グリシナの誕生日 小さなお茶会



<オープニング>


 ふわふわと雪片が舞い降りてくる。まだ積もるというほどには力がないはかなく軽い雪……。
 さいはて山脈の麓にある小さな村パルシア。普段なら雪が舞う頃にはしんと静かな冬に閉ざされている村だけれど、今年はグリモアガードが設立された為もあり、この時期でも活気がある。
「もう……今年もあとわずかね」
 湯気のたちのぼるシチュー鍋をひと混ぜすると、パルシアの霊査士・グリシナは暖炉の前の椅子に戻った。
 これからパルシアは雪の世界へと入って行く。歳を重ねた身体には少々厳しい季節だ。
「もう……60になるんだものねぇ」
 くす。
 小さく笑ってショールを羽織り直し。
 もうすぐ60回目の誕生日が来る。
 おめでとう、と祝う歳ではなくなってしまっていても、誕生日はやっぱり特別な日。
 ひとりで過ごすのも退屈だからと、グリシナは冒険者の酒場にかける小さなプレートを書き始めた。


  ☆――お茶会のお知らせ――☆

  12月15日に、冬の午後を楽しむお茶会を開こうと思うの。
  パルシアは小さな村だから、大したものはないけれど、
  温かいお茶を楽しみながら、鄙びた冬の景色を眺めるのもいいものよ。

   寒いのが苦手な人はお部屋でお茶とお喋りを。
   寒いのが平気な人はパルシア村をひと巡り。

  のんびりと冬の午後を楽しんでもらえたら、って思うの。
  お時間があれば、是非どうぞ。

  もうすっかり寒いから、風邪を引かないように温かい格好で来てね。

                          グリシナ・ディオラシス――☆

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参加者
NPC:リディアの霊査士・グリシナ(a90053)



<リプレイ>

 護衛士団が出来て賑やかになったパルシアが、また少し賑やかさを増す……12月15日。
「初めまして、グリシナさんお誕生日おめでとうございます」
 マサカズは花束をグリシナに差し出した。
「持ち合わせが足りなくてありあわせですが、受け取ってください」
「ありがとう、嬉しいわ」
 花瓶は……と見回すグリシナから、ウルフェナイトは花束を受け取り、会場に飾れるようにセッティングする。裏方覚悟のウルフェナイトは、次々に訪れる人々に目配り心配り。
「あたしも歳とって嬉しいって年齢じゃないけど、皆で集まって莫迦騒ぎネタにはなるわ。1年に1度のことですもの。楽しみましょ?」
 フーリィはお茶会用にミートパイとワイン、そしてプレゼントとして綺麗な翠色のメリリス鳥の羽根を渡した。使い道は色々、と笑って。
「おばちゃん、この人、俺様がいつも世話してるシェン兄ちゃん♪」
 ジャムはシェンの背をばんばん叩いてグリシナに紹介した。
「よぅ、さして面識はねぇんだが何かと縁があるんで寄らせて貰ったぜ」
 中華服に外套という姿のシェンは陽気に挨拶し、孫の手つき肩叩きをグリシナに渡した。
「その腕輪、この時期その歳じゃ肩こりの元だろ、婆さん。いつでもジャムやクァルに叩かせてくれや……てか、こいつら宜しくな」
 ジャムとクァルを指すシェンの視線は微笑を含んで。
「それで足りなければこれね」
 はい、とシュウが渡したのは、百枚綴りの手書きの肩叩き券。
「片づけの時には呼んでくれれば手伝うよ。閃きの剣亭じゃ毎度の事だからお任せあれってね」
 そう言いながらシュウはパルシア周辺の測量調査に出かけていった。
 マモルは家に入る前に、ドアに手作りのリースをかけた。お茶会に来る人々を、リースに編み込まれた赤い実が華やかに迎えられるように。

「皆さん、寒かったでしょう。こちらで温まってくださいね」
 アコナイトはジンジャーやチリペッパーを使った料理をテーブルに並べる。さっぱり系が主体なのは、グリシナのことを考えてだろう。
「お茶会とは言っても常に腹を空かせた坊主どももいるしな」
 テーブルの真ん中にはルシールが『おでん』の入った鍋を置いた。これはルシールが作ることの出来る唯一の料理だ。
「冬のおやつの定番といったらこれだよね♪」
 シズクは外で焼いた芋を子供から優先に渡し、グリシナには四つ葉のクローバーと人形を差し出す。シズクの手にあるしもやけは冷たい草をかき分けてクローバーを探した時のもの。傷はシズク人形とグリシナ人形を作る時に出来たもの。グリシナは両手でプレゼントごとシズクの手を包み込んだ。
「女性には何時までも美しくいてほしいので……」
 ツキトが持参した洒落た小瓶の中には澄んだ薔薇色の液体が入っていた。蓋を取ると、ふわりと花の香りが漂う。パラの花びらを集めて作る化粧水……バラ水だ。考えたのはツキトだが、実際に作ったのは娘だったりする。
「東方の国では60歳を『カンレキ』といって、こういうのでお祝いするんだそうです」
 アンリは赤いちゃんちゃんこと頭巾を渡し、60年を一巡りと考える東方の伝承を教えた。
「東方にはパルシアとはまた違った伝承があるのね。これを着れば私も新しく生まれ変われるかしら」
 グリシナは面白がるように頭巾を頭に乗せる。
「……ちゃんと年月を数えて、振り返ることのできる……そんな人生の積み重ねを感じられる人は……とても素晴らしいな、と……と思うの」
 歳を数える余裕もなかった我が身と引き比べながらも、アキレギアは微笑み、ポプリ入りの小さな枕を渡した。様々な思いを受け止める宿命の霊査士に、良い眠りが導かれますように、と。
「はい、みんなからのお誕生日プレゼント〜」
 木細工、木の実のビーズ、蛇の抜け殻……ラファエルが取り出したのは、先日お菓子を届けた子供達からのお返しの品。援助の打ち合わせのついでにね、と渡していく中にある誕生花が彫られたブローチを手に、グリシナは軽く首を傾げた。
「っとこれは依頼のお礼。拙いものだけど受け取って」
 問うようなグリシナの視線に、ラファエルはちょっと慌てた口調で言い、その上にプレゼントを乗せていった。

「パルシアの大地からのぉ、お祝いなのね〜♪」
 ニケーはトランペットを吹き、獣達の歌で呼び寄せた小鳥と、パルシアの土で作った下僕の土の子ちゃんを行進させた。
 フェンネルはグリシナにオルゴールの包みを渡すと皆に声をかける。
「誕生日のお祝いの歌を一緒に歌いましょう」
 フェンネルがハープに指を走らせると、澄んだ音が流れ出した。誕生日の歌を歌うフェンネルに次々に歌声が重なる。
「グリシナおばあちゃんの好きなお歌ってなぁに?」
 ピクニックで拾った綺麗な落ち葉で作った栞をグリシナに渡しながらニケーは尋ね、グリシナの好きな歌を大きな声で元気に歌った。
 そして小さなお茶会が始まる。
「……なんか、ちょいと『小さなお茶会』とは言えない人数だな」
 健康食として飲んでくれとオリジナルハーブティーを渡しながら、ティキは集まった人々を見渡した。たくさんの人でグリシナの家は満員御礼だ。
「人が多そうだから暫く外でお散歩してるね〜♪」
 帰ってきたらシチューとお茶で温まらせてね、とグリモアガード以外の人々に場所を譲り、外に出て行こうとするコウイチをアコナイトが呼び止める。
「外に行くなら温まってからにした方がいいですよ」
 風邪をひかないように、とアコナイトは酒を垂らしたミルクティーに笑顔を添えて差し出した。
「ハーブティならお任せあれ♪」
 シャンナは手際よくワイルドストロベリーのお茶を煎れてゆく。お茶請けに焼いてきたクッキーをテーブルに。グリシナの膝にはちょっと不格好だけど暖かそうな赤い毛糸の帽子を置き。
「これからもよろしくお願いいたしますね? グリシナ団長さん♪」
「もしよろしければこのお茶も使ってやってください」
 ペンタは夏の間に作っておいたローズヒップ、カモミール、ペパーミントのドライハーブと、さいはて山脈で集めた滋養豊富な木の実を差し出した。グリシナ宛てには赤いカーディガン。元気でとの気持ちをこめて。
「私からはこれを」
 ニューラは柔らかなショールをグリシナにかけた。ショールの色は年を経て一層深みを増す常盤緑。持参したハーブティーはマロウ。身体を温めるマロウブルーのお茶は、レモンを一滴垂らすと綺麗なピンクに早変わり。蜂蜜で甘みをつけて、浪漫の香りも優しいティータイム。いつまでも健やかに優しく……それがニューラからの祝いの心。
 カルーアはおめでとうの言葉だけ口にして花束を渡すと、グリシナが冬の間暖かく過ごせるようにと薪割りをしに出て行った。口下手なカルーアの代わりに、持ってきたミケルマスデージーが花言葉で囁きかける。『老いても元気で』と。
「同じ歳の者同士のよしみ。いずれ向かう地の旧友に再会するまで、茶飲みくらいにならば何時でもつきあおうぞ」
 朗らかに茶を飲んでいたバレットは、不意に、さぁてと立ち上がる。
「わしの真のプレゼントはこの筋肉よ! 未だ衰えぬこの見事さ! さぁ、とくと見よ! そして思う存分触れるがいい!」
 ばっ、と上半身裸になり鍛えられた筋肉を見せつけると、グリシナは小さく叫んで両手で顔を覆った。
 そんなお茶会の様子を、グリットはさらさらとスケッチする。シンプルな線の中に皆の声が笑顔が見えてくる。参加者の名前を記し、今日の日付も入れ。一期一会。この時にしかないひとときを永遠とするために。

 ウェイター服でぴしっときめたクァルは『紅茶シフォンケーキ』と『御隠居風味抹茶シフォンケーキ』を皆に配った。ブランデー入りの大人用と入っていない子供用。ちゃんと区別しておいたはずなのに、何故かジャムの前には大人用。
「にゅ〜」
 ほろ酔いジャムは、シェンの二胡にあわせて、逆立ち尻尾ぐるぐるダンスを踊り出した。皆がそちらに気を取られているうちに、クァルは白と淡いピンクの押し花つき栞を、メッセージカードと共にグリシナの寓話集にそっとはさむ。
 デルテはラッピングされた花林糖の包みをグリシナに渡す。
「私にはコレしか用意できませんが宜しければどうぞ。それから……」
 土塊の下僕を24体呼び出すと、デルテは組体操をするように命じた。子供のような体型の下僕は、ちょこちょこ一生懸命に色々な形を作る。
「おかわりをどうぞ」
 ぽやぽやくつろいでいるメノアリアのカップに、グリシナが紅茶を注いだ。
「ありがとうございます。外は寒かったですけれど、グリシナさんの家は暖かくて、心も温かくなりますですね」
「たくさんの人が来てくれてるから、今日は特別に暖かなのよ」
 ふわりと笑うグリシナの肩をスイシャが揉み始める。
「グリシナ殿は本当に上品で温和な方でござるな。拙者の祖父というと、70過ぎても鮫のいる冬海でサーフィンをしたり、それを孫にも強要したりするでござるからな」
 祖父に鍛えられたので肩揉みは得意だ。グリシナの肩を細く頼りなく感じるのは、無意識に祖父の筋肉と比べているためか。
「ボクにも大好きなおじいちゃんがいるの」
 フュールは冒険者になる時に祖父からもらった短剣に触れる。
「でも、おばあちゃんはいなくって……一度ゆっくりお話したかったんだ。こういうのご迷惑かもだけど、よかったらお話聞かせてもらえますか? グリシナさんのこと、パルシアのこと、グリモアのこと……」
「私には話すようなことはないけれど……パルシアとグリモアの話をするならグリモアの処に行きましょうか」
 立ち上がるグリシナの服の裾をフュールの手が掴む。
「もう1つお願いがあるの。……おばあちゃんって呼んでもいい?」
「ええ、もちろん」
 孫にするようにフュールの頭を撫でると、グリシナは歩き出した。

 パルシアの外れ。木々に囲まれた中にその湖はあった。
 澄んだ湖の真ん中に淡い淡い青みを帯びたたまご型の水晶が浮かび、その周囲を白い翼が包み込んでいる。
「これがパルシアのグリモアなんですね? とても綺麗です♪」
 グリシナと並んでのんびりとグリモアを見ながら、リーゼはドリアッドに伝わる安らぎのメロディを奏でた。天から降る木漏れ日の中、陽だまりのような人々に囲まれる居心地良さを感じながら。
 ハツネとサリアはパルシアに古くから伝わる歌と踊りを披露した。今風の踊りよりも慣れ親しんでいるだろうからと、あらかじめ練習しておいたものだ。
「心に残るプレゼントになったら嬉しいな♪」
 弾む笑顔で言うハツネに、グリシナは懐かしそうに目を細める。
「若い頃よく踊ったのよ。一晩中踊っていて家に帰って怒られて……」
 踊り終えて温かそうな猫柄の半纏を着込んだサリアの背に、フィルがそっと手を添える。
「彼女が出来たんだ」
 照れながら報告するフィルに、グリシナは微笑んだ。
「おめでとう。とてもお似合いよ」
「サリアに村を案内してくる。パルシアの良さを知ってほしいんだ」
 プレゼントのブランケットは家に置いておいたからと言うと、フィルはサリアと連れだって村を歩き始めた。
 ハツネの方もアンリの横に駆け戻り、にこにこしている。
「レディグリシナ……」
 バルトローは艶々と形良い柚子をグリシナの手に乗せながら尋ねた。
「レディには連れ合いがおられないとのこと。立候補しても宜しいですかな?」
 バルトローの言葉に、グリシナは口元に両手を当て驚きに硬直した。しん、と周囲まで静まる中、グリシナはゆっくりと手を下ろし、寂しげな微笑になる。
「ごめんなさい。……私はもう冒険者の旦那様を持ちたくはないの」
 冷えてきたから戻りましょうか。そう声をかけると、グリシナはグリモアに背を向けた。

 日が暮れて寒くなる前にと、お茶会は早めにお開きとなった。その頃になるとちらちらと雪が舞い始める。
「パルシアはいいね……雪があって……」
 マモルは嬉しそうに頷くと、玄関で見送るグリシナに描きあげた似顔絵を渡して外に出て行く。
「こっちも完成だ。誕生日プレゼントとして贈るよ」
 グリットは今日描いた絵と遺跡でのスケッチをグリシナに渡す。
「僕も完成したらプレゼントするじょ〜。よかったらグリシナさんちの居間に飾ってね」
 コウイチは未完成のスケッチを手に帰ってゆく。
「じゃあ俺もこれで」
 1日ゆったりと過ごしたハチャックが身を翻しかけると、グリシナは、あ、と呼び止める仕草をした。
「何?」
 振り返ったハチャックをしばらく眺めた後、なんでもないわとグリシナは首を振る。
「気を付けて帰ってね」
 訳が分からない様子のハチャックにグリシナは手を振った。

「プレゼントの代わりと言うにはちょっと厚かましいのですが……お片づけの手伝いをさせて貰えないでしょうか」
 リンはお茶会の片づけだけではなく、キッチンの大掃除に取りかかった。高い場所の煤を払い、使い込まれた鍋をぴかぴかに磨き上げ。グリシナでは大変そうな掃除を、歌を口ずさみながら楽しそうに片づけてゆく。
 グリシナから聞いた伝承を忘れないうちにと書き留めていたルヴィンは、足下にすり寄ってきた狼犬ハレキの感触に、手を止める。
「少し元気になったな。疲労回復のお茶が効いたかな」
 そう言いながら振り向いたルヴィンに、フォルムアイが口元に指を立ててみせる。その膝にもたれてグリシナが眠っていた。
「伝承をまとめる本の題名を相談しようかと思ってたんだが……」
 寝ちまったか、と微苦笑するルヴィンに、フォルムアイは頷いた。
「疲れたのでしょう……」
 グリシナはそのままに、フォルムアイは小さく子守歌を歌った。
 小さなお茶会も終わり……
 と思った途端、扉が開いた。
「すみません。間に合いませんでしたね」
 ミラは謝りながらテーブルにクッキーとカードを置いた。クッキーは見た目は歪だけれど、食べると元気になれると褒められたものだ。
「今度は……是非私のフルートも聴いて頂きたいです」
 起こさないようにとそっと肩掛けをかけたのだが、その動作でグリシナは目を開けた。
「あら……私ったら眠ってたのね」
 恥ずかしそうに笑うグリシナは、外からの風に扉を振り返る。そこにはナルが立ちすくんでいた。三つ編みもほつれかけて泥だらけ。
「えっと……プレゼントなの」
 テーブルに溢れる花に気圧されながらナルが差し出した一輪の花は、この季節さいはて山脈にしか咲かない花。1日かかってやっと一輪だけ見つけられた。
 グリシナは花ではなくナルに手を伸ばすと、両腕で包み込む。
「こんなに冷たくなって……」
「今日渡したかったの。グリシナに……ううん……ばーちゃんに、って言っちゃダメ?」
 恐る恐る言うナルに、今日は孫が2人も増えたわ、とグリシナは笑う。
「じゃあ私もこれからはナルって呼ばせてもらうわね」

 60回目の誕生日。一番のプレゼントは……
 祝ってくれたみんなの心☆


マスター:香月深里 紹介ページ
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参加者:40人
作成日:2003/12/18
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