かみねこ



<オープニング>


「皆さん、猫さんは好きかにゃ〜?」
 猫の耳を模したフードを頭からかぶった霊査士の言葉に、冒険者達は思わず顔を見合わせた。
「好きかにゃ〜? 好きかにゃ〜?」
「いいから、転がるのはやめろ」
 酒場の親父が慌てて起こす。なおも彼女は猫の手を模したミトンで顔を洗いながら、事件のあらましを喋り始めた。

 事件が起こったのは数日前。
 とある村への唯一の道である街道にある橋で、一人の旅人が襲われた。
 全身に擦り傷、噛み痕、引っ掻き傷。逃げるのが精一杯だったそうな。
 彼の証言と霊視の結果によると、犯人は猫。しかも約50匹。どうやら捨てられたのが増え続け、住んでいた山を下りてきたらしい。

「これをどうにかして欲しいのにゃ〜」
「けどそういうことなら、俺達が出張る必要もないんじゃないか? 数が多いとはいえ、何とでもなるだろうし」
 挙手した冒険者の言葉に、彼女はこう答える。
「ところがところが。この近くの村は、猫さんを神聖な生き物として大事にしているそうだにゃ〜。猫さんのためとはいえ、手荒な真似はしたくにゃいそうだにゃ〜」
 となると、できるだけ穏便な方法で捕獲するのが一番というわけか。確かに冒険者が向かった方が、被害が少なくて済みそうだ。
「そうそう。猫さんが同意の上ならペットにしちゃってもいいから、よろしく頼むにゃ〜」
 頭を下げて、霊査士は美味しそうにホットミルクを飲み始めるのだった。

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参加者
銖煌華婉せし慧護を薫べる蓮風・サユーユ(a00074)
猫の日広報活動中・ヨナタン(a00117)
昏深焔・アルベル(a00865)
竜翼の聖女・シノーディア(a00874)
緋天魔・ジゼル(a02976)
白百合の戦皇女・アジャンティ(a04102)
夏炉冬扇・ライハ(a04621)
ねこまっしぐら・ユギ(a04644)


<リプレイ>

●ねこぼくじょう
「ふむ、そういうことかね」
 冒険者達の話を聞いた壮年の男性はしかし、渋い顔をして腕を組んだ。
「確かにあの猫達には俺達も迷惑をこうむっているが……その提案は難しいな」
 件の橋へ向かう前に冒険者達が向かったのは、街道を少し外れたところにある村であった。
 たとえ無事に捕獲できたとしても、全ての猫を自分達で引き取れるわけがない。受け入れ先が必要なのである。そこで、多くの猫と戯れる『猫牧場』なる施設を作れば村の名物にもなるのではないかと持ち掛けてみたのだが……
「そもそもこの辺りは農村ばかりでね。旅人自体が少ないところに、そんな施設を作っても……」
 というのが村側の主張である。だが、それくらいのことでへこたれる猫魂ではなかった。
「どうしても、駄目でしょうか……?」
 深遠の闇手繰る占姫・シノーディア(a00874)に碧玉のような瞳を向けられて「うっ」と唸る男。鍾憐和魂を説きし蓮塘の導き手・サユーユ(a00074)も涙を溜めながら援護射撃をする。
「ねこさん達の為にもお願いしたいのですの〜。こ、このままでは……うぅっ」
 嘘泣きである。
 だが、相手には威力充分だったらしい。まるで白旗を上げるように大きく項垂れる。
「わ、分かったよ。とりあえず近くの連中を集めて話してみるから、まずは猫達を何とかしてくれ」
 諦めの色が滲んだ言葉に、冒険者達は笑顔を見合わせたのだった。

●ねこだらけ
 白百合の戦乙女・アジャンティ(a04102)。ドリアッドの名家の出らしい彼女の実家は、『猫屋敷』と称される程に猫だらけ――だったそうな。
 まぁ、今はそんなことはどうでもいい。問題は、目の前に不幸になろうとしている猫達がいるということ。
 いつもと変わらない表情の下で、彼女は熱い闘志を燃やしている。
 少し前から発声練習に余念が無い猫大好き紋章術士・ヨナタン(a00117)が、隣を歩く陽だまりの歌い手・フレル(a00329)を振り向いた。
「さてさて、そろそろ猫さん達のお出ましですかね。準備の程は?」
「バッチリですよ♪」
 ポロロン、とハープの音色。他にも、それぞれの手にはネコジャラシやらマタタビやら、はたまた子供の遊ぶようなボールとか――とにかくフル装備である。
「っと、俺達はここまでだな。健闘を祈る」
 荷台を引くノソリンの手綱を握っていた流天の護風・ヘリオトロープ(a00944)が足を止めた。シノーディアもその場に残り、自分達の出番を待つ。
「かーいいねこさん捨てるなんて許せないのっ!」
 頬をぷくっと膨らませたその表情は、とても年頃の娘のものには見えなくて。ストライダーの忍び・ユギ(a04644)が先を急ごうとするのを、陰影を映す刃・ジェイド(a00565)が仏頂面でたしなめる。
「そんなにはしゃいでいると、コケるぞ」
「アハハ、だいじょう――うきゅっ!」
 そんなこんなで。
 いよいよ、さして広くはない川に架けられた橋が見えてきた。

 橋の中央に立って、エルフの武人・アルベル(a00865)は頭を掻いた。
「……いないな」
 その言葉通り、橋の上は静寂そのもの。冬とはいえ晴天で日も高い。思わずうたた寝してしまいそうな陽気だ。
「いや、これは……」
 アジャンティが何かを感じて目を細めたその時だ。
 ニャー ニャー ニャー ニャー
「「――――っ!?」」
 一体どこにこれだけ隠れていたのか。冒険者達はあっという間に猫達に囲まれた。
 ドリアッドの邪竜導士・ライハ(a04621)は顔を高潮させて興奮気味に息を吐く。
「わぁ……にゃんこがいっぱいだよ〜♪」
 が。
 ギニャ ギニャ ギニャ ギニャ
「お、怒ってる!?」
「みたいだな……」
 さり気なく手を繋いだヒトの吟遊詩人・ナイチチ(a01310)と緋天魔・ジゼル(a02976)。依頼にかこつけて初デートを企てていたのだが、世の中そんなに甘くはないらしい。だが、ここが男の甲斐性を見せる時。ファイト、ジゼル!
「く、くそっ、ナイチチには指一本触れさせないぜ!」
 フギャオォォォッッ
「のわぁぁぁぁっっ」
 ビシィッ、と指差したのがいけなかったのか。数匹の猫に飛び掛かられて逃げ回るジゼル。
 一方、サユーユやヨナタンといった『獣達の歌』を使える者達は、何とか猫達を宥めようと、メロディに乗せて言葉を紡いでいた。
「もっと安全な場所がありますから、一緒に参りましょう?」
「暖かいベッドと、美味しい御飯がありますよ〜?」
『イヤにゃ!』
 答え、群れの中から歩み出たのは、一匹の年老いた猫であった。
 赤茶けた毛に、力強い漆黒の瞳。全身に線のような模様が入っているのは、傷は塞がったものの毛が生えていないからか。一目で修羅場を抜けてきたそれと分かるような、兵(つわもの)の存在感である。
 伝わってくるのは、圧倒的な敵意。
 『獣達の歌』は動物と簡単なやり取りができるだけであり、理知的な会話を可能にするわけではない。また、歌詞に盛り込める範囲では一問一答に近い形が限界である。当然、相手の気分次第では聞く耳を持ってもらえないわけで。
(「やっぱり、言葉だけで説得というのは無理だよね……」)
 ならば、実力行使あるのみである。
「もうこんな真似はやめません?」
 ヨナタンがすっ、と焼き魚を載せた皿を差し出すと、
 ニャー ニャー ニャー ニャー
 瞬く間に猫達がヨナタンの周りに群がり、焼き魚を奪い合い始める。
「あー、はいはい。大丈夫ですよ、喧嘩しなくてもまだありますから」
『……………………』
 が、リーダーは微動だにしない。
 サユーユも毛糸の玉を転がして気を引こうとするが、古株っぽい猫達はいずれも警戒心を剥き出しにして身構えていた。
 その間にも、ネコジャラシ等で誘い出された一部の猫達は、フレルやナイチチの『眠りの歌』によって眠らされ、シノーディアとヘリオトロープの待ち受ける荷台に次々と入れられていく。
 じっと何かに耐えているようにも見えるリーダー。そして――
「このままじゃ……肉かにゃ〜?」
『!?』
 ぺ天使・ヒカリ(a00382)の一言に、何かが切れた。
 フギャニャニャニャニャ!!
 空気をびりびりと震撼させる鳴き声に、残っていた猫達の動きが止まった。まるで統制された軍隊のように集まり、冒険者達の前に立ち塞がる。
 フギャォウ!
 次の瞬間、猫達は一斉に襲い掛かってきた!

 その後のことは、よく覚えていない。それぞれが猫から逃げ回るのに必至だったからだ。
 橋の上には、全身に引っ掻き傷を作った冒険者達が座り込み、周りには猫達が幸せそうな寝息を立てて転がっていた。
「死闘……だったな……」
 どこまでも高い空を見上げ、アルベルが呟く。その右手には猫が一匹、眠ったまま噛みついていた。
「いや……痛いから……」
 言葉とは裏腹に、顔には微笑みが。引っ掻き傷だらけなのであまり様にはなっていないが。
「ふゃ……眠くなったきたよ〜」
 『眠りの歌』の対象にはなっていないはずなのだが、ライハは胸元に猫を抱いたまま欠伸を漏らす。この状況だけで夢見心地らしい。ほとんど猫の中に埋もれているような格好の彼を助け出してやりながら、サユーユが膝枕をしてあげる。
「あらあら、こんなところで眠っては風邪をひいてしまいますわよ」
「でも……気持ち……いいから……」
 くぅー、と闇に沈んでいく意識。彼は結局、猫に混じって荷台に乗ることになる。
「凄かったね〜」
 起こさないようにそっと猫を運びながら、ユギがにぱっと笑う。ご多分に洩れず傷だらけだが、満喫できたので苦にはならない。荷台の中を見てふと思いつく。
「……わたしも一緒に乗ろうかなぁ」
「……駄目だ」
「あ〜ん、ジェイドさんの意地悪〜!」
 首根っこをつかまれてずりずりと引きずられていく彼女の横を、全身に猫をぶら下げたジゼルが駆け抜けていった。
「イタタタタ! 何で俺の周りの猫だけ眠らないんだよー!」
 荷台の前まで行き、腕をブンブンと振る。空中で器用にバランスを取りながら、猫達は次々と収まっていった。数を数えていたヨナタンが仲間達に告げる。
「これで全部のようだね。さ、帰ろう!」

●ねこむら
「ほぉ〜」
「へぇ〜」
「これは……」
 一度村に戻った冒険者達が教えられたのは、今回の事件で完全封鎖状態に陥っていた村の存在だった。「あそこなら猫達も幸せに暮らせるはずだ。猫伝説の総本山だからな」という男の言葉に見送られて、橋を渡る。そこで以上のような溜め息が漏れたわけだ。
 ねこ。
 ネコ。
 猫。
 建物の形から小さな看板の一つまで、どれも猫を感じさせるデザインなのだ。『総本山』と呼ばれているのも不思議ではない。アジャンティ等はいつの間にか姿を消していた。猫好きにはかなり強力なトラップだらけである。
「おやおや。もしかして、お前さん達が事件を解決してくれた冒険者かにゃ?」
 にゃ?
 声のした方向を振り向いた冒険者達は、一斉に眉をひそめた。
 猫耳ジジイ。
 そうとしか形容できない存在が立っている。
 ここで引いては猫好きの名折れ(?)。代表してヨナタンが冷や汗をかきつつ話し掛けた。
「そうなんですけど、実は――」
 冒険者達から事情を聞いた猫耳ジジイ――村長らしい――は、快く承諾してくれた。
「素晴らしいにゃ! また一つ、お猫様にいいことができるにゃ〜」
 こうして村に猫達を預け、冒険者達は村を立つことになる。この村でならば、彼等の荒んでしまった心もじきに癒されることだろう。

 ニャー
 村を出るその時。足元から聞こえた声に、シノーディアは視線を向けた。
 一匹の猫が、しきりに鳴いて足をつついている。ゆっくりと抱き上げ、彼女は語り掛けた。
「……あなたどうしたの? ……私と一緒にくる?」
ニャー
「……ベルフェール……貴方はベルフェールよ」
 そっと撫でた背中の傷。この悲しみの分だけ喜びを分かち合おうと、心に誓うシノーディアであった。


マスター:凌月八雲 紹介ページ
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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