シギルの誕生日〜月に叢雲



<オープニング>


●帰還
 マウサツの晴れ渡る空。涼しくなった風が、深まる秋を感じさせる。
「おや。久しぶりですね」
「……おう」
 秋祭りが近付き、賑わう街角。久しぶりに会った友人に、微笑みを向けるストライダーの霊査士・サコン(a90176)。
 そんな彼に、白夜の射手・シギル(a90122)は短く答えて。
 彼が突き出して来た書面を受け取ろうとして、サコンは足を止める。
「……随分飲まれてますね?」
 シギルからする酒の匂いに眉を顰めるサコン。
「そ。コノヱに捨てられたんだ。俺」
「おやおや。それはご愁傷様でした」
 飛び出した爆弾発言。
 それに動じることもなくにこやかなサコンに肩を竦めたシギルは、彼に書面を押し付けると、用は済んだとばかりに踵を返して。
「……どこに行かれるのです?」
「……月見」
 サコンの問いに、手をひらひらと振りながら答えて。
「おい、サコン。あいつ……どうかしたのか?」
「さあ。どうしたんでしょうね」
 立ち去っていくシギルを見送りつつ、恐る恐る訊ねて来る冒険者達に、サコンはそう答えつつ、手元に目を落とす。
 受け取った書面。コノヱの丁寧な字面で、最近セトゥーナで起こったこと等が簡略に纏められていて。
 そして最後に、追伸として添えられていた一文に目線を移す。

 ――最近のシギルさんは、心ここにあらずといった感じで、最前線に置いておくのは危険過ぎます。
 そこで数日、お休みを差し上げることにしました。
 お手数ですがサコン様、彼を宜しくお願いします――。

「なるほど。捨てられたとはそう言う事でしたか」
「……何?」
 サコンから漏れた呟き。
 首を傾げる冒険者達に、彼は何でもありませんよ、と首を振って。
「そうだ、折角ですし、皆さんも遊びに行っていらしたらいかがですか? もうすぐマウサツの秋祭りなのはご存知ですよね。……いい場所があるんですよ」
 観月庵。
 マウサツの街の近くの、さほど高くはない山の中腹にある優美な庵。
 年に一度、中秋の名月の頃から下旬の秋祭りにかけて、風流を求めて一般の者達も多く訪れるその場所は、眼下に小さな湖を抱き、阻むものが何もなく。月が素晴らしく良く見えるのだそうだ。
 庭に咲き乱れる金木犀。檜の香りのする庵内に臥し、見るは空に輝く月と湖に映る月影。
 それは、とても雅な光景で――。
「お月見にはちょっと遅いですが……欠けた月と言うのも、また風情ですよね」
 微笑みを浮かべるサコンに釣られるように嬉しそうに頷いた冒険者達だったが。ふと、首を傾げて呟く。
「……でも、シギル……放っておいていいの?」
「構いません……と言いたいところなのですが。ついでにちょっと様子を見て来て戴けませんか。彼もあそこに向かったのでしょうから……」
「……判った。珍しく深酒してるみたいだったもんな」
「ええ。あのまま飲み続けて行き倒れられても困りますしね」
 冒険者の言葉に頷いたサコン。そうだ……と思い出したように続ける。
「……出来たら、彼の誕生日も祝ってあげて下さい。あの調子では、周りの景色どころか自分の誕生日が過ぎていることにも気がついていないでしょうから」
 素直に頷くもの、面倒臭いとぼやくもの……冒険者達の様々な反応に微笑みを返して。
 サコンは、彼らを静かに送り出した。

●涙月
 回りは闇。空に浮かぶ月。鈴虫の声がやけに大きく聞こえる。
 庵の庭の外れ。倒れた古木の上にシギルは身を投げ出していた。
「くそ。面白くねえ……」
 頭が痛い。身体がだるい。
 それでも、酒は思考を鈍らせてくれる。
 こんなことをするのは弱い人間だけだ。判っている。
 判っているから、余計に。
 面白くない。面白くない。面白くない……。
 ふと身を起こして。目に入るのは足元に転がる空き瓶。それを、思い切り蹴飛ばす。
 それは、ぱりぃん、と軽い音を立てて。砕けて散った。

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参加者
NPC:白夜の射手・シギル(a90122)



<リプレイ>

●秋の夜空と
 眼下には小さな湖。空に浮かぶは眉月。涼やかな風に乗る金木犀の香り。
「あらあら。……見事に出来上がってますね」
「まぁ……人生そんな事もあるわな」
 そう呟いたアニタとシュウの目線の先には。
「我々は酒瓶を抱える赤い服を着た陸揚げマグロ……シギルさんを発見したのです……と」
 メモを取るエリンの言ったままのそれが、倒れた古木の上に伸びていた。
「……シギルさん!」
 彼を見るや慌てて駆け寄り、助け起こそうと腕に手を置いたアリーシャ。
 目に入るのは足元に散乱する破片。それが、シギルの今の状態を示しているようで……。
「ああ……泣くなリーリア。兄ちゃんが悪かった」
 どこか焦点の合わない目で泣きそうなアリーシャを見て。漏れたのは知らぬ名前。
「……シギルちゃんの妹さんの事だよ。もう、亡くなったって聞いたけど」
 困惑する彼女に、アルシェンドに背負われたままのミュリンが答える。
 そう言えば、妹に似ていると言われた事があったっけ――。
「寝惚けてるみたいね。……ちょっと、起きなさい」
 そのやり取りを見て溜息をついたエヴィルマ。歩み寄ってシギルの襟首を掴む。
 抵抗なく持ち上がる身体。彼女は思い切り息を吸い込んで――。
「一つ、山にゴミを散らかさない事! 一つ、マウサツで飲んだくれない事! ……理由は言わなくても判るわね?!」
 耳を劈く大音響。さすがの彼も目が覚めたのか、顔を顰める。
 マウサツはストライダーの国だ。故に、シギルのようなヒトは同盟から来た者以外に居ない。
 何か事を起こせば同盟の評判を落としかねないと言う彼女の懸念は最もだ。
「判っちゃいるけどやめられないってか」
「……うるせえよ。何しに来た、お前等」
 聞こえたティキの声。そこでようやっと囲まれている事に気付いたらしい。シギルは仲間達をを睨みつけて。そんな彼を、シェードはひょいと覗き込む。
「んー? らしくないですね。何もかも面白くないって顔ですよ?」
「……面白くねぇのはこっちだ! 祝いに来てやったのに何だそのツラは。アァ?」
「……祝いって、何の話だ」
 青筋を立てて頭をドついたナナトを、シギルは面倒臭そうに見て。
「やっぱり忘れてるのだな。シギルちんのお誕生日祝いに来たのだ!」
「ハァ? ……要らねえよそんなモン」
「まあまあ、そう言うな。ほら、飲もう」
 ぴっと指を立てて言うロザリンドに即答したシギルの肩を叩き、シュウはその横に腰掛けて。
「その前にこれ飲んで。ね? 男前のパンダさん」
「お前、どうせ固形物食ってねえんだろ。身体壊すぞ」
 にっこりと笑うオリエと相変わらず仏頂面のティキが手に押し込んで来たのは煎じた薬草と和菓子。
「勝手にしろ……」
 それを見て、諦めたように溜息をついた彼に仲間達はホッとして。
「では改めて、お誕生日……」
「おめでと〜♪」
 明るいニューラの声とそれに続いたシャムの豪快な蹴り。
「何しやがるっ」
「だからお祝い。わたしこれから大事な用事があるから、シギルちゃんに構ってあげられないのよね」
 彼の背中にくっきり浮かぶ足跡。抗議する彼にプレゼントを放り。立ち去ろうとした彼女は思い出したように振り帰る。
「お酒は、忘れる為に飲むものじゃない。嫌な事も良い事も、お酒と一緒に飲み込むの。そうすると、明日には自分の力になってるものよ」
 それだけ言い、手を振って。軽い足取りで庵の奥へ消えて行くシャムに、ニューラは笑って。
「彼女に概ね同感ですね」
 過去もその上に上って高みを目指すならともかく、頭より上にあれば重くて身動きもままならない……。そう、彼女は思って。
「美味しい酒を飲みたいなら、酒と肴と友のほかはうっちゃっておけばいいんです」
「まあ、飲まなきゃやってられん事もあるだろうがな」
 黙って話を聞いているシギルの盃に酒を注ぐニューラに、頷くシュウ。
 精神的な強さに関係なく、突き当りと言うものが一度や二度はあるものだ。
「私も色々あって重傷負っちゃって……。正直、ちょっと飲みたい気分ですけど」
「怪我人はお茶だな」
 その言葉に頷きつつ自嘲的に笑うアニタに、湯のみを差し出すティキ。
「輝く月も雲に隠れる事がある。でもまた晴れて輝くものさ……。人生そんなもん……」
 盃を傾けつつ、真面目に決めていたシュウの言葉は、突然のシギルの喚き声と、飛び散った赤い液体で途切れて。
「ああん。ごめんなさいなのだv」
 どうやら、ロザリンドがトマトジュースを零した……と言うか、ぶっ掛けたらしい。うるうるとした目でシギルを見つめる。
 ――色々と調べた結果、分析するにシギルちんは既成事実を求めてるに違いないのだ!
 だから既成事実を……ホントはちょっと恥ずかしいのだ。でもシギルちんが元気になるなら、例え火の中トマトジュースの中なのだ♪
 トマトジュースを零したのはその布石! それを拭く為に彼に接近して……。
「……ロザリンド。全部口から出ておるぞ」
 ぼそり、と。背後から聞こえたのはクウォーツの声。
 ギクリとして逃げ出そうとした彼女だったが、一歩敵わず。脳天に容赦なく降って来た本の一撃で沈黙する。
「全く……。シギルがヘタレておるからこんな事になるのじゃぞ!」
「その通りですよ。もう」
 怒るクウォーツに同意するスカイ。
 最近遊んでくれないので拗ねているらしい彼は、ブツブツ言いながらシギルに液体の入った瓶を渡す。
「キノコ酒です。少しは反省してくれないと、今度もっと凄いの用意しちゃいますからね!」
「そうです。少し反省して下さい。ミュリンが心配するという事がどれ程大変な事か、シギル殿なら解かる筈。解からなくなる程ドツボに陥っておられるのなら、夕日の沈む浜辺で殴りあうしか……」
 スカイの横で説教節なアルシェンド。これはアレか。微妙にジェラシー入ってますか。
「ミュリンさんは……ティキさんが用意した和菓子を、食い尽くさんばかりの勢いで、シギルさんを心配している様子はありません……と」
 そして、しっかりメモを取るエリン。彼女の書き記した通り、ミュリンはシギルの身の上よりお菓子に夢中なようだった。
「シギルさんも、弱い所を見せてくれてもいいのにって思います」
 そんな仲間達の様子を見て、笑いながらも言うアリーシャ。
 自分に似ていると言う、シギルの亡くなった妹。
 ……彼女も、彼が独りで苦しんでるの知ったら、悲しむと思うから。
「皆いるから、独りで辛くならないで下さいね?」
「そうだよ。人を頼ったっていいのだから」
 続いた彼女の言葉に、頷いたオリエ。それに、シギルは酔っ払い特有の緩んだ笑みを向けて。
「どうせなら綺麗なお嬢さんの人肌を楽しみたいな、俺は」
「うふふ。じゃあ好きにしてみる?」
 にっこりとした彼女に、更に顔が緩むシギルだったが。ゴスッと言ういい音と共に動きが止まる。
「やめんか、この女ったらしめが!」
「クウォーツさんもシギルさんが心配なんですね」
 本を片手に肩で息をするクウォーツに、ファオが笑って。
「べ、別に……折角の機会じゃから楓華の月を愛でに来ただけじゃ」
「……ああ、月。綺麗だよね」
 微かに頬を染めて横を向いた彼。その言葉に導かれるように、オリエは夜空を見上げて。
 浮かぶ三日月。それは……心が欠けてしまった自分そのもののようで。
 一口飲んだ酒が、その隙間に染みて行く。
「……月も金木犀も素敵ですよね」
 ファオも静かな夜に漂って来る、柔らかな香りを胸一杯に吸い込んで。
 ……この香りが、月の光が、何処までも届けと、祈る。
 こうしている間にも血を流し、尽力している者達にも……。
 その横で、サイも静かに故郷の景色を楽しんでいた。
「たまには、ゆっくりとした時間……良い、ですよね」
 目まぐるしかった日常を忘れさせてくれる景色。それらを愛でる時間があるのなら。また頑張れる気がする。
 そう呟いた彼女に、ファオも頷いて。
「素敵ですよね。……もう少し見て回りましょうか」
 ファオとサイは微笑み合って、ゆっくりと歩き出した。
「……もう慰めは十分かな?」
「いやいや。良い女のならいくらでも」
 盃を手に首を傾げたケイに、やはり緩んだ笑みを向けるシギル。
「そう。でも……。本当に欲しがってるものは、違うんじゃないかい?」
 そう続けた彼女。黙ったままの彼を見て……目を伏せる。
 この男は既にそれに気付いている。それなら、自分にしてやれる事は――。
「……とりあえずお飲みよ」
 艶っぽく微笑んだケイは、彼の盃に酒を満たす。
 この盃のように、彼の心もいつか満ちる事を祈りながら……。
 そして。月の光に浮かぶ影。翼のあるそれを、シギルはじっと見つめて。
「……何だ。天使様かと思ったらツバキか」
 お迎えが来たかと思った……と続けた彼の頭を、ツバキは何も答えずにただ、そっと撫でる。
 ――昔、母が教えてくれた。
 月は心。雲は不安や哀しみ。
 貴女は雲を掃う風になりなさい……。
 そう言って、頭を撫でる母の手がとても心地良く。
 だから。自分の手もそうなれれば良いと。そう思って。
「……感情を捨てたわたしには……もう、その資格はないのかも……しれないけど……」
「本当に感情がないなら、俺の頭を撫でにわざわざ来たりしない。……違うか?」
 無機質な目でシギルを見つめ返す彼女。
「これはきっと……泡沫の幻……」
 感情なんてあれば辛いだけ。そう答えながら。幻であればいいと、ツバキは願う。
「しっかし、相変わらず女難だなぁ、シギルは……」
「そんなに飲んだくれる程ミュリンさんのお守りが嫌だったんですねえ……」
「だったら今後は私がやりますって言うかやらせて下さい」
「………」
 酒と肴を手に、シギルを囲んで和気藹々と語らうナギとシェード、アルシェンド。
 その横の陸揚げマグロ2号は、辺りを散策していた所を宴会に巻き込まれたセルシオである。
「女の前で弱味見せられねぇなら、俺様の胸でも貸してやろうか」
「……冗談は顔だけにしようぜ、親父」
「三十路はおっさんか。確かになあ」
 ニヤリと笑ったナナトに軽口を返すシギルに、頷くナギ。
「うるせぇぞ、貴様等! 大して俺と歳変わらんだろうが!」
 思わず吼えたナナト。シェードは笑ってセルシオを覗き込む。
「セルシオさん、生きてますかー?」
 返事が無い。ただの屍のよう……。
「じゃなぃ……っ」
 一瞬反応があったものの、すぐに地面に懐いた彼。何だかんだで面倒見のいいナナトがブツブツ言いながらも介抱を始めて。
 そんな彼らの様子を眺めながら、シギルは酔った頭でふと思う。
 ……何があったのかも聞かず。
 ただこうして集まって、励まそうとするお人好し共。
 酷く馬鹿馬鹿しい。でも……決して嫌ではない。
「シギル、吐くなよ? 上見ろ、上を」
 そこに聞こえたのはナギの声。
 言われるがままに空を見上げ溜息をつくと、彼はまた一口、酒を呷った。


「リシェ……一緒に呑まないのかい?」
 ケイの声に振り返ったリシェールは彼女に自嘲的な笑みを返して。
「ん……何か、声かけ辛くってさ」
 仲間達に囲まれているシギル。見ているだけで満足なんて、らしくないと思うのだが。
 愛を求めるのと与えるのとで、こうも変わって来るのかと彼女自身不思議に思う。
「……シギルの過去なんて知らない。でも、あたしは許すよ」
 想う事で自分の世界が変わったから。
 少なくとも一人、彼の存在で救われた女がいるのだ。
「……そう。伝えておいで」
 彼に届くかどうかは判らないけれど。
 リシェールは頷くと、ケイに一度抱きついて。そして、シギルの元へと向かった。


「元気がないわねぇ。さては遊びが過ぎて本命に振られた?」
「そんなんじゃねえよ」
 からかうような口調のエイシェルに短く答えたシギル。
 こちらを見ようともしない彼に、彼女は苦笑して。
 どこか不安定な危うさに、放っておけずに声をかける。
「……妾は少なくともおぬしのせいで不幸になったりせんよ」
 じゃからな……と続けた彼女は、彼の手首にミサンガを結んで。
「お主が願う資格は妾が認め、証を与える。……死ぬでないぞ」
 ミサンガからする爽やかな香りに、シギルは首を傾げて。
「……柑橘系か」
「うむ。落ち着くじゃろ?」
 頷いた彼が手を伸ばしたのはエイシェルの長い髪。
 一房持ち上げ、そこに咲く桜の花を弄んで。
「桜の香りの方が良かったな」
「……わ、判った。何かの機会があればくれてやるから、気安く触るなっ」
 彼女は赤くなっているであろう顔を隠すように、慌てて横を向いた。


「月見にはいい季節ですね」
「んー」
「フローライト、聞いてますか?」
「んー」
 ジラルドの呼びかけに、だるそうに答えるフローライト。
 どうやら彼女、月と金木犀に誘われて、飲みすぎてしまったらしい。
「金木犀の香り……大好きだな。あ、そいやジルの花もそうだっけ」
「酔ってるでしょう。全く……」
 覚束ない足取りで、にへらーと笑ってそんな事を言う彼女に、ジラルドは苦笑して。
「うわわっ!?」
 不意に宙に浮く身体。抱えられたのだと判って、フローライトは慌ててジタバタする。
「大人しくしてて下さい。……僕相手だからいいようなものの、お持ち帰りされてるところですよ?」
「お持ち帰り……してみるか?」
「……やれやれ。今回は冗談と言う事にしておいてあげますよ」
 酔っ払いの奇行だ。間に受けていたら身が持たない。
 その証拠にジラルドがそう言う頃には、フローライトは腕の中で寝息を立てていた。


「ゴメンね。嫌な事思い出させたみたいで。あんな所連れてったから」
「……別にパオラのせいじゃねえよ」
 そう言うパオラから果実酒を受け取りつつ答えるシギル。
 仲間達の励ましが効き、笑うようになったものの……その表情はまだ少し硬く。
 ……荒れる理由が判る。だから、今のシギルを見るのは少し辛かった。
 彼女自身、自分の存在が害悪にしかならない――そんな思いに囚われていた頃があったから。
 彼がどこか人を拒絶しているように見えたのは、その為だったのだろう……。
「……大丈夫、許してくれる人は必ずいるから。まだ見えていないだけだから。シギルはここにいてもいいのだから」
 傷ついた赤い瞳。居た堪れなくて頭を引き寄せて肩に乗せ、そのまま頭を撫でる。
 大丈夫、大丈夫……と。どれだけくり返しただろうか。
「……シギル?」
 呼びかけに答えるのは規則正しい呼吸。
 どうやら眠ってしまったらしい彼に、パオラは溜息をついて。
「……全く。お子様と変わらないわね」
 仕方ないから、もう少しこうしててあげる……。
 少し微笑んで、彼女は肩に乗る重みにそっと声をかけた。


 少し切なくて。そしてとても幸せな時間が過ぎる。
 きっと起きたら、いつもの自分に戻るだろうから。
 もう少し。もう少しだけ。お人好しで最高な仲間達に囲まれていたい。
 彼のそんな思いも、やがて。深い眠りへと溶けて行った。


マスター:猫又ものと 紹介ページ
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冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
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参加者:26人
作成日:2005/10/13
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