メディナ村防衛



<オープニング>


 酒場に入ると冒険者達。
 其のの方へ、一人の少女が歩み寄ってくる。
「あまり悠長にはしていられない、依頼が来ています……」
 少女は、紫の髪の冒険者。其の中でも、霊査士と呼ばれる者である。
 霊査士は冒険の依頼を伝えたり、其の助言を行うのだ。

 紫髪の霊査士、リゼルは言う。
「さっき、こんな物が持ち込まれたの」
 そう言うと冒険者達をあるテーブルへと連れて行く。其のテーブルに載っていた物は、一本の尾であった。

 リゼルの話は続く。
「見た目はただの牛の尾にしか見えませんが……之はモンスターの物なのです。既に二つの村が襲われているわ。之は……其の襲われた村の人が持ち込んだの。其の村は、ほぼ壊滅状態になったらしい……。探査をしてみると、次は此処から四日の距離にある、メディナという村が襲われる事がわかったの」
 哀しげに瞳を揺らす。

「相手は雄牛よ。勿論ただの牛ではないけれど。モンスター、グリモアの加護を失った冒険者……何処から来たかは、解らない」
 モンスター。グリモアを失いし冒険者の成れの果て。今では人里を見つけたら辺り構わず襲だけの存在に成り下がった。獲物を求め、ただ、彷徨い続ける。
 見た目はあまり普通の牛と変わらない。しかし其れとは明らかに異にする人をゆうに越える大きな身体。比較するに。差は、二倍か、三倍か。
 其の体躯を活かした体当たりにはかなりの物があり、石壁だろうと破ってしまうだろう。其の上、吐く吐息は炎と燃え盛り、醜悪な其の顔を更に禍々しく彩る。

「気を引き締めていかなければ成らない相手……だけど付け入る隙が無い訳ではないの。近隣で襲われたのは二つの村だけど、それ以前にも襲撃を繰り返していたみたいで、村に襲い掛かっていた時には既に随分血を流していたそうよ。止まる事を知らず、既に体中、かなりの傷を負っているわ。今まで走り通して血も多く失っているみたい。力はかなり弱まってる。炎も、吹けて一、二度。傷を癒す事を知らないのね……」
 自然の動物ならば皆本能で知っている事を、この異形の雄牛は知らないのだ。いや、自らを癒す事よりも、襲い、破壊する事を優先しているのかも知れない。

「適わない訳ではありません。必ず勝機はありますッ!」
 リゼルは言い切った。が、直ぐに視線を外し――
「多分。五分五分ぐらいには……」
 そう、付け加えた。

「……襲撃が行われるのは村に着いた次の日、つまり五日後……」
 其処で言葉を切り此処に居る冒険者達にゆっくりと視線を巡らせた後、リゼルは再び口を開く。

「特に注意すべきは、自らの身も省みない、その破壊への衝動です。生半可な覚悟では返り討ちになるかもしれません。どうぞ気をつけて……」
 リゼルは、依頼を引き受けた冒険者にそう注意を促した。

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参加者
壊れた弱者・リューディム(a00279)
夜闇を切り裂く矢・ディーン(a00561)
緋の剣士・アルフリード(a00819)
狂気の狐王・シンヤ(a01112)
蟒蛇・トウヤ(a01790)
紅き禍・ルティア(a01927)
森の安らぎ・エミュリア(a02117)
寵深花風・テンジュ(a02129)


<リプレイ>

「グリモアを失った者の末路か……憐れな。せめて、苦しませずに逝かせてやりたいものだな……」
 青紫の短髪をバンダナで纏めた射手、ストライダーの牙狩人・ディーン(a00561)が其の厳つい面に憂いを乗せ言の葉を発する。革鎧に包まれた其の身体は鍛え上げられ、矢と言わずボルトを思わせる。
「しかし……なんで無関係な東方までくるかねぇ。リザードマン領とかレグルスあたりで暴れてくれりゃあいいものを……」
 其の金糸の髪を揺らし、スワッシュバックラー・アルフリード(a00819)苦々しげに呟く。得物のレイピアに似た細い彼の体躯は、弱々しさなぞ微塵もなく、鋭さ、しなやかさを感じさせる。
「其の方も戦乱の被害者なのですよ……違う種族だとしても元は私達と同じ冒険者なのです……其の様な物言いは御止めに成って下さい〜。其の存在を禁ずる事でしか終止符を打つ事が出来ないのは大変悲しい事です…」
 グレイの瞳に悲しみを湛え、エルフの医術士・テンジュ(a02129)が些か窘める様に言葉を返す。
「そう。私もそう思います。出来る事ならば弔ってあげたいのですが……」
 ヒトの武人・ルティア(a01927)も同調する。紫の瞳を持つ紅の髪の戦士は、其の冒険者の末路に何を思うのか。
「どうあれ、今はモンスターよ。理性を失った暴れ牛。倒すだけだわ」
 突き放す様な言葉。鋭利なナイフの様な瞳を更に細めた赤眼の拳士、龍脈の水銀晶・リューディム(a00279)が続けた。
 確かに。幾ら冒険者であったとしても今はあの異形。本能のままに生き、破壊をばら撒き、そして冒険者に狩られる存在。魔物。

 メディナ村に付いた一行はすぐに準備を始める。

 日はとうに地へと消えた夜。深夜。
「昼には現れなかった……戦いは夜、ね。之から……」
 積上げた木箱に腰を降ろし、篝火に照らされ其の銀髪を紅くしたエルフの牙狩人・エミュリア(a02117)が呟くと、乾いた唇を湿らせる。
 冒険者達はメディナの村と隣村とを結んだ直線上に罠を用意する。
 無数の釘が半ばまで打ち込まれた杭を並べ、無数の釘を打ち込み足を飛び出させた板を敷く。
「取り合えず……来るならこっちの方向だ。早く来い……」
 レイピアを握り締めアルフリードが遠くを、篝火に払われても尚村を囲む闇の先に視線を投げる。
「――シッ! 来たわ」
 リューディムが鋭く声を発した。夜を見張る役であったのにも関わらず、彼女は昼間から休憩を挟まずに見張りに徹している。しかし其の注意力には微塵も衰えは見られ無い。
静かな夜に、遠くから、篝火の薪が爆ぜる響きの間を縫い地響きの様な音が微かに届いていた。
「思っていたより北ですね〜、まぁ……それ程問題はありませんけど〜」
 闇の壁の中、ぽつんと一点、小さな紅い点が見える。夜目に頼るまでも無く、其れは見て取る事が出来た。確かに其れはテンジュが言う様に、隣村と結んだ予想進路より北に現れている。隣村から真っ直ぐにやって来ている訳では無かった様だ。
「やっと現れたか、まだ距離がある時点で捕捉出来て良かった」
 飛び起きて来たディーンも弓を取り、臨戦態勢に入る。昼組みも既に態勢を整えていた。
「まずは弓で気を惹いて、牛さんを罠の方に誘き寄せなくちゃね」
 呼子を吹くのを止めエミュリアが、そしてディーンが前へと出る。後ろに囮役のアルフリードが続いた。

「ハッ!」
 闇夜に溶け込む様な、しかしより昏い闇色の矢が夜を裂き飛ぶ。闇色の鏃は吸い込まれる様に魔牛へ、其の背へと突き刺さった。幾ら全力で走っているとは言え、其の巨体、単純な直線の移動、そうそう外れはしない。だが、意にも介してはいない。
「少しも足が緩まないッ!?」
 驚愕の声を上げつつも、エミュリアは矢を放ち続ける。魔牛は矢を背に刺したまま、走る。
「罠には誘導したッ! 後は頼むッ!!」
 二人が進路から弾かれる様に飛び退る。ディーンは貫き通す矢を撃ち尽していた。
「さぁ……来なッ」
 罠を背に配し、マタドールよろしくアルフリードが紅い布を大きく広げる。
 真正面。魔牛は目標を目の前の金髪の青年と定めた。荒い息。其れは炎と成り影を激しく揺らめかせる。
(「罠を避けられない様、ぎりぎりで……」)
 目の前に迫り、姿が良く見える。爛々と輝く、一対の瞳。
 まるで、埋め込まれたルビーの様に赫い。体躯は優に頭一つ分以上彼の上を行く。
 巨体に迫られる圧迫感。地響きの様に響く蹄の音。ぎりぎりまで、引き付ける。
 吐息の代わりに吐き出される炎。其の熱気を、ひりひりと感じる所まで。そして――避ける。
「――講談で聞いた通りやってみたが、上手くいくものだなッ」
 まさに、風に吹かれ舞う羽根の様に。赤布を翻し、ふわりと。そして美しく。

「ちぃッ! まさに暴れ牛かッ!?」
 囮に気を取られた魔牛の死角から、ストライダーの武道家・シンヤ(a01112)が一撃の為に間を詰めていた。
 魔牛は罠に掛かりはした。しかし、敷いた剣山の様だった釘の群れは厚く固い蹄に阻まれ踏み潰され、釘の生えた杭は其の脚に圧し折られた。無数に細かい傷は負ったが、其れだけだ。
 けれども、勢いは幾らか殺がれている。シンヤは其の細く、しなやかな身体故の強靭なバネで、弾かれる様に再び間合いを詰め――
「シンヤさん!? いけないッ!!」
 ルティアが叫ぶ。後足を折ってやろうと背後から詰めたシンヤの目の前で。蹄が跳ねた。
「ぐぅ……ッ!?」
 炎を警戒し、首振りに注意の多くを割いていた故に、刹那の遅れが生じた。直撃こそ免れたが、交差させた腕に蹄を受ける。身体が高々と、舞い上がった。
「あの巨体を動かしているのですッ! 脚力は脅威、気を付けて下さいッ!!」
「御無事ですか〜!?」
 ルティアが警告を発しながらシンヤを背中に庇う。テンジュが抱き起こし、共に下がる。
「あぁ……問題ない。くっ……抜かった」

 魔牛の獲物は、最早村ではなく冒険者達に移ってはいたが、なかなか動きを制限出来ない。
 小さく輪を描く様に走り続け、体当たりを仕掛けてくる。
「何故炎の息を吐かない!? まさか、温存していると言うのか」
 一際背の高く、グレイの長い髪を流したストライダーの武道家・トウヤ(a01790)が苛立たしげに吐き捨てる。既に戦い始めかなりの時間が経っている。しかし、未だに魔牛が炎を吐いてはいない。如何しても炎を警戒しなくては無く、友好な一撃を繰り出せない。体当たりや肉薄して息に焼かれる等、疲弊は確実に溜まっていく。
「このままではジリ貧――行くしか無いッ!」
 彼は一度引き、水桶を掴むと一気に其の身に被る。そして、其のまま真っ直ぐ魔牛へと走った。

「ハッ!」
 三度、アルフリードが突進を避ける。
「皆さん、今です〜ッ!」
 背後からテンジュの投げたボーラが片足に絡み付き、一瞬、魔牛の動きが鈍る。
 其の瞬間を見逃さず、まるで申し合わせた様に三人の冒険者が打ちかかった。
 ルティアが左前足に狙い神速の抜き打ちを、トウヤが右前足に、リューディムが横っ腹に狙い真直の拳を叩き込む。
 魔牛の叫びが、響き渡った。

 天に届かんとばかり高くへ叫ぶ其の声は、苦痛の悲鳴か、憤怒の唸りか。
「くっ、やはり狙い通りには成りませんか……ッ!」
「まだかッ!!」
 致命の傷には成り得ない。渾身に抜き放った一撃は狙った関節を外れた。しかし、明らかに深く魔牛の身体を切り裂いている。
 三方からの攻撃。足破壊こそ成らなかったが、トウヤの拳は確実に足を鈍らせるだろう。
 このまま畳み掛けるのはリスクが高い、すぐさま間合いを……

 と。不意に、魔牛の叫びが止んだ。 

「――ッ! 来るッ!!」
 リューディムが叫ぶ。彼女は見た。この瞬間、魔牛の顔に一片の炎も現れていない事に。今まで常に幾許かの炎を纏っていたにも関わらず。
 魔牛が身体のバネをも用いて大きく首を振る。
 刹那。視界が、炎に染まった。

「くっ、やってくれる……ッ」
 トウヤが憎々しげに呟いた。
「無事かッ!?」
「ハイぃッ、皆さん大丈夫です〜!」
 シンヤの問いにテンジュが答える。
 三人とも一様に炎を浴びたが、ルティアとトウヤは事前に水を浴びていた為それ程でも無い。しかし、リューディムは逸早く気付き避けようとしたとは言え、半身を炎に舐られてしまう。
「……私とした事がッ、まだ、やれるわッ!」
 ディーンの弓とアルフリードの最後のライクアフェザーで魔牛の気を逸らし、其の間に水桶で消火させたのだ。

「ちッ、相手は確実に疲弊している筈だッ、しかし決定的な物が足りんッ!」
 又一本、魔牛に矢が突き刺さる。既に、其の身体は己の流した血で赤々と染まり、滴る程だ。
 だが、力の限り走り、跳ね、当たる。勢いこそ当初程無いと言えども、まだまだ力強さが失われたとは言い難い。再び、幾度目かの体当たりを仕掛けてくる。
 アルフリードが再び正面に立ち、幾度目かの突進と対する。
「そろそろ、本気で眠らせてやってくれよッ!」
 皆に軽く発破をかける。そろそろ決めてもらわないと、少々面白く無い事に成る気がする。
(「アビリティは……タネ切れ。少しまずいかも知れないな」)
 内心、其の様な心配を抱えつつも、顔にはおくびにも出さない。美しく無いからだ。
 魔牛を引きつけ、ぎりぎりで避け――切れない。
「――ッぐ、うぅ……ッ!」
「アルフリードクンッ!?」
 魔牛の肩が、アルフリードの胸板を打つ。避け損ね、当り損ねと言えども其の衝撃は並なら無い。肺の空気を絞られる様に吐き出し、撥ね飛ぶ。
「少しだけでも、足が止められたら……ッ!」
 エミュリアが、半ば祈る様に矢を射る。
 矢は、真っ直ぐ巨体へと――いや、低い。巨体を外れ足元、地面へと突き刺さる。
 刹那、魔牛がビクリと、身体を振るわせたかに見えた。
「掛かったッ!?」
「今ッ!」
 絶好の機会を逃す訳にはいかない。エミュリアの半疑の快哉に重なる様にトウヤの声が、そして打撃音が響く。
 今度こそ、爆砕拳が右前足を砕いた。
「貴方が仕え、守ってきたグリモアはもう無い! 貴方は眠りにつくべきだッ!!」
 バランスを崩し、下がった頭の上にルティアが飛び乗ると、逆手に持つ長剣を深々と突き刺す。
 魔牛は吼え、振り落とさんと残る三本の脚で跳ね回る。
「先程の御礼だぜッ!」
 シンヤが、乗っているルティアを振り落とす事に躍起に成る、魔牛の右後足も砕く。先に蹴りをもらった脚だ。
 二本の脚を失い、とうとう地へと倒れ込む。しかし、其の本能は最期まで動きを止め様とはしない。首をぶんぶん振り始めると、炎を、二度目と成る炎を吐く。
「く……いけませんッ!」
 ルティアが突き刺した剣を手前に引くと、無理矢理魔牛の顔を上に向けさせる。

 夜空に、炎の柱が立ち上った。

 地に、力無く横たわる、モノ。
 幾つもの村々を襲い、破壊を撒き散らした魔物。
 そして、冒険者の成れの果て。
「終った、な」
 シンヤが口を開いた。
「……ッ」
 口を開こうとして止めた。流石に、小物と言うには憚れる。リューディムは踏み付けるだけで由とした。
「ゆっくり休んで下さい……」
 ルティアが其の剣を引き抜く。
「御墓、作ろうか」
 エミュリアの言葉に、幾人かが賛同した。

 冒険者達は、魔物の討伐をメディナの村へ伝えると、村を後にする。

 とある、丘の上。
 少し盛り上がった土に、ルティアは己の剣を突き刺す。
「これで、仲間のもとに行けるよね……」
 エミュリアの言葉は誰にとも無く呟かれ、流れた。
 そっと、ディーンが剣の傍に、矢を一本添える。
「……安らかな眠りがあらん事を……」
 そして、冒険者は背を向けた。

「グリモアを失う事で更なる悲しみが生じてしまいます……列強種族の方々にもこの悲しみはきっと解って貰える筈ですよ〜。いえ、解って貰わなければ成りません……」


マスター:新井木絵流乃 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2003/09/27
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