≪六風旅団≫【六風旅団の夏】夜の海:ripple on the beach



<オープニング>


 静かな砂浜、寄せては返す波の音だけが響く。
 昼間の焼ける様な熱気は幾分和らぎ、其れでも熱せられた空気はゆるりゆるりと浜辺を流れる。
 此処はワイルドファイア。
 六風旅団の面々は其の海岸に来ていた。
 キラキラと輝く星空の下、暗くも星明りを受け輝く広い海。ゆったりとした時間が流れる。
 此処に居る理由は只一つ。
 そう、バカンスである。

 夜は大人の時間。元気に遊ぶ昼とは赴きを異にし、大人の駆け引きが始まる。かもしれない。
 そんな夜の浜辺、貴方は如何に過すだろうか。

 尚、パオファはグラスを転がしていると思われる。多分。

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参加者
灰の朔風・ヴェクレサス(a07528)
夕闇ノ剣・アリス(a10585)
赫髪の・ゼイム(a11790)
剣狼戦華・カイザー(a12898)
潮風に咲く自由のリズム・ラフィ(a14966)
疾風の双剣・ソロル(a18578)
貪欲ナル闇・ショウ(a27215)
雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)
NPC:薫風拳舞妓・パオファ(a90035)



<リプレイ>

 静かな砂浜、寄せては返す波の音だけが響く。
 昼間の焼ける様な熱気は幾分和らぎ、其れでも熱せられた空気はゆるりゆるりと浜辺を流れる。
 此処はワイルドファイア。 夜の海。
 片隅には、小さな砂の城が、建っている。

 砂を踏締める小さな音。浜辺を歩く人影。
「海は良いですね……」
 潮騒に魅せられた自由な風・ラフィ(a14966)がポツリと呟く。日が沈み、暑さが幾分和らいだ頃。彼は日中よりこの時間の方が好みだった、日の高い時間は干上がってしまいそう。
「ああ……夜の海も。海面に映り込んだ揺らめく月も美しいものだ」
 呟きに応えたのは、貪欲ナル闇・ショウ(a27215)。夜の浜辺の散歩と言うのも乙なもの。
 只あても無くゆっくりと歩を進めると、星明りだけが照らす夜の帳に誘われたのか、様々な想いが過るものだ。
「ワイルドファイアの海は……雄大だな……」
 闇色に溶け合い曖昧となった水平線に疾風の双剣・ソロル(a18578)が目を細めた。其の胸には想い人の面影が。今この時、隣に居ればと言うのは……高望みかも知れない。
「全く、海も星も綺麗な事だ」
 顔を上げ星空を眺めはするが、雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)の心は星凛祭以来付き合い始めた恋人の事ばかり。三十路を迎えた者としては、真剣に考える事がある……この想い、打ち明けるべきか明けぬべきか、明けるのならばどうやれば……慣れぬ考え答えは出ない。気付けば手は砂の城を作ってしまっていた。ちゃんと窓も刳り貫いて作っちゃったりして、妙に立派な出来。まぁ今回は良い機会、ゆっくり時間を掛けて考えればいい。
「昼夜が変わっただけで、之だけ感傷的になるのだから不思議だわ」
 そんなモノも良いと思える、夜の海。幾分和らいだとは言え、まだまだ十分な熱を持った風がゆったりと抜けて行く。
 薫風拳舞妓・パオファが言う。
「で。何で砂の城?」

 薪が爆ぜる音が響き火が煌々と照らす。
「夏だが、秋の味覚を持って来たぞ。焼いて摘みにするには丁度良いだろう」
 ショウが取り出した箱には茸や山菜がぎっしりと詰っていた。
「良し、そいつが焼けるまでに十分いけるな。じゃあ先ずはこれで景気をつけようじゃないか」
 そう言うと、灰の朔風・ヴェクレサス(a07528)が皆に小さめなグラスを配る。ジンジャー・エールと竜舌蘭の蒸留酒、テキーラを等分で割ったカクテル。テーブル代わりの木箱に打ち付けてから飲めと説明する。所謂例のスタイルな訳だが……
「ふ〜ん……変わった飲み方するのねぇ?」
 其れを知らないパオファは訝しがりながらも言われた通りにグラスの口を片手で押さえ、其の儘木箱へと――グラスを渡された時、彼が薄く笑んでいた事には気付かなかった。

 結論から言えば。
 泡が噴出す事を教えないのは確信犯であろう。

「さて、……各々酒を持って来ている様なのだから、飲み比べといこうか」
 剣狼戦華・カイザー(a12898)の言葉に促され其々が持参した物を並べて行く。彼が取り出したのは今、この時共に過している事を祝う酒、ラベルには【詠吟】と記してある。
「……俺が持って来たのは……愚鈍殺しと、ういちこと、肴に裂き烏賊……、……くぅ」
 ソロルが酒二本と、裂き烏賊を取り出す。手に取った時、彼の顔が小さく歪んだのは気の所為では無い。之はとある依頼で手に入れた品、忌わしき思い出と共に。この裂き烏賊、名を『”あの日”の思ひ出』と言うが、本人の名誉の為詳細は避けさせて頂く。
「Goda! そんな顔しないで楽しもうぜ、夜の海を満喫だ! 皆酒の趣味が渋いぜ、俺が持って来たのはユトゥルナ産の果実酒だな」
 そんなソロルの肩を陽気に叩きつつ、赫髪の・ゼイム(a11790)が色取り取りの瓶を並べて行く。
「おっと、私で持参は最後になるのかな?」
 夜の闇に溶けて行く様な真黒な衣を着た藍染ノ浮雲・アリス(a10585)が取り出すは、一本の酒と肴のチョコレート。どうやら出発前から予告していた怪しげな酒は後の楽しみ、と言う積りらしい。
「――って、このチョコも何か凄い食べたく無いのだけれど……」
 転がった一つを抓み上げ、パオファがげんなり。この『*はぁとちょこれーと*』、ハート型に成型されているのは兎も角、表に『毒入り』と書いてあるのはどう言う事か。
「何、ただの酒の肴さ。ちょっと変ってるチョコレート、だろう?」
「ちょっとて……」
「Non si occupi di! ははっ、イイじゃないかここは酒の席だ、ちょっと怪しいぐらいが丁度よいだろ」
 アリスの言葉をイマイチ信用出来ない彼女を、ゼイムが笑い飛ばす。
「もう飲み始めたんだ景気良くいこうじゃないか。何かカクテルのリクエストがあれば言ってくれ」
 小気味の良い音を立ててヴェクレサスがシェーカーを振るう。其の隣ではラフィがアコーディオンを、ゆったりと奏でていく。
「こちらも、リクエストが御座いましたらどうぞ。ただ……歌は勘弁下さいませね、少々恥しいもので」
 そう言うものの、内心は少し別な事を考えていた。皆の服装は気候の為薄着ではあるが、海に入る様な格好では無い。自分はスーツしか用意して無かったのだが、水遊びを始められたら如何し様かと不安だったのだ。杞憂に終った事に心の内でホッと息を付く。
「ここでフォークダンスって言うのも一興……何だが、流石に男女比が悪いな」
 ゼイムが残念そうに言う。男七人女二人、一人外れるとしても四組中二組は男同士のペアが出来てしまう。其れは色々と本末転倒であろう。
(「フォークダンス……いやいや考えない様に。折角の酒宴ですから日々の戦いも私の身長も……」)
 アコーディオンを弾きながらラフィは考える。もし踊る事になれば自分の身長の低さが際立ってしまって居ただろう。他の男性陣は軒並み百七十後半から百八十センチ以上。優に十五から二十センチは差がある訳だ、況してや女性陣のパオファよりも低い。今回の顔触れでは、下から二番目である。尤も、楽器は彼しか持って来て居なかった訳で、其の事に気付いていなかった訳だが。
「楽しい一夜に成りそうだな」
 そんなラフィの心を知ってか知らずか、皆を見渡してユダは微笑んだ。

「――と、もうこれも空か。貴様らの様な飲兵衛にはカクテルは軽過ぎたか」
 拾い上げた瓶を軽く振るも、ヴェクレサスに返る手応えは軽い物。
「よしパオファ、これはどうよ?」
 アリスが品薄に成って来た所でとうとう御椀を取り出した。中に入っているのは茶褐色した不透明な液体、そしてどう好意的解釈しても具材にしか見えない物質がプカプカ浮いている。
「之が、例の……うぅ」
 パオファが顔を顰めるのも無理はあるまい。御椀に入った其れは、どう見てもミソペーストを溶かしたミソスープだ。しかし名は『味噌汁?』である。之で八割がアルコールと言うのだから……
「……絶対間違ってるわ」
「なぁに、応急手当は持っているから、気にせず行こう」
「応急手当が必要に成る事前提なのッ!?」
「適用されるかはさておき」
「ちょ……ッ、さておかないで!!」
「まぁまぁ。騙されたと思って」
「……アリス、無理強いは良くないぞ」
 流石に見兼ねたユダが止めに入る。が、特異な物、奇異な物は興味そそられるのが人の性。
「それは……美味いのか?」
 寡黙なソロルが津々と見詰めている。
 まぁ、少しだけなら……
「……ま、まぁ一口だけなら、かな」
 結局パオファも好奇心には克てなかった様子。ユダが止めとけ如何なっても知らんと言わんばかりの表情を浮べ、其の後ろではカイザーがそそくさと避難を開始している。

 で、やはり結論から言えば。
 突っ伏したパオファの脇では、背を向けたソロルが口を押さえ震えていたりした。

「……星が、これだけ見えるのか」
 篝火の光から少々離れた薄暗い岩場にカイザーは居た。騒がし過ぎるのは得意ではない。其れに何より『味噌汁?』と言う酒から逃れたかったのだ。
「ふぅ……月星の美しさは遠き昔から変らぬか」
 息を吐く。地は古より争いを繰り返し、幾星霜経てども血臭薄まる事を知らぬと言うに、天の何と清き事か。気がつけば自分は冒険者へと身を投じ、何時死ぬとも判らぬ因果な運命を行くとしても、最期がこの様な満点の星の下ならば、悪くは……
「……ああ、そんな事を考えに来たのでは無かったが、どうも一人で居ると……だな」
 軽く頭を振り手に持った杯をがぶりと呷る。星と、波の音を肴に手酌の一人酒。

「さて……しゃぁない、こいつの出番だな」
 満を持してヴェクレサスが取り出す一本の瓶。最後の切り札。無色透明の液体で満たされており、見た目は只のスピリッツ。だが之はアルコール度数実に九十六度と言う、限り無く純粋なアルコールに近い有名なウォッカである。
「ベースにしようと持って来たのだが……貴様ら、ストレートで飲んでみるか?」
「……ふむ、ならばもらおう……」
 邪な笑みを浮べる彼から、ソロルが杯を受け取る。後学の為と、持ち寄られた酒は全て味を見させてもらう積りだった。
 星明り映す鏡面に口を付け、一啜り。
「んん……キツイ、が……これはこれで……美味いな」
「何てこった、ソロル……普通に飲んでくれるとはな」
 然程顔色を変えずに飲んでしまった彼に目を見張る、ヴェクレサスが驚きの声を上げた。
「む……? 確かに、キツイ酒だったが……」
 周りの反応に、首を傾げ。其れも其の筈、彼が持って来た『愚鈍殺し』、良く見ると九十五度と記してある負けず劣らず強烈な一品だったのだ。
「はははッ! こりゃぁいいっ、これ程までの飲兵衛ばかりとは」
 顔に手を当て、歯を剥いてヴェクレサスが楽しげに笑った。取って置いた椰子の実を割り果汁を搾る。
「流石に想定外だ、面白いトコトンまで行こうじゃないか」
 にやりと、再びシェーカーを振るい始めた。

「Piacevole♪ 楽しんでるかぁい? 駄目だナァもっと飲まなきゃ!」
 更に酒宴は進む。ゼイムは始終テンションの高く、グラス片手に絡んでいる。
「全く……ゼイムは賑やかだな」
 半ば押す様に渡されたグラスを受け取り、ショウが苦笑う。どうも、妙に飲まそうとされている気がして成らないのだが……
「ほらほら、ソロルも飲めって、なっ」
「いや……そう急かさなくても……大丈夫だ、……飲んでいるぞ」
 同じ様に飲まそうとしているが、其処は限度を知る大人のソロル、自分のペースを崩さない。
「Sgradevole、面白くないぜ御前さん達。普段お硬いのだから俺が折角酔わせて、猫耳カチューシャでも付けてあげようと思ってたのによっ」
 ふぅやれやれとでも言いたげな顔で首を振りそっぽを向く、手には何時の間にか言葉通りカチューシャが握られていた。この男、今回最年長だが心は誰よりも若いらしい。
「ゼイム様は、本当愉快な方で御座いますね」
 そんな様子にラフィがくすりと笑みを零す。
「年長者だから静かに飲めるかと思ったが……まぁこう言うのもありなのかも知れんな」
「何、巷の騒がしさに比べたらこれぐらい大した事は無いだろうさ」
 苦笑いを浮べ其の背を眺めたユダの隣に、ショウが腰を下ろす。まだまだ夜は長いのだ。
「パオファ、飲んでるかぁ〜〜い?」
「こらちょっとゼイムッ、抱き付かないでよ! ……酔ってる?」
 相変わらずに、グラス片手に次へ絡んで行く。
「どうだろうなぁっ? おや……そう言えばアリスの奴は何処に行ったんだ?」
「え、さっきちょっと散歩に行ってくるって言ってたけど? ――て、ちょっと人の頭に何乗せてるのよ、何之ェ?」
 態とらしく撓垂れ掛り手にした物を彼女の頭に嵌めてやる。
「猫耳さ! まッ、俺もちょっと散歩行って来ようかね〜」
「全く……、少しは風に当って酔い覚ましなさいよッ」
「あぁ、わかってるさ。綺麗ななお姉さんと、だけどなッ★」
 そう言うと、振り返らずグラスを軽く掲げ闇の帳へ消えて行った。

「さて、海を見に来たは良いが……、と」
 星光りを仄かに返す薄暗い夜の海。波打ち際に立つアリス。
 理由なぞ在りはしない只の散歩。強いて言えば、したかったから。
「海を見れば、何か思い付くかと思ったのだが……」
 夜は心を映すと言う。
 揺れる波は、正に揺れる闇。心に蟠るモノ。
 幼き頃、心を満たしていた黒。何も無いと言う色。
 星が、月が、夜を払う様に。あの方が払ってくれた。
 其の一欠片。名残り。
 けれど、消えない闇。
「過去に振り回される……か」
 心に打たれた杭は、後幾つ在るのだろう。
 愚か、幼い。人にはどう映るだろう。
「ふぅ……こんな星空では、自分が小さく思えてしまう。やめだやめだ――戻るとしようか」
 そんな姿は――仲間には見せられない。

「静かに成って来たな。やっと大人の時間……と、言った所か」
 杯を傾けたショウが、ゆっくりと息を吐く。
「そう言えば……折角来たのだ、友人に……ワイルドファイアの酒を持って帰ってやりたいと……思うのだが、どうだろう……?」
 暗い空を眺めるソロルの顔は、酔いの所為か、薄っすらと赤らんでいた。
「御土産か。それはいい、俺も何か探してみるかな」
「ソロル様、ショウ様が御土産を探されるなら、その時自分もお供させて宜しいで御座いますか?」
 小さな金属のボトル、ポケットウィスキーをラフィが呷る。今はアコーディオンを弾く手を休め、皆と語らいに興じていた。
「……ああ、やはり随分楽しんでいる様だな」
「カイザー、海風にでも当ってきたのか?」
「まぁ、そんな所だ」
 ふらりと、戻ってきた彼をユダが出迎え、流れる動作でグラスを差し出す。
「済まないな。……そうだラフィ、何か一曲頼んでも良いだろうか?」
 何の疑問も無くグラスを受け取ると、傍で飲む彼に声を掛ける。
「はいはい、宜しゅう御座いますよ! さて、どの様な曲に致しましょうか?」
「そうだな……いや、任せよう。好きな曲を弾いてくれ」
「へっ? 好きな曲に御座いますか……ふむ」
 一瞬、考え込み――
「――では」

 蛇腹を歪ませ、鍵の上を指が滑る。奔る空気が金属片――リードを震わせ、アコーディオンが高らかと歌う。
 旋律は高く低く、緩やかに静かに流れて、夜の闇に溶けていく。

「良い曲だ……。いつかまた、……来れるだろうか」
 限りの見えない闇の海を瞳に映し、カイザーが呟いた。
「――ああ、また来れるさ。いつかな」
 そんな呟きを背後から拾う声。
「……て、アリス。何時の間に帰ってきてたの?」
「何、気にするな。――と、カイザー、少し貰うな」
 ぱたぱたと手を振りながら、彼の手の中のグラスをひょいと取り上げ喉を潤す。
「そうか、……そうだな」
 彼女の言葉に、彼は頷く。

 少し、皆から離れた所。
「静かな夜に静かな歌、か。良いものだな……」
 遠くにアコーディオンの歌を聞きながら、ヴェクレサスは夜空を眺める。

 音色は夜空に溶けて消え、漣だけが満たす砂浜……
 小さな砂の城が、ゆっくりと、波に攫われて行った……


マスター:新井木絵流乃 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2005/11/10
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