2つの『食』探し



<オープニング>


 エルドールの霊査士・アリス(a90066)が酒場に顔を出すのは久しぶりのこと。今回は、エルドール護衛士団の仕事関係で、円卓に顔を出すことになったから……という裏事情があった。

「実は……保存できる『離乳食』を探したいと思って……」
 エルドールに帰る前に準備しておきたい。――彼女がそう言うと、冒険者達の間で様々な憶測が流れた。
「(赤ちゃん?!)」
「(普段、あの前線のエルドールに居るんだろ?)」
「(そういえば、恋人ができたとか噂で……)」
「(……にしては、もう『離乳食』ってのは変か?)」
 ごそごそと噂し合った後、冒険者の1人が核心の質問を投げかけた。
「で、恋人のお子さんなの?」
「ううーん。っていうか……」
 アリスには決まった恋人がいるはず。……にも関わらず、彼女はどう答えようかと悩むばかり。
 ……父親不明とは! もしや、ふたまt(略)
 ざわざわ騒ぎ出す冒険者達。彼らからは、当てずっぽうに名前が挙がる。
「トールの隠し子とか?」
「キィルスって線は……」
「いやいや、同じ護衛士団にいるライナスとかっ?!」
「大穴で、ルーカスっていうのはっ?!」
「っていうか、父親が分からないって……いったい何股してたんだっ アリス?!」
 ……また、何か誤解されているらしい。やっと気付いたアリスは、
「えーと。そうじゃなくてね」
 と首を振った。
「全滅してしまった村の……唯一の生き残りとして保護された子なの。簡単に里親は探せないし、ドラゴンズゲートを通ることも出来ないから、エルドール砦で私が預かっておくことにしたの」
 たとえ最前線に近くとも、砦内であり、周りは護衛士の冒険者達。
「ああ、育ての親になるってことか……」
 早とちりした者達には、苦笑いが漏れる。

「20歳で子持ちですか……」
 不意に、エルフの霊査士・ユリシア(a90011)に割り入られ、アリスはにこにこと返した。
「産んだ訳じゃないけれど」
「恋人もできたとか」
「はい」
 ポッと頬染めてみるアリスに、ユリシアは動じもせずに笑みを返した。
「おめでとうございます。……ところで」
 そして、真面目に話題転換。
「もうひとつ依頼があると聞きましたが? 図書館にいらしていたでしょう」
 言われて、アリスは大きく頷いた。
「ええ。旧モンスター地域での来年の作付けに、良い植物はないかと思って……。痩せた土地でも育ちが良くて、沢山収穫できるもの。ユリシアさんは知ってるかしら?」
「さあ……私は植物に詳しくありません。これまで作られてきたものでは駄目だと言うなら、北方で探しても無駄でしょう。旧同盟領やドリアッド領で探してみると良いかもしれません」
「そうね……」
 アリスは思案気に頷くと、冒険者達に向き直った。
「そういう訳で、皆さんには、『痩せた土地でも沢山実がなる植物』も探してきて欲しいの。この際、味までは文句を言わないから。よろしくお願いね」
 芋類や粟などの苗木も歓迎すると言って、アリスは締めくくった。

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参加者
NPC:藍玉の霊査士・アリス(a90066)



<リプレイ>

 主が彼の人であることで有名な(?) 図書館。
 エルドールの霊査士・アリス(a90066)に頼まれた仕事で、調べ物と称して出向いた冒険者達は、一様に期待はずれというような顔をしていた。
「あんまり、役に立つものは無さそうです……」
 呟いたエレアノーラ(a01907)と顔を見合わせ、リネン(a01958)は「ふぅ」と溜息をつく。
 そのすぐ近くでは、ヴァイス(a06493)が植物の本を片手に唸っていた。……やっぱり、あまり詳しくないらしい。
 図書館にある情報は、冒険者の心構えや入門、広く世界の動静を知るには役立っても、特定地域のこと等には詳しくないのだ。精々が気候の特色程度。それは、同盟の中枢、希望のグリモア付近のことであっても変わらない。
「結局、地域情報は、移動して歩く俺ら冒険者が1番詳しいってことか」
 言うと、ヴァイスはパンッと音を立てて本を閉じる。
 ドラゴンズゲートで移動して歩く冒険者以上に、この世界の物事に詳しくなる者はいない。つまり、彼ら以上に詳しい知識を披露した本も無いのだ。霊査士なら、本を介して精霊からも多少の情報を得られるかもしれないが、それは既に、アリスが試していただろう。
「……みたいです。この時期、故郷で栽培しているのを見たのはそら豆でしたけど……他にあったかしら」
「豆は主食にもなるからな。あとは芋か……」
 2人のやり取りを聞きながら、「問題は気候と仕入れのし易さだと思うのだが……」と1人ごちて出てきたリネンの袖を、グリューネ(a04166)がツンツンと突付いた。
「……?」
「あのね、グリはね、スナナツメがいいと思う☆ でも、どこ探したらいいかな?」
 どこで聞いたかは知らないが、「さむくても、かわいてても、あっつくても全部平気な木だよ」とグリューネは自信満々に言う。さすが、小さくても年齢不詳のドリアッド――と言ったらきっと、「グリはちょっと木にくわしいだけだもん☆」と誤魔化すに違いないが。案の定、
「物知りだな」
 リネンが言うと、グリューネは子供らしい笑みを浮かべた。
「てへ☆」
「グリューネさん、一緒に行かない? 俺は、レスターさんやティキさん達と、久しぶりにアイギスに行って、詳しそうな人に聞こうと思うの」
 彼らに気付いて、声をかけたのはバーミリオン(a00184)。レスター(a00080)とティキ(a02763)、レイク(a00873)の3人も一緒にいた。
 探すよう勧められた地域の1つ、ドリアッド領。中でも、アイギスなら彼らの知己がいる。
 が、迷いの森には道案内の手配が必要だということを……レイクが覚えていたのだ。知ったつもりで行こうものなら、何日も森を彷徨うことになったかもしれない。グリューネも来てくれるなら、渡りに船と言ったところだ。
「体のいい道案内だけどな」
 そう言うレイクに、グリューネは目をパチクリさせると、「はぁい♪」と返した。
「付いて来てねっ」
 言われるまま、この場から小さなグリューネに引率される様を見ながら、
「微妙だ……」
 呟くティキもまた、付いて行くしかなかったりする。
「ねえねえ、アリスお姉ちゃまはこっちに来てるし、今、赤ちゃんのお世話は誰がしてるのかなぁ……?」
 ふと思い出したように聞くグリューネ。
「さて……」
 レスターは一緒に首を捻り、
「……えと、護衛士の誰かなのは確かかな?」
「子育て経験者はいたみたいだし?」
 バーミリオンとレイクは大丈夫だろうと言うように話す。
「妙にやな予感がするのは俺だけか……?」
 この場に居そうでいない人物が1人、いる気がしてならないティキだった。


 やはり図書館で資料探しするのを諦めたアリスは。
「離乳食ですか……難しいですね。何しろ、そういう物に縁がありませんでしたし……」
 ミスティア(a04143)が苦笑しながら言うのを、少し意外なように聞いていた。1度くらいは経験があるのだろうと思ったのは、単に彼がドリアッドだからだが。
「南瓜やジャガイモを潰した物などがあると聞きましたが、保存は効くのでしょうか?」
「うん……と、ジャガイモそのものなら、蓄え方次第かしら」

 そんな話をしている2人の間に割り入るのは気が退けて、塀の陰から「ふむふむ」とコッソリ見やるダグラス(a02103)。
「暫く見ねぇ間に随分進展したんだな……赤ん坊とは」
「護衛士団の長を務めるだけじゃなくて、乳飲み子を養子にするなんて。物好きなのね」
更に後ろで呟くイツキ(a00311)の声に、彼はビックリした。
「恋人がいるようだし? 実は子供が欲しかったところとか?」
 色々と推測する彼女に、ダグラスは「さぁ……?」と首を捻って返すしかない。彼に分かるのは、某友人が失恋したということと、その恋敵が目の前にいるドリアッドの青年だったということくらい。子供の経緯については詳しくなかった。
 その友人はどこにいるのだか、まだ見かけていないのだが。
「あら。『おめでとう』なら本人達に言わなくては、意味が無いのではありませんの?」
 と、更にさらに後ろから、アッサリ言うチェリム(a03150)に、ダグラスはまたビックリさせられる。
「(そういうのをデバガメと言うんじゃ……)」
 イツキはボソリと言ったが、既に実践しているエーテル(a18106)がいたりする。
「お二方の赤ちゃんの為、頑張ってまいりますっ! ついでに山羊ミルクもお持ち致しますね」
 任務に萌え……いや、燃えて、グッと握りこぶし。
「ありがとうね」
「ほら」
 アリスに微笑み返されるエーテルを見、正しいのは私とばかり、チェリムは彼らの方へ行きかけ……図書館から出て行こうとするヒース(a00692)を発見!
「あっ! ヒース様っ」
「えっ?!」
 ヒースは、本では大した情報がなくて、さて実地で仕入れを頑張るかと……麻袋を手に出て行こうとしたところ。
 に、にこ……っ
 ぎこちない笑みを作って、「じゃっ!」と出て行こうとした彼は、不意打ちの粘り蜘蛛糸で捕獲されかかり、動揺している間にうたれたロープに捕まった。
「な、なんでアビリティまで……」
「だって、逃げますでしょう? いけませんわよ。ちゃんと食べられる物を仕入れて来られるかも分からない人なんですから。私がご一緒します。アイギスに行くのが良いのではなくって?」
「え、あ、うっ はぃー……」
 滂沱しながら連れて行かれた友人を、ダグラスは同情の目で見送り……。
「アイギスなら、俺も道案内に行っとくか」
 ふぅ……と嘆息まじりに息をつき、付いて行くのだった。


 そんなことがあった頃。
 街に食材などを探しに出ていた冒険者達も何人か。エリス(a00091)やウォルルオゥン(a22235)、レイチェル(a28432)達だ。
「自信を持ってお勧めできるのはソバですけど、これはもう育ててるみたいですねぇ?」
 思案しているエリスは、エルドール護衛士のヴィナ(a09787)やグンバス(a15314)が、微妙に乾いた笑いをしたのに首を傾げる。護衛士が手入れしていたソバ畑が、戦の混乱やらで暫く忘れられていた間に、アリスの愛犬・ハウザーに荒らされて駄目になったことまでは知らなかったのだ。
「ソバは駄目だったんですか? 他のものなら、沼地近くはレンコンとか推してみるですよぅ」
「俺は燕麦とシコクビエを探そうと思うが……」
 レイチェルが言うと、植物に詳しいエリスとテンユウ(a32534)が意見を継いだ。
「エンバクなら他の麦よりは寒さに強いですけど、春撒きにするのがいいですね」
「不味いらしいけどな、シコクビエは。あとは、長芋や大根てとこか」
「ああ、やっぱ芋だよね! お勧めは蔓芋だよ。野生のサツマイモっ 離乳食も作れるから一石二鳥だし!」
 芋と聞いて、待ってましたとばかり、リュウ(a36407)が勢い良く話に入ってくる。
「小さいけど一杯出来るし、茎や葉もアク抜きして食べられるんだ!」
「候補は一杯出ましたねぇ。いろいろ、苗を確保しに行くです」
「できれば、ドリアッドの植物の大家にでも相談しに、森まで行きたいとこだが……リザードマンは遠慮しておかないとな」
 言って、グンバスはほんの少し、彼にしては感傷的で寂しい笑みを浮かべる。
「あ、あのぅ……お手伝いしましょうか? 植物のことも、料理のことも、少しなら詳しいですから」
 控え目に声をかけてきたのはファオ(a05259)。旅団の知人達を探していたのだが、話が聞こえて、どうも気になってしまった。
「私も山芋の苗をお贈りしようと考えていましたから。あと、山椒を」
 芋類は育ちやすさ、山椒は香辛料と、葉そのものの殺菌効果も考えて。エルドールには知人が多かったから、ちょっとでも手伝いになれたらと思って来たのだ。
「それは有り難い。俺は、代わりに荷物持ちになるとしようか」
 そうして、買出し部隊はゾロゾロと街へくり出して行く。
「キノコとかも、エルドール近郊で栽培可能なものが自生しているのを探せたらいいですね」
「そう難しい栽培法でもないしな」
「あ、それはいいかもしれないです」
 ファオやテンユウ達は植物談義をしながら。

 一方、ヴィナとウォルルオゥンは、離乳食探しに分かれた。
「とりあえず俺は、街や村で、子育て経験がありそうな人を見付けて、聞き込みしようと思う。作り方が分かれば、食材を仕入れればいいだけだしな」
「私はチーズを探してくる。あるかなぁ……山羊乳チーズ」
 作るのは難しいかもしれないが、仕入れて保存するだけならイケるかもしれない。多少なりとも寒い地域は、物の保存に苦労しないから嬉しい。
「で、今面倒見てるのは誰なんだろう?」
 グリューネと同じ疑問を、ウォルルオゥンが呟いた。
「さあ……?」


 アイギスに赴いたレスターやレイク達は、知己を頼って情報を集めることから始まったが、芋類以外で勧められたのが『蔓柿』という植物だった。
 リュウの勧めた蔓芋に近いが、繁殖力と実の多さは1番だろうと言われた。
「干したり、甘く煮つければ味はそれなりじゃが。この辺りでは、不味いと言うて誰も食べん。蔓まで食えるし保存も出来る、始末な物なんじゃがな。なにせ繁殖力はあるからの、畑の隅に生えたりもするが、雑草と同じに抜かれてしまうのぅ……森で探すと良いじゃろう」
 そう意見をくれたのは、久しぶりに対面する元長老・バフラ翁だ。
「年に2度の収穫は可能だろうか?」
 レスターが聞くと、翁は頷いた。
「探し物は土地の者に任せて、少しゆるりとしてはどうじゃ」
 そうも言われたが、依頼を他人任せにする訳には行かない。レイクは自らリジョウ村へ出かけ、他の皆も、案内してくれる村人を紹介してもらい、森へと向かったのだった。

 ちなみに、後日、『アリスに子供が出来た』ととっても語弊のある噂が流れたのは、リジョウ村からだったいう話である。


 どの作物も、エルドール近郊では苗が不足していたから、手に入るに越したことはない状況。イツキの仕入れた稗や粟などがそうだ。
 芋類は既に育てられていたケースが多く、新しい苗はそら豆、燕麦とシコクビエ、山椒だった。山羊乳チーズも滅多に手に入るものではなかったから、珍しいと言える。
 これまでも食べられていたキノコの栽培は砦で試してみることになり、アイギスからは蔓柿が送られた。
 集まった沢山の苗などは、地道に陸路で運ばれることになった。

 砦で待っていたのは、柄にもなく、赤ん坊の世話を焼いていたバルモルト(a00290)。
 夜泣きのせいで育児ノイローゼになりかけ、ちょっとやつれた彼のスーツアーマーが、洗ったうえに天日干しされていた理由は……語るまでもない。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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参加者:23人
作成日:2005/11/28
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