終わらない円舞曲



<オープニング>


 その狸の頭をしたモノは刃と貸した4本の腕と刃の翼を持ち、ワルツを踊る。
 手を振るたびに、翼を動かす度に、空気が切れ衝撃波が舞う。
 敵は踊りが終わるまで、ただ衝撃波に斬りつけられる。
 そして踊りは、敵が絶命するまで決して終わらないのだった。

「ワルツを踊る狸顔モンスターを倒して欲しいんです」
 ツキユーは言いながらも、既に自分の中で違和感に気付く。
「全くイメージが出来ませんね……こんな姿なんですけど」
 スケッチブックに絵を描きはじめるツキユー。
 人の体に4本腕、背中には羽根1枚1枚が刃のようにとがった翼。
 そして、頭部が狸だった。
「狸じゃなきゃカッコ良いですのにね」
 モンスターにカッコ良さを求めてどうするのかという疑問も感じつつ、説明を続けるツキユー。
「このモンスターは踊りながら街道を進んでいるみたいですね。彼の通った半径10メートル内は台風でも通った 後みたいに、廃墟と化してるそうですよ」
 とにかく衝撃波が常時発射される為、近づく事もできない。
 まずは衝撃波を生み出す踊りを止めさせなければならないだろう。
「そこらへんの作戦はお任せしますけど、街道沿い平和を護るためにも、なんとしても倒してくださいね……なんか、街道沿いというと規模が小さく感じますねぇ」
 小さくても、平和とはそういう小さいものの積み重ねの上に成り立っている。
 ツキユーはモンスターが歩いている街道の場所を教え、彼らに後を託した。

マスターからのコメントを見る

参加者
紅天黒神戎王孫・ガンバートル(a00727)
ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)
華散里・コノハ(a17298)
神の声を聞きし聖少女・ジャネット(a18229)
黄昏を撃つ雷撃・リリィ(a22501)
紅蓮獄花・トキ(a25345)
芳香の医術士・ヨナ(a25570)
青い記憶・ユファ(a27054)
音無き絶海・ヴァニレアンス(a35939)
月の揺籃・アニエス(a35948)


<リプレイ>

●死の三拍子に挑め
「………しかし、何もない道だねぇ」
 黙りこくっていた深淵なる囁き奏でるは・アニエス(a35948)は、耐えかねて口を開く。
 延々と続く街道。土道の両脇には草原が広がり、まばらにある木が葉を落とし始めていた。
 ピクニックには楽しい光景かもしれないが、こうして歩き出して数刻になる。
 率直に言えば、延々と続く同じ光景に飽きていたのだ。
「何か変化があったら……」
 芳香の医術士・ヨナ(a25570)の声には多分の緊張の色が含まれている。
 もし周りの草が不自然に刈り取られていたら。
 もし木が薙ぎ倒されていたら。
 それは紛れもなくワルツを踊る狸の頭部を持つ異形の所業であり、その異形との決戦開始の合図となるのだ。
「通ったあとは廃墟と化す……放っておくわけには行かない……な」
 白藍猛攻・ヴァニレアンス(a35939)は自らに言い聞かせるように呟く。臆病な心を封じ込めるため、虚勢を吐く。
 ヴァニレアンスは幼い外見に似つかわしくないほど、重厚なスーツアーマーを身に着込んでいた。
 傍目には危なっかしい印象を受ける。しかし、この鎧を苦もなく着こなしている事こそが、彼女が冒険者である事実を表していた。
「さぁて、今回はおかしな狸さんの退治〜……♪ と、言うかさ……? なんで狸……?」
 背中を心持ち丸めながら歩く紅蓮獄花・トキ(a25345)。顔に張り付いた微笑みの表情からは、彼の真意を測る事は難しい。飄々とした男だった。
「なんとも、ふざけた敵ではあるな」
 先頭を歩く背中に大きな旗を挿した紅天黒神戎王孫・ガンバートル(a00727)も同意する。
 四本の腕に刃の翼、それだけならばまだしも、狸の頭部を持ちワルツを舞うという。
 想像に苦しむ風体だ、実際にその目で確認せねば、イメージの構築は難しいかも知れない。
「風体が変わってるモンスターとはいえ、油断はできませんね」
 ガンバートルの横、神の声を聞きし聖少女・ジャネット(a18229)は警戒を崩さない。
 騎士を名乗る彼女は、倒すべき敵がどのような姿形をしていようと、それが民を害する者ならば斬るのだろう。
「安全に街道を通ってもらうためには……モンスターさんは邪魔なぁ〜ん!」
 それは、散る為に咲く華・コノハ(a17298)も同じだった。
 街道の平和を護る為に立ち上がったコノハ。だが、そのピンクの尾は心持ちしおれているように見える。
「ごめんなさいなぁ〜ん……!!」
 コノハの場合は、モンスターに対しても慈悲の心があった。
 その気持ちが剣を鈍らせないよう、コノハは改めて自らの剣、月鬼を握り締める。
「……………」
 ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)は喋らない。
 喋る必要が無いからだ。
 今回の作戦で、ジースリーは戦闘のさきがけを取るという大事な役割を担っている。
 モンスターの攻撃射程は10m。それよりも遠いところから攻撃できる弓を装備しているジースリーが先制攻撃し、踊りを止める手はずになっていた。
 しかし、彼にとってはいつもと同じ。ただ、依頼があったからやってきただけだ。
 淡々と街道を進んでいく。その姿は、どこか頼もしくみえた。

●死の円舞曲
「……………」
 遠眼鏡から目を離したジースリーが、すっと人差し指を彼方へと向けた。
 街道の向こうから、モンスターが来るというジェスチャー。
「ようやくご対面か。それじゃあ俺は……」
 背中に挿した旗を引き抜くガンバートル。街道沿いの地面に、先端を突き刺す。
 この旗が衝撃波で壊れたら、十分に接近しているという目安にするのだ。ガンバートルはその旗から若干下がった位置に身を隠す。
「この先制で動きを止められたら、皆で突撃だね。駄目だったら……」
 戦闘の作戦を確認するトキ。ジャネットとガンバートル、ヴァニレアンスが応える。
「私とガンバートルさんが突撃し、何が何でも動きを止めて見せます」
「おう、ダメージ覚悟で突っ込んでやる」
「全力で行く。何とかしてみせる……」
 ジャネットの体には既に黒い炎が立ち上っていた。
「わたしの暗黒縛鎖が、効いてくださればいいのですが……」
 不安げな表情を見せる黄昏を撃つ雷撃・リリィ(a22501)。彼女は突撃班として、重騎士の二人に後ろにぴったりと張りつき、前線に出る手はずになっていた。
 戦場の常ならば後衛に位置する邪竜導士が前衛に出る。それは想像よりも強いプレッシャーだった。
「リリィさん、無理、なさらないでくださいね……」
 弱気に負けそうになったリリィへ、絶妙のタイミングで声をかけたのは移し色の医術士・ユファ(a27054)。
 力を与える言葉と共に、武器である霊布の色が変わる。ユファのディバインチャージだ。
 リリィは、にっこりとユファへ微笑んで見せた。
「ええ。必ず帰ってきます。行って参りますね」
 同じように、ヨナもガンバートルへディバインチャージをかける。
(「本当は、もっと安全な止め方があれば良かったのですがね……」)
 ヨナの心情を察したか、ガンバートルは笑い飛ばしてやる。
「気にするな。どうせ俺には衝撃波の射程外から安全に攻撃する術を知らんのだからな!」
 頷くヨナ。胸の内で、決心する。
(「もう作戦変更は出来ない……私は、私がするべき事を実行します!」)
 戦いは、始まろうとしていた。

 近づいてくるモンスター。徐々にモンスターの輪郭が見えてくる。
「ほんとうにたぬきだ……あぁ、いや、見た目に騙されちゃいけない」
 目を丸くしたと思えば、気を抜くまいと次の瞬間には首をブンブン左右に振るヴァニレアンス。
 狸顔のモンスターは、二本の足でワルツを踊りながら歩いてきた。
 中庸な、ゆったりとした速度。だが、モンスターがステップを踏む度に衝撃波の輪が発生し、辺りの障害物をなぎ払っていく。
「無粋だね……ワルツはもっと優雅に踊るものだよ?」
 聴衆のいない踊りが、ひどく滑稽に見えてアニエスは皮肉気な笑みを見せる。
 そして、ガンバートルの旗が、衝撃波で上下二つに割れた。
「………」
 モンスターの接近を確認し、無言で弓を引くジースリー。
 雷光を纏った矢が、狙い過たずにモンスターの体に突き刺さった。
「あなたに裁きを与えます!」
 ライトニングアローが命中するか否かというところ、ほぼ同時に飛び出すジャネットとガンバートル、ヴァニレアンス。ガンバートルの後ろにはリリィも続く。
「お願いします、踊りが止まってください!」
 指を組み、祈るユファ。
 祈りが通じたのか、モンスターはジースリーの一撃で体勢を崩していた。衝撃波を生み出す破壊の踊りが止まる。
 ジャネットの手から生み出される黒い炎。モンスターの頭部へと炎が迫る。
 モンスターは、間抜けな狸顔をガードするかのように翼を閉じる。ガードされてしまった。
「この一撃を、受けてみろ!」
 すかさず間合いを詰めたガンバートル。強化されたその聖暗黒剣『ウルスラグナ』を振り上げた。
 ガンバートルの頭上に現れた天使。二重に強化された一撃が袈裟切りに決まる。
 その威力は絶大で、四本あるモンスターの腕が、一本もげた。
 不敵な笑みを漏らすガンバートルの背中から、リリィが姿を現す。
「踊りを、続けさせたりしません!!」
 コンビネーションで放たれる暗黒の鎖。
 幾本もの鎖がモンスターへ巻きつき、翼ごとモンスターをキリキリと締め上げる。束縛が成功した。
「……今だ……このタイミング!」
 そこへ走り抜けざまに大上段からの一撃を放つヴァニレアンス。
 しかし、棍棒の一撃は手元が滑り、刃の翼の描く滑らかな曲線をなぞるだけだ。
 続くコノハの電刃衝は、刃の翼を切り裂いた。麻痺効果は発揮しなかったものの、着実にダメージを与える。
 初回の攻防は、冒険者達に分があった。諸撃でモンスターの踊りを封じ、ダメージを与え、束縛までしてみせた。
「後は皆で一斉に……♪」
 艶やかな笑みを見せるトキ。
「ようやく面白くなってきたんだ。僕をがっかりさせないでくれよ……」
 青い瞳に愉悦の色が浮かぶアニエス。トキと、彼の旅団に身を寄せるアニエスは、呼吸を合わせて同時その身に禍々しい血の刺青を浮き上がらせる。
 ユファに護られながら、ヨナが折れた旗を飛び越えた。静謐の祈りで、縛鎖の代償を負ったリリィの身を解放させる。
 矢継ぎ早にライトニングアローを放つジースリー。暗黒の鎖と鎖の隙間を縫い、矢が突き刺さる。
 だが、モンスターもただではやられない。自らの身を縛る暗黒の鎖を引きちぎった。
「……! 危険だ。一旦下がるっ」
 後衛を気にしながら、下がろうとするヴァニレアンス。だが、既に衝撃波の刃が自らに近づいていた。
「くっ………!」
 装備したフルプレートが衝撃波を和らげてくれた。しかし、それでも受ける打撃に顔を歪める。
 それぞれガンバートルはリリィ、ユファはヨナをかばい、その攻撃を受けた。
「リズムが、変わった……?」
 三拍子のリズムを図っていたジャネットは、ワルツのリズムが以前のそれよりも早く、そして不規則に思える歪みを伴ったものに変質している事に気付く。モンスターはワルツの祖、ウィンナー・ワルツを踊り始めたのだ。
 もう踊らせまいと、またも天使の一撃を放とうとするガンバートル。
「ぐっ……!」
 苦痛を漏らすガンバートル。モンスターは、踊りながら刃の翼を広げた。これがカウンターとなり、刃がガンバートルの顔を切り裂く。
 続いて射出される衝撃波の輪。
「うう、痛いんだなぁ〜ん……」
 二発目の衝撃波に耐え切れず、地に膝をつくコノハ。
「コノハさん!!」
 叫ぶリリィ。この時、彼女が取れる行動は二つだった。
 暗黒縛鎖でこの狸顔のモンスターを束縛するか、それともヒーリングウェーブで皆を癒すか。
 だが、彼女は一瞬も迷わなかった。たとえ、受けるダメージが軽微でも決して彼女は回復の手を止めようとしないと決めていたのだ。
 リリィと、ユファのヒーリングウェーブ。一気に皆の傷が癒えた。
 復活したコノハが、汚名返上とばかりに電刃衝を繰り出す。モンスターの腕が一本、切れかかる。
 その腕が、次の瞬間には黒い炎を纏わせて吹き飛んだ。
「やっと、出番〜……♪ ……咲かせて見せましょ紅い花……、なんて、ね……っ!」
 トキとアニエスのデモニックフレイムだ。悪魔の頭部を模した二条の黒炎が、噛み砕くように腕をもぎ取った。
 再び、モンスターのワルツが止まった。
「怪物め、これで最後だ!」
 ジャネットは、剣柄を地面に向け、十字に構える。
 剣から生じた黒い炎が、モンスターの体を焼く。
 幾度も黒い炎に焼かれ、ついにモンスターは永遠に踊るのを止めたのだった。

●エピローグ
「……………」
 路傍にできた土の山。そこに木の枝を突き刺すと、ジースリーは黙祷した。
「お休みなさい、なぁ〜ん……」
 コノハも傷ついた体に鞭打って、両手を合わせ目を瞑る。
 ここには狸顔のモンスターが眠っている。街道に平和が戻ったのだ。
 ユファは自らに近づいてくるリリィへ、声をかける。
「おかえりなさい、です」
 リリィは、先程と同じように、にっこりと笑ってみせた。
「ただいまです」


マスター:蘇我県 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2005/11/03
得票数:戦闘19 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。