秋のパンまつり



<オープニング>


「これで今までの倍はパンが焼ける!」
 真新しい石釜を前にパン作りへの情熱をたぎらせる男、彼が代表を務めているパン工房『ふわふわの綿雲』は石釜で焼くパンが自慢の店だ。
 しかし、新しい石釜で沢山パンが作れるようになったところで、売れなければ意味がない。これまで以上に、多くのお客さんにパンを買いに来て貰わなければ、新しい石釜も宝の持ち腐れになってしまう。
 何より男には、もっと沢山の人に自慢のパンを食べて欲しいという強い思いがあった。
 かくして、パン工房『ふわふわの綿雲』が主催するパンのイベントが開催されることとなる。

「秋のパンまつり開催のお知らせ」
 パン工房『ふわふわの綿雲』では、日頃のお客様のご愛顧に感謝いたしまして、秋のパンまつりを開催いたします。
 当日は、手作りパン教室やパンの試食会などを予定しております。
 沢山の皆様のお越しを従業員一同でお待ちしております。
 ──モンスター退治といった依頼の告知が並ぶ酒場の告知板に、場違いなイベントの告知が張り出されたのは、涼しい夜風が秋の到来を感じさせ始めた日のことであった。

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参加者
NPC:闇より出づる影・レンヤ(a90132)



<リプレイ>

「ここがイベントが開催されているパン工房だ」
 酒場で告知されていたパンのイベントに参加したいと集まった冒険者達、そんな彼らを連れたレンヤがやってきたのは町外れにあるパン工房であった。
 『ふわふわの綿雲』と刻まれた雲形の大きな看板が飾られたアーチの向こうは、楽しそうにパン作りに興じる親子連れや、美味しそうにパンに頬張る子供達で既に賑わっていた。
「美味しいパンは人を幸せにします…」
「その幸せをこの手に掴むため…」
『負けられない戦いがあそこにはある!』
 そう宣言して、気迫に満ちた一歩を踏み出したセルシオとフィエルは、互いを牽制するように徐々に足を早めながら、試食パンの配布会場という彼らの戦場へと向かった。

「どうもレンヤさん。レンヤさんは…何かお好きなパンがあって、こちらのお店には通われているのですか?」
 お茶に合うパンを探して試食会場を散策していたリツは、イベントを楽しむ風でもなく黙々と歩いていくレンヤを見つけ、その横に並んで声を掛けてみる。
「私がこの店で買ったことがあるのは、あそこで配っている食パン…」
 レンヤが指し示した先では試食用の食パンが配布され、それを一心不乱に貪っていた少年がレンヤの声に気付いて振り返る。
「れぇんふぁさぁん、ほひぃさふぅり」
 振り返った少年、口の周りにジャムをつけてリスのように頬を膨らませたクィンスが、パンで一杯になった口をもごもごと動かして何事かを発していたが、それが見えていないかのように無視したレンヤは話を続けた。
「それと、あそこで作っているロールパンぐらいだが、どちらもこの店の看板商品だそうだ」
 レンヤが言ったロールパンを作っている場所では、アルテアが子供達にパン作りを教えていた。
「粉だらけじゃないか…」
「ふにゃあ〜」
 子供達と一緒にアルテアからパン作りを教わっていたフィリスティアの髪や服は、まるで雪でも被ったかのように白くなっていた。その身体についた白い粉を払い除けようとしたフィリスティアが、手に付いた粉でさらに白くなってします、同じように粉だらけの姿になっていた子供達が陽気な笑い声が辺りに響かせた。

「ふー、ちょっと休憩ですね」
 そう言って手を休めたミルテフィーナは、手元のパン生地を眺めて満足そうな笑みを浮かべた。丁寧に練り上げた艶やかなパン生地は、少し寝かした後でカスタードクリームと栗と合わせて、さくっとした食感のデニッシュへと仕上げる予定である。
「こっちも何とか上手くいきそうだぜ」
 ミルテフィーナの横ではアールグレイドが、小麦を丸ごと粉にした全粒粉を練り上げた小麦色のパン生地をこねていた。彼にとってパン作りは慣れない作業ではあったが、ミルテフィーナの助けもあって、サンドイッチにも合いそうな食パン作りは順調に進んでいた。
「美味いパン持って帰るから、待っててくれよ」
 真剣な顔でパン生地を練るアーシェス。朝食用にハチミツと合わせられるパンを団長へのプレゼントにと考えていた彼は、それならハチミツの量やパンの厚さなどを好みに合わせられるから良いと工房の職人達に薦められた食パン作りに励んでいた。
「な、なぁ〜ん…むずかしいなぁ〜ん……」
 旅団で朝食担当をしているというイスカも勉強のためにパン作りに参加していた。ただ、今作っているのは朝食用のパンというわけではなく、砕いたクッキーをまぶした甘い菓子パンである。

「粉の配合、発酵時間、焼きあげる釜の温度…おいしいパンを作るのって大変なんですね」
 パン職人達から色々とアドバイスを受けながら完成させたサンドイッチと紅茶やカフェオレを載せたトレー手にしたテルミエールが、出来たてのパンを皆に振舞おうと友人達がパン作りをしているはずの場所へと行くと、そこはずいぶんと騒がしかった。
「くくく、材料費が自腹でないならこのシシャモ! 小麦農家からクレームが来るほどの傑作を作って見せましょう!」
「その覚悟はムダにはしないぞ、シシャモ君!」
 自らの野望を高らかに宣言するシシャモに、彼をパンの具材にしようと企むガルガルガが大きなパン生地を抱えて迫る。
「シシャモ君、ガッツ!」
 ガルガルガに追い詰められていくシシャモに笑顔で声援を送りながら、フィーは頭の中でシシャモがサンドされた大きなパンの姿を想像してほくそ笑む。
「……おいしそうかも」
 まるでフィーの頭の中のイメージを覗き見たかのように呟いたフォンは、ペットの木菟をモデルにしたパン作りの手を止めて、シシャモとガルガルガの攻防を見守ることにする。
「ガルガルガさん、私もお手伝いしちゃいますよー! シシャモパパ、観念して美味しいシシャモパパパンになるです!」
「このジャムなら、きっとシシャモさんにピッタリだと思うんですよねぇ」
 悪戯っぽい笑みを浮かべてガルガルガに加勢したジーナスと、彼女に引き込まれたドリアンジャムを手にしたレイクスも加わり、ガルガルガを中心としたシシャモ包囲網は完成しつつあった。
 しかし、そんなガルガルガの背後にも、彼を狙う二人の刺客がいつのまにか迫っていた。
「ガルガルガさんのパンも作ってあげますね」
(「リザードマンの顔型パン…想像しただけでドキドキです」)
 目的が一致してタッグを組んだサラティールとギバが、顔型を取るべく用意したパン生地を手にガルガルガへと迫っていた。
 そんな盛り上がりが最高潮に達した時、
「何をやっているんですかあなた達はー!」
 さすがに周囲の目を気にして止めに入ったセリアの声に、その場で騒いでいた冒険者達の動きが止まった。
 しかし、それは時既に遅く、
「貴様等、自分達が何をしているのか分かっているのか」
「あ、あの…これは、すいません」
 自分の背後に立つレンヤに気付いてセリアが慌てて弁解するが、その言葉に耳を貸さずに進み出たレンヤはさらに言葉を続けた。
「食い物を粗末にする者に、この場にいる資格はない。さっさと失せろ」
 そう言い放ち、その場で騒いでいた冒険者達へと鋭い視線を向けたレンヤに取り付く島はかけらもなかった。

 パン作りに興じる人々の中で、レーヴェは自慢の尻尾を振りながら鼻歌交じりに手際よくパン生地を練っていた。
「ほら、クー、やってみるか?」
「うん!」
 作業台の脇でレーヴェのパン作りを見つめていたクロノスは、少し優しい笑みで誘うレーヴェに元気良く応えて、仲良くパン作りをしながらクロノスとレーヴェは楽しい時間を過ごした。

「窯から出す瞬間ってワクワクしますね〜」
 石窯を見つめて手作りクリームパンの焼き上がりを待つイングリドは、いつもパン作りで火加減に苦労しているだけにちょっと不安そうでもあった。
「力を合わせて作ったパンですから、きっと美味しく焼き上がってくれると思います」
 一緒にクリームパンを作ったイングリドに優しく声をかけたメイも、こだわりのクリームと大切な人への思いを込めたクリームパンが美味しく仕上がるのを心から願いながら焼き上がりを待つ。
 やがて、職人の手によって石釜から出された二人のクリームパンは、工房の職人達も太鼓判を押す仕上がりであった。

「食感…風味…彩り、共に見事じゃのう。ほれイヲリも食うてみい」
 試食パンの全制覇を目標に様々なパンを試食していたジズは、ファオが作ったパンの出来に思わず唸った。
「…ん、ゃ…美味し、な…」
 ジズに勧められてファオのパンを口にしたイヲリは、その口に広がる甘みと、思っていた通りのジズの好みに笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。きっとご指導頂いた職人の方々のおかげです…」
 自分のパンを食べる人々に丁寧にお辞儀をしたファオは、誉められたパンを手に少し照れくさそうに微笑む。
 生地に練りこまれたかぼちゃの甘味と、生地の上に飾られたさつま芋と栗という秋に代表的な味が口の中に広がり、紅葉をイメージした敷き紙の演出も相まって秋らしさを感じさせるファオのパンは、イベントを訪れた女性達に人気の高い一品であった。
「あっ! こんなパンないかな〜と思ってたんだ。いっただきまーす!」
 求めていたイメージに近いパンを見つけて、カタリナは嬉しそうにファオのパンを頬張る。
「ミントティーをどうぞですなぁ〜ん」
 美味しそうパンを食べるカタリナを眺めていたエルファシアが、そろそろ少し休もうかと考えていると、そこにタイミング良く現れたミントがミントティーが差し出す。
「頂きます〜……ミントでお口がスーっとしますね」
「お茶はいっぱい用意してますなぁ〜ん。いっぱいパン食べて欲しいですなぁ〜ん」
 エルファシアの言葉に笑顔を返したミントは、周りでパンを食べている人々にもミントティーを振舞う。
「僕の特製グラタンパンをどうぞ召し上がれ〜」
「……うまいな、テムにしては上手に出来たんじゃないか?」
 無邪気な笑顔でテムが差し出したパンを恐る恐る口にしたジェンは、その予想外の味にほっとしながらテムをからかうようなセリフを口にするが、
「あ、美味しかった? 良かったー、じゃ僕も食べようっと」
「おい、味見……というか俺を毒見に使いやがったな……」
 屈託のない笑顔でテムが口にした言葉に、肩を振るわせるジェンであった。

「はにゃ〜凄く美味しいのですぅ」
「友愛だけはタップリ込めてるから、きっと美味しい! …はず」
 自分で一生懸命に作ったメロンパンを幸せそうに頬張るクレア、その横ではカナタが誕生日の近い友人を思って作った苺たっぷりの手作りパンを試食していた。
「あのぉ〜わたしぃのメロンパンとぉ〜その苺のパンを一つ交換してくれませんかぁ?」
「ええ、喜んで!」
 パン作りをしている間に店が用意していた試食パンが終了してガッカリしていたカナタにとって、クレアの申し出は願ってもないことであった。ふたりは嬉しそうに互いのパンを交換すると笑顔でそれを頬張った。

「お姉ちゃん、そのパン頂戴!」
「一つだけよ、はい」
 焼き上がったパンを包んでいたルシエラは、駆け寄ってきた少年にねだられてパンを一つ差し出す。
「おねーちゃん、蜘蛛の巣のパンありがとう!」
 手を振りながら元気良く駆けていく少年の言葉に唖然としたルシエラは、幾何学模様をイメージした手作りパンを一口食べて、味は悪くないから成功よね、と笑う。

「あ〜〜! ダメですぅ〜」
 試食パンを食い漁っていたクッキーに、白身魚フライ入りの手作りパンを持ち去られて声を上げたミヤクサは、残りのパンが入った籠を大事そうに抱えてガルスタのもとへとやってきた。
「お口に合えばいいんですけど…」
 そう言ってガルスタに魚の形をした手作りパンを差し出したミヤクサは、じっくりと味わいながらパンを食べ始めたガルスタの様子をちらりと窺う。
「いい味だ。今日は色々なパンを試食させて貰ったが、店の味にも負けてないんじゃないか」
 ぶっきらぼうだがどこか優しさを感じさせるガルスタの言葉に、ほっとしたミヤクサはガルスタと並んで一緒にパンを食べた。

「できたなぁ〜ん!傑作なぁ〜ん!」
 勢いよく立ち上がり歪な形のパンを掲げたエポシャーナは、その手にしたパンが何の形かと子供に聞かれると、
「ヤだなぁ〜ん。こんなに可愛い形はノソリンしかいないなぁ〜ん!」
 そう自信満々に答えたエポシャーナに、目の前で首をかしげる子供の姿は見えていないようであった。
「油はこのくらいの温度で時間は短めに、バターが少ない方がおいしくできますよ」
「うにゃぁぁぁ…ひどいそんなぁ……」
 アスティアが甘くて柔らかい口当たりの黒砂糖をまぶした揚げパン作りを実演していると、その横を沢山のパンの中に一つだけ仕込んだ激辛パンを自分で食べたアイリーンが泣きながら駈け抜けていく。
 そんな会場の隅で、ティアとティナの二人は仲良くパンを食べていた。
「ふわふわです〜」
「甘くて美味しい〜」
 初めのうちは知った顔に出会えずに会場の隅でパンを作っていた二人は、年頃や名前も近いなどのきっかけあって、イベントが終わりに近づく頃には二人でパンを作るようになっていた。

 綺麗な夕暮れが秋の空を赤く染め、やがて日が落ちて辺りを闇が包むまで、街の人々や冒険者達で大盛況となったイベント会場から聞こえてくる楽しげな声が止むことはなかった。


マスター:蒼乃空 紹介ページ
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作成日:2005/09/30
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