【恋ってなぁに?】きっかけは何でもいいと思う。



<オープニング>


「見合い?」
 訝しげに呟き、首を傾げたのは霊査士の少女、フィル。
 そんな彼女の前には、問う言葉に頷きで応じる物腰柔らかな青年が一人。
 名を、ヨシノというそうだ。
「サツキ様のお世話係として、奥様より言付かってまいりまして」
 ぺこりと礼をしたヨシノは、ゆっくりと顔を上げてから、微笑んだ。
 彼の言うサツキとは、以前二つの事件で冒険者と顔をあわせることになった、とある趣味の持ち主であり、恋を知らない物憂げな青年だ。
 ヨシノは、そんな彼に見合いの話があるのだと、言うのだ。
「サツキ様もいいお年ですので。いい加減伴侶を持って家を継げと、奥様は仰っております」
「家の事情云々はともかく。それはサツキ本人に話すべきではないのか?」
 理解を示した上で、もっともな問いかけをすれば。ヨシノはまた、頷きを返してから苦笑した。
「勿論、サツキ様の元へ行きましてお伝えしました。その際、サツキ様に一つ条件を提示されまして」
「条件?」
 ひょこり、テーブルの下から顔を出して尋ねたのは、青い髪の青年。
 セイレーンの冒険者であるレンは、興味深げにヨシノを見上げてから、フィルを見やる。
 そうして、黙って聞けという視線の促しに大人しく従い、また、ヨシノを見て、先を待った。
「はい。最近泥棒の被害に悩まれているそうで。見合いをするのは構わないが、落ち着けるようになってからがいい、とのことです」
 そこで、冒険者に助力を求めたと、そういうことらしい。
 一通りを話し終えて。ヨシノは、おもむろに封筒を取り出し、手渡した。
「依頼後に、サツキ様にお渡しください。私は一度その旨を奥様に申し伝えに戻りますので」
 告げて、そのまま席を立つ。
「一ついいか?」
「はい?」
 去りかけたヨシノを呼び止めて、フィルは一つ、間を置いて尋ねた。
「見合い相手は女か?」
「野暮なこと聞かないでください」
 真顔に笑顔を返して。青年は去っていくのであった。
 じぃっと、同じ位置からそれを見送ったレンは、きらきらと瞳を輝かせてフィルを見る。
「姐さん、俺行きたい♪」
「……まぁ、好きにすればいい」
 小さく息をつきつつ、フィルは霊査にかかる。
 そうして、暫くして後、冒険者たちを見渡したのだ。
「場所はサツキの屋敷。泥棒の数は10弱。どうやら、以前サツキが雇っていた警備役のごろつきらしい。知っているものもいるかもしれんが、まぁ、背後には注意してくれ」
 変わらぬ真顔で告げる少女の言葉に首を傾げていられるうちは、まだ、幸せかもしれないと思う冒険者たちなのであった……。

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参加者
白キ死剣皇・レイル(a00842)
星影・ルシエラ(a03407)
蒼月燈の聖譚・ルシュエル(a05555)
ヒトノソリンの吟遊詩人・シモーネ(a15965)
金輝の暁・ディリアス(a16748)
緋炎・ゼナン(a19547)
舞い降りた白き翼・セイカ(a33781)
不夜王・フェイト(a33971)
NPC:スマイリー・レン(a90276)



<リプレイ>

 ――私は幸せなんですよ。
 こうして、サツキ様のお傍で、当たり前のようにお世話をさせていただける今が。

 ぼんやりと、思案しながら、星影・ルシエラ(a03407)はサツキをちらりと見た。
 サツキの見合い話に衝撃を受けたりして、ヨシノが辞職願いなんか出したりしていないか。
 そんなことを思いながら彼を追いかけてみたのだが、あっさりとした笑顔に、あしらわれた。
 口ぶりからして、サツキとの係わりを断とうなど考えはないようだが、何を考えての言葉なのか。さっぱりだ。
「ねぇ、サツキさん」
 見つめながら、問いかける。
 視線の合った彼は、綺麗な人だと思う。穏やかな人だとも思う。
 けれど、何だか冷たくも見える人だと思った。
 今回の泥棒たちは、元々彼が雇っていた人間だとか。もしかして、彼らにも同じ態度でいたのか。
「気持ちも関係も無いって思われたのは哀しくない?」
 彼のこんな態度が、彼らのこんな行動を引き起こしたのでは、ないのか。
 のんびりとした調子で尋ねられた、ルシエラの本気の言葉に。サツキは、一瞬だけ瞳を細めて。
「そうかも、知れないな……」
 諦めたような、転じて、まるで関心の欠落した呟きを、吐いた。
 少しだけ、腹が立ったような気がする。
「お見合いは素敵だけど、どんな関係でも人と人の係わり合いだもん。大切だよ? 難しいことだけどね、まずは自分の周りから人をちゃんと見て欲しい」
 言い残して。ルシエラはパタパタと、駆けていった。
 執拗に屋敷を付け狙うこそ泥を、とっ捕まえるために。

「盗みか……昔は良くやっていたな……」
 ふぅ。感傷に浸るように、白キ死剣皇・レイル(a00842)は小さく呟いた。
 屋敷の入り口近くで壁に凭れながらの思案は、どこか遠く、また、重い。
「見合い、か……」
 最愛の人と死別して後、恋愛というものを切り捨てたレイルにとっては、永劫縁のないものだろう。
 ただ、誰かを愛するというのは、苦痛を伴う幸せを得ることなのだと、サツキは知るのだろうか。
「む……いかん。集中しておかないとな」
 軽く頭を振って、レイルは気を引き締める。何せ霊査士が言ったのだ。
 男は背後に注意しろ。
 と。
 それを逆に利用して入り口で突っ立ってみる作戦をとっているのだから、油断などできたものではないのだ。
 警戒心を振りまきながら。レイルは一人、ぼんやりとした表情を装って、佇むのであった。

 戻り、サツキの部屋では。べらり。羊皮紙を突きつけながら、緋炎・ゼナン(a19547)はサツキとスマイリー・レン(a90276)を交互に見やる。
 紙には、二点のことが書かれていた。
 サツキとレンは自分が護る。
 レンには最後の壁としてサツキについていて欲しい。
 と。自身の低いダミ声を嫌うゼナンは、他人に意志を伝える際はこうして紙に書いた言葉を示すのだ。
 頷きながら確認したレンは、には、と笑って、サツキを振り返る。
「俺ねぇ、サツキが幸せになるの、すっごい楽しみなんだよ。だから、頑張る♪」
 ね。と、ゼナンにも言葉を振って、レンは少し広めの部屋の中を、興味深げに眺めだした。
(「…………大丈夫、だ、よね……」)
 二人を――特に、ふらふらと出歩いてしまいそうなレンを護れるか。ほんの少しだけ不安になった、ゼナンであったそうな。

 やがて、日が落ちかけてきた頃。広いだけで物静かだった屋敷に、人の気配が、漂いだした。
 それに真っ先に気づいた……正確には、対面したのは、金輝の暁・ディリアス(a16748)だった。
 窓や扉の鍵をチェックして、自身の持ち場へ戻ろうとした、矢先に。
「……あんた、何モンだ?」
 不審者であるはずの男に、逆に訝しげな視線を向けられて。ディリアスは咄嗟に、肩を竦めながら軽く笑んでみせる。
「僕? サツキに、買われたんだ」
 ダメ元上等。油断を誘うための色仕掛けに出たのだ。すると。
「へぇ。今日はやたら人が多いと思ったけど、まだそんなことしてたんだ。サツキも、好きだねぇ」
 意外そうな声を漏らして、舐めるようにディリアスを見る。
 引き攣った愛想笑いを浮かべながら、ディリアスは半歩だけ、下がる。
 だって明らかに常識人の視線じゃなかったから。
「今夜は、サツキじゃなくてあんたにしとこうか」
 にやりと歪む、獲物を狙うような目に、怖気を感じて。それでも、ぐっと堪えて近場の部屋に誘い込もうとした時だっただろうか。
 通りがかった部屋から、知った声を聞いたような気がしたのは。

 落ちる太陽が色濃い影を作る部屋。窓の真下に置いてあったベッドに潜りこんでいた蒼穹を舞う天使・ルシュエル(a05555)は、人の気配にそろり、身を起こす。
「誰か、いるんですか……?」
 ほんの少し、期待を込めたような装いのある問いかけ。けれど応じるように返ってきたのは、物音だけだ。
 きょろきょろと辺りを見渡して、最後に、背後の窓を見上げると。
「え……」
 いきなり、押し倒された。
 そんでもって、キスされた。
「んんっ!」
 まずい。口を塞がれた状態では、眠りの歌を歌うことができない。
 探ってくるような感触に、ドギャン、ピーッな事が連想される。
 ひどく甘い感覚に晒されながら、何とか、覆い被さる体を押しのけて。ほんのりと乱れた姿で、声を張り上げて歌おうとした、瞬間。
 激しい光に、目を細めた。
「な、何だ……!」
 戸惑う声に次いで、呻く声が立て続けに二つ、聞こえた。
 ややあって、ルシュエルの視界に飛び込んできたのは、気絶した男が二人と、苦笑を浮かべたディリアスの姿。
「面白そうだとは思ったけど、やっぱ危ないことはできないね」
 たまたまルシュエルのいる部屋の前を通りかかって、蹴破らん勢いで扉を開けるなり、スーパースポットライトを展開したのだ。
 自分が誘った男と、ルシュエルを襲いかけた男との視界を奪って、気絶させて。
 そうして、目一杯の安堵を携えた息をついて、彼らを縛り上げる、二人なのであった。

 そんな、早くも不思議な色が漂い始めている屋敷。
 過去を探す閃光の翼・セイカ(a33781)は、昼の内に確認していた逃走経路等の確認をしながら、悪事を働く泥棒らに、怒りと意欲とを沸かせていた。
 絶対に捕まえるのだ。と廊下をうろついていた彼女は、ふと、背後に人の気配を感じた。途端、腕を思い切り掴まれ、引き寄せられた。
「きゃっ」
 思わず声を上げてしまった。だが、そんなセイカの反応に、確かめた姿に。相手の方が、驚いた顔をした。
「お、女……?」
 がっかりしたような色合いも伺える声。
 別に狙われたいとかそんな考えは微塵も無いが、この態度は、女心に腹が立つ。
「男色についてとやかく言う気はありませんけど、だからって女の子にあんまり素っ気なくしてると痛い目見ますよ?」
 丁寧な口調で言うなり、眩い光を放つ。そうして、視界を奪われている隙に、鮮やかな手際で泥棒の腕を捻りあげ、床に叩き付け拘束した。
「……ほら、こんな風に」
 にこりと微笑んで見せるが、倒した拍子に頭でもぶつけさせてしまったらしい。気を失っていた。
「やりすぎ、ましたかね……」
 一応、悪人とはいえ一般人なのだ。もう少し加減してやるべきだっただろうか。
「そんなことないなぁ〜ん」
 苦笑するセイカに、男一人を引きずりながら笑顔を向けるヒトノソリンの吟遊詩人・シモーネ(a15965)。
 きっと、セイカと同じような扱いを受けたのだろう。こめかみに青筋が浮いているように見えるのは、気のせいだとしても……。

 更に場所を移って。入り口の方では、かなり際どい状況に陥っている者がいたり。
「っ――!」
 どこからきたのか、二人がかりでいきなり押さえつけられ、レイルは眉をひそめる。
 ルシュエルの時のも言えたことだが、お互い、相手を捕らえるために『歌』を選んだのは失敗だったかもしれない。
 口を塞がれては、歌うことができないのだから。
 というか、二人は反則だろうっ。
 とりあえず突き放そうと力を込めかけたが、そうするまでもなく、どこからとも無く飛来した長い棒が、泥棒の後頭部に直撃した。
 器用にも、二人同時に。
「よ、と……大丈夫か?」
 呻き声を上げている泥棒どもに眠りの歌で止めを刺して、不夜王・フェイト(a33971)は安否を確認しながら、彼らを革のロープで縛りだす。
 そうして、平気だというように大きくため息をついたレイルを、じぃ、と観察しだした。
「うーん……もう少し幼い方が……」
「何の話だ」
 怪訝な眼差しを軽くあしらうと、転がっていた棒切れを拾い、男どもを軽く、小突いた。
 苦悶に似た表情を浮かべながら、顔を上げる彼ら。にっこりとその顔を覗きこんで、フェイトは首を傾げる。
「何で泥棒なんかしてたんだ?」
 綺麗な笑顔に、一瞬見とれたような表情を見せる男。だが、返答を催促する眼差しに、舌打ちすると。
「仕返ししてやるためだよ」
「仕返し?」
「そーだよ。サツキんちから物盗って、ついでに本人もいただいて? 一方的に追い出されたんだから、それぐらいいいじゃねぇか」
「よくなーいっ!」
 突如沸く声。振り返れば、ルシエラが頬を膨らませて立っていた。
「好きな人同士じゃなきゃ、そんなのダメだもん! ダメすぎ!」
 怒鳴るルシエラに、鬱陶しいというような表情をチラリと見せた男。それが、彼女の怒りを煽って。
 長い長い説教に晒されることとなるのであった。

 そうして、仲間たちの活躍あって。サツキ他二名が控える部屋は、至って平和なものだった。
 時折、騒がしげな声やら音やらが聞こえてくるが、すぐに止むし。
 案外拍子抜けかもしれない。
 と。遠くから、酷く慌てたような、むしろ何か(多分仲間の冒険者)から逃げてきたような足音が聞こえたかと思うと、ばんっ、と勢いよく扉が開け放たれた。
「――っだよ、誰もいないんじゃなかったのかよ、サツ……」
 言いかけて、詰まる言葉。
 サツキ一人だと思って駆け込んだこの場所にも、脅威がいたのだから。
 青褪め、逃げ出そうとするより早く。ゼナンがスーパースポットライトともに鳩尾に一発拳をお見舞いしたために、あえなく御用となった。
 どさりと床に転がる男を、持参したロープで手際よく縛っていくゼナン。
 その顔は、実に、そう、心底楽しげだ。
 かと思えば、思い出したように振り返り、ぱちぱちと小さな拍手を繰り返しているレンに、ロープを示してみた。
「ん? 一緒に?」
 首を傾げるレンに、こくりと頷くゼナン。すると、レンは傍らのロープを手に、にこり、笑う。
「うん。やる♪」
 見上げたその顔が、一瞬だけどす黒く見えたのは、きっと、気のせいだ……。

 すっかり日が暮れ、本格的な夜が訪れた頃には。屋敷に忍び入ったこそ泥どもは、全員見事に捕縛されていた。
 一通り眺め、最後に、サツキを見て。フェイトは肩を竦める。
「わけ、聞く?」
「……いい。知っている」
 私怨と私欲と。それらが、彼らを『行為』に及ばせた。
 判っていて、いままで何もしていなかったのは、罪滅ぼしのつもりだったのだろうか。
 ほんの一瞬だけ生じた、微妙な沈黙。それを払ったのは、思い出したというように声を上げた、ディリアスだった。
「これ、ヨシノから渡してくれって」
 依頼へ赴く際にヨシノに託された、封筒。
 ヨシノから、という言葉に、意外そうな表情を見せたサツキだが、大人しく受け取って、中を見た。
「何が入っているのか、聞いてもいいですか?」
 中身を確認しているサツキを見て、そろり、尋ねるルシュエル。
 差支えがなければ、という意味を込めての言葉だが、サツキは意外にも、あっさりとそれを手渡してきた。
「……あいつらしい」
 意味深げな言葉に、彼と封筒とを一度だけ見比べて。ルシュエルは、中身を確かめた。
「これ……」
 中にあったのは、一枚の絵。それから、綺麗な文字が綴られた紙。

 お見合い相手様のお姿とお名前をお伝えしておきます。
 それ以外のプロフィールは、ご本人様にお会いしてお確かめくださいね。

 去り際の笑顔がよぎる。何も知らない相手のことだが、何となく、サツキの言う『らしい』というのが判る気がして。
 羊皮紙に今回の依頼について纏めていたゼナンの傍らに控えていたディリアスは、肩を竦めて苦笑していた。
「がんばんなよ。上手くいけば幸せになれるんだし」
 僕は勘弁だけど。
 最後の一言だけはきちんと飲み込んで。
 そうして、頷くサツキから、絵の方へと、視線を移す。
 とても穏やかな表情をした、エルフの青年。
「イトハ、か……」
 金髪碧眼の、人形のような姿をした彼の名を、サツキは小さく、呟くのであった。


マスター:聖京 紹介ページ
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作成日:2005/11/03
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