秋のタルト祭〜翡翠のような抹茶のタルト



<オープニング>


 ──タルト爺、という名前を耳にした事があるだろうか?
  節ばった手から作られるタルトは至高絶品。彼の作るタルトは弟子達の目標であり、憧れであった。
  今はもう、口にすることは永遠に叶わないけれど──

●翡翠色は何の味?
「レ〜クスちゃぁ〜ん!!」
「!?」
 いつものように、銀髪の青年が酒場にやってきたのを発見したストライダーの霊査士・ルラルが、なんともいえない嬌声を上げた。
 そのままばたばたと走ってくる彼女に、逆境ナイト・レキサナートは怪訝な顔をする。ちなみに先程の気色悪い呼びかけにその尻尾の毛がなんだか逆立ってしまっていた。
「ルラル殿、そういう依頼ならぴったりの人がって、こちらであるか……って、レクス殿! 久方ぶりである!」
「……」
 その後ろからひょいひょいとついてくるコックコートの男の顔を見たレクスがこれ以上はないというほどげんなりとした顔になる。
「……ルラル……一応確認するが……」
「うん、依頼人のキルフェさんだよ♪ なんかお知り合いみたいだね〜☆……どしたのレクスちゃん?」
「いや、いい……」
 なにやらガックリと近くのテーブルに座り込んでしまったレクスを気遣ってルラルが顔を覗き込んだ。
「どうしたレクス殿? どこかお悪いのであるか?」
「いや、何故私の知人というのは変なのばかりかな、と……そもそもの原因はブライルだろうがな……?」
 後から覗き込んできたキルフェという青年は、レクスより少し若い。 
「ふむ、ブライル兄者は確かに変人だと思われるであるな」
 レクスの呟きにうんうん、と合点が行った感じで頷いている彼に、思いっきり胡散臭い目つきを向けながらレクスは一つ溜息をついた。
(「お前も含めてサハリン一族はな……」)
「で、何か用か?」
「あ、それなのであるが……抹茶の代わりに青汁でもいいのではないかと思ってしまって、今ちょっと検討中なのである」
「青汁でも緑色だけど、青汁でタルト作るの〜? それ、美味しいの……?」
「……は?」
 何のことやら話が見えず、きょとんとするレクス。そして今不気味な言葉が聞こえたようだが。
「しかしルラル殿、青汁なれば体にも良く、見た目は非常に美しく仕上がると思うのである。これはまたとない題材ではないだろうかと我は思うわけであるのだが」
「でも、青汁ってお菓子に使うものじゃなさそう〜……」
「……話が良く見えないんだが?」
「……えっとね、キルフェさん御菓子職人で、タルト作りの名人なの〜♪ 知ってた?」
「いやまったくさっぱり」
「レクス殿、何だかその反応はあんまりである……」
 かのタルト爺にいつのまにやら弟子入りしていたことがあるキルフェが、今回の彼の命日に作ろうとしていたのは抹茶のタルトだった。
 生地にも抹茶を練りこんだ、美しい翡翠のタルト。
 その為には極上級の抹茶が必要なのだが、今その抹茶が訳あって手に入らない。
 困り果てたキルフェが助力を請いに酒場に来た時に、偶然、彼は目にしてしまった。禁断の材料、常連の一人が飲んでいた青汁を。
 代用品になるだろうかと思わず真剣に検討しだしてしまった瞬間に、レクスがやってきたというわけだ。
「しかし、抹茶が手に入るのであればそれが一番なのである。ということで、抹茶を持って帰ってきていただきたいのであるが」
「……持って帰ってくる、だけでいいのか?」
 何か拍子抜けしたような顔つきでレクスが問い返す。
 とても非常事態が起きて抹茶が手に入らないとか、そういうことではないらしかった。
「我が使う抹茶は、ここからとてもとても離れたジウ村の特産品なのである。一ヶ月に一度、お茶壷道中という名で親しまれる交易商が来るのであるが……」
「茶壷、ねぇ……」
 はぁ……という感じでとりあえず話を静聴するレクス。
「ついこの間そのお茶壷道中が来たのである。我は当然買いに赴いたのだが、抹茶は買えなかったのである……」
 しょんぼり。そんな擬音を背中にしょってうつむくキルフェ。
「……売り切れてたのか?」
「違うの〜。ジウ村からここに来る途中で、お茶壷割っちゃったの〜」
 道中は中々山あり谷あり森ありと変化に富んだ道のりで、途中に様々な障害があったりするらしい。
 極上の抹茶と知って狙ってくる盗賊もいるし、何故か抹茶が大好きな風変わりな獣はいるし、その道のりは困難を極めるのだ。
 そして今回は運悪く、ここにたどり着くまでに抹茶の壷はかなりの数が割れてしまい、少し寝坊したキルフェはそれを手にすることができなかったのである。
 次の道中を待っていたのでは師の命日はとっくに過ぎてしまう。なんとしてもそれは避けたかった。
 なので、誰か抹茶を取りにいってくれないだろうか……というのが本来の依頼内容である。
「……だが青汁でも翡翠のタルトになりそうなのである。そちらにも挑戦してみようかと思うのである。もちろん完成の折にはレクス殿にもお持ちするのである。皆でタルトパーティなのである」
「……。……青汁タルトはちょっとばかり遠慮したいが……」
「ルラルも翡翠のタルト食べたいな〜、できたら抹茶の方で♪」
 何か縋るような目つきのルラルを見て、レクスは苦笑した。確かに青汁タルトは罰ゲームの類だろう。
「わかった、全力で抹茶を持って帰ろう」
「おお! お願いするのである!」
 何よりも青汁回避の為に。
 密かに決意を固めてレクスは仲間を募りに席を立つのであった。

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参加者
昼行灯・エイシス(a06773)
深緑の森の守り手・イツキ(a10040)
深淵の微睡・リュフィリクト(a17971)
デタラメフォーチュンテラー・ネミン(a22040)
白鞘・サヤ(a30151)
夢幻の彷徨い人・エリシャ(a34062)
白儚泡雪・エイリーン(a35008)
万葉の紡ぎ手・アリスティア(a35805)
沈まぬ太陽・リュコス(a35910)
浮世に遊ぶ麗しの・ミギワ(a36350)
NPC:銀雷閃光の蒼き守護者・レキサナート(a90113)



<リプレイ>


 周囲の評判によると、たまーに不思議なものを作ること以外はキルフェのタルト作りの腕は確かなもののようだった。そう、まともな翡翠のタルトであれば、それは評判になるような物なのだ。
「抹茶のタルトって食べたことないんだ♪ すっごく楽しみ!」
深淵の微睡・リュフィリクト(a17971)がにこにこと満面の笑顔で言う。
「美味しい抹茶のタルトがいただけるよう、頑張って急ぎませんと……」
 ジウ村に急行中の一同。冒険者の足と体力を活かして、最大限に道を急いでいた面々は、深緑の森の守り手・イツキ(a10040)の呟きに、全力で頷く。
「すごく響きがおいしそうなのですっ。ネミンも是非食べたいのですー♪」
 デタラメフォーチュンテラー・ネミン(a22040)が、本当に楽しみだというように笑った。
「青汁は体にいいんですよ。だから青汁でも……じょ、冗談ですからそんな顔しないで……」
 びきっと凍る空気。
 白鞘・サヤ(a30151)は、一斉になんともいえない顔になったりものすごく悲しそうな顔になった仲間達を見やり、大慌てで自らの発言を撤回した。
(「でもものすごく興味があるんですが、青汁タルト……」)
 心の中で呟いたのは夢幻の彷徨い人・エリシャ(a34062)だが、とりあえず周りの雰囲気を慮って黙っておくことにする。多分きっとその方が懸命。
「絶対に嫌です……食べたくないです……」
「だ、大丈夫よ、なんとしてでもちゃんとした抹茶を持って帰るんだから! 私も青汁は嫌!」
 半泣きの声を上げる白儚泡雪・エイリーン(a35008)を慰めようと、万葉の紡ぎ手・アリスティア(a35805)が励ましの声をかけた。硬く握られた拳が籠められている気合を物語っている。
「青汁は美容と健康によさそうでありんすが、緑色ならばいいという物ではないぞぇ」
 甘くて美味な菓子に青汁を使うなど言語道断!と語気を強めるのはセイレーンの翔剣士・ミギワ(a36350)。
「……本気で作る馬鹿だからな、あれは」
「まぁ、とりあえず美味いタルトの為に頑張ろうじゃねーか」
 頭痛を抑えながらレクスが呟くと、昼行灯・エイシス(a06773)が、くくっと笑いながら煙草に火をつけ、一息吸った後言った。
「さすが、食い物にかける情熱はやはり皆激しいの」
 雨を願う狂戦士・リュコス(a35910)の呟きは、食という物が生きるということにおける最大の事項である以上最もであるといえよう。やはり美味しい物の方がいい。ごく一部に代わった味覚の持ち主も存在するが。
 それにしても、先程から移り変わる風景は山を越え谷を超え。一応道らしきものがちゃんと存在しているのが救いといえば救いであるが、確かにこれは行商も大変だろうというだけの距離とバラエティに富んでいる。
 とりあえず行きはそう気を使わなくてもいいため、時間短縮に多少の道なら迂回もせず、彼らは果敢にサバイバルに挑んでいた。
 途中仮眠時はアリステアがこんなこともあろうかと用意していた寝袋でぐっすり眠ってすっきりし、空腹になればエリシャの術で満腹の幸せな気分になって、また耐久レース。
「陽光がまぶしいのぅ」
 髪の色が薄いので、光に反射してハゲッぽく見えると密かに気にしている(実際はそんなことはないはずなのだが)リュコスは、フードを目深に被りながら頭上で燦燦と輝く太陽を見やった。
「もし干からびたら水を掛けてあげるわよ」
 アリステアが含み笑いをする。
(「セイレーンの髪って……水かけると増殖したりするのか?」)
 一瞬誰もがそう思ったが、あえて考えないことにしたようだ。……余談だがもちろんそんなことはない、はず。
「そろそろ……かな……」
 ちょっとした崖をロッククライミングしながら、誰かがポツリと呟く。
 ここが最短コース最後の難関のはずであった。


「それでは、これがうちの特産の抹茶です。道中お気をつけて」
 ジウ村の方々は、何か偉い勢いでやってきた冒険者一行に快く抹茶を譲ってくれた。
 早速搬送を担当する面子が茶壷を注意深く油紙で包み、さらに毛布で包み、箱に詰める。もちろん隙間には緩衝材、と万全を期した。
 その箱の蓋ごと紐をかけ、リュフィの用意してきた背負子に固定して、準備完了。
 作業が行われている間、囮の茶壷を持ったネミンらが元気に出発していった。
こちらはダミーの為、サヤの用意してきたかなり大き目の壷を毛布で包んだだけの簡易包装だ。中身は安物。
 しかし、囮だと気付かせてはいけないので、全員が壊れ物を扱うように大切に大切に運ぶ。疲れないようにやはり紐で括って、交代で背負った。
 今度は一応人の通る道を選んで、なるべく急ぎながら、しかし先行しすぎないようにと気を使って山の中を進んでいくと。
「うはははは貴様ら金目のものだけおいてとっとと逃げやがれぇ!」
 お約束のように現われる盗賊。
「そ、そんな! これを取られたらうちの村は……!」
 サヤがリュコスの背負う壷を守るようにしがみついた。
「そいつはなんか高そうなシロモンだな? よーしよしよし、そいつをおいていけば命だけはとらねぇ何俺達は約束はまも……」
「渇ッ!!!!」
 ヘラヘラと近づいてくる盗賊達にリュコスの一喝が轟いた。
 ついでかぶさるようにネミンの眠りを誘う歌が響くと、たちまち崩れ落ちる盗賊達。
「荒縄しかないから痛いかもだけど、仕方ないわよねー」
 アリステアがげしげしと容赦なく足蹴にしつつそれらに縄をかけ、ひとまとめにして脇道にどけた。
「抹茶を狙ってあっさり返り討ちって……ちょっと哀れですけど……」
 ポツリとネミンが呟くが、悪は悪なので、あえて放置しておくことにする。 
 気を取り直して、彼らは前進を再開した。

 一方、本物ご一行様。
「あそこ、ちっちゃい川があるね……よし、フワリン呼ぼう!」
「落ちないように気をつけてな」
 リュフィの呼び出したフワリンにまたがって、ふーわふーわと川を迂回してみたり。
 もちろん護衛組は上手く突起物などを伝って地上から川を渡っているが、なんだか平和に道中が進んでいる。
「……何だ?」
「いや、レクスはほんに凛々しいのう〜♪」
「……そ、そうか、ありがとう……?」
 じーっと見つめる視線に問い返すと、うきうきとミギワが言った言葉に、なんともいえない顔をしてレクスは頭をかく。
 周りはいやそこは感謝するべきところなのか?何か違わないかと思ったが、とりあえずスルーしておくことにしたようだ。
「そういやレクスはフォーナはどうするんだ? 何なら一緒に過ごさんか?」
「フォーナ? ……もうそんな時期か、まだ何も……しっ」
 エイシスに答えようとしたレクスが、いきなり腰の剣に手をかけ、辺りを油断なく見回す。
「来たか……」
 なんつータイミングの悪さだ、と内心舌打ちしつつエイシスもそれに倣った。
(「これは渡せないのです……!」)
 背負っていた茶壷の箱を、背負子から外してエイリーンはぎゅうっと抱きしめる。辺りは少し足元が不安定で、この方が大切な壷を今はより守れる気がしたからだ。
「ひゃーははははははテメーら金目のもんだけおいてとっとと……」
「眠ってください!」
 イツキが間髪いれず眠りの歌を紡ぐ。
「ああっおかしら! テメーらよくもおかしらを……ぶはっ」
 後ろから現われた第二弾にエリシャの手元から咄嗟に術の光が飛んで、ノックアウト。
 続いて現われる第三弾を、エイシスが一瞬で射止め、そこをレクスが容赦なく殴り飛ばした。
「あ、甘いぞお前らこれを見ろ!」
「!」
 いつのまにやら、エイリーンのそばにいやらしい笑みを浮かべた二人が現われている。
「ほら、離せって」
「い、嫌です! 渡しませんっ……!」
「強情な事いってると●×△しちまうぞ嬢ちゃん」
 彼女が大事に抱える箱に当然興味を示し、奪おうとする盗賊たち。必死の抵抗にあい紡がれる下品な言葉に、大人達が顔を顰めた。
「兄さん方は子供趣味がおありなのかえ? 代わりにあちきはどうえ? たっぷり色々と満足できると思うぞえ」
 ミギワがお色気たっぷりに近寄ると、盗賊の一人が鼻の下を伸ばして彼を引き寄せ、もう一人が後ろから抱きすくめて首をかしげた。
「……? こ、コイツ男か、騙されたおかまめどっかいきやがれ!」
 ああ、言ってはならないことを……とはらはらしつつ見守る仲間達(エイリーンと茶壷はどさくさにまぎれて保護済である)
「……大事なお茶壷を横取りだなんて、いい根性してるよね?」
 あ、切れた。
 仲間たちが思った瞬間、額に青筋を浮かべながらにっこり笑ったミギワが、手近にいた方に容赦なく蹴りを叩き込む。
 それを合図に、もう一度響くイツキの歌。かぶせるようにエリシャの攻撃が飛んだ。
 世の中、触れてはいけない事もある。そんな教訓を身をもって知ってしまった二人を、とりあえずロープでぐるぐるにしながら心の中で合掌する。
「無事でよかったです……」
 もう一度背負子に茶壷を固定し、エイリーンがにっこり笑う。茶壷もだが彼女も無事でよかったと思った大人数名は胸をなでおろし、一行はまた道を急いだ。

「……あそこ、何か変ではないかの?」
 リュコスがすぐそばの木の上を指差し、すぐ後ろにいたアリステアを振り返る。
「……って、動いた!?」
 ずも。そんな形容詞がつきそうな動きで木の上の物体が動く。
「カメレオンさん、こちらお茶ありますですよ!」
 ネミンが素早く餌の抹茶をふたに乗せて差し出すと、舌がにゅるんと伸びた。
 そのまま夢中になって抹茶を舐めるそれに、サヤが眠りの歌を歌い、眠り込んだところを全員で捕獲する。
「……可愛いかも……♪ でもかわいそうだけどこれもお仕事っ!」
 ほわわっとなっていたサヤが、嘘泣きしながら捕獲したカメレオンに素早く袋をかぶせて口を縛った。
「……それ、どうするのじゃ?」
 そのまま箱に入れて紐で縛って厳重封印。何もそこまでしなくても、と思いつつ、リュコスが聞く。
 カメレオンが窒息しないように袋と箱に空気穴を開けていたサヤが、うっとりと箱を抱きしめながら夢見る瞳をした。
「つれて帰ります♪ 大丈夫、ちゃんと自分で背負いますから!」
 そういいながらいそいそと箱を背負ってしまっている。相当重そうな気がするが、とりあえず本人が運ぶといっているのでそれ以上は突っ込まず、彼らはまた帰途を急ぐのであった。

 キルフェの待つ村まで後一歩、というところで全員が合流。
「……その箱は?」
「カメレオンのティーちゃんです♪」
「……つれてきちゃったの?」
「はい!」
 既に名前までつけているサヤに、とりあえず害があるものでもないのでまぁいいか、と全員が笑う。
 目的地はすぐそこ。無事に抹茶のタルトが食べれそうということで知らず足取りが軽くなる。
 村ではキルフェが首を長くして待っているはずであった。……多分。


「おお! これこそまさにジウ村の抹茶! ありがたい、早速翡翠のタルトをつくるのである!」
 大事に運んできた茶壷を手渡すと、キルフェは大変喜び、そのまま厨房へと消えていった。ふと、今彼がやっていた作業を見ると、そこには数種類の菜っ葉類が積み重なっている。
「……青汁を作っていたなやはり」
 レクスが疲れたように呟くと、全員が心の底から間に合ってよかった、と思った。……約一名を除いて。
「見学、させてもらってもいい?」
「もちろんかまわんである」
「わーい♪ ……すごいなぁ……」
 厨房に菓子制作の過程を見学に行ったリュフィの感嘆したような声がする。
「どんな味なのでしょうね? すごく楽しみです」
 リビングルームで雑談しつつそれを聞いたエイリーンが、目をキラキラさせた。
(「やはりコッソリ頼んでみましょう」)
 エリシャがなにやら心を決めたように厨房へと消えていく。青汁タルトを依頼しに行ったのだとは露ほども思わない他の仲間達は、まだ見ぬ美味を想像し、話に花を咲かせていた。
「手伝うでありんす♪」
 ミギワはお茶会の準備等を手伝ってテーブルセッティングをしている。
 幸せの瞬間は、すぐそこであった。

 中央のクリームは、白に森の緑を溶かし込んだような色。周りを包むのはしっとりと落ち着いたお茶の色の生地。その姿はまさに食べる宝石。
「わひゃぁ、本当に翡翠のよう……抹茶のタルト、頂きますですー♪」
 ネミンが運ばれてきたタルトに歓声を上げた。早速うきうきとフォークを手にパクリと行くのかと思いきや、他のメンバーが口に運ぶのをじーっと見ている。
「おいしいです……♪」
 無邪気にエイリーンが頬張っているのを見て、ネミンはようやく安心したのかぱくつきだした。よほど青汁に苦い思い出があるらしい。
「お茶好きには堪らないものがありますねぇ」
 ゆったりと自前のほうじ茶をすすりつつ、イツキは翡翠のタルトを口に運ぶ。
「すごいね、美味しいー♪♪」
 傍らでリュフィはご満悦だ。作り方も教えてもらったし、見せてもらったし、今度は自分でイツキさんに作ってあげよう、と心の中でぐ、拳を握る。
 上手にはできないかもしれないけど、お茶好きな彼に食べてもらいたいのだ。
「ほのかな苦味と甘みが何とも……」
 幸せ一杯な表情を浮かべたアリステアは、次々とタルトに手を伸ばしている。
「見目麗しい男も女も居るし、たるとは美味い。極楽でありんす♪」
 ミギワがうっとりと言った。彼は基本的に綺麗なモノが好きなのだ。
「おおー、綺麗な翡翠色なのじゃー」
 リュコスがまた運ばれてきた新しいタルトに歓声を上げて手を伸ばした。
「……苦いのう……予想以上に苦いのぉ……」
「ううむ、美味しいですねぇ」
 首をかしげているリュコスに、横でエリシャが幸せそうに唸っている。
「……!」
 まさか。何かを感じたアリステアがこっそりリュコスの手元のタルト数切れをネミンの近くのものとすりかえた。
「♪♪……!?」
 気がつかずにそれを頬張り、ネミンが一瞬動きを止める。
 そのまま表情は変えず(どうやら見えないところは汗びっしょり)、またそのタルトをサヤのものと交換した。
「……これは……あ、青汁タルトってのも乙なもの、ですよ……ね?」
 まんまと引っかかって食べてしまったサヤが冷や汗をかきつつコメントする。
 どうやらエリシャの要望にキルフェはとても喜んで答えてしまったらしい。
 改めてリュコスに普通のタルトを回しながら、レクスは自分の手元をじっと見てみた。……何となくこれも青汁のような気がする。
「で、ほんとにフォーナはどうするんだ? 本気で俺はレクスと過ごしたいんだが……駄目か?」
「パーティには行くつもりだ、フォーナは家族の祭でもあるし。 一緒に行くのは構わんぞ……やはり青汁か」
 エイシスの誘いに多分何かずれた答えを返しつつ、レクスは顔を顰めた。

 翡翠のタルトは、無事に守られた。一部を除いて。
 遥かな天上ではタルト爺が弟子達をいつまでも見守っていることだろう。
 


マスター:神條玲 紹介ページ
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白鞘・サヤ(a30151)  2009年12月22日 22時  通報
ネミンさんにしてやられました…
その発想はなかったです……