ピルグリムワーム追討戦:根ざす脅威



<オープニング>


●ピルグリムワーム追討戦
 2ヶ月ほど前、グドン地域周辺で確認された強力なグドンは、その形態からピルグリムグドンと名付けられ同盟諸国にとって大きな脅威であると認識された。
 この問題についての情報を集めるためグドン地域強行探索部隊が結成され、1ヶ月の苦難の探索行の末、この新たなグドンの発生の理由と思われるギガンティックピルグリムの居場所を特定する事に成功した。

 この情報を受けて行われた大作戦『グドン地域掃討戦』では、少なからぬ犠牲を払いつつも、冒険者達はギガンティックピルグリムを滅ぼしたのだった。

 しかし、これで全てが終わった訳では無い。
 ギガンティックピルグリムを護衛していたピルグリムワーム達は主を失った後、グドン地域の森へと離散していったのだから。

※※※※

「みんな、グドン地域掃討戦お疲れ様。ギガンティックピルグリムが滅びた事で、最悪の事態は回避できたと思うわ」
 リゼルはそう言うと、集った冒険者達に、グドン地域の地図を広げて見せた。
 この地図は、グドン地域掃討戦に参加した冒険者からの情報で作られたものらしい。

「早速だけど本題に入るわね。離散したピルグリムワームなんだけど、霊視してみたら、ちょっと異常が出ているみたいなの。
 ギガンティックピルグリムを倒した後に降った白い雨の影響みたいなんだけど、一体一体がかなり弱っているようよ」
 白い雨に触れたピルグリムワームの中には、溶けて回復不能の傷を被っているものが多いという。
「これが一時的なものかどうかは判らないのだけど、討伐するなら今がチャンスだと思うわ」
 ピルグリムには『強力な個体に従う』という特性があり、ピルグリムワームのような強力な個体を残せば、それを核として再び大規模な群れを作り出すかもしれない。

「霊視で発見したピルグリムワームについては、それぞれ担当の霊査士が説明するわ。中には、ピルグリムやピルグリムグドンを護衛に引き連れてるのもいるらしいから注意するのよ」

 そう言ったリゼルは最後に、こう付け加えた。

「弱っているといってもピルグリムワームは強力な敵よ。決して油断しないでね」と。

●根ざす脅威
「一体のピルグリムワームを発見した。皆に対処してもらいたい」
 生真面目霊査士・ルーイは、酒場の冒険者達を見渡すと、そう切り出した。
「起伏にとんだ岩場に、ピルグリムワームの姿を見た。このピルグリムワームは足の大半が溶けており、移動力は無いに等しい。が、その反面身体のダメージは少なく、息の根を止めるには相当な攻撃を加えなければならないと予想される」
 ルーイはそこで一度言葉を切る。
「足がないため、バランスが悪く、攻撃精度も低いようだが、攻撃力自体は驚異的だ。その辺りは注意して欲しい」
「辺りは不毛の岩場で、ターゲットは足がない。すぐに脅威となる可能性は低いだろうが、放っておいて良い訳はない。すまないがよろしく頼む」
 ルーイはそう言うと最後に、深々と頭を下げた。

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参加者
黒劒・リエル(a05292)
蒼冷姫華・クリスト(a17149)
閃紅の稲妻・アズマ(a17378)
蒼月の浮雲・ティラム(a26060)
風姿花伝・アレン(a28561)
灰暗の徒・セドナ(a30181)
桜にとまりし蝶に焦がれる狩人・アイリ(a31666)
独裁者の庭園・ジニー(a34782)


<リプレイ>

●戦前
 まるで世界そのものが枯渇してしまったのではないか。そう錯覚するほど、見渡す限り荒野が広がっていた。
「あれは……」
 幸緑と共に歩む事を望む狩人・アイリ(a31666)が斜め前方に奇妙な小山を見つけた。
 偶然、其方のほうから吹いてきた風が、臭気を運ぶ。無条件で嘔吐を誘う臭いだ。
「グドンの、死体?」
 ティラムが驚きの意を乗せた声を発する。
 先の殲滅戦のおり、同盟の冒険者によって殺されたグドンたちの死体だ。何匹ぶんか、一見しただけでは想像もつかない。このような肉山は、おそらくここだけではない。
 見ていても、気持ちの良いものではない。一行は、早足に先を急ぐ。霊査士の情報が正しければ、この先に見えてくるはずだが。
 ピルグリムワームは巨大だが、これだけ地形が起伏飛んでいると、陰に隠れている可能性もある。冒険者たちは慎重に辺りを見渡した。

●開戦
「……いた!」
 黒劒・リエル(a05292)が小さく鋭い声を上げる。
 岩影の向こうに、ピルグリムワームの白い巨体がその姿を現す。
「何度見ても……気持ち悪いなぁ……」
 顔をしかめながらもアイリは、素早く辺りの地形を見渡す。と、ちょうどいい高台を見つけたアイリは、足音を殺し登っていった。
 アイリが見下ろすと、位置関係が見て取れる。冒険者たちは今ピルグリムワーム側面に位置している。
 アイリは高台の上からジェスチャーで皆に、回り込む方向を指示した。
 息を殺し、慎重に回り込む。起伏のとんだ地形が幸いし、多少遠回りすれば見つからずに回り込める。
 巡礼騎士・ジニー(a34782)は、自分を含めた前衛四人に「鎧聖降臨」を付与した。
 準備は整った。
「『alia』。アレが前、君も対峙したピルワームさ。……絶対消さないといけない存在だよ」
 蒼ク冷タイ月華美妓・クリスト(a17149)は愛用の鋼糸の収まった指輪を口元に重ね、薄く笑った。
 リエル、クリスト、ティラム、ジニーの四名は、タイミングを合わせ、一気に襲いかかった。
 背後の物音に気づいたピルグリムワームがその巨体をくねらせる。
「危ない! そっち向くよ!」
 向き直ろうとするピルグリムワームの頭部を、アイリの「貫き通す矢」が打ち抜く。
 ピルグリムワームが動きを止めた一瞬、その間にリエルたちは接近を果たした。
「はっ!」
 電を纏うリエルの刃が、
「煌びやかってどういうのか見せてあげる」
 優雅な笑みを浮かべるクリストの鋼糸が、
「いくよっ!!」
 至近距離から放たれるティラムの掌撃が、
「行きます!」
 そして籠手で固めたジニーの拳打が、同時にピルグリムワームの巨体を討つ。
「!?」
 前衛四人に、わずかな同様が走った。手応えがない。いや、ないわけではないのだが、まるで、巨大な泥の人形を相手にしているような……。
 と、ピルグリムワーム身体を縦に持ち上げ、そのまま後方に倒れてきた。
「散開!」
 ジニーの警告の直後、前衛の四人は素早く落下点から避難する。
「くっ!」
 激震なみの振動と共に、辺りには土煙が巻き上がる。
 土煙の中、体勢を崩した前衛に、ピルグリムワームはゆっくりを頭を擡げる。
 後衛に控えていた絆紡ぎし雷紅の守護狐・アズマ(a17378)と、水面に歪む銀の月・セドナ(a30181)にはそれが見て取れた。
「風刃よ、我が前の敵を切り裂け!」
 アズマの放つソニックウェーブがピルグリムワームを直撃する。わずかにひるんだと所に、
「業火、増幅、焼き尽くせ!」
「紋章筆記」によっって増幅された、セドナの「エンブレムノヴァ」が擡げたピルグリムの頭部を焼き尽くす。
 土煙が静まったそこには、目立った外傷もないピルグリムワームの姿があった。
「無傷?」
 誰ともなく驚愕の声が挙がる。違う、ダメージはいっている。ただ、あまりに高いタフネスに与えるダメージが低すぎるだけだ。
 冒険者たちは、長期戦になることを確信した。

●激戦
 ピルグリムワーム攻撃は極めて単調だった。首を擡げての薙ぎ払い。身体を縮めての突進。そのどちらかだ。直接攻撃を受けたものはまだ、誰もいない。しかし、えぐられる岩盤の欠片が、石礫となり、前衛の四人に細かい裂傷を作る。
 わずかな傷が、時には勝敗の行方を左右する。
「癒しの波動を」
 蒼昊の隻影・アレン(a28561)の「ヒーリングウェーブ」が冒険者たちを包み込む。わずかな切り傷はアッという間に癒された。
 何度目になるか、ピルグリムワームはぐっと頭を擡げた。
「くるっ!」
 ジニーの警告に、正面に立っていたリエルは、すぐさま横の岩影に身を隠した。
 ピルグリムワームの薙ぎ払い攻撃は、リエルが盾にした岩を砕き、止まった。
「地の利を身につけたほうが勝ち……ってね」
 リエルは小さく笑った。
 その隙に、ティラムが隣接を果たす。
「このっ……!」
 ティラムは強引に、ピルグリムワームに「剛毅投げ」をかけた。
 攻撃を受けたピルグリムワームは不愉快そうに身体をくねらせる。
「ぐっ!」
 巻き込まれたティラムの身体が人形のように吹き飛んだ。
「まだ、これくらいで!」
 口の中に鉄の味を感じながら、立ち上がろうとするティラムに、ピルグリムワームは追撃を加えんと頭を擡げる。
「危ない!」
 とっさに、リエルが大盾をもってティラムを庇った。
「ぐっ!」
 リエルの肩に大地が砕けそうなほどの重圧が掛かる。
「ボクは負ける訳にはいかないんだよっ!」
 アイリの援護射撃を受けている間に、ティラムとリエルはどうにかそこから抜け出した。
「ティラムさん、癒しを!」
 すぐにアレンのヒーリングウェーブが飛ぶ。しかし、ティラム全身を縛るズンとしたダメージは抜けきらなかった。
「燃え尽きろ!」
「さあ、いくよ」
 セドナの「エンブレムノヴァ」とクリストの「ゴージャス斬り」がピルグリムワームを捕らえる。
「ティラムさん?」
 後方からアレンの気遣うような声が聞こえるが、ティラムは気丈にも首を横に振った。
「まだ大丈夫!」
 今前線から下がるわけには行かない。ピルグリムワームの生命力は、まだ全くそのそこを見せていなかった。

●終戦
「しつっこい!」
 舌打ちしたい気持ちでリエルが思わずそう漏らす。
 アビリティももう残り少ない。それでもピルグリムワームはまだ、変わらぬ動きを見せていた。
「貫け! 魔刃穿!」
「ソニックウェーブ」を使い果たしたアズマも接近戦を挑んでいる。「鎧聖降臨」を受けていないアズマがピルグリムワーム攻撃を受ければ只では済まされない。アズマは、クリストら、「鎧聖降臨」を受けているものの背後に隠れるようにしながら、戦っていた。
「紅い薔薇をまき散らして……冥府の旅路につき給え」
「ゴージャス斬り」を使い果たしたクリストは、「薔薇の剣戟」に切り替えている。それとて、残りは少ない。
 ピルグリムワームの攻撃は威力は高いが、雑で回避は比較的容易だ。それでも、この延々と続く長時間の戦闘は、次第に冒険者たちの心を暗く削っていた。
 ピルグリムワームが大きく首を擡げる。薙ぎ払い攻撃だ。既に辺りに盾となる岩影はなかった。とっくに全て、ピルグリムワームがうち砕いている。
「これで、ラスト!」
 少しでも回避の時間を稼ごうと、アイリが最後の「貫き通す矢」を放った。
 どうにか薙ぎ払い攻撃を避けた、冒険者たちであったが、流石に息が上がっている。
 最初から攻撃用のアビリティを持ってきていないジニーは黙々とナックルをピルグリムワームに叩きつけ続けている。防御力はそう高くない。通常攻撃でもある程度ダメージは与えられる。
「まだまだっ!」
 一番攻撃を多く喰らっているティラムは、笑い出す膝を叱りつけ、さらなる攻撃に移ろうとしていた。
 だが、流石にこれ以上は危険だ。
「無理はしないで……。とりあえず一旦下がるよ……」
 アレンはピルグリムワームの隙を見て、ティラムを後ろの下がらせた。
「もう! しぶといなぁ!」
 アイリが苛立つように弓矢を討つ。
 アイリだけではない。もう既に、全員攻撃アビリティは残っていなかった。
 それぞれ愛用の武器を手に、攻撃を加える。「撤退」その二文字がアマをよぎりだした頃、
「あっ!?」
 アズマの剣戟を受けたピルグリムワームが、フラリとよろける。
 ピルグリムワームも限界が近いのだ。
 冒険者たちは俄然、勢いづいた。
「さあ、とっとと肉詰めのずた袋になってもらいましょうかっ」
 リエルの刀が、頭部をえぐる。
「そろそろ、倒れてくれないかい?」
 クリストの鋼糸が傷口をえぐる。
「はっ、これで!」
 ジニーのナックルが叩き込まれる。ついに、ピルグリムワームはその活動を完全に呈したのであった。

「終わった……のか? 随分としぶとい奴だったな」
 重傷を負ったティラムの治療をしながら見守っていたアレンが、フウと息を吐いた。
「やっと……終わったんだね……」
 戦闘終了を確信したアイリも、弓を担いだまま、高台から降りてくる。
「お疲れさまでした。もう……これで最後であって欲しいね……」
 アイリの言葉に、皆一様に頷いた。

●戦後
「……生存競争に綺麗事もないね。謝らないし悼まないし同情もしないよ」
 リエルはピルぐるリムワームの死体を見下ろしながら、そう呟いた。
「これが手向けになるなんて……思ってないさ」
 クリストはいつもの笑みを納めて、空を見上げる。死者への思いを募らせながら。
「白い雨が降った時点で、お前たちピルグリムはこの世界にいてはいけない存在だったということさ……」
 アズマが意味深な言葉を吐いた。
 どうにか呼吸を整えた一同は、帰りの準備を始める。
「……他のところも……みんな無事だと良いけど……」
 ふと思い出したように、アイリがそう言った。そう、ピルグリムワーム退治に向かったのは自分たちだけはない。
 仲間、家族、そして恋人。冒険者たちは余所で死闘を繰り広げているであろう同胞たちの幸運を祈りながら、帰路へと付いた。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
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作成日:2005/10/25
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