毛糸ころころ 子猫もころころ



<オープニング>


 寒い夜。ストライダーの翔剣士・プラムは、ショールを肩にかけ、揺り椅子に腰掛け、ひたすら編み棒を動かしていた。
 今年はじめて握った編み棒。
 うまく作れるようになるまで何回失敗したことだろう。
 それでも差し上げたい人がいるからあきらめないの。
 あくびが一つ浮かんできた。けれど、もうちょっと頑張ろう。
 だって早くしないと、フォーナ祭がきてしまう。
「……えっと……ここから……いち、にぃ、さん、よん……」 
 編み図を眺め、編み目を数える視線も真剣。
 けれど、しばらくしてプラムは大きな吐息を吐いた。
「だめですわ……わかんない」
 しばらく編み図とにらみあった後、プラムは一大決心をする。
「……こうなったら編み物の先生のところに習いに行くのですわっ!」
 
 翌朝。
 早起きして編みかけの毛糸をたっぷり詰めた袋を持って、白い息を吐きながらプラムはおうちを飛び出した。
 アクリール先生は上品なおばあさまで、とても丁寧で優しく教えてくれると評判の編み物の先生。
 ここに通う女の子はとても多いという話。
 でも、ようやく辿りついたそのおうちの前には、たくさんの少女たちが悲しげに立ち尽くしていた。
 事情を聞いてみると、先生はしばらくお休みなのだそう……それも大変な事件に巻きこまれたという。
 プラムはおお慌てで、先生が今向かっているという、……いつもの酒場に急ぐのだった。

 それは昨夜の出来事だった。
 アクリール先生はふと毛糸を編む手を止めて、新しい毛糸を取りに、いろんな毛糸を保管している倉庫に向かった。
 そこに集めてあるのは、先生が苦労して遠方より取り寄せた毛糸を始め、いろんな毛糸が大量に積まれている場所。
 習いに来た少女達に売ってあげることもあるし、先生の大切なコレクションも納めてある。
 そして、いつものようにその倉庫の扉を開いた先生は、次の瞬間、大きな叫び声を上げた。

 きちんと整理されていたはずの棚は崩され、部屋中に散らばった毛糸玉。さらに、その色とりどりの毛糸に混じって、何十匹という子猫がじゃれついてたのだ。
 転がる毛糸玉を追いかけて、ぐるぐるまきになりながら子猫たちは楽しそうに毛糸に絡まっている。
 それは……一匹一匹だと確かに可愛い風景かもしれないけど、たくさんうじゃうじゃいると怖いだけ……。 

 エルフの霊査士・ユリシアは、大慌てでやってきた泣きそうなプラムの表情と、心痛きわまりないアクリール先生の表情を見比べながら、言葉を選ぶようにゆっくりと語った。
「……猫の中に……たぶん、突然変異をしたような子猫が一匹だけ混ざっていると思います。その猫さんを倒せば子猫たちはみんな普通の子猫にかわりますわ。
 ただ……」
 艶やかで豊かな金色の髪を揺らして、ユリシアはプラムを見つめた。
「その子猫……炎を吐きます」
「……えーっ!!」
 プラムはクラクラした。おうちの中で火を吐いちゃったら、先生のおうちも毛糸も燃えちゃう。
「どうしよう、どうしよう」
「ゆっくりと考えてみたら何かいい方法が見つかるかもしれませんわ。……ね?」
 ユリシアになだめられ、プラムはこっくりと頷くのだった。

マスター:鈴隼人 紹介ページ
 こんにちわ。
 毎年マフラーくらいは編むのですが、今年はまだ何も編めてない鈴です。う。これから編むんだい。
 プラムはどうも毛糸の贈り物を差し上げたい誰かがいるみたいなのですが、皆さんはいかがですか?
 
 場所を説明すると、アクリール先生の毛糸のお部屋は倉庫みたいな場所で三方向は壁、広さは8畳間くらいです。
 猫の数は15匹前後。その中に一匹だけ変わった子猫がいます。
 でも遠目からだとよく見分けつかないかも。その子猫はふわふわ毛玉みたいな可愛らしい外見だけど、短い尻尾が二つにわかれているのです。
 近くで見ればわかるとは思うのですけどね。乱暴に扱うと火を吹いちゃって、毛糸を燃やしちゃいます。
 ちなみに、毛糸を水でぬらすのもあんまりいただけないかなぁとも思います。
 ……ヒントを出しちゃうと、毛糸以上に関心をもたせる何かを子猫たちにするのが楽かなっと。

 またこの依頼の主な目的は「編み物教室」だったりして。
 なので、誰かにプレゼントする編み物を用意したい方が参加してくれるとひいきします(ぉ
 それでは♪

参加者
紫晶の泪月・ヒヅキ(a00023)
無二なる雷閃・ロイズェ(a00758)
追想の旋律・ミラ(a00839)
猪突妄進・スズ(a02822)
緋炎を狩る者・チェリム(a03150)
形無き幻想の剣・サリア(a03777)
銀の竪琴・アイシャ(a04915)
歌紡ぎ・セルディカ(a04923)
NPC:花嫁にゃんこ修行中・プラム(a90023)



<リプレイ>

●にゃんにゃんにゃん
「わぁ〜、これは大変ですの」
 プラムは思わず口元を押さえた。
 編み物の先生、アクリール先生のおうちの倉庫からあふれ出す子猫と毛糸玉。
「可愛いというか怖いと言うか、すごい光景ねぇ……」
 ヒトの吟遊詩人・セルディカ(a04923)もその後ろからつぶやいた。倉庫の入り口からなだれだすように、毛糸毛糸、子猫子猫。
 子猫の数は全部で50匹くらいはいるかもしれない。どれも至福そうに、手触りのよい高級毛糸とじゃれあうことに酔いしれている。中には、あっちこっちの糸に絡まり、身動きとれなくて助けを求めてるのまでいたりして。
「この中から二本尻尾の子猫を探すのか〜……ん」
 子猫の山を見渡し、それから周りを見回し、このパーティーが女の子ばかりということにいまさら気づいて驚いているのは豹爪・スズ(a02822)。
 そりゃ編み物依頼なんですから……という突っ込みはしないとしても、不安そうに首をめぐらせたその端に、もう一人の男性参加者を見つけて、ほっと彼は胸をなでおろした。
 雷鳴の射手・ロイズェ(a00758)は、プラムの背後に陣取りながら、にこにこ笑顔で立っていた。
「下手に触ると、子猫が炎を吹くかもしれないなんて、……これでは毛糸もとれないし、安心して編み物もできませんわ」
「大丈夫だよ、プラムちゃん。プラムちゃんが困ってるのを放っておける俺じゃない♪」
 慰めつつ、彼の視線はプラムが持っていた編みかけの毛糸に。一体誰にあげるんだろう、それが気になって仕方ないのも本音の一つ。
「編み物のためにも頑張ろうね♪」
 青の剣士・サリア(a03777)が微笑んで、皆を見回す。
 皆は大きく頷いた。無論、編み物を完成させる為に来たのだから。
 
「とりあえず、子猫たちの気をひかなくっちゃな」
 腕組みをするロイズェの横で、任せてくださいとばかりに緋炎を狩る者・チェリム(a03150)が、お皿をもって倉庫の入り口に近づいた。
 にゃあにゃあ高い声を出して遊んでいる子猫達のそば、ミルクのお皿と、食べやすくした小魚の皿を並べるチェリム。
「皆様、ご飯はいかがかしら?」
 獣の歌のBGMをプラスして、優しく誘うチェリムの声に子猫たちは毛糸玉から離れて動き出した。
「やった!」
 ガッツポーズするロイズェ。自分もチェリムのお皿の隣にニボシ山を作って、さらにポケットからにぼしを取り出すと、子猫に近づいていく。
 炎を室内で吹かれたら大変だ。だからなるべく外に連れ出すのが作戦。
 ヒトの吟遊詩人・セルディカ(a04923)は、リボンをふりふり猫じゃらしかわりに動かしてみた。
 リボンに子猫たちはじゃれつきながらとてとて歩く。それはちょっと可愛かった。
 銀花紫苑・ヒヅキ(a00023)と銀の旋律・ミラ(a00839)はまたたびを入れてきた小瓶のフタをポンと開ける。
 この香りに、子猫たちは敏感だった。
 どの子猫の瞳もギン!と光る。

 にゃんにゃんにゃんにゃん!!!

「きゃーーー×2」
 逃げ惑うヒヅキとミラを追いかけて、子猫たちは一陣の風となって駆け抜けた。
 ミラが落としたまたたびの小瓶の一つが、ふんわりと鼻にちょっとくる香りを残して。
「すげぇ匂い……」
 ぽつりと響いたのはスズの声。そして直後。
「ふひゃ……にゃは、……にゃははははっ!!! 待て、待てぇぇぇぇぇぇっ!!」
 彼もまた猫たちと共に、一陣の風として消えたのだった。

 倉庫の前には一匹の猫だけが残されていた。
 その猫だけは部屋に漂うマタタビの香りにも影響されず、じっと赤い瞳で冒険者たちを眺めていた。とても毛並みのいい真っ白な子猫である。
 よく見ないと気づけないだろうが、その短い尾は二つある。
「……説得……できるかしら?」
 サリアが呟いた。殺すには忍びないような気もする。
「あら、可愛いですの。しっぽが二つなんて」
 チェリムがにこにこ微笑ながら声をかける。猫はぴくりとも動かない。
 ドリアッドの吟遊詩人・アイシャ(a04915)が獣達の歌で呼びかけてみたが、それにも反応しない。聞こえていないわけではないだろうが。
「眠りの歌を……」
 セルディカが試そうとしたその時、ヒヅキやミラが建物の外から戻ってくる気配がした。部屋の中にいたメンバーが一瞬そっちに気を取られた……その刹那。
 シャアア!!と引き裂くような鳴き声とともに、白猫の口が大きく開かれた。
「!!!」
 ホーミングアローの軌跡が二つ、スピードラッシュの攻撃が猫の体を貫いた。
 床に倒れた猫をチェリムがすかさず布にくるむ。
「……ごめんなさい、今度産まれてくる時は普通の猫さんだといいですの……」

●毛糸ころころ
「倉庫の中にはもう子猫さんはいませんわね……」
 アイシャは倉庫の中をもう一度見回し、ほっとしたように微笑んだ。
 ミラとヒヅキはマタタビで引き寄せた子猫たちを眠りの歌で眠らせていた。その子猫たちをいくつかのカゴに分けて入れて、お部屋のお掃除が終わったら、今回の任務は終わりだ。
 一人だけ、まだマタタビの泥酔状態から醒めていないスズだけは、サポートで一緒に来ていた冥晴天騎士団団長・エルムドア(a00888)の尻尾の先についたマタタビの袋にじゃれつきながらすっかり猫化していたり。
 プラムが避難先の酒場からアクリール先生を連れて戻った頃には、その片付けも終わっていた。
「本当にどうもありがとうございました」
 頭を下げるアクリール。高齢だが、豊かな銀髪を結い上げた上品なご婦人だ。
 微笑む冒険者達の中から、プラムがちょっと頬を赤くしながらアクリールにぺこりと頭を下げた。
「先生、編み物を教えていただきたいのですが……」
「それならおやすい御用ですわ。編みかけを持ってらっしゃるのね、見せていただける?」
「はいっ!」
 プラムの表情はみるみる明るくなった。

●編み物教室にて
「わあ、お上手ですの、ミラ様、すごーい」
 プラムに覗き込まれ、ミラはちょっぴり頬を赤く染める。
「編み物は幼少時代に祖母から少し教わった事がありますが……ここ数年やってなかったのですし、なかなか……」
 言いながらも緋色の柔らかな毛糸を、二本の棒で丁寧にすばやく編んでいく手つきなどは、手馴れた様子に見えるのだけど。
「ちなみに何を編まれているのですか? マフラーにしては少し広いように見えますが?」
 マフラーの模様編みに挑戦していたヒヅキが、尋ねた。
「腰巻よ。いつもお世話になってるあの方に、暖かな腰巻を編んで差し上げたくて」
 ミラは目を細めて微笑んだ。
 ちょっと前のお誕生日のお茶会は遅刻しちゃって申し訳なかったし。
 そう思い出しながらひと編みひと編み、心を込めて編んでいく。
「私も腰巻なのよ……腹巻ともいうけど」
 床に座りこみ、いろんな色の毛糸でとっても小さな腹巻を完成させて、セルディカが皆に見せた。
 セルディカのそばには、さっきから子猫が2匹、その毛糸玉にまとわりついて遊んでいた。もうボスは退治したので、こちらはもちろん害はない。
「猫用ですの?」
 チェリムがたずねる。
 こくこくと頷くセルディカ。
「可愛いですの。私も編ませてもらおうかしら」
 小さなものだから、割と早くに完成する。ちょっとつなぎ目のとことか手間かかるけれど、なれちゃえば簡単になる。
 二人はいろんな毛糸を使って、色違いの猫腹巻を量産するのだった。
「うー……」
 気難しい顔でうなり声を上げている人に気がついて、プラムはちょっと振り向いた。
 ようやくマタタビの魔力から逃れたスズが、気迫十分に編み棒を握り締めているのだ。
「スズさん、もうちょっと力を抜いたほうがいいわ」
 アクリール先生は、スズの肩を撫でて微笑む。
 力が入りすぎて、目がつまり、ちょっとガタガタになってきちゃってるのだ。
「そうか……力か……わかった」
 深呼吸をして、肩の力を抜いてみるスズ。
 けれど編み始めるとやっぱり肩に力が入って。
 ピンク地にハートマーク入りの可愛いマフラー♪ いつになったら出来ることやら。

「ヒヅキさんはやっぱりあの方に差し上げるのかな〜?」
「サリアさんこそ、あの方に差し上げるのでしょう?」
 女の子同士のクスクスって笑い声が聞こえてきた。
 ほとんど完成したマフラーの仕上げをしながら、同じ旅団仲間の二人は、旅団の話や彼氏さんの話で盛り上がっている。
 深緑に純銀色アクセントに黒の毛糸を織り交ぜた、模様編み入り手間ひまかかる凝った作りのマフラーに、編みは平坦だけれども柔らかな毛糸で丁寧に赤と黒の色を編みこんだマフラーは、お姉さんの魅力とともに彼女達の膝の上に置いてある。
「あの……すみません、こちらはどうしたらいいのか、教えてもらっていいですか?」
 アクリール先生がスズに取りかかりっきりなので、待ちきれないように、アイシャがふたりに後ろから尋ねた。
「どこでしょうか?」
 ヒヅキが尋ねて、サリアが目を細めた。
「翡翠色の綺麗な毛糸ね」
「ここ、です。模様編みにしてみたいのですけど、うまくゆかなくて……」
「大丈夫ですよ、このままで。ここを……こうすれば、そうそう。これで大丈夫ですよ」
「ヒヅキさん、さすがぁ」
「ありがとうございます」
 アイシャはにっこり微笑んだ。そして再び編み棒を手にとりながら、そっと思いをはせる。
 皆と違って、すぐに渡せる相手のいるマフラーではなかったけれど。
 まだ会ったこともない、顔も知らない、その人にいつかお会いできたとき、このマフラーをそっと渡そう。
 星の導きに招かれて、あなたと出会うその時を、いまは楽しみにしていたい。
「頑張ってね」
「えっ」
 サリアの声に、アイシャはぱっと顔を赤らめた。
 心で思っただけなのに、いつの間にか歌にしてしまっていたらしい。これも吟遊詩人のサガというものだろうか。

●暖かなマフラー
「みんな遅いなぁ……編み物って時間かかるんだなっ」
 編み物教室のお部屋の前であぐらをかいてすわりつつ、猫じゃらしとにぼしで、子猫の相手をしているロイズェ。
「そりゃかかるさ。手馴れてるものでもなければ、何日もかかると聞いたぞ」
 付き添いできているエルムドアも一緒に、子猫のカゴの番をしていた。
「そうなのか、じゃあここで俺達は待ちわびて、干物に……」
「ロイズェ様」
 突然扉が開いて、プラムがちょこんと顔を出した。
「わっ!? プラムちゃん!」
「ごめんなさい、お待たせして。これ、よかったら貰ってくださいですの」
 プラムはそっと出来上がったばかりのマフラーをロイズェの肩にかけてあげた。柔らかい明るい若草色のロングマフラー。
「よかった。長さもちょうどいいですわ」
「……プラムちゃん、ほっ、ほっ、ほんとに俺に!?」
「コーンスープのお礼ですの♪」
 プラムはにっこりと微笑んだ。とっても美味しかったのでまた作ってくださいねって。
「……も、も、もちろんだよ!!」
「わーい」
 ぴょん、とその場でプラムは跳ねて喜んだ。
 ……ロイズェ君、「竹笛の師匠」から「コーンスープの神様」への進歩であります♪(進歩してるのかなぁ・・・?)

●帰り道には子猫がいっぱい
 みんなのマフラーが完成した頃、いなくなった子猫を探しにきた飼い主達に、カゴの子猫たちも半分は引き渡されていた。
「もし、飼い主が見つからない子猫がいたら、私にも一匹引き取らせていただけますか?」
 チェリムのお願いに、アクリール先生はもちろん、と頷いてくれた。 
 セルディカもお手製の猫腹巻をつけた子猫さんとの別れを惜しんでいる。迎えに来た時にまだいて欲しいな、なんていけない願いなんだろうか。
 「俺も〜」とエルムドアも手を上げた。
 子猫たちもにゃんにゃん、と別れを惜しむように鳴いていた……かもしれない。
「それじゃ、またお会いしましょうね」
 アクリール先生はみんなの姿が見えなくなるまで、いつまでもお屋敷の前で佇み、見送ってくれた。
 
 暖かなオレンジ色の夕日が沈みかかる、冬の午後の日。
 肌にさす空気も風も冷たいけれど、心のどこかは温かい。そんな夕暮れだった。


マスター:鈴隼人 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2003/12/30
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