＜リプレイ＞
（「…８匹のピルグリムグドン…そしてピルグリムワームか」）
悠悠自適黒犬・レイ（a25187）は、はるか頂（いただき）を見る。鉛色の空、冷たい風。
レイは思う。
（「なんなんだろ、この気持ち。すっげー寂しい」）
インクの滲（し）みのように、感情が心にひろがっていった。
レイは知っている。これまでの戦い、あまりに多くの命が失われた。この戦いも厳しい。結集した冒険者たちに、被害がでないとは限らない。しかし戦わなければならないのだ。奪われた命のためにも。これ以上の不幸をなくすためにも。
「よしっ！ …いくか」
レイは自分の頬をパンと打ち、迷いをふりはらった。
勝つ、そして生き延びてみせる。
ここは敵に発見されないぎりぎりの距離だ。
「予想はしていましたが、かなりの急斜面ですね」
丘を見上げ、食客・ワシリー（a23245）はつぶやく。
「攻めるは難く、護るは易し……この窮地、跳ね返してこその冒険者ってもんでござろうて」
彼に応じたのは、挙動不審・ドラゴ（a02388）だ。彼の利発な目は、地盤の固そうなところを検分している。ドラゴはつづけて、
「ワシリー殿、拙者らが頂上にたどりつけるかどうかは、貴殿らにかかっている……よろしくお願いするでござる」
「ええ、全力を尽くすつもりです。ですが危険なのは、まっさきに敵のただなかに入るドラゴさんたちですよ。くれぐれも、お気をつけて」
冒険者たちは囮と先行の二班にわかれ、囮班が敵をひきつけ、先行班がその隙に頂上に進入するという策なのだ。単純な作戦のようだが敵は強力、非常な危険をともなう。
「囮と先行……お互い、かなりの困難が予想されますね」
蒼然たる使徒・リスト（a01692）が言い、これに、聖魔に選ばれた紅き魂の剣士・レツヤ（a12580）がこたえる。
「ああ、だが負ける気はしないぜ。このメンバーならな」
レツヤは仲間たちを見回した。いずれも歴戦の勇者たち、えりすぐりといっていい。
「わたくしたちは囮班、リスト様は先行班ですわね」
蒼翠の歌姫・アクアローズ（a22521）は、おっとりとした笑みで言った。
「頂上でお会いしましょう、ね？」
「ああ、頂上で会おう」
嵐と共に・ヴィナ（a09787）が繰り返す。
頂上で会おう、これが彼らの合い言葉になった。口に出す者、出さずとも思う者、さまざまだが想いは同じ。
「では行くとしましょうか……ご武運を！」
蒼翠弓・ハジ（a26881）が叫ぶ。
この声をきっかけに、冒険者十三人、それぞれの思いを胸に、駆ける。
目指すは心臓やぶりの丘！ その頂！
敵の反撃は早かった。すぐに矢の洗礼が冒険者たちを襲う。それも、数に任せた乱雑な攻撃ではない。一矢、一矢、確実に当ててくる。
まず突出した集団は、囮班だった。
「決着…つけよぉやないの。…覚悟しぃ」
風雅の如し舞姫・ヴィオラ（a31688）は普段、微笑をたやすことはないのだが、今日はまったく笑みをみせない。ヴィオラはストリームフィールド奥義を発動し、戦場に矢返しの風を生じさせる。
「落石です！」
流離う風影・カイサ（a23700）の、ややハスキーな声が急を告げた。
ゴッ……
カイサの体重の倍はありそうな巨岩が、バウンドして飛びかかってくる。
カイサは冷静に己（おの）が力量を判断し、行動した。
「……斬鉄蹴に……斬れぬものなど…………殆ど…無いのです……」
閃光とともに、カイサの脚が岩を両断する。さらにカイサはスーパースポットライトを発動し、ますます敵の注意を集める。
「…代紋と、私の矜持に、懸けて……囮は任されて、よ」
他の囮班メンバーも、敵の攻撃をひきつけるべく奮闘する。
「走るのは大得意なので任せておくのにゃ！」
先行班、ごはんが大好き・キララ（a25679）は、まさしく山猫のように駆けた。しかし猛進ではない。心臓やぶりの急傾斜の、足場を選んで効率よく登る。
「ようは登りきるまでだ…」
彼方を眺めるは・ジエン（a08368）、彼は軽装で斜面に挑む。たしかに駆け登るには苦しい道のりだ。
うなりをあげて矢がジエンの頬をかすめた。血がにじむ。敵はけっして、囮班にのみこだわってはいない。つぎの瞬間、肩に鋭い痛みを感じる。矢が刺さっていた。
「……」
一気に矢をひきぬく。足はとめない。長身のジエンは的（まと）にしやすいというのか、容赦のない矢がさらにつづく。
「この程度……」
身を隠すのは他の仲間に任せる、と、ジエンはあえて矢のただなかをまっすぐに駆けた！ 狙うなら狙うがいい、その分味方への攻撃が減る。
いくつかの矢は突き刺さり、それより多くが身をかすめた。
そして眉間を狙う矢！
だが致命的になると思われた一矢は、金属音をたて、放った敵へと反射された。
盾でこれをはじきかえしたのは、とっさにジエンの前に出たヴィナだった。
「誰も…死なせないから！」
「ヴィナ…」
ヴィナの目は、無茶をするなと言っていた。
「いっしょに行こう、頂上へ！」
ヴィナは叫ぶと、さらに盾をかまえ、前に出る。
「ああ、行こう。頂上へ……」
ジエンはつづいた。
「怪我は私が癒します」
花色月護・マサキが追いつくと、息を切らしながらヒーリングウェイブをつかう。
囮班は最悪の事態にそなえた。ワシリーが気づいたのだ。
「ワームです！ こっちを見ている！」
移動力のほとんどを喪失した怪物だが、動けないわけではない。苦しそうにもがきながらその顔……強酸性の液体や粘着性のある糸を吐く顔を、囮班の冒険者たちに向けたのである。
「…さらに、あの岩……」
カイサのこめかみを汗がつたわった。ピルグリムグドン二体が協力して、大型動物ほどある岩をこちらに転がそうとしている！
「さすがにあの岩は跳ね返せねえか」
囮班の盾をかってでたレツヤだが、ダメージは蓄積しつつあり、楽な状態ではない。
「こちらが苦しいときは敵も苦しいといいます……しのぎきりましょう！」
アクアローズはなんとか仲間においつきながら、回復で囮班を助けていた。息は切れかけているが気丈にふるまう。
「みんな、いっくよー！」
速度が明暗を分けるは確実、レイはチキンスピード奥義をかけ味方の行動を早めた。
ヴィオラはストリームフィールドを再発させながら、頭上を指す。
「大岩がきますえ！」
地響きをあげ、斜面をくだきながら岩が転がってきた。空を覆いつくすほど大きく見える。
さらに矢も降りそそぐ。
そしてワームは、口を向けた。
（「岩の軌道は……」）
ハジは岩の軌道に注目した。……岩、矢、ワームの攻撃、この三つすべてを一気に回避する手はなさそうだ。ならばいまの最優先は巨岩！ 走り方に気をつけていたので、頭に酸素は充分いっており冴えきっている。
「右で一度……跳ねる！ 危ない！」
ハジは跳び、その手でとっさにワシリーの腰のロープをひいた。ワシリーは数歩後退する。
その瞬間だった。
グォン、と重い音を立て、大きくバウンドした岩が、さいぜんまでワシリーのいた場所をしたたかに打ち下方に転がっていった。
「ハジさんっ！」
しかしワシリーの声は悲壮に染まっている！
「えっ！」
一瞬、ハジはなにがおこったのかわからなかった。だが直後、焼けつくような痛みが全身に走った。体が燃えるようだ！
「……っ」
失われつつある意識が、酸を身に浴びたことをつげていた。ハジは痛みで朦朧としながら、
「……だめ……です、動くのをとめてはいけない……まだ……」
仲間に、来るな、と意思を示した。いまここでとまれば敵の餌食だ。
「やりやがったな！」
レツヤは叫ぶや、追い討ちをかけるように降りそそぐ岩や矢をものともせず斜面を駆けのぼる。
「レツヤはん、ストリームフィールドの範囲からでてしまいますえ！」
ヴィオラが呼ぶがレツヤは止まらない。
「助けに……いけない」
カイサもレツヤの危険がわかるのだが、岩と矢、それにワームの猛攻はつづいており、ほとんど動けないのだ。
だがレツヤの疾走は意図あってのものだった！ 彼は眼前に鋭い一矢がくるのを見ると
「待ってたぜ！ これをな！」
まさに神速の業、レツヤは矢返しの剣風とともに、これを剣で閃ぐ。矢はまっすぐに跳ね返り射手を貫いた！
「これで終わりと思うなよ！ ハジの痛みは数倍にして返す！」
その宣言が終わるのとつづけざまに、
「到着ーーーっ！」
キララによる、元気な宣言が響き渡った。
そう、それは囮班が待ち続けていた声。
先行班が頂上にたどり着いたのだ。
ジエンは名無しの大剣を抜く。斜面をかけながらためこんでいたフラストレーション、爆発させるときがきたようだ。
「暴れんぜ…」
挨拶よろしく、ピルグリムグドンにまず一発！ すさまじい叫びをあげ、ピルグリムグドンは弓矢を取り落とした。いや、その腕そのものが、ジエンの爆砕拳により叩き落とされていた。
「拙者の蜘蛛糸の味、いかがでござったかな？」
にっ、と笑ってドラゴは、目の前でもがくピルグリムグドンに声をかけた。登頂の途中でドラゴは粘り蜘蛛糸をはなち、この射手を行動不能にしていたのだ。
だが敵もただものではない。すぐに反撃の姿勢に変わる。
「回復はまだ持ちます、囮班のみなさんも、早く！」
リストが叫ぶ。つづいてマサキも、息を荒げながら頂上に到着した。
ヴィナは戦いながら仲間に、そして自分に宣言する。
「…なんとしても終わらせます！ このピルグリム戦争を！」
先行班がここでとった作戦は、大いに効果をあげた。
すなわち、めいめい勝手に戦うのではなく、あくまで囮班が追いつくまでの時間稼ぎをおこなうという策である。
「蝶のように舞うのにゃ」
なかでもキララは、この作戦をもっとも理解しているといってよかった。ライクアフェザーで軽やかに敵の目をくらませ、ゴージャス斬りで派手な音をたて、敵の注意をそらす。リストもニードルスピアで援護する。
敵、それもワームの視線がそちらに向いたとき、
「近道させてもらうぜ！」
囮班のレツヤはチェインシュートを頂上付近の地面に刺し、引き寄せられる勢いを利用して一気に頂上へ跳んだ。
「ぎゃー！ …当たったらどうするんだー！」
敵の攻撃をオーバーアクションでかわしながら、レイがつづいて到達した。
「私たちも！」
つづけてワシリー、カイサも到着する。
（「回復はお任せ下さいませ。絶対に、歌を止める事は致しません」）
高らかな凱歌を歌いつつ、アクアローズも援護にまわった。アクアは、彼女にとって大切な人から武器を借りてここにきている。武器は、「きっと無事に還る」との、約束を込めたお守りだ。こんなところでは……死なない！
「しっかりしておくれやす」
ぐったりするハジを抱きおこしながら、ヴィオラも彼らを追った。不規則ながらハジには呼吸があり、彼女の言葉に応答する程度には意識もある。
接近戦用の装備のほとんどないピルグリムグドンにたいしては、冒険者は有利な立場であった。だが、
「さすが大物の貫禄ってやつか…」
ワームに対峙しながら、ジエンは背筋に寒いものを感じていた。これで弱っているのだというからすさまじい。ピルグリムワームからは、邪悪で危険な「気」のようなものがたちのぼっている。
ワームは、びゃっ、と酸の液を吐いた。
「おっと！」
ワシリーはこれをマントで受けたが、ただの一度でマントはボロボロになってしまう。
「こやつ、これだけ負傷しながら……敵ながらあっぱれでござるな」
ドラゴは飛燕連撃を放ちつつ、敵の生命力に舌を巻いた。
「やつは足がない、ヒット＆アウェイで行こうぜ！」
レツヤが叫ぶ。ジエン、ワシリー、ドラゴはうなずき、四方から攻めたてた。ぴったりあったその連携に、さしものワームもじょじょに弱っていく。
状況の不利を悟ったか、ピルグリムグドンたちは死にものぐるいの抵抗をみせた。
「く！」
小刀では防ぎきれなかった。胸にまともに岩の塊をぶつけられ、ヴィナは咳き込んだ。びしっ、という音が聞こえた――肋骨がやられたらしい。背中から倒れる。息に血の味が、まじる。
「ヴィナさん！」
駆けよろうとするカイサに、平気、という意味で手を振って、
「彼らも必死なだけ……私のことはいいから」
立ちあがろうとして、ヴィナはすとんと腰を落とした……立てない！
岩を投げたグドンはレイが仕留めた。どさっ、と倒れたグドンの目と、ヴィナの目があった。
ヴィナは心で語りかけた。
（「貴方たちはただ自らの種族のみの存続だけを目指したんだよね…、でもそれだけじゃ…ダメなんだよ。共存の道を進まないと…」）
グドンの目は静かに閉じていく。それを見つめるヴィナのまぶたも沈んでゆく。
薄れゆく意識のなか、ヴィナは思った。
（「だって、そうしないと……この世界は過酷過ぎる……から……ね…」）
「そろそろケリと、させてもらおうぜ！」
この短い時間で受けた多数の打撲と傷が悲鳴をあげるが、レツヤは退かない。剣を鞘に収め、大きく踏みだす。そして電刃居合い斬り！ 大量の体液をふきあげ、ピルグリムワームは声にならぬ声を発す。
「了解でござる！」
ドラゴの飛燕連撃、つぎつぎと突き刺さる！
「…終わりだな」
攻撃、攻撃、ワイルドラッシュをくらわせるのはジエン！
そして、
「これで！」
ワシリーの大地斬が、ワームの負傷部分に叩き落とされた。
重い、あまりに重い手ごたえ。
ワシリーは放心したように、その一撃を引き上げることができなかった。
どっと疲労が襲ってくる。ワシリーはひざをついて、その場に座り込んだ。
ピルグリムワームは沈黙した。
太陽が西に沈み始める頃、ようやく戦いの熱気は冷めはじめる。一行は丘をくだった。
ワームが死に、ピルグリムグドンたちも後を追ったのだ。
「ヴィナさんもしばらく安静が必要ですが……生命は無事ですわ」
アクアローズは、汗で額にはりついたヴィナの前髪をなおしてあげながら言った。心配そうに後ろから彼女をのぞきこんでいたキララは、嬉しくて思わず、近くにいたリストの手を握る。リストもやさしい笑みを返した。
厳しい戦いだった。怪我と疲労が、思いだしたように全員におそいかかり、誰一人とて無事な者はない。
「すいません……俺……役に立てなくて……」
マサキに助け起こされたハジは、うつむいて悔しげに言葉をもらす。
「けっしてそんなことはありません。ハジさんがいなかったら、私は死んでいたかもしれないんですから」
だがワシリーにはわかっている。ハジの勇気がいかに冒険者たちを助けたかを。
「にしても、なんとか終わりましたなあ……」
ヴィオラは微笑した。ようやく彼女の心にもゆとりが戻ってきたのだろう。
「もう、こんな戦いのない世の中になれば、ええんどすけど……」
ヴィオラは誰に言うでもなく、つぶやいた。
それは全員に共通した願いであり、戦う目的であった。
（了）
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参加者：12人
作成日：2005/10/23
得票数：冒険活劇15
戦闘11
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冒険結果：成功！
重傷者：嵐との契約者・ヴィナ（a09787）
蒼翠弓・ハジ（a26881）
死亡者：なし
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あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
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シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
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