妖狐学的物々交換理論〜Trick or Treat ?〜



<オープニング>


●Halloween
 夜空にはまんまるなお月様。
 犬っころすら歩いてない、普通ならそんな時刻。
 普通じゃないから、路地の果てで南瓜が雁首揃えて出迎える。
 ぽっかり開いた三角の目、笑ってるようなギザギザの口。
 チラチラと灯りを漏らす個性豊かな表情の南瓜たちが、陽気に誘う真夜中の市場。

 ここでは何でも手に入る。
 欲望の赴くまま、両手では抱えきれない程に何でもだ。
 されど、ゆめゆめ忘れる事なかれ。
 市場の住人たちは人の皮をかぶった性悪狐と古狸ばかり。
 ケダモノだって潜んでる。
 そんな輩が相手なら、金子は持たずに藁束で十分だ。

 夜明けは程遠い。
 一夜限りの楽しい夢を見に行こう。

●妖狐学的物々交換理論
 ここは闇の市場、背徳の街。
 闇に生きる人々が集い、不当な手段で得た物品を売買する暗黒街。
 深夜を過ぎた時間になっても……いや、だからこそなのか、街を行きかう人の波は途切れることがない。
 路地にはところ狭しと様々な品がならべられ、この時期特有なのか、カボチャをランタンに模したものが商品を照らしている。
 そして商品を選ぶ人も、それを売る者も、いや、街を歩くすべての人々が、日常とは違う服装をしているのはこの日だけの事のようだ。
 ある者は悪魔のように。ある者は魔女のように。悪戯妖精や、ちょっぴりおどけた半獣人。
 まるでこの街の内面を具現化したような仮装姿で歩く人々――
 そんな街の中心から少し離れた場所で、蠱惑の妖狐・ライカ(a00857)は仲間たちに藁束を渡すとこう言った。
「いい? この藁束は初めの一歩。これを色んな商品と交換していくのよ。どんどん交換していけば最後にはきっとみんなの欲しいモノが手に入るはずですわ♪」
 そう、伝説の(?)ワラシベチョウジャのように……!
「それって、かなり無理があるような」
「あら、そんなことありませんわよ。そこはホラ、みんなの交渉術しだいですわ」
 仲間の抗議をウィンク一つであっさり流す妖狐様。「交渉術」と言った言葉の中には色々な意味が込められていたような気もする。そう、本当にイロイロな意味が。
「お互い、良い夢を見ましょうね♪」
 ここまで来たなら選択権はない。そう考えたのか、それ以上の追求はなく、妖狐の言葉を背に、彼らはそれぞれ思い思いの方向へ散っていった。
 今宵一夜の夢の街へと……

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参加者
黒狗・ミスト(a00792)
蠱惑の妖狐・ライカ(a00857)
銀翼に咲く幸福・ジーニアス(a02228)
炎刻烙印・ショウ(a02576)
患者殺し・ドクター(a04327)
閼伽栗鼠・シュリ(a04615)
八叉銀尾の・ヒエン(a05183)
令華・キャメロット(a16356)


<リプレイ>


 街の其処此処に置かれたカボチャのランタン。オレンジ色の灯りが幻想的なまでに美しく、暗黒街は一時の夢幻街へと姿を変える。雑然とした大通りは夜の魔法をかけられて、今は光の円舞場。
 ゆらりゆらりと移動を続ける人影はよく見れば全てが異形の存在。そちらの角では妖艶な黒いドレスの魔女たちが手招き、あちらの角では屈強な半獣人が巨大な肉の塊を売りさばく。
 大人たちの隙間を縫って駆けまわる悪戯妖精たちを舞うような優美な動作でかわした蠱惑の妖狐・ライカ(a00857)は隣を歩く愛しい恋人……四葉銀尾の・ヒエン(a05183)の手を取り裏通りに促した。
「おねーさま、こっちです」
「ライカ様?」
 まるでこの街を熟知しているように何の躊躇いもなく狭い路地を進むライカにヒエンは驚きを隠せない。
「大通りを外れては店もないのでは……」
「だって探しているのはおねーさまの衣装、そんじょそこらの店じゃダメです。目指すはその道一筋の老舗ですわ!」
「はあ……左様で御座いますか」
 闇の市場に老舗などあるのか、とか。そこまで凄い衣装でなくとも自分は構わないのだが、とか。取り留めなく浮かんだ幾つかの言葉をヒエンは言わずにいた。気合の入りまくったライカが可愛くも思えたし、何より自分を想って最高の衣装をと言う恋人が愛おしく、嬉しかったから。覚えず密やかな微笑が浮かぶ。
 蒼い闇の続く路地の先にぼんやりと薄明かりが見えてきた。それは看板もなく、一見して普通の民家。しかし風に乗って流れて来る微量の香に誘われるように、金狐と銀狐は扉を開く。小さな鈴の音がコロコロと鳴って、二人を出迎えた。


 探し物は色々あるけれど、御代がわりは配られた藁束だけ。妖狐の決めたルールに従う理由もないのだが、生真面目な二人……黒狗・ミスト(a00792)と閼伽栗鼠・シュリ(a04615)は真剣に打開策を模索していた。
「こっちをこう、結んで……」
「わあ、サスケさん器用なの」
 とりあえず約束していた事でもあるし……と、藁束をわら人形に作り変えるミストの手元を覗き込むシュリは感心しきりだ。やがて出来上がった人形にシュリが布や仮面を使って装飾を施していく。
「鳥のオバケさん人形。可愛い?」
「ああ、可愛いぞ」
 シュリがそっと差し出した人形よりも照れ笑いで頬を染める彼女が可愛くて、ミストは赤い髪を撫でて微笑んだ。
「さて、そろそろ行こうか」
「うん。クッキーの材料と人形の交換……うまく出来るかな?」
 不安に揺れる子猫のような瞳に見上げられて、保護意欲全開のミストはしっかりと頷く。
「大丈夫だ、俺がついているからな」
「……はい」
 そんな彼のスラリとした肢体を包むのはメイド服。かなり背が高いが美女と見えなくもないミストの仮装ぶりを素直に「綺麗なの」と思う一方で、「並んで歩いたら姉妹に見えそう」と、少しだけ悲しいような、つまらないような、複雑な感情が沸き起こる。どうしてそう思うのか、シュリは気がつかない。否、気がつかないふりをしていたいのかも知れなかった。
「はぐれないように、こうしていてもいいかな?」
「ああ、しっかり握っていろよ。……しかし」
 遠慮がちに袖をきゅっと掴んだシュリに笑顔で応え、ミストは少しだけ遠い目を市場に向ける。
「誰か騒ぎを起こしていなければいいが……」


 ミストの悪い予感は的中していた。いや、これは予感の範疇ではなく確信に分類されるべきものだろう。しかし騒ぎの渦中の人物……ピューとオペ・ドクター(a04327)にも言い分はある。
「うーむ。こんな藁束一つで何が買えるというのか……」
 この意見は正しい。しかしながら、興味の惹かれた書物との交換にかなりの無茶を強いたのは確かであった。強引、いや無茶苦茶、いや破天荒な交渉を受けた店の主人が激昂して掴みかかるのを輝くメスの切っ先で制し、彼は言ったものだ。
「……止めておけ。俺は医者だ。ここに出入りする様な医者ならば、どんな者かわかるだろう? お前を悲鳴一つ上げさせず『オペ』することも簡単だ」
 黒い眼光が鋭さを帯び、口元には苦い笑みが刻まれる。
「それに……この本も不当な手段によって手に入れたのだろう? ならば、お前が持っているより医師たる俺が持っていれば役に立つというもの……と、いうわけで俺は帰らせてもらう。さらばだ!」
 マントが翻り、後に残されたのは微かな薬品の香りと藁束だけだった。無論、主人は怒り狂った。闇の市場にもルールはあるのだ。見かけない顔であったが商品を持ち去った男の人相はしっかりと覚えている。痛い目にあわせてくれようと、ある場所へ連絡に向かったのだった。

 そうして彼は今、人気の無い路地裏で黒ずくめの男たちに囲まれている。本一冊に追手が来るとは思っていなかったが、どうやら認識が甘かったようだ。
「ヒャハハハー! テメェ、生きてこの街を出られると思うなよ!」
 ナゼか頭をモヒカンにして奇抜な衣装を着た男もいたりするが。その甲高い声に眉一筋動かさず、ドクターの右手が一閃した。輝くメスが空を飛び、飛び掛ろうとしていた男が悲鳴も上げずに倒れる。ざわめく暴漢どもに向かって深みのある声が言った。
「止めておけ……と言いたいところだが、降りかかる火の粉は払わねばな」
「しゃらくせぇ! 死ねぇぇぇ!」
「フッ、我がオペの奥義を食らうが良い!」
 今ここに、人知を超えた医療行為の幕が上がる!
 
 その光景を離れた場所で見守りながら、溜息をつく人影がいた。
「……これでは……出て行けませんね」
 老婆らしく仮装をした慰霊の旋律・ショウ(a02576)である。街に散った仲間から獲得物を交渉にて横取りしようと画策した少年だったが、ようやく発見したドクターは彼が言うところのオペの真っ最中。うっかり出ていったら一纏めにやられてしまいそうな雰囲気に諦めて背を向けた。
「そう言えば……大道芸を披露するとか言っていましたっけ」
 ふと、ライカとヒエンの言葉を思い出す。どうやらそこでチャンスを待つのが良さそうだった。


 師匠が芸術的な技を披露している頃、その弟子のぴよぴよ・ジーニアス(a02228)はと言えば、令嬢・キャメロット(a16356)とショッピングを楽しんでいた。
 魔女を意識した黒いロングドレス姿のキャメロットと、アレンジしたタキシードに鳥の仮面を着け、魔女の使い魔『ひよこ少年』な仮装のジーニアスは仲良く手を繋いで市場を歩く。
「キャメちゃんが可愛すぎるからみんなが見てるよ☆」
「ジーンさんこそ、ぴよこなお召し物、かわゅぃですわ♪」
 互いの姿を褒め合って幸せいっぱいの笑顔を交わすと、魔女とひよこの大冒険はアクセサリーの並ぶ店を覗くことから始まった。
 その後も商売や目利きが得意なジーニアスが導くままに屋台の軽食、珍しい細工物、女の子らしい雑貨店や本屋と巡って一夜の祭りを満喫すると、最後に行き着いたのは賭博場である。
 入り口には屈強な大男が立っていて一見の客はお断りとばかりに立ち塞がったが、いかにも物慣れた様子のキャメロットが「今日も遊ばせてもらいますわね♪」とウィンクすると、黙って二人を通してくれた。
「キャメちゃん、カッコイイー♪」
「うふふ、でも勝負はこれからですわよ?」
 目を輝かせたジーニアスに賞賛され悪戯っぽい笑顔で答えたキャメロットは、少々思案顔になって周囲を見渡した。
「問題はどうやって藁束とチップを交換するか、ですけれど……」
「あ、それなら僕に任せてよ☆」
「ジーンさん?」
 自信満々で交換所に向かったぴよこさんは、二言三言交渉しただけで、本当に藁束を数十枚のチップに換えて来て見せた。小さな魔法の秘密はこっそり仕込んだ上質の宝石。
「このチップは全部、キャメちゃんに賭けるよ」
「ジーンさん……♪ ええ、お任せ下さい!」
 ―― black or red? ―― 
 勝負の始まりの合図はいつでもキャメロットの心を熱くする。どんな時も、どんな局面であろうと、その一瞬で躊躇うことはなかった。
 白い指先が唇をたどる。真紅の枠に金の煌きを投じて、艶美に微笑んだ今宵だけの魔女の魔法は全ての人々を魅了して止まなかった。


 祭りの夜はまだ終わらない。いつの間にか広場に陣取った大道芸人が今宵最後の夢舞台。まずは大胆な衣装の妖艶な美女が狐を使って曲芸を披露。狐が二本足立ちでおねだり、逆立ち、そして宙返り。狐と一緒に美女も宙を舞いながら服を脱ぎ出すと、集まった観客が大いに沸く。
「はい、前座はこれでおしまい♪」
 最後の一枚で女王様に変身したライカは観客の声に手を振って応えると、目を細めて拍手をしていた恋人を振り返った。
「次はおねーさまの番ですわ……はあ、それにしてもライカが見立てたその衣装」
「似合いませぬか?」
「ううん、独り占めにしたいくらい。似合ってますの♪」
「それはよう御座いました」
 楓華風の衣装と扇を持った艶やかな舞姫がそこに居た。ライカの言葉に玲瓏な笑い声を零して、ヒエンは楚々と進み出る。
 匂い立つばかりの美しき踊り、それは異国の情緒を残したヒエンだけの舞いだった。扇が開かれ、腕に幾重にも巻いた鈴が独特のリズムを刻む。花が咲き、やがて花弁が散るが如く、美しくも儚き夢幻の演舞は暗黒街の妖魔たちをも虜にしてしまうほどで。
「綺麗だな……」
「うん。ヒエンさん、とっても素敵なの」
 集まった子供たちに手作りのクッキーを配っていたミストとシュリも手を止めて舞いに見入っていたが、その背を誰かが突っついた。振り返ると、小さな魔女っ子がにっこり笑って立っている。
「Trick or Treat? そこの優しそうなお姉ちゃんとお兄ちゃん、何かくれないと悪戯するぞ☆」
「………ショウ、だよな?」
 真に残念ながら、常日頃見慣れた少年の変装を見破れないミストではなかった。シュリもニコニコと笑ってお菓子を差し出す。
「ショウさん、可愛い仮装なの。えっと、クッキーだけどこれでいいかな?」
「……まあ……いいですけど」
 とりあえず物はもらえたし、と自分を納得させるショウ。レースのハンカチに包まれたクッキーをひとつ取って口に入れると、とても美味しかったので満足してあげようかな、とも思ったのだが。
「いや、しかし……似合ってるぞ、うん」
「メイド姿のミスト様に……言われたくありません……ね」
 笑いを堪えるような声で言われて「やっぱり藁人形は作ろう」と固く心に決めたのだった。


 クッキーを貰って走り去る子供たちの中にその『色』を見掛けた時、微笑んでいたシュリの表情がふいに翳った。
 赤い髪、白い尻尾……
「シュリ? どうかしたのか」
「う、ううん。……サスケさんには隠せないね。昔、離れ離れになっちゃった妹を思い出していたの」
「……そうか」
 悪いことを聞いたな、と呟いた彼にシュリは慌てて首を振った。哀しみに揺れる瞳が記憶を辿るように細められ、やがて小さな溜息が零れる。
「……弟だったかも。本当はあまり覚えてないの。悪いお姉さんだよね」
「そんな事はないぞ。シュリは……優しいな」
 慰めでもなく、励ましとも違う。そんなミストの声が温かくて。少しだけ熱くなる頬を感じながら最後までとっておいたクッキーの包みを差し出すと、花が開くように微笑んだ。
「サスケさん、ありがとう」
「ん、こちらこそ」
 温もりが残る包みを受け取って、彼はいつものようにシュリの頭をなでると、帰るか、と言って手を差し伸べた。握った硬い掌は渇いていて、でもとても温かかった。その感触をシュリはずっと忘れないだろう。


 夜の街はじきに蒼い黎明に消されてしまう。その別離を惜しむように、夜明けが近い閑散とした街の広場で取り留めない話をしていた二人だった。
 そっと伸ばされたヒエンの指先がライカの頬をたどって、耳元に寄せられた唇が言葉を紡ぐ。
「Trick or Treat ?」
 答えはヒエンしか知らない秘密。
 どちらを選んでも同じこと……とは女狐の言。
 二つの影が一つになるのを見ていた者はいない。いや、ひとつだけ。置き去りにされたカボチャのランタンだけが、目撃者。
 幾つもの夜を幾つもの朝が消していくように。一つの秘密を消して、二人の秘密を増やしていこう。
 ぬくもりを重ねながら……

■END■


マスター:有馬悠 紹介ページ
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作成日:2005/10/31
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