キノコを狩りやがれ・2 帰って来たシメジ



<オープニング>


「今年は随分と多いですね……」
「時期的に仕方がないのかも知れないが、確かにな」
 酒場の一角で、数人の男女がテーブルを囲んでいる。
 種族、性格、性別……あらゆる点で異なる彼等に唯一共通しているのは、両手首に填められた霊視の腕輪。
「一連の事件に関連性はなさそうだね」
「でも、依頼は依頼だし……手分けして、すぐにでも冒険者の皆さんにお願いした方がいいんじゃないですか?」
「そうですね」
 テーブルの上に置かれていた手紙や小物を手に取り、霊査士達は酒場の中に散っていった。


「……おい、何だあれ?」
「ん?」
 ソレに気付いたのは、村の男がふと顔を見上げた時のことであった。
 遠目でもわかる。山を駆け下りる、黒い影。脚のないそれは自然の法則に逆らい、ありえないスピードで山を降りていく。
 既視感と言うやつであろうか。ありえない光景。ありえない現実。だが、男達はすぐに何かを悟った。男達の脳裏に、昨年の恐怖が鮮明に蘇る。
 そう、あれは……あの影は……!
「奴だ! 奴が帰ってきたんだ!」
「誰か、すぐに冒険者に連絡を!!」
 ――あいつが、帰って来たのだ。

「……という訳だ」
 何時もと同じ冒険者の酒場。何時もと同じテーブルで、創造の霊査士・アーク(a90104)は、淡々と言葉を綴る。
「直接的な関係は無い筈だが、昨年と全く同じ変異キノコが近くの山に出没したらしい」
 苦笑とも溜息ともとれる息を吐き出し、アークは冒険者の顔を見回す。
「……そこでだ、皆にキノコ狩りを頼みたい。何度も復活されては冒険者の信用に関わる、二度とシメジが復活しないように対処してくれ。以上だ」

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参加者
長閑神鳴・スーウ(a14093)
天吹春風・フェルル(a14997)
空から降ってきた・ヒジキ(a20507)
仮面のメイドガイ・コガラシ(a33379)
円環の吟遊詩人・ロッズ(a34074)
神聖なる銀色の乙女・アイリーン(a34195)
破壊と創造の探求者・ルリカ(a35450)
愛しき華達を守り抜く桜・リヴェル(a35508)


<リプレイ>

 収穫を終えた畑が、山裾にまで広がっている。
 村の外に広がる畑の中で、冒険者達はキノコ討伐の準備を始めていた。
「村人の皆様には、村の向こう側に避難していただきましたわ」
 村から戻って来た神聖なる銀色の乙女・アイリーン(a34195)が、そう報告する。一緒に村まで行っていた悠久の旅人・ロッズ(a34074)は大きなバケツを抱えていた。
「一応借りてきたよ。これでいいかな?」
「うむ、ご苦労!」
 何やら偉そうにバケツを受け取った屈強なメイドの名は、仮面のメイドガイ・コガラシ(a33379)。持参した染料をバケツに入れ、水筒の水を注いでいく。
「村人達は何か言っていましたか?」
「うーん……よくわからないけど、クマゾウの仇を取ってくれとか」
「クマゾウ? 誰だそいつは」
「さぁ……?」
「大きなシメジなぁん? ワイルドファイアを思い出すなぁ〜ん。でも、移動して菌糸を伸ばして攻撃するような怖いシメジ、シメジと認めないなぁ〜ん」
 布を詰めた大きな袋を抱え、長閑神鳴・スーウ(a14093)はぷるぷると身を震わせた。自分がシメジに襲われている様子でも、想像したのだろうか。
 逆に、シメジを今や遅しと待ち受けている者もいる。
「どんなキノコなんだろなぁ〜ん? 食べられるのかなぁ〜ん? でも迷惑かけてるみたいだから〜退治なぁんね〜」
「……まぁ人を襲ってて、話が出来ないっていうなら倒すしかないよね」
 そわそわと落ち着かない様子の蒼天の風・フェルル(a14997)に応じながら、ロッズは変異キノコに思いを馳せる。
(「去年も現れてるって言うし、山に何か原因があるのかな? そういえばシメジは人を襲っても殺してない、これはどういうことなんだろう?」)
 報告書によれば、昨年発生した変異キノコは村人を相手に遊んでいたらしい。かなり迷惑な遊び方だな、と思う。今年のキノコも同じなのだろうか。
「シメジか……普通のシメジは旨いのだがな……」
 色水の濃さを確認し、コガラシはバケツから顔を上げた。
「フフフッ、大味だなんて冗談ばっか……『香りマツタケ、味シメジ』と偉い人の言葉もあるでござる。絶対に美味くないはずなどない! と言う訳で拙者が食ってやるぜ! 覚悟してな! シメジマンジャック!」
 頬に菓子の食べかすを付けたまま、腕・ヒジキ(a20507)は山に叫ぶ。いつの間にか、変異キノコに名前まで付けているようだ。
「生命の危険は無いようだけど、毎回気絶させられるのも嫌だろうし……今度こそ完全に倒してやりたいよな」
 初の依頼ということもあり、今と自然を愛し生きる・リヴェル(a35508)は、かなり気合が入っている。
「うん、今年は徹底的に叩きのめさないとね。よ〜し、頑張るぞぉ!!」
 仲間達の準備が整いつつあるのを見て、破壊と創造の探求者・ルリカ(a35450)もまた、張り切って行動を開始した。


 ドドドドドドドドドドドッ……。
 奴が、来る。
 山の斜面を滑り、一直線に村へと駆けて来る、人ならざるシルエット。どうやって移動しているのか、足の無いはずのそれは人間よりも獣よりも早いスピードで山を降り、村の入口目指してやって来る。
 傘状に出っ張った薄茶色の頭、その下から見える真っ白なボディ……シルエットの正体は、一つしかない。
「頑張って囮になってくれよ〜」
 リヴェルが変異キノコに対する囮として土塊の下僕を召喚する。リヴェルの生気が足下の土に染み渡り、仮初めの命を与えられた土が盛り上がるとヒトの形を取る。
「まずはボクのフールダンスを受けてみろ!」
 村の入口から飛び込んで来た変異キノコに、ロッズがフールダンスを仕掛ける。ロッズの踊りは対象の心に踊らずにはいられない衝動を掻き立て……。

 クネクネクネクネクネクネ……。

「……」
「ぬぅ……? この光景、去年あったもう一つの報告書にあったような……」
 ロッズのフールダンスに変異キノコはその身をクネクネと左右に揺らしているだけだった。手も足も、更には表情すら窺えない変異キノコの動きは踊っているロッズでさえ効果の程はわからない。
「……ごめんなさい……あなたを倒さなきゃいけないのですわ……」
 アイリーンが奏でるアコーディオンの音に乗って、彼女の前に輝く紋章が浮かび上がる。美しき音色が描く紋章が一際強い光を放ち、紋章の中心から銀色の狼が躍り出た。
 気高き銀狼が地を跳ね、鋭い牙が変異キノコの柔らかい肉に喰らいつく。これは堪らないとばかりに、変異キノコは我が身に喰らいつく銀狼を振り解こうと悶え、足下(?)から伸びた白い糸が銀狼の首に巻き付き無理やり引き剥がした。
 引き剥がされた銀狼が効果を失って霧散すると、変異キノコの菌糸は異常なほどのスピードで辺りへ広がっていく。腕を持たない主に代わり、白色の菌糸は冒険者達を捕まえようと伸び、リヴェルの作った土塊の下僕にまで絡みつく。強靭な肉体を、ましてやアビリティの一つさえ持たない土人形は菌糸の力の前にあっけなく崩壊する。
「おい、シメジ! 今年は去年のようにはいかないぞ! 覚悟しろ〜っ!」
 土くれへと還っていく土人形達の間で、マッスルチャージで筋力を増したルリカのジャイアントソードが伸びて来る菌糸を切り払った。
 去年、変異キノコと戦った冒険者が書いた報告書と村人から事前に聞いておいた情報により、ルリカ達には変異キノコの動きがある程度予測出来ていた。予め相手の行動や攻撃方法さえわかっていれば対処するのは容易い。
 リヴェルはもう一体の土塊の下僕を盾にして菌糸を逃れ、ロッズやアイリーンの衝撃波が菌糸を跳ね除ける。
「鬱陶しいことこの上ない。これでどうでござる!」
 それでも止まらない菌糸に苛立ちを覚えたヒジキのエンブレムブロウが菌糸を砕き、紋章の輝きが消えると網の目状に広がっていた菌糸の一角に大きな亀裂が出来た。
「クックック……このメイドガイの情報網を甘く見るな!」
 お前のことなどお見通しと言わんばかりに高らかと叫び、地面に張り付いた菌糸の隙間を跳んだコガラシの手から白いシーツが舞うと変異キノコに覆い被さる。
「これでも被ってろなぁ〜ん!」
 そこへフェルルが持っていたバケツの水を思いっ切りぶっ掛ける。バケツには用意しておいた色水がタップリと入っており、シーツの上から色水を被った変異キノコは全身をインクで染め上げた。
「お願いですっおとなしくしてくださいっ……!」
「ククク……これでどうだ!」
 アイリーンと何故か至近距離にいた筈なのに水滴の一つすら浴びていないコガラシが色水で濡れたシーツを縄で縛る。胞子を飛び散らさない為に用意されたシーツに傘から胴(?)をスッポリと覆われ、変異キノコはジタバタと暴れ出した。
「えーいなぁ〜ん!」
 暴れるだけで無防備な変異キノコにスーウの爆砕拳が命中する。ヒトノソリンの腕力が真っ直ぐに繰り出す拳の一撃が変異キノコの肉を打ち、衝撃が肉の一部を砕いた。爆砕拳の衝撃に圧され、宙に浮き上がった変異キノコが地面をバウンドする。
 何とか立ち上がった変異キノコは尚も菌糸を伸ばし、冒険者達を捕まえようとする。シーツに包まれても諦めない変異キノコの頑張りに押されて何人かの冒険者が菌糸に足を取られてしまうが、援護に入った他の冒険者が菌糸を払い除ける。
 もはや勝敗は明らかだった。相手を菌糸で束縛することしか出来ない変異キノコに冒険者を倒す攻撃力はない。あと数撃を入れれば確実に倒せる……のだが、冒険者達は最後の一撃を入れなかった。
 変異キノコの菌糸は払うが、スーウの攻撃もフェルルのミラージュアタックも直撃はさせず、キノコの一部を爆ぜ砕くだけに留められる。他の冒険者達も積極的には攻撃せず、変異キノコを追い詰めていく。
「……やっぱり串焼き……いや、鍋も捨てがたい……う〜ん……」
「ルリカ特製のシメジ鍋を……」
 自分の調理法方まで考え始め、ジリジリと距離を詰める冒険者に恐怖を感じたのか、変異キノコはシーツに縛られているのも構わずに180度反転し、降りて来た山へと逃げ戻っていった。
 少しずつ遠ざかっていく変異キノコを見守っていた冒険者の一人がやったと笑みを浮かべる。
「まずは作戦通りなぁ〜んね」
「よし、追跡するでござる!」
 変異キノコが逃げた今、村人達に危害が及ぶことはない。小さくなっていく変異キノコを指差し、冒険者達は後を追いかけた。


『二度とシメジが復活しないように対処してくれ』
 それが、霊査士から頼まれた依頼内容だった。二度と復活しないようにするにはと、冒険者達が考え出した作戦は変異キノコを山へと追い返し、変異キノコが隠れている場所を掃討することであった。
 変異キノコにかけられた色水や濡れたシーツは胞子を飛ばせないようにすることともう一つ、逃げた変異キノコの足取り(?)を掴む為に用意されたものだ。
 逃げたキノコを追い、冒険者達も山を駆け登っていく。スーウとロッズが山の動物から獣達の歌で情報を聞き出し、それを元に山の斜面を調べていると、落ちている枯葉や小石に黒い水滴のようなものが点々とついているのが見つかった。冒険者達はそれが変異キノコにかけた色水だとすぐに気付く。
「これを追えば、キノコの巣(?)はすぐに見つかるよね」
「色水をつけたとは言え、何処で足跡が途切れるかわかりませんわ。急いで生息場所を見つけ出し、焼却いたしましょう」
「ウム、三度の復活は許さん……ここで焼き払ってくれる」

 鮮やかな赤みを帯びた雑木林の木陰で、巨大な影が動く。
 先日、あの村へ降りた時はあんな怪物達はいなかった。自分を縄で縛り、濁った水でびしょ濡れにした怪物達に恐怖を抱き、変異キノコは命辛々ここまで逃げて来た。茶色の樹冠を見せる広葉樹に背(?)を預け、巨大シメジはシーツに包まれたまま動きを止める。
 しかし、安息は訪れなかった。
「見つけたなぁん!」
 突如響いた少女の声に変異キノコがビクリと飛び起きた。そこには一対の短剣を構えた白髪の少女を先頭に、逃げて来たはずの八つの影があったのだ。
 少しでも冒険者達から離れようと、変異キノコはボロボロの身体を必死になって引きずり出す。だが雑木林の下から逃げようとする変異キノコの背後に銀狼の牙が噛み付いた。
「このメイドガイに抜かりなし! 観念するがいい!」
「あなたに恨みはありませんが……お覚悟を!」
 気高き銀狼の牙に喰われ、逃げ場を失ったシメジをアイリーンのエンブレムシュートが撃ち抜き、コガラシの破鎧掌が変異キノコを粉々に粉砕した。


「皆様……ご無事でなによりですわ……お疲れさまです……」
「今回復するよ」
 八人の中で唯一、癒しの力を持つロッズが冒険者達にヒーリングウェーブをかける。
「恐ろしい相手でしたなぁん。父上……僕、一人前の戦士にまた一歩近づきましたなぁん……?」
「また出ないようにしないと駄目なぁんか〜。シメジの死体と胞子とかを一箇所に集めて〜纏めて燃やすなぁん?」
「一箇所にか……簡単に申されるが、これは無理でござらんか?」
 シメジは二人で抱えれば楽に運ぶことが出来るだろうが、胞子は別だ。
 胞子なんてものはとても小さく、普通のシメジの胞子は径5〜6μmでほぼ球形。変異植物となった今回の巨大シメジでも胞子は数mm程度で、とてもじゃないが全てを掻き集められるような代物ではない。
「小さなシメジや菌糸に冒されている樹木を燃やせば片がつくのではないか?」
「誰が火を消すの?」
 ここは山だ。季節は秋と言うこともあって地面には枯れた落ち葉が散乱し、周りには木が密集している。何の用意もなく火を点ければあっと言う間に辺りへ広がり、最悪山火事を引き起こしかねない。
 変異キノコに用意していた色水も村に置いて来たし、水筒に色水を入れて来た者がいたがあの程度では量が少なすぎる。燃やせば終わると思っていた冒険者達であったが、いきなり現れた問題に頭を抱えてしまう。
「ヌゥ……」
「……こうなったら地道な作業しかないね」
 そう言うとリヴェルは胸の前で指を組み、精神を集中させた。

 この後、冒険者は二手に分かれて行動を開始した。四人が村まで戻って水を汲み、その間に残りの四人が山でシメジを集める。リヴェルの土塊の下僕も役に立ち、村まで水を汲みに行った四人が戻った頃には集め終わっていた。
「処分するのは勿体無いよ。これは村に持って帰って鍋にしよう」
「そうでござるな。あちらのシメジは食べられそうにござらんし……」
 ヒジキがチラリと視線を向ける。そこには傘や肉をズタズタに裂かれ、色水をぶっ掛けられた巨大シメジがあった。シメジの損傷が酷い上に、追跡する為に使われた色水が致命的だった。シメジ自体が色水を吸って変色おり、洗えば落ちるなどの問題ではない。食べれば絶対に腹を壊すだろう。
「じゃあ、火を点けるなぁ〜んね」
 変異キノコの周囲に落ち葉を掻き集め、水を汲んだバケツを近くに置く。全ての準備が整った後、スーウが最後に火を点けた。

 山から立ち昇った白煙が消えた頃、冒険者達が山から持ち帰って来た思わぬ土産によって、村ではささやかな宴会が開かれたと言う。


マスター:茅凪北斗 紹介ページ
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