抱えることになる。アルムもまた、当初は恋人と共に訪れたかったと思っていた自身を振り返り、「連れて来れなくて良かった……」と安堵と共に呟くことになるのである。

 様々な意味で疲労した面々がぐったりと涼んでいる頃、降るような星空の下、スバルは彼女を呼び出した。綺麗、とはしゃぐメアリーに後ろから抱き付いてみる。喜びと驚きが入り混じったような声で「なぁん?」と鳴く彼女の頭を優しく撫でてやり、
「果実が見せる一時の夢よりも」
 囁きと共に唇を寄せ、
「……心から湧き上がる、永遠の愛情を、あなたに……」
 優しく軽く、唇で触れた。
「……」

「……メアリー、最初は男の子が良いのなぁ〜んv」
 最後は御約束通り、目を輝かせて暴走する彼女を止めることになるのである。しかし、普段通りと言うことはある意味で何よりの美徳でもあった。恐らくは此れからも、「赤い糸」は普段通り和やかに、時に激しく続いていくのであろうから。
 星空は美しく煌いて、涼やかな夜風が秋の始まりを告げていた。


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参加者:11人
作成日:2005/09/11
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