【蒼天の詩】西森の砦・アイギス



<オープニング>


「ドリアッドの西部・アイギスまで、送ってもらいたい人がいるの」
 霊査士・リゼルは言うと、奥から1人の少女を手招いた。少女の腕には、『霊視の腕輪』――似せただけの暗器でないなら、少女もリゼルと同じ霊査士という事になる。
「アイギス……?」
 護りの黒狼・ライナス(a90050)は首を傾げる。どこかで最近、聞いたような名前だ。
「ええ。アイギスはドリアッドの西森の砦です。リザードマン側が東方進出を諦めていないという情報が入り、早急に防衛体制を整えなければならない事になりました。そこで、かねてよりドリアッド側から依頼のあった『グリモアガード』を同盟諸国から派遣する事にしたのです。彼女はそこの護衛士団長となります」
「アリスと言うの。皆さん、よろしくお願いしますね。道々、アイギスのこれからについて意見などもあったら、教えてほしいわ」
 頭を下げ、にこっと微笑む仕草はどことなく頼りない。
 彼女の荷物の中には、インコが2羽入った鳥籠と、うさぎが一羽はいった籠もある。これから最前線に向かうという様子には見えなかった。
「道中は、盗賊などの襲撃はもちろん、アイギス近くではリザードマンにも気をつけてね。現地のグリモアガードが壊滅状態ですし、住民にも被害がありましたから、森の結界の綻びがないとは言えません。襲撃がないまでも、斥候が紛れ込む余地はあるかもしれないのです。彼女が『霊査士』と知れる事態になったら、後々に不安を残しますから……」
 リゼルの注意に、冒険者達は顔を見合わせる。
 霊査士・エスタが攫われたのは同盟諸国の冒険者達ならばよく知る事。戦の中にあって、彼女1人を助け出そうとした動きも同盟諸国にあった事は……リザードマンも心得ているだろう。
「よろしくお願いします」
 リゼルは「くれぐれも」と念を押して、冒険者達を送り出したのだった。

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参加者
NPC:護りの黒狼・ライナス(a90050)



<リプレイ>

「さあ、準備しましょう。私はアリスさんに背格好が似ていますから、なるべく一緒に行動しますね」
 ニューラに言われ、「そんな大袈裟な」と呟きかけたアリスは、集まった冒険者の多さに気付いて二の句が継げなくなる。
「……皆さん、一緒にお引越し?」
「「「……」」」
「ま、近くはありますが」
 てきぱきと班と役割分担をするのはリネン。温和な話し方とヒトならではの親和性は、大所帯の指揮に向いていたようだ。
「各班に班長がいた方がいいと思うのだが……」
 隣りで手伝っていたキャスレイが、半分ひとり言のように言うのを聞きとがめ、
「そういう事なら任せておけ!」
 とレオンが覇王の衣を翻す。言動がちょっとアレなので、ダテにしか見えないのが珠に瑕。
「アレは放っておいてぇ。連携は私も補佐するから、荷車班はあなたがやったらぁ? あ、キルシュくん! 何が要るって言ってたかしら?」
 レオンの高笑いを冷めた目で見ながらフーリィが言い、忙しそうに外へ出て行く。ドリアッド領の西森の砦・アイギスへ、援助物資と人員輸送を兼ねる事としたから、準備には少し時間がかかる。それに移動そのものにも。
 案外、それは失念した者の多い中で、キルシュやシュエ達は旅支度にも気を配っていた。彼らは準備する物の手配を済ませている。
「携帯食を作るから、材料を回して。少しでも身軽になれる方がいいでしょ?」
 アルシーは言うと、黙々と弁当箱を用意するプラムと、調理の得意なヴァーン達まで5人程を引っ張って行く。出来る者に限って気ままな性格が多かったから、殆ど拉致だが。70余名の携帯食など、1人で作っていたら日が暮れるだろうから仕方ない。
「子供達にお菓子を持って行きたいのです……」
 彼らとそんな話をしているムーンリーズの姿もある。
「そんなに霊査士って重要なの?」
 分からないわ、と桜散る緑の髪をかき上げてシェラーナは言う。
「まあ、いいわ。この外套を羽織ってね」
 職業を特定されないよう準備された外套を、居心地悪そうに小さくなって座るアリスに羽織らせてやる。
「腕輪は隠せば大丈夫よね」
 チャンはアリスの装備を観察して、リネンの方を窺った。返事を期待したのだが、忙しいようだ。
「一応、装備は替えたらどうだ。ウメ、……?」
 義兄の姿が見当たらず、バルモルトは仕方なく、手ずから霊視の鎖を外してやる。
「兎とインコ達も、誰かに預かってもらって下さい」
「え……」
 優しいながらも、譲る気の無さそうなルシールの申し入れに、アリスが考えあぐねていると、
「ボク達がちゃんとお世話するから、大丈夫だよ」
 シャラと連れ立ったグリューネが、そう言い挿してくる。
「この子達の名前、何て言うのかな?」
「ハルとミミ、それから、兎はルイと言うの」
「ちゃんと面倒見るから大丈夫だよ、おねえちゃま。ね?」
 シャラに向かって同意を求める仕草に、アリスはホッと息をつく。
「霊査士っぽい女装して、霊視の腕輪っぽいものをして……うふふ、似合う?」
 衣装を見せに来たライカには、どこかからドスッと10fの棒が突き立てられた。ラウラだ。
「はうっ」
「霊査士情報は隠すって言ってるでしょぉ? するなら『指揮官のフリ』よぉ」
「気を張らなくても大丈夫だろ。人数も多いし」
 ラウラに苦笑して言うゼロには、カゲキヨから紅蓮の褌と果たし状が飛んだ。
「気を抜いてはいかーんっ! ガッツンガッツンと行くでござるよっ!!」
「まさか褌は使用ず……」
 絶句するゼロにニヤリ笑いを置き土産にして、ルート確認の打ち合わせへとダッシュ。先の戦いで途中まで道を知る彼は、カーネルから。レグルスからはラファエル、アコナイトはパルシア。加えて、チャンとドリアッドのオウカ、アンジェラス、ジュラン、プラムの8人が集まった。そこに、地図職人と化した狂戦士・シュウと、お菓子の仕入れを終えたムーンリーズが加わり、予めの同盟国内のルート作成と、その先――正確には同盟に参加している――ドリアッド領での注意点などが話し合われている。
「伐採班の方々はどこにいますの?」
 アンジェラスの声に、リヴァイ達が慌てて手を上げた。
「ドリアッドの森までは先の戦で使われたルートですね?」
 ラスニードの言に、集まった者達は頷いた。
「目印は……付けちゃダメなのかな? あったら道に迷わないと思うんだけど」
 小首を傾げてバーミリオンが問うのには、オウカらドリアッドの反対があった。
「地図作りは協力するけど……。目印には賛成できないよ」
「小さなものでも?」
「「「……」」」
「ふぅむ。少し工夫したもんなら良いじゃろうが……」
 考えておくと良い、とジュランはバーミリオンの頭をぽふりと叩いた。
「ドリアッド領内で協力を求める役はわしがやろうと思うが、いかがかのぅ」
「あっ それは私も……」
 ジュランの提案を、傍で耳にしたアニタが同行の意を示し、情報を集めるからとマルファスが話に加わる。
 そして、特にドリアッド達の共通意見だったのは、ノソリン車を使うと、森の中では返って難儀になるだろうという事だった。荷車を通す為には木々の伐採も多くせねばならず、整備されていないどころか切り株まであるような道では、進むだけでひと苦労になる。守りを森の結界に頼り、森と共にあったドリアッド達が、大仰な道を造って喜ぶとも思えない。アリスの事を考えるとしても、精々が森の手前までだ。
 ルート作成に携わる者達は、まだ斥候班とも情報交換の必要がある。マルファスは手近にいたロクシタンとシュエを呼びたて、本隊と定期連絡を交わす事などを決めたのだった。


 常に先行する斥候班は、ライナスら総勢18名。ジュランと共に情報収集に向かう、ラファエル達を除く15名のうち、ほぼ半数が単独で散開。カヲルやジェイコブ、一般人に偽装して潜行するギネットなどだ。残りは、ドリアッド領に差し掛かるところから4名の小隊行動を取る。
「偵察は隠れてこそなのね」
「確かに」
 小さく笑んでプミニヤに同意するスイシャ。交わす言葉もそこそこに、彼女達はそれぞれに茂みへ消える。逆に、リヒトンは、ハイドインシャドウだけでなく、特に隠匿も得手なライナス、ティキ、それにエイミーとの協調行動を取っていた。
「(左右は? 誰か回っているか?)」
「(俺達が回った方がいい。カヲルやジェイコブ達は進路偵察だ。側面は甘い)」
 小声で問うティキに返し、ライナスは「(いいか?)」とエイミーを見やる。
「(……分かりました。行きましょう)」
 他方をアンリやハヤテ達に任せ、彼ら4人は右方へ出る。
 アンリ達の側では、ティフェレトが獣達の歌で動物達から聞き込みをして進んでいた。
 この2班には、特に方位に気を配ったエイミーとドリアッドのティフェレトが同行している。だが、ルートの確認を済ませたとは言え、ドリアッドの森で単独行動する者達には、それだけで難が付きまとった。ともすれば、自分の位置を見失う。追跡の技能を持っていた者・特に方策のあった者は、本隊へ戻る手立てやポイントとなる集落を見つけられたが、そうでない者は、フォローに回ったロクシタンと合流できてからの仕切り直しとなった。

 彼ら斥候班の後方に、ディーンやナナミらの遊撃班を配し、護衛班と荷物を積んだノソリンが続く。何頭かが荷車を引いていたのは、ドリアッドの森手前で、ノソリンの乗り換えが可能な最後の村までだった。その先まで引いていては、荷車をうち捨てて行く事になってしまう。
 人数の多さもあり、冒険者達の部隊と隠さず来たのは、盗賊避けになっただろう。同盟領内では昼夜共に特に問題なく、彼らの進行はスムーズだった。
 アリスの乗るノソリンには、御者にルシールとセティが交代で付き、バルトやエン達が軽く話しをしながら守りに付いている。
「う〜荷物運びめんどいなぁ。そう思わないかい?」
 荷物を背負っていたエンは、そう愚痴る。
「え? ええと……ごめんなさい……」
 アリスに謝られて、彼は「?」と狸尻尾を揺らした。ついでに、同じ立場のコテツに頭をボフッと叩かれる。
「気にされるな。御身も、運んでいる物資も、アイギスにとって大事なものでござる」
「でも、少しは私もお手伝いを……」
「それはアイギスに着いてからね。今のあなたの仕事は『気をつける事』よ」
 ルビナはキビキビとした様子で言うと、歩みを速めて前へ出て行く。
 いよいよ、本隊が森へ入るのだ。
 後方の護衛に付いていたミライと武人のシュウは、いま1度、確認するように後背に控える遊撃班――レスターとレイクを振り返る。心配のし過ぎかもしれないが、実際の後方の警戒の薄さを思えば仕方ない。
「あまり気を張り詰めすぎてもね……」
 小さく苦笑するレスターに、レイクも穏やかに返す。
「まあ、しないよりはいいだろう。次に立ち寄る村からは特に……物資の見張りを強化しないか?」
 少し考え、レスターは頷き返した。


 最低限度を意識しながら、カルーアやラスニードたち伐採班が、進路の邪魔になる木を切り倒していく。最前線のアイギスと同盟領を繋ぐにしては、たった今、切り開かれただけの道は、とても頼りなく見えた。それが、細いながらも強い繋がりの証となって行くかは……アイギスのグリモアガードたち次第かもしれない。
 ただ、助けになりたくて。あるいは、故郷を思うゆえに。――集う理由は様々だが、想いが実を結ぶ日に向かって、この道は繋がる。

 本隊の進行は、ドリアッド達も同行している為つつがない。少しでも怪しい動きをする者は斥候が捕捉していたし、襲撃もなかった。
 ただ、これだけの人数が動いたにしては、夜間の警戒に気を配る者がごく僅かだった。冒険者の大部隊を、白昼に襲う馬鹿はいるまい。斥候にしても、数日間、休息も取らずに警戒を続ければ無理が来るだろう。
 疲労の蓄積は、ドリアッドの森西部へ到達した頃になる。救いは、夜間に斥候を務める事を念頭に置いていたシュエと、西部を重視したリヒトンの2人。そろそろかという位置、立ち寄った村近くで野営となった際に、2人は話しこむ。
「交代が必要ですわね」
 森に入って程なくしてシュエが気付いた事に、リヒトンが同意する。
「念の為ですねぃ〜」
 和み系のまったり口調からは想像できないが、押さえるところは押さえている。真っ先にシュエがアリスに話を通したのは、気分的なものでしかなかったが、それが幸いした。
「じゃあ……」
 どうしようか、となると止まってしまうアリス。周囲を見回して、すぐ近くにいたバルモルトと、リネンを探して声をかける。シュエとリヒトンが呼んだルビナと地図作りに明け暮れていたシュウ、オウカを加えて、昼夜のローテーションが組まれた。
 その翌日の夜だった。俄かに騒ぎが起こる。
 斥候班のヴァーンから、最初に報せを受けたのはアルフリード。彼とセルヴェがカンテラを掲げ、レイア、後衛にフェンネルを連れ、念の為に出て行くと、ドリアッド2人を含む男が4人、プミニヤ達に取り押さえられているところだった。
「助けてくれ。俺達は……っ」
 男達は心身共に疲弊している様子ではあるが、盗賊と言う程にスレたところはない。
「……」
「……まさか」
 黙するアルフリードをセルヴェは見る。
「火でございますっ!」
 何処かで叫んだ声は、リースか。途端、彼らが今出てきた本隊から、呼子の音が響いた。取って返すアルフリード達は、森の中にチラリチラリと光る炎を見る。
「森で、火を……っ?!」
 簡単な事だ。
 先の戦まで、リザードマンの大規模派兵を防いでいたのは森の結界だ。リザードマン達が再び『ドリアッドの領域』となった森へ入るには、冒険者達の警戒にかからぬよう目立たず、出来るなら『案内人』を確保し、潜行する手段が良い。あるいは、結界復活前に領域内に取り残されていた者でも、対処は同じ。
 そして、彼らが同盟側の大規模な物資輸送を捉えたのなら――。援助物資より、再びの戦の準備と考えるだろう。元来、彼らは武に偏る気質だし、一行の斥候班の動きもあり、近隣の集落での情報収集はままならないのだから。
 祖国に報告を入れる前に、少数で出来る事と言えば闇討ちとなる。遠距離から火矢を射かけて、迅速に去るのみ。リスクは、火が己の居場所を知らせてしまう事。
 本隊では、物資の守りにウィルフォードとレスターが即座に動き、仕入れてきた簡易テントを死守しようと動くエレアノーラをレイクがフォローする。
 彼らに撃ち落とされた火矢は、アビリティを使ったものではない。矢返しの剣風をかけたサファイは、見て取ると隙間を埋めるように立ちはだかった。
「ここが足りぬようじゃのぅ」
 折角運んだ物資の守りが甘い。ドリアンはガイアスとシーヴァス、エブリースの3人と共に、彼らの手助けに入る。モニカたち紋章術士の気高き銀狼の射程には、敵は入ってこない。あくまで遠距離からの弓のみだ。
 攻撃はそう長くは続かないはず。生き延びるつもりなら、敵は急襲とともに撤退の準備もしているはずだった。
 怯えたノソリンが逃げ出そうとする。それを止めるよりも。
 意識を失ったアリスを、シャンティとレイリアスが身を挺して庇い、ディーンはナナミを初め、ヒヅキやヨナタンたち後衛、それにアオイと出て行く。護りの天使をかけ、アオイは前面に立つ。彼が討ち落とした火矢を最後に逃走をはかる敵を、エルフのヒヅキとヨナタンは捕捉している。
「右だよっ!」
 木立に紛れて消えようとする『熱』を追い、ディーンが斬り込む。それが出来たのは、全員分はさすがに無理だったが、旅の初めにランタンを用意してくれた仲間達の御陰だった。

 そして、アイギスへ。
 森を出ると、開けた野が現れる。やや東寄りの中央は小高い丘。そこにあるのが――かつての砦跡。外壁は残る箇所も多いが、補修が必要だろう。元々、壮大な建物という訳ではないが、ほぼ全焼の状態で、こちらは1からの再建と言って良い。
 砦の西周りを巡る小さな清流を遡って行くと、森の囲いから少し外れる北側に湧き出る泉がある。軒を連ねる家々も、中央に向かって焼けた家屋が増える。家を直したくとも男手がなくなったなどで、まだ建て直しのままならぬ家も多い。
 サンタナは砦跡に足を踏み入れる。グリモアガード達の遺体は、最初に弔われており、野ざらしの憂き目を見てはいない。ただ、草木が傷跡を覆ってしまおうとでも言うように芽を出している。
 砦跡の中央に――それはあった。中央の庭に配された巨石のように、大地に根ざすグリモア。その周りにはかつて、花々があったのかもしれない。しかし今は見る影もなく、ただひっそりと構えているのだった。
 周辺の森の中には、小さな村々も点在し、アイギスにグリモアガードが配置された報せも出され、早速、周囲の地理などの情報も上がり始める事となったのだった。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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作成日:2003/12/19
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