イガグリ



<オープニング>


「てめえら、秋といったら何だ」
 賽の霊査士・アノニマスは唐突に問い掛けた。
 その顔は真剣そのものであった。
 親切に答えようとする冒険者達を遮って、アノニマスは言う。
「行くぞ。栗拾い」
 曰わく、栗を育てている農家に縁があって、タダで拾いたい放題させてくれるらしい。
 道中の護衛を兼ねて付いてこいと言うことなのだろうか。
 それとも労いのつもりなのだろうか。
「へえ、栗好きなのか?」
「そうでもねーな」
「じゃあなんで……」
「余計なことは考えず、てめえらは黙って俺に付いてくればいい」
 ただ栗狩りへ誘っているだけにも関わらず、とても厳しい表情のアノニマスに冒険者達はどう返したものかと悩むばかりである。
 兎に角、栗を拾いに行くらしい。

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参加者
NPC:賽の霊査士・アノニマス(a90184)



<リプレイ>


「えっと…。始めまして! あの…どうして、栗好きじゃないのに栗拾いに…?」
 鎮魂哀歌を唄う夜忍・ミスリルに単刀直入に問われ、アノニマスは渋面になる。
 多分単刀直入に答えられないのだろう。
「アノニマスちゃん、厳しい顔でどうしたのなぁーん?」
 横から今度は哭きの・カイエに問い掛けられ、アノニマスは口ごもる。
 答えがないことは特に気にせず、カイエはあれこれ考える。
「栗……いが? 何かに使うのなぁーん?」
「……まァ、そんなもんだ」
 いまいちすっきりしない。だが一応返答があったものだから、カイエは「イガが必要なのかなぁーん」と一人納得してしまう
「栗嫌いなのか? そんな事ないよな?」
 降る銀の雪・イーリスにどうしたのと問われるも、「別に」とそっぽを向く。かなり怪しい。
「栗うまいぞ? とげとげだって可愛いぞ? 髪にのせれば髪飾りのようだぞ?」
「うるせーな」
「アノニマスの髪の毛……よくくっつきそうだな……栗」
「やめてくれ」
「つれないなあ、アニーってば」
 彼女のペースに巻き込まれたのか、曖昧だった返答がようやくマトモになった。いつの間にか愛称で呼んでいる。
 そんなアノニマスの前に突如現れた宵闇の黒豹・ケイは「アノニマスも栗好きかい? 栗は美味しいよねぇ♪」と親しげに頭を撫でる。
 多分に漏れずケイは栗拾いに浮かれているらしい。
 仏頂面のまま撫でられる彼だが、その姿をカイエやイーリスに見られくすくす笑われると益々不機嫌そうになるのだった。

「見事に失敗しちゃいましたけど、ヴィネちゃんもお疲れ様♪ おっと」
 ヴィネの背後をとって、頭をポンポンと撫でた男――天巧星・カイエン。
 すかさず返された鞭をさっと躱す。
「生意気ね」
 むっとした表情とともに、また振り上げられた鞭の柄を彼女の手ごと抑える形で掴み、カイエンは宥める。
「ふぅ…怒らない怒らない」
「馴れ馴れしいっ」
 明らかに狼狽えて、炸裂するは幻の左――
 それも難なく躱してカイエンは笑む。
「ほらほら…お仕事ですよ、お仕事♪」
「先に言っておくけれど、仕事と口に出したからには手を抜いたら私の鞭が黙っていないわよ」
 飄々と言うカイエンにヴィネは平静を装って言い返す。
 そんな脅しにカイエンはちっとも堪えない様子で、笑った。

●毬栗注意報
 やって参りました栗農家。
 見渡す限り栗の木が生え、イガに包まれた栗が今にも零れそうになっている。
 足下にはイガごと転がっていたり、中身が出たり、栗の宝庫である。
「栗…すっかり実りの季節ですね」
 温・ファオが木を見上げながらしみじみと秋の空気を吸い込む。
「自分の手で栗を拾うのも久しぶりだな。昔はよくイガグリを抓んでは人に放り投げたり中身を出しては石つぶてにみたいに投げつけたりしたものだが」
 懐かしさに浸る朽澄楔・ティキ。危険なのでオススメはしない。
「アレか? その場でイガグリ開いて外側放置して中身だけ持ってきていいのかね」
 農家の人に尋ねると好きにして良いと返答があった。
 とても気前のいい返事であった。

「僕、栗大好き! 秋はいろいろ美味しい果物がなるけど、栗が一番美味しいよね!」
 イガを踏みながら実を採りだしヒトの武人・アルカディール。その足つきは慣れた物だ。
 しみじみ思い出される故郷の風景に「母さんが栗の皮を剥いてくれてたなぁ〜」とちょっと涙ぐんだりしてみる。
 慣れた者達の行動を参考にしつつ、初栗狩りの緋桃のもとへ導く漆風・ナオも色々試してみる。色々――空中キャッチにチャレンジして成功して喜んだ後、失敗して髪に絡んだ毬が取れなかったりとか。
「うむ、やはりやったことのないことはやって見なくては」
 知識はあれども経験はない。足を使った毬割りに泰然自若とした栗鼠・ガルスタも挑戦してみる。
 最初は踏みつぶしてしまった。じっと潰れた栗を見て、再度挑戦するために栗を探す。
 その感にもブツブツと呟くのは美味しく栗をいただく方法についてである。が、調理は苦手と気付いた彼は、栗拾いに集中することに決めたようだ。頑張っていただきたい物である。

「あったあった……」
 草むらの中に零れた栗の実を発見して、波間の灯火・クレイは持っていたバケツに放り込む。イガをつけたままの栗も沢山落ちているが、木にイガが残ったまま実だけ零れている物も沢山あるのだ。
「んふふ……モンブランに…マロンパイ…栗ご飯……」
 最初は慣れない栗拾いに戸惑っていた荊姫・リコリスもしばらくすると、美味しい妄想に浸りながら土塊の下僕まで使って栗を拾い始める。
 言葉少なに黙々と栗を拾っているのは飛・レンと月夜の朱紫・ラシェル。野生児のレンが木に蹴りを入れて栗を落とす。
「痛ってぇぇぇぇ!」
 其処に割って入った風侠・テンユウは落ちてくる栗が宙にある間に素手で掴んで絶叫する。よく見ると涙目になっている。
「……大丈夫か?」
 ラシェルに問われたが、テンユウは真剣な顔で頷いた。懲りずに続けるつもりらしかった。
「あ、ココロー。棘で怪我しないように気つけろよ?」
 不機嫌な黒犬・レイに案じられ、彼と出掛けることに浮かれ気味だった黒犬への愛を叫ぶ恋愛主義者・ココロは更に落ち着かなくなる。
 とはいっても、
「栗ー! 栗ー! くーりー!!」
 レイの方が余程興奮状態だったので、すぐに立場は反転する。
 一方的にレイが色々話し掛け、ココロがにこにこと笑って頷くという応酬。それでも二人は楽しそうであった。

「栗のイガには自然の叡智を感じますね…とてもよく尖っていて、痛い」
 万寿菊の絆・リツがしみじみと栗をつつきながら呟いた。
 適当に栗を集めたところで知り合いの方に挨拶をと、リツが振り返った先では、イーリスが嬉々として栗を拾っていた。その籠の中は栗でいっぱいである。
 同行している陽だまりでまどろむ真昼の月・トグサノは何というか、予想に反して気がない。
「何だか、がさばるな……」
 聞こえぬよう小声で呟き、適当に彼女の籠に放り込む。
 段々ひとつずつ拾うのに飽きてきた彼は本を読みながら、粘り蜘蛛糸なんかを使って栗を絡め取り、そのまま籠に放っている。杜撰な作業である。
「あ、トグ!」
 イーリスがソレに気付き咎めようとすると、彼はさっさと逃げてしまった。
 何とかトグサノを掴まえたものの、彼は「なかなか面白かったな、この本」としか言わず、イーリスに栗を投げられた。

 別れの前にと、告げず参加した琳瑯紅華・シュコウは、当然の如く何も言わずユーマを無理矢理同行させたわけであるが。
「どうした、折角腐っているところを俺が誘ったというのに」
 憤然とした言葉と共にむんずと毬栗を掴み、やる気のなさそうなユーマに投げつけた。よくよく見れば厚手の手袋をして手を護っているのは用意周到としか言えない。
「まさかそれをアタシに投げるために此処につれてきたと?」
「まさか」
 シュコウはもうひとつ二つ毬栗を拾いながら言う。
「毬栗を見たら人に投げたくなるものだろう、相棒」
 微かな笑みを以て、本心を心の奥底にしまい込む。

 そんな光景を繰り広げていたのは何も彼らのみではない。
「栗ゲットーー! デカイぞー見てくれホレホレ!」
 月に逃げた・カグヤが栗を掲げそれを振って同行者に見せる。
「棘に気を……」
 白き御魂・ブラッドが言い終える前にカグヤは「いってーーっ!?」とお約束通りイガささってたりして。
 色々な状況にブラッドが溜息を吐く。
 其処へ走ってきたのはエンジェルの少女。
「くらえ〜ニードルスピア♪」
 両手に抱えた毬栗をそんな掛け声と一緒に業火を操りし者・ユティルはカグヤへ放つ。
「ふっ……流石ユティルッ……歯がたたねぇ……!」
「まだまだ〜♪」
 増えていくイガ。
「栗を粗末にすんなー!!」
 夜空より舞い降りし蒼月・リクが毬を投げる者達の間に入り、栗を抜き取った毬を投げ返す。
 が、投げ返したら投げ返されるのがこの世の中。
 黙々と栗を拾っていたアノニマスだが、段々と喧騒の色が強くなってくるのを感じた。
「てめぇら、霊査士の傍で乱闘すんじゃね……」
 このままじゃ拙いと彼は冒険者達を振り返り、一喝――しようとして、ぱたりと逝った。
「平和だな」
 一因となったシュコウは淡々と呟いた。

●アノニマスの秘密
 これはアノニマスが冒険者達に「栗拾い」を宣言するちょっと前のことである。
 テーブルの上の広がる札は一切合切赤い髪の霊査士の前へ移動した。
 それの意味するところは明白。久々ながら惨敗したのだ、賭けに。
「あぁ、ないの? ええよええよ、俺は別に気にせぇへんから、払えるようになったら払ってくれたら……あぁ、でも、なんかほら最近いい感じに食欲の秋だし、栗とか美味しそうやなぁ」
「……」
「あ、気にせんでええよ? いやーでも、栗うまそうやなぁ」
「…………」
「AHAHAHA-」
 白々しく笑う霊査士。
「うるせえ、いってやらあぁぁぁ覚えてやがれちくしょぉぉぉ」
 椅子を蹴り倒し、アノニマスは叫びながら何処かへと消える。
「あぁ……行ってもうた……ま、えっか」

 栗の良い匂いで目が覚めたアノニマス。まさかそんな経緯を自ら譫言で解説したとは知らず、同情的、或いは呆れた目つきで一瞬見られたことに首を傾げた。
「アノニマスちゃん、しっかり食べてねっ……」
 リコリスが栗をアノニマスの手に握らせる。イガは付いてなかった。残念なことに。
「全部回収とか、マジで言われる所だったのか……」
 灼熱の意志・トキオの呟きである。言われたらキレるところだが、一応言われない模様である。まあ言ったら多分冒険者全員に袋叩きにあうだろうが。

●秋の味覚
 栗拾いが落ち着くとそれぞれ調理に取りかかる。
「虫に気を付けてくださいね」
 ファオが栗を剥きながら皆に注意を促した。
「クリのタルトぉ〜、モンブラン〜、クリ入りのバターケーキもいいですねぇ〜」
 アスティナはひたすらお菓子を作っている。
 栗拾い中は毒キノコだ毒草だと怪しい会話をしていた夕闇の葬送師・エイヤと全ての理は己が内に・ユルだが、彼らも同じく。ユルはアスティナと同じくモンブランを作り、エイヤは羊羹やら和菓子を作っている。
 時々二人で怪しげな会話をして笑っているが――毒は盛っていないはずだ。

 蓋付きお鍋で弱火でじっくりが甘みの秘訣とリツが焼き栗を作る。
 焼き上がりを待つ傍ら、独特の囃子が聞こえたと思い振り向くと、赤と白の狩人・マイトが舞を披露していた。
 一心不乱に舞う彼の姿を皆がじっと見つめていた。

 やがて栗の甘い匂いが彼方此方に漂い始める。
「フィンフちゃん、見て見て」
 らでぃかる悪なーす・ユイリンは大トカゲと遊びながら待っていた若葉の射手・フィンフに出来上がった栗ご飯を見せた。
 栗の皮むきをフィンフが手伝い、ご飯を炊くのは彼女が一人で頑張った。
 何度も教わったことを思い出しながら、調理しているのを、フィンフが影から見守っていたことを彼女は知らない。

 ゆで栗を前にティキが緑茶を用意している。シナモンティーや蜂蜜入り茉莉花茶――栗料理は栗ご飯からお菓子から様々だ。
「知り合いの方から生で食べる方法も教えて頂いたので…」
 言って、ファオが生栗の食べ方を披露する。
 幾人かが彼女を取り巻き、採りたての栗を同じようにナイフで剥いて食べてみる。
 じっくり噛んで味わうと甘みがじんわりと口の中に広がる。
「秋の空も綺麗だなぁ」
 外に出て空を眺めながらプロヴィデンスブレイカー・ジークがしみじみと栗を楽しむ。
「こういう楽しみ方があるんだな。うん」
 嬉しそうにレンが言うとラシェルは静かに頷いた。
「栗の味がするね!」
 栗ご飯を頬張りながらほくほくとミスリルが微笑んだ。
 やはりリコリスはお菓子を抱えていた。

「誰か、酒の相手も付き合っとくれよ」
 ケイに誘われ、クレイが果実酒を持ってくる。
 今回は比較的未成年が多く参加していたので、酒の用意が少ないようだ。
「美味しいものには、美味しいお酒。だからね」
 にっこりと微笑むケイ。
「羨ましいですね」
 二人を遠目で見てカイエンが呟く。ヴィネは「仕事なんでしょう?」と意地悪く言う。
 その後もっと意地の悪い仕返しをされて彼女が悔しい思いをしたのは言うまでもない。

 焚き火が用意されてる所に皆が面白がって栗を放る。
「熱っつぅぅぅぅぅ!」
 その横で突然叫んだのはテンユウ。爆ぜた栗を素手で掴む修行(以下略)
「アノニマスちゃん、焼き栗、ホクホクで美味しいなぁーんよ」
「あーそうだなあ」
 カイエに栗を分けて貰い、それを頬張るアノニマスだがその眉間にしわが寄っている。
 どうも自分の状況が知られてしまったことが気まずいらしい。
「来てよかったなぁーん」
 ありがとうなぁーんとカイエが笑いかけて来ると、彼はようやく微笑んだのだった――


マスター:神崎無月 紹介ページ
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