季節外れのセミ



<オープニング>


 人の身の丈ほどはある、セミの抜け殻がそのとある山間の村で見つかった。
 そのセミはグルメらしく、村で大事にしているご神木の樹液を啜りに来ていた。
 もう秋も半ばである。
 そろそろセミも弱っているはずだが、ご神木もかなり弱ってきている。村人たちは神木を心配して、依頼してきた。
 依頼の主旨はご神木の樹液を啜りに来ないようにすること。
 ちなみに村人達は別段、セミを退治して欲しいとは思っていない。
「せめて別の木だったら見逃しても良かったんですがねえ。ご神木様はちょっと、困ります……」
 山の中である。
 ちょっと山の中腹に向かえば、似たような大木もあるが、巨大セミはもう飛ぶ力もないらしい。素直に移動する気もなさそうだ。

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)
魔王様・ユウ(a18227)
黄金の羅針盤・ナシャ(a21210)
白楓・スオウ(a28244)
刻歌鶏守・タンドリー(a33590)
妄言箱・ミニチュア(a35310)
碧の漣・コール(a36197)


<リプレイ>

●セミの引越し
 セミは神木とされている大きな大木にしがみついていた。体長二メートル。鼈甲のような色の羽を持っていた。
 弱っているという報告は本当らしい。手が届きそうな位置に冒険者八人で取り囲んでも、飛び立つでなく、威嚇するでなく、樹にしがみついたままで、時たま、神木にストローのような口を突き立てて、樹液を吸う。
 ただ、羽に触ったりすると「ジジッ」と、文句を言うように短い鳴き声を上げた。飛べないが羽をばたばたさせることはできるらしい。
「秋の蝉……なんて物悲しいのでしょう? あ、いい歌作れそう……」
 と、黄金の輝き・タンドリー(a33590)は吟遊詩人としての詩心を刺激されてうっとりとした。
 神木は秋だからか、それともセミのせいか、葉から瑞々しい緑の色が失われていた。
 ご神木様もかなり弱っている。ほっておけば、相打ち、共倒れは必至。……戦っているわけではないけれど。
 冒険者達のセミへの対処方針は『退治』ではなく『引越し』だった。
 とりあえず、巨大ゼミにはご神木から離れてもらい、別の大木で我慢してもらう。
「一夏の儚いいのち、ですしね」
 と、しんみり言うのは白の福音・スオウ(a28244)。
 殺さずにすむのなら、そうしたい。
 黄金の羅針盤・ナシャ(a21210)は、神木から落ちた葉を拾った。
 この葉に似た樹で、大木に育っているものを探す。それがまず先にやらなくてはならないことだ。
 見張ってなくてもセミは逃げない。重たい体を飛ばすだけの元気はないからそれだけは安心である。
 スオウは言った。
「移動もそうそう時間はとれませんし……。近辺の樹で、良さそうな樹を見つけましょう。タイムロスも考えて、一キロ以内、なるべくなら八百メートルぐらいで。いい大木があるといいのですが。グルメさんだから、口に合わないかもしれないけれど……」
 ということで、神木の周囲、半径一キロを目安に、全員で手分けして大木を探すことになった。
「村人さん達が凄くガッカリする事態にならないように、頑張りましょうでございますよー!」
 と、張り切り森の中に入っていく妄言箱・ミニチュア(a35310)。
「ばらけたほうが効率もいいでしょう?」
 と、紅月に舞う鮮血に濡れた鴉・ユウ(a18227)は皆とは逆方向に歩き出した。
「さて見つかればいいですがねぇ?」
 古い森らしく、それなりに大木はあるものの、神木ほどの太さと大きさを兼ね備えたものはなかなかない。まして樹の種類まで一致しているものとなると、さらに少ない。
 再び、神木の前にみんなで集合。
 南側に行っていた、翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)が言った。
「ボクが行ったほうには、ちょっと神木より細いけど、同じ種類の樹があったよ」
「こちらのは、神木より太い大木ではあったが種類が違った」
 東のほうを見てきた六風の・ソルトムーン(a00180)が言う。
「北側は候補になる大木がまったくない。日当たりが悪い」
 と、碧の漣・コール(a36197)。
 ちなみに、西はすぐに村になってしまうため、調べに行った者はいなかった。
「一応、その二本が候補ってことかな」
「まったく同じじゃないんですが、同じ属の大木なら私の探したところにありましたよ」
 タンドリーがその葉っぱをもって来ていた。
 見比べると、よく似ている。葉の先端がやや丸いだけだ。
 場所を確認すると、タンドリーの見つけた樹は南西だった。
「だとすると、セミさんが無理ないように回るとしたら、ソルトムーンさんの樹、ナタクさんの樹、最後にタンドリーさんの樹と移動するのがよいでしょうか」
 最後までダメだった場合の、効率の良い回り方はそれが一番のようだ。
 そうと決まれば、コールとタンドリーがセミに向けて眠りの歌を歌った。
「……寝たのかな?」
 昆虫は瞼がないのでいまいちわからない。ナタクは樹によじのぼって、手足の爪を外したりするため、寝ているか否かは大重要なのでひどく気になった。
 羽に触っても文句は言わないから、たぶん寝ているのだろう。でもこれでは、いつ起きたのかもわからない。
「念のためです」
 ナシャは緑の束縛を使用して、眠っているらしいセミを拘束した。
 二番に背の高いソルトムーンがセミが落ちてこないように支えつつ、ナタクが樹に登ってセミの爪を樹木から慎重にはがす。
 ちなみに、一番背が高いのはユウなのだが、セミを移動するためのどこでもフワリン召喚中で、手伝えない。そして他の人たちは、二十センチほどソルトムーンより身長が低いので、微妙に手が届かなかった。側で、セミが倒れてきたりしたときだけ、支えられるようにスタンバイする以外ない。
「しかし毎年、この様なデカいセミが現れては大変だな。この手合いは退治しておいた方がいいと思うがの、目先の優しさで毎年迷惑する事になるやもしれんからのぅ」
 セミを支えつつ、一人そうこぼすソルトムーン。彼は昔、獰猛な獣を退治し、それの仔を哀れみから見逃したことがあった。しかし、それは後日その仔に村が襲われ、犠牲者を出す苦い結末をもたらすことになった。モンスター類に哀れみをかけている者を見ると、いつもそのことを思い出してしまう。今回はもう明らかにこのセミは余命いくばくもないようだから、村人が襲われる心配はないだろうが。
「あっ」
 ころんっとセミがひっくり返り、地面に落ちてきた。
「おっと!」
 ソルトムーンがセミの頭をとりあえず、支え。
 コールはその隙に下にもぐりこみ、自分に鎧進化をかけ、クッションみたいな材質の鎧にする。
「大丈夫。そのままゆっくり置いて」
 セミは仰向けのままコールに伸し掛かった。そしてセミはコールが思っていたより、
「重い……」
 のだった。
「あ、起きたみたいでございます」
 ミニチュアの言うとおり、セミの足が緩慢に蠢き始めた。
「寝ていなさい」
 と、タンドリーは再び歌う。
 セミはまた大人しくなった。元々大人しいため、死んでいるのかと疑いたくなるほど静かになる。昆虫標本っぽい。
 それぞれが持ち寄ったマントで、特に細い足が折れたりしないように慎重に包み、ユウが召喚したフワリンの背中に乗せて、ロープで固定する。
 木々の合間を、セミをぶつけないようにしながら移動。
「しかしなんだか、巨大ゼミの護衛みたいでございますね」
 セミの横を、暴れたら押さえるためについているミニチュアが楽しそうに言う。
 東側にあった大木はわりと近く、巨大ゼミが寝たままでたどり着いた。
 梱包状態のセミを解放し、しばらく待つとセミが目覚め、とりあえず自分の重みに耐えそうなその樹によじ登った。
 ジジッと鳴いた。その響きはとても不満そうだった。神木とは種類が違うから無理もなかった。
 一度管を差し込んだのに、すぐに外したセミは、大木からのたのたと降りようとした。
「次のが気に入ればいいけどねえ。……癒しの聖獣」
 その言葉と共に、再び召喚されたフワリンの背に乗せられたセミ。
 次の樹を目指して移動開始。
 カラフルな毛糸が枝に結んであって、迷わずに済んだ。コールが目印に結んでおいたのだった。
 眠って移動とはいえ、セミは疲労してきている。マントで包んでも、柔軟さの欠けている羽は傷みやすい。
 ナシャは合間を見ては、ヒーリングウェーブをかけた。
 ちょっと離れていたものの、次の大木に何事もなく移動完了。
 この樹は神木よりやや細かった。樹液には文句がなかったようだが、若い表皮がすべすべしてしがみつきにくいようで、みんなで見守っていたらセミはぽてっと落ちてしまった。
 ひっくり返って手足をわたわたとさせている。その動きは先ほどより力がなくなっているようだ。
「つぎでダメだったらもうないよ」
 ナタクはセミの頭がマントで包まれたりしないようにしながら、再び包んだ。きつく縛ると、羽が割れてしまうかもしれないので、細心の注意が必要。
 この複眼は生命力を測りにくいが、なんとなくセミが弱っていっているのはわかった。
「そうなった場合、普通の樹液で我慢していただくほかございませんですね」
 次の樹についた時、セミはなかなか目を覚まさなかった。
 自力で樹に登れなかったので、ユウとソルトムーンが押し上げた。
 セミは樹にしがみついて、じっとしていた。
 やがて、樹液を吸い始めた。
 飲むのはすぐにやめたが、不満の鳴き声をあげたりもせず、降りようとしたりもしなかった。太さもいいし、似た種類の樹だから、樹液の味も及第点なのだろう。
「このまま静かに余生過ごして欲しいな」
 と、ナシャは言った。
「……生きてくださいね……!」
 スオウも言葉を重ねた。 
「セミはこれで大丈夫かな? 次はご神木様のお手入れだね」
 ナタクは元気よく言った。後味悪い依頼にならなさそうでほっとした。餓死は辛すぎるし、弱っている生き物を殺すのも、やっぱり嫌なものだ。
 神木の元に帰りしな、コールはセミを振り返った。
「時に追われて生きるのは……どんな気持ち?」
 誰に問うたわけでもなかった。
ひと夏で費える命を彼らは一体どんな気持ちで生きていくのか、少しだけ興味があったのだ。

●神木
 スオウはマントに森の中の腐葉土を掻き集めて持ってきた。
 タンドリーはもてる雑学を総動員して、弱った大木を元気にするための方法を模索していた。
 ナシャは残っていたヒーリングウェーブを全部神木のために使ってみた。
 神木は寿命というわけではなく、樹液を啜られて弱っていただけなので、効果があった。少なくても、セミに抉られた穴は閉じ始めていた。
 ソルトムーンとナタクが大きなバケツに水を汲んできた。村人から肥料も少しわけてもらってきた。
「落花生を混ぜておりましてございますから、 歯の間に詰めないように細心のご注意を!」
そう言って、ミニチュアが差し入れたのはクッキーとハーブティー。見かけないと思ったら、みんなのお茶の用意をしてくれていたのだ。お腹がすいてきたところなので、みんな一時作業を中止してそれを摘んだ。
 ここは日がよく差して暖かくて、秋のピクニックにいい場所だった。
 肥料を撒いて、水をやり、根っこを保護するように腐葉土を上から被せた。弱ってどうしようもない枝を選別して切り落とした。
 神木は元気を僅かに取り戻した。

●雪が降った日
 それから数日後。
 村の青年はちらついた初雪を手にとって、ふっとあの季節外れの巨大ゼミのことを思い出した。
 見に行ってみようとかと、その大木に向かうにつれ、雪は地面を包んでいく。
 大木にセミの姿はなかった。
 うっすらと白く染まった地面に、鼈甲のような透ける羽が一枚だけ、やはり雪化粧されて落ちていた。
「食われたか、な」
 それは自然の摂理。村の人間はあの不自然なセミがそうやって自然に消えることを願っていた。
 時節を過ち生じてしまっても自分は確かにここにいたのだと、最後の自己主張しているかのような羽を青年は拾いあげた。
 それは青年の足の先から胸までの長さがあった。


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