紅の操球士



<オープニング>


●紅の操球士
 鬱蒼と茂る森の中、ソレは隠されるようにそこにあった。
 ソレは深き洞窟。陽光を拒絶し闇を湛え、生気を絶やし瘴気を満たす。

 その洞窟を見つけた若い猟師とその友である男は、好奇心に後押しされ足を踏み入れた。
 カンテラの光を頼りに進むと、程なく開かれた空間を見つけることが出来た。
 猟師が先に一歩を踏み入れ……と、すぐさま弾かれた様に飛び退き後ろに居た男にぶつかった。
「イテテテ……、どうしたんだいきなり?」
 非難を込めた言葉をかける……返事は無い。
 不審に思って良く見れば、猟師の腹部は黒く焼け焦げ、陥没していた。息は、無い。
 恐怖に顔を歪め、視線を空洞に向ける。
 そこに立っていたのは小柄な老人。腰を曲げ、両の手をぶら下げ、皮と骨だけであろう顔をこちらに向けていた。
 暗闇の中にあって尚映えるのは深紅に輝く双眸。
 纏うは深紅に染まった立派なローブ。
「あ、あぁ……」
 老人のか細い腕が上がっていくのを見た男は、その場を逃げ出した。

●冒険者の酒場
「とある洞窟内でモンスターが確認されたわ。討伐の依頼がきているの。犠牲者も出ているわ、なかなか手強いようだけど……興味がある人は聞いて頂戴」
 冒険者の酒場に霊査士リィーンの声が響く。反応を示した冒険者の顔を見回して、リィーンは言葉を続けた。
「敵は老人の姿をしたモンスター。とは言っても、外見なんて当てにならないわね。攻撃手段は火球。強力な単発型と、広域を巻き込む拡散型、二つを使い分けるようね」
 冒険者の命すら脅かす炎だ、ただの炎ではない。
 運が悪ければ、炎に包まれ、継続的なダメージを受けるだろう。
「あと、この火球は防御用にも使われるわ。周囲に小型の火球を多数漂わせ、迂闊に触れた者にダメージを与える。接近戦重視の人は気をつけて」
 この防御法はあらゆるダメージは軽減し、また近接攻撃には反撃のダメージを受ける。せめてもの幸いは、火球の防御の効果は時間制限があるということ。
「私に分かったのはこんな所。いかに厄介な敵か、良く分かってもらえたと思うけど……それでも行くという人はとにかく気をつけて、お願いね」

マスターからのコメントを見る

参加者
終焉を謳う最後の龍皇・ソラ(a00441)
星辰の爪牙・アンリ(a00482)
邪龍導師・ムーンリーズ(a02581)
ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)
内なる光・セオ(a11776)
神の声を聞きし聖少女・ジャネット(a18229)
剣の翼・ハウレス(a19660)
世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)
雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)
愚者・アスタルテ(a28034)


<リプレイ>

●戦場への道
 森の中、甲高い笛の音が響いた。
「……撤退する場合の音は此れでお願いします」
 敵が潜む件の洞窟の前、月喰虚龍・ムーンリーズ(a02581)は居並ぶ仲間を見渡した。
「もう一つ、提案なのですが、連携をスムーズにする為、攻撃の合図も決めておきません?」
 剣魔使い・アスタルテ(a28034)が言う。即興で組んだパーティーに付け焼刃は火傷の元。が、出来れば越した事は無い。
 戦闘の際は二手に分かれる算段だ。合図を右班攻撃、左班攻撃、集中攻撃の三点に絞れば使えるだろう。……最も、乱戦となればその限りではないが。
「さて、行きましょ。これ以上犠牲者は出させない」
 数度の確認を終え、言うアスタルテに皆も頷き返す。
「んじゃ、いっくにゃ〜」
 世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)は拳突き上げ、意気揚々と洞窟に足を踏み入れた。

「モンスターとの戦闘……久しぶりな感じだな」
 歩き始めて暫く、先に待つ敵を思い内なる光・セオ(a11776)が呟き、
「俺も依頼は久方ぶりだ。まあ、どちらにせよ出来る事をするだけだが」
 隣を歩く終焉を謳う最後の龍皇・ソラ(a00441)もそれに乗る。
「炎の使い手……やっかいな相手のようですね……」
 神の声を聞きし聖少女・ジャネット(a18229)はこれからの戦いを思う。
「モンスター……身なりからすると、以前はそれなりの身分だったのですかね?」
 星辰の爪牙・アンリ(a00482)は思考を巡らせ、
「だが誰であろうと人を殺めるのは許されん。倒すのみだ」
 先頭でカンテラを灯す雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)は己の意思を強く示した。
「……そろそろか?」
「ええ、お話通りなら」
 ムーンリーズの呟きに前を歩くアンリが振り返らず答える。そろそろ件の広間へも近くになっていった。
「……」
 ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)がカンテラの明かりを隠す。他の光源を持つ仲間もそれに習った。
 それから程なく、道の先に何かが倒れているのを見つける。……猟師の亡骸だ。
「……我が咎の烙印よ……顕現して我を堕とせ」
 戦闘の準備を。ムーンリーズの全身が黒い炎に包まれ、ジャネットの術士服が白銀の鎧に姿を変える。
 ユダはが剣を引き抜き振れば、その剣先にリングスラッシャーが生まれた。

●紅の操球士
 暗闇の中、灯るは深紅の輝き二つ。
 暗き広間に滑り込んできたのは、円盤状の衝撃波が二枚。
 二つの紅はそれを認めると、燃え盛る火球を生み出し放った! 火球は円盤を飲み込み、炸裂する。
 爆炎の向こう側から、一斉に駆け込んでくる人影。
「……その紅色は目障りだ」
 頭上に輝く光の輪を冠した白業の葬者・ハウレス(a19660)だけが入り口に残り、光の軌跡を牽く矢を放つ。
 ローブに突き立つ矢を気にした風も無く払う敵。ホーリーライトに照らし出されたのは話通りの老人。枝のような細い腕、まるで骸骨のような頭、空の眼孔に紅い光を灯す怪物。
 敵の意識がハウレスの向いたその間、右にセオ、左にアスタルテと分かれた術士二人は共に両手杖を構え、同じ力を発動する。
 エンブレムフィールド、術者を中心とし巨大な光の紋章が地面に描かれる。敵味方、共に術に対する抵抗力を高める力。紋章筆記の力を消耗し、尚強く力は動く。
「炎術士か……来い」
「……さぁ始めましょうか」
 ソラの静かに意気込む声に続け、ムーンリーズが艶やかな笑みを浮かべた。

 全員、敵の攻撃を警戒し下手に近付くまねはしない。
 右からはアンリのチェーンシュート、ジースリーのホーミングアローが。
 左からはユダのソニックウェーブ、ハウレスのホーミングアローが牽制として放たれる。
 それらの攻撃を受けてもさほどの影響を見せず。両の手に火球を生み出した敵はその火球を握りつぶす。拳から溢れた紅は、それぞれが小さな火球となって四方に飛んだ!
 かわし、また盾で受け止める冒険者達。的にならないよう動き回るアルテミスやハウレスだが、直線的ではないその動きに足元への着弾を許す。が、エンブレムフィールドに加え、ジャネットの聖鎧降臨の加護を受ける冒険者には警戒していたほどのダメージは無い。しかし、恐ろしいのはその追加効果。普通ではない火が身へと燃え移り、体を焦がす。
「今、治療したします」
 慌てず騒がず、サポートとして参じたラグ(a09557)が己が使命を果たすべく術手袋を填めた左手を差し出す。一時、瘴気を押し、深緑思わせる風が流れ、二人を苛む炎を消した。
「神よ、彼らに癒しの光を!」
 ジャネットのヒーリングウェーブが広がり傷を癒し、その間にアスタルテの笛が無傷の右班に攻撃の指示を出す。
 ムーンリーズの黒炎が顔面を狙い、ジースリーの矢が光を牽き敵に迫る。敵が黒炎をかわし、矢を受けた先、一気に間を詰めたアンリがおもむろに一歩を踏み出しローブを切り裂く。次いでソラの蹴りが二発、その腹部を打った。体勢を崩しながらも、モンスターは再び両手に火球を抱き、握り潰す。
「……!」
 無風の構えをもって対するソラ。しかし試みは失敗し、腹部にその直撃を受けた。飛び退き、距離を取る。傷は浅いが、体は炎に包まれた。
「今治す」
 セオが毒消しの風を呼び出す。ソラ、そして同じく魔炎を受けていたアンリの炎が鎮まった。

 左班の回復をラグに任せ、ジャネットは敵へと接近を試みる。前面に掲げる装飾の為された盾、それを暴力的な熱と衝撃が叩く!
 単体攻撃は、拡散攻撃の比ではない。しかし彼女はエンジェル。種として心に恵まれる彼女は、被害を最小に押さえ込む。対し、単体への攻撃で他への対処を怠ったモンスターには、他の仲間が一気に攻撃を仕掛けた。
 矢が射掛けられ、剣が振られ、黒炎が放たれ、蹴りが叩き込まれ、アルテミスの双斧がモンスターの体を引き裂いた時。モンスターは今までに無い動きを見せた。
 両手を左右に伸ばし、僅かに震える。思わず距離を離す冒険者達の判断は正しかった。老人の周囲を、多数の火球が覆い、舞ったのだ。
 紅の防御陣、その発動だった。

●紅、討滅
 距離を離す冒険者に追いすがるように、防御陣の内側より飛び出した小型の火球が飛び出し迫る。
 回避しそこねた数人が受け魔炎に包まれるも、速やかに放たれる毒消しの風、ヒーリングウェーブに大事には至らず。遠距離攻撃に徹していた仲間たちの援護を受け、一〇メートルほどの距離を離すことに成功した。
 モンスターを包む火球の渦は隙間無く、敵の姿を確認する事も出来ない。が、敵の火球はその内側より放たれ正確に此方を狙ってくる。
「これほどとは……」
 戦闘の最中、敵の単発型、拡散型の発射体勢に違いを見つけ、少しでも戦闘に役立てようと考えていたアスタルテだが、これではその様子を確認する事も出来ない。
「……殲滅する、必ずだ」
 接近戦を主とする仲間が回避、防御に徹する中、ハウレスは手元に雷の矢を作り出し放つ。
 迸る雷光が火球に挑み、幾つかを巻き添えにモンスターへと突き立つ。が、その威力は随分と殺がれた。
「……ッ!」
 反対方向からは、ジースリーが常の寡黙に僅かな気合を乗せ、ライトニングアローを放つ。結果は同じ、敵の傷は浅い。それでも無駄で無いようだ。
 術者は回復に徹し、中距離以上の攻撃手段を持つものは、諦める事無く攻撃を続ける。
 いつしか、防御陣を形作る火球はその数を減らし、僅かな隙間を見せ始めた。
 何十発目かの火球を掠めさせ、それでも放ったユダのソニックウェーブが防御陣に横一筋の傷を刻む。傷の向こう、モンスターが僅かにふらつくのが見えた。
「範囲攻撃、来ますよ!」
 両手に灯る火球を認めアスタルテが叫ぶ。果たして飛来した小型の火球を捌き、反撃の時は来た。
 モンスターを囲む、火球の防御陣が急速に回転速度を落とす。
「! ……今です!!」
 これを好機と、アスタルテが集中攻撃を知らせる笛を吹く。
「その色を持って魔物になった事を、何より正確に……後悔させてやる」
 紅を睨み、雷を生み出し、放つハウレス。左手に受けてよろめく紅、更に反対側、右手から放たれたジースリーのライトニングアローが敵を穿ち左右へと振るわせる。
「今です!」
 体勢を崩した敵に、ジャネットは剣を振り、先陣をきって駆け出す。
「……さぁ戦いはまだまだこれからですよ」
 ムーンリーズ等、術士達が先の持久戦で傷付いた体を癒し、攻め立てる力を仲間へ与える。
 ユダのソニックウェーブが炸裂、怯みながらも敵はしつこくも火球を生み出し周囲に放つ。
「にゃにゃッ! でももう少し、絶対倒すにゃ〜!」
 直撃を受けるが、拡散型の火球ならば高い心防御を誇る冒険者達を怯ませるには足りない。
 纏わり付いた魔炎はセオ達に払われ、アルテミス達の走りは止まらない。
 ジャネットが接近し剣を振るう。生み出された衝撃波がモンスターを打ち、反対側から接近したソラが敵の頭を両手で掴み振り上げた。
「落ちろ……!!」
 気合と共に、頭から地面に叩きつける!
 地面に僅かにめり込み、仰向けに倒れ込むモンスターに、
「これで……!」
「どうにゃ!」
 アンリ、アルテミスの達人の一撃が叩き込まれる。
 倒れたままのモンスター。構えを解かず、刃を、矢を、拳を、敵へと向ける冒険者。
 モンスターは、ただ一度枝のような指を動かし、動きを完全に止めた。
 眼光に灯った紅は、徐々に、深き闇に沈むように、消えていった。

●弔い
「まったく、怪しげな爺様だったな」
「こうやってみると普通の老人にしか見えないんだけどね……」
 亡骸を目に顔を顰めるユダ、対しアルテミスは悲しげな表情でその顔を見つめていた。
 ジャネットは跪き祈りを捧げている。
「神よ、彼らに永遠の安らぎのあらんことを……」
 その隣で自らも無造作に十字を切り、ハウレスは提案する。
「この者は、火葬にしようと思うのだが、どうだろうか」
 皆の視線がハウレスに集まった。
「光と熱で還るのなら本望……いやそれも、殺した側の偏執的な妄想なんだろうね」
 特に異論は無かった。ジースリーが無言でモンスターの亡骸を抱える。その体は驚くほど脆く、軽かった。

 被害者である猟師の亡骸をソラが抱え、その猟師の持ち物をアスタルテが纏めて持ち、一行は洞窟の外へ出た。
 その場でモンスターを火葬する。あの頑強さがウソのように、体はボロボロと崩れ、その原型を失った。
「えっと、お疲れ様!」
 改めてアルテミスが依頼の終わりを意味する言葉を口にした。
「……ええ、皆無事で何よりです」
「ああ、そうだな。それでは、戻るか」
 早々に纏めてセオが歩き出す。一行は一瞬の間をあけてその後を追う。
 猟師の住んでいた村を目指して。

 後日、冒険者の酒場を訪れたアンリ。手には深紅の布切れ。
「リィーンさん、先の依頼で倒したモンスターの着衣の一部をお持ちしたのですが」
 目的の霊査士。リィーンを見つけ、アンリは声をかけた。
「そうなの? ……じゃあ折角だし、預かるわね。有難う……それとお疲れ様。また、何かあったらお願いね」


マスター:皇弾 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2005/10/30
得票数:戦闘9 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。