【注意報発令!】しょりしょり注意報



<オープニング>


 さいはて山脈の麓にドリアッド達が暮らす小さな村がある。
 深い森に囲まれたその村では狩猟が主な生活の糧だ。
 だが最近、森に魔物が出没するようになり非常に困り果てているらしい。
「魔物はイモムシが変異したもので、体長は1メートル程度のものが3匹。巧妙に森に潜み、訪れる人々を襲っています。3匹全ての魔物退治をお願いできますか?」
「うわ〜、大変だべな。狩りが出来ねぇんじゃ、きっとみんな困ってるべ。おら、その依頼引き受けるだよ!」
 狩猟を生業としていたゴタックには身につまされる話だったようだ。胸を叩いて二つ返事で快諾したその姿に、霊査士の目がキラリと光った……のは気のせいだろう、きっと。
「それは助かります。実は、その魔物達にはある習性がありまして……緑色が大好きなんです」
「みどり……?」
「ええ、緑色の生き物を見るとまっしぐらに襲い掛かってきます。粘着性の高い糸を吐き出して、獲物を拘束すると、鋭い牙でこう、しょりしょりっと……」
「しょ、しょりしょり!?」
 思わず自分の姿を見下ろすゴッタク。ああ、なんて素敵な緑色。
 その鱗が幾分青みを増すのに気付きながらも、霊査士は言葉を続けた。
「齧るんですねぇ。襲われたドリアッドさん達は、みんな髪の毛を毟られたそうで……お気の毒なことです」
 それは本当に気の毒だと思う。だが自分はもっと気の毒な事になりそうだと、今までのゴタックの経験からなる勘が盛大に訴えている。
「あの、な、ヴェイン……」
「魔物達の牙は鋭く、硬い鎧も貫通してしまうほどです。動きも糸を使って移動するのでかなり素早いですよ。どうか、御気をつけて」
 断りたいけれど断れない。そんなゴタックに「頼りにしていますよ」とにっこり笑って肩をたたいた霊査士である。
 ゴタックはもう涙目になりながらもコックリと頷いた。男に二言はないのだから。

マスターからのコメントを見る

参加者
明告の風・ヒース(a00692)
柳緑花紅・セイガ(a01345)
小さな幸を抱くもの・カリュウト(a01353)
ニュー・ダグラス(a02103)
想唄の日晴猫・ファミリア(a03208)
無垢なる闇払う白雷・リンディ(a06704)
翠玉の残光・カイン(a07393)
蒼風の旅竜・シン(a11942)
NPC:深緑蒼海の武人・ゴタック(a90107)



<リプレイ>


 秋の気配が色濃く漂う深い森の中に、溌溂とした少年の歌声が響いていた。その声に返事をするように囀る小鳥が一羽。やがて少年の手元から羽ばたいていく。
 生い茂る木々の中に消えた姿を見送って、小さな幸を抱くもの・カリュウト(a01353)は待たせていた仲間達を振り返った。
「鳥さん、知らないって。大きな芋虫……やっぱり隠れてるのかな?」
 うーん、と指を顎に当てて考え込むが、青い瞳は自然とある人物に向けられている。
「そうだね。ヴェインさんも言っていたよね、巧妙に隠れてるって……」
 蒼の想唄・ファミリア(a03208)も頷いて、やはり視線はカリュウトと同じ方向に。木漏れ日を映して輝く紫の瞳に浮かぶのは憐憫の色だ。
 その視線の意味を、ゴタックは痛いほど解っていた。
「うう、やっぱり囮になるんだべ? 怖ぇな〜」
「ゴタックさん……髪とか一部ならまだ隠せますが全身緑は……。卓越した緑、素晴らしき緑ですね」
「褒められても、今は何だか哀しいべ」
 明告の風・ヒース(a00692)の緑賞賛にしょんぼり沈んだ肩を、ニュー・ダグラス(a02103)が漢笑顔で叩く。
「生粋の緑がいいだなんて、通な奴らだな。良かったなゴタック。お前なら間違いなく、いもまっしぐらだぜ♪」
「いもまっしぐら!?」
 漢太鼓判をもらったゴタックはますます肩を落とす。無垢なる闇払う白雷・リンディ(a06704)は目を瞬いてその様子を見ていた。
(「目の錯覚かしら、ゴタックさんが緑じゃなくて青に見えるわ……」)
 ほんのり、青緑。
「ま、気楽に、気楽に〜♪ いいものやるから、な?」
 同じ囮役であるにも関わらず、宿無し導士・カイン(a07393)は平然としているように見える。
「粘着糸あ〜んど齧られ対策に……緑色のマ〜ン〜ト〜♪」
 ぱぱぱぱっぱぱ〜♪
 なんて音楽が聞こえて来そうな口調でどこからともなく緑色のマントを取り出すと、ゴタックに手渡した。どこから出したかなんて無粋な事は聞いちゃいけません、そう、あえて言うなら不思議なポケ(検閲削除)
「大丈夫かな〜、危ない時は布で庇って下さいね。カインさんも気をつけて」
「おう、とりあえずコレ着けとけ」
 囮役の二人を気遣うヒースの言葉に思い出したように、ダグラスが様々な布をゴタックに巻きつけ始めた。
「キミ達の勇姿は忘れないぜ。……赤い髪のニクイやつでもついでに」
 たちまち布まみれになっていくゴタックを眺めながら、柳緑花紅・セイガ(a01345)がポツリと零した呟きを、赤い髪のニクイやつは聞き逃さなかった。
「セイガさん、分かってると思うけど、ちゃんとケンカせずに共闘ね。シリアスなヒト、子供相手にムキにならない。OK?」
「ああ、今日は休戦……って、一言多いんだよっ!」
 しみじみと子供に言い聞かせるようなカリュウトの言葉に、思わず拳が出てしまうセイガである。休戦宣言、3秒で撤回。(非公式新記録)
 二人がそんな小競り合いをしている間にゴタックの仕度も整った。……全身布でグルグル巻きにされ、息ができずにもがいていますが。
「んん? ちゃんと空気穴は開いて……ねぇな、開けるか」
 ぷす。
「あだだだだ!」
「って、アンタ何してんですか!」
 『身』まで刺してしまったダグラスのボケにコンマ1秒でヒースがツッコミを入れた。
「ゴタック……がんばれ」
 戦う前からフラフラになりつつある緑の勇者へ、蒼穹の風竜王・シン(a11942)は同情の思いを抱きつつそっとエールを送るのだった。


 罠を張るのに選んだ場所は、戦闘に適した、なるべく開けた森の一角。その中央にゴタックと共に立つと、カインは粘り蜘蛛糸を作り出し、周囲の地面に配置した。これで誘き寄せた芋虫をからめ取ってしまおうということらしい。
「ゴダックさん、めげないで元気出してね」
「……期待してるよ……ゴタック……」
「糸は顔にかからないように注意してね、もってかれちゃうから」
「もっ……!? な、なにを?」
 ファミリアは優しく、シンが肩をたたきながら、激励の言葉を掛けて藪に隠れた。最後にカリュウトが剣呑な警告を残してそれに続くと、怯えきったゴタックの周囲は痛いほどの静寂に包まれる。
 待つことしばし……効果が切れた粘り蜘蛛糸をカインが作り直しては設置してを繰り返し、やがて半時ほど経過した時だった。風に揺れる梢のざわめきとは違う奇妙な音が近付いてくるのを、冒険者達は聞いたのだ。
 しゅー、しゅー、しゅー……
 糸だ、糸を吐く音だ。そう気付いた時にはもう、奴らは傍まで迫っていた。吐き出した糸を巧みに使い、木々を伝って近付いたのだろう。二人を囲むように木の上、頭上から狙いを定めている巨大な芋虫三匹。それは良く見なければ気付けないほど、樹木の隙間に紛れていた。体の模様と色合いが幹のように見えるからだ。
 じっと向けられる熱い視線(?)。カインは怯まず、ドリアッドの証しである桜の咲いた髪をサラリとかき上げ見せ付ける。
 緑萌えな芋虫たちにとって、それは魅力ありすぎるお誘いだった。
「「「シャー!!」」」
「うっ!」
「うわ〜!」
 三匹が一斉に大量の糸を吐き出すと瞬く間に二人は糸の海に埋没し、間髪入れず、芋虫たちは宙を舞った!
「ひゃぁ……き、気色悪いっ……!」
 巨大な体には似つかわしくない俊敏さが気持ち悪い。悲鳴を上げたリンディだったが気を取り直して癒しの聖女を降臨させた。輝く聖女はカインのもとに舞い降りると、優しい口付けで拘束を解き放ってくれる。
「しょりしょりはさせません!」
「芋虫、嬉々としてるね……。あ、援護するよ!」
 ヒースの弓が放った闇色の矢は芋虫を縫いとめる事はできなかったが、ファミリアの追尾する矢は避けきれず、直撃を受けた芋虫の動きが鈍った。機を逃さずに飛び出したシンが、まばゆい光の弧を描く痛烈な蹴りを叩き付ける。
「ピギュゥ!」
「……硬い」
 弾力のある皮膚は思うように攻撃を通さない。それでもかなりのダメージは受けたようで、糸を使って飛ぶ動きにキレがない。逃がすまいとシンは猛追をかけた。
 しょり。しょり。しょり。
 そこに聞こえてくる緊張感のないこそばゆい音。他の二匹は緑の誘惑に抗いきれず、戦闘体勢を取りながらもお食事中だ。
「たたたた、いだ、いだー!」
「まぁ、誰にでも人生のモテ時ってのがあるんだよな」
「ダグラス、見てないで、助けでー!」
 ネバネバの糸で身動きが取れず、それでも這って逃げようとしたゴタックは罠の蜘蛛糸にも絡まって、泥沼一直線。しょうがねぇなと漢笑いで「お前を守ると誓う」と称した鎧聖降臨を発動するダグラス。
「鎧聖降臨、眼鏡!」
「めがね?」
 掛け声に感化されたのか、ゴタックの鎧は目を大幅に覆うものに変化した。更に輝く聖女が降臨しネバネバ地獄からやっと解放される。
「もう、ゴタックさんが罠に掛かってどーするの!」
「めんぼくねぇべ」
 癒しの聖女で助け出されたゴタックはリンディにペコペコと頭を下げる。だがそんな場合ではない。一度離れた芋虫はまだゴタックを狙っている。親友の危機を見て、その背後からカリュウトは粘り蜘蛛糸を放った。
「なんか芋虫そのものと攻撃かぶっていやーんだけど……」
 自らの両手から伸びた糸を見て呟いてしまう気持ちもなんとなくわかる。上手く絡め取られたのは一匹で、もう一匹はお返しとばかりに糸を噴出した。そこで別の一匹に狙われたカインも蜘蛛糸を使い……
 NEBA・NEBA・NEBA・NEBA
 なんだか戦場全てが粘っこくなっていく。
 何しろ互いが広範囲に糸を放出するのだ。いわば、敵も味方も入り乱れての粘着デスマッチな感じでしょうか。
 その中で一際輝く美技を魅せてくれたのはヒースで、しっかり小指を立てて握った黄金ハサミを華麗に繰ると掛け声一閃、移動する芋虫の糸を断ち切ったのである。
 一瞬の動きであったその光景はゴタックの脳裏にスローモーションで焼きついて今も離れないそうだ。


 やがて回復手段がある冒険者達に勝利の天秤は傾いていった。芋虫たちが狙うのはやはりカインとゴタックで、攻撃パターンも限られている。
「緑ふぇろもんに抗えないお前らの負けだ!」
 ダグラスの緑の束縛に拘束された芋虫へ、マッスルチャージで筋力を増強したセイガが白刃に凝縮させた闘気を万全の体勢で叩きつける。デストロイブレード奥義の壮絶な一撃に巨大芋虫は見事、両断された。
 カインが奥の手として秘めていた暗黒縛鎖を体から噴出させ、禍々しい鎖が幾重にも絡みつき芋虫を捕らえると、抜群のタイミングでシンの斬鉄蹴がとどめを刺す。
 『しょりしょり』されまくったゴタックが電刃衝奥義で一矢報い、芋虫の巨体を痺れさせると、ヒースの鮫牙の矢とファミリアのライトニングアローが二方向から同時に貫いた。
 こうして芋虫たちは、緑への欲望で罪なき人々をしょりしょりした報いを受け、全て退治されたのだ。


「ゴダックさん頑張ったね、カインさんもお疲れ様」
 ファミリアの明るい声が戦闘の終息を告げる。やれやれとその場に座り込む者もいれば、芋虫を埋葬する者もいた。
「あ〜……見事にベタベタね……。はい、これ」
 壮絶なネバネバ死闘の爪あとが周囲に残り、冒険者たちにもまだ糸がべったり張り付いている。リンディがタオルを用意してくれていたので、全員が有り難く使わせてもらうことにした。
 糸を拭い去ると「終わった」という実感がこみあげ、ほっと息をつくゴタックである。あちこちしょりしょりされたが、深刻な怪我もせずに済んだ。
「お疲れさん、ゴタック。いい囮っぷりだったよ」
「こうして無事なのもみんなのおかげだべ。ありがとうな〜」
「はいはい、泣かないの。……ゴタックさん、依頼の詳細聞いてから引き受けるようにしたら?」
「うん、気をつけてるんだけどな〜」
 シンの労いにうれし涙を溢れさせるゴタックを撫でながらリンディは忠告したが、それが活かされる日は遠そうだ。
「気にするなって。ゴタック、立派にシリアスだったぞ。シリアスの星はお前の為に輝くんだ」
「シリアスの星……おら、頑張るだ!」
「そうだ、あのでっかく輝くシリアスの星に誓え!」
 セイガの言葉に励まされ見えない星を一緒に眺めてみたりする二人を、カリュウトは何も言わずに悪戯っ子の笑顔で眺めていた。

 埋葬を終え『イモ墓標』の前に葉物を供えたヒースは、小さく「ごめんね」と呟いた。心優しき森の貴公子は、せめて眠りは安らかなことをと、祈らずにはいられない。
「変異せずにいれば、どんな蝶になったんでしょうね」
「春に生まれ直せよなぁ……さて、と」
 ダグラスもヒースと同じ気持ちだった。墓標を見詰めそう呟くと、勢いよく立ち上がってニッカリ笑う。
「帰るか! 酒場に行って、ヴェインに茶でもご馳走になろうぜ♪」
「私も行くね。ゴタックさんの勇姿を教えてあげなきゃ」
「それはダメだべ〜! 恥ずかしいだよ!」
 ファミリアの言葉に慌てて首を振るゴタックに、みんなが笑った。

 冒険者達の活躍により、ドリアッド達は再び森で糧を得ることができるようになった。その後、村の猟師達は狩に出る度、こう祈ることにしたらしい。

 弓を取る者は忘れることなかれ。
 冒険者の勇気と自然の恵みが、我らを生かしていることを。

■END■


マスター:有馬悠 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2005/10/01
得票数:ほのぼの5  コメディ15 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。