≪移動診療所『東風』≫千の顔



<オープニング>


 山賊『千の顔』が働いていたのは、他ならぬ悪意の塊、それも、人々の弱みにつけ込む詐欺であった。
 彼らは自らを冒険者であるといつわり、そればかりか、一味の一部をアンデッドに化けさせて人々の不安を煽ることまでやってのけていた。無論、偽のアンデッドは冒険者によって倒される。村は平安を得たと同時に、それなりの謝礼の支払いを余儀なくされるというわけだ。
 そして、あろうことか彼らは、『東風』の名を騙っていたのである。
 
 とある昼下がり、天水の清かなる伴侶・ヴィルジニーたち『東風』の面々は、件の村を訪れていた。そこに、『千の顔』の姿はなかった。
 だが、村人たちが逃げまどい、彼らを追い立てる枯れ果てた姿がそこにはあったのである。
 ドリアッドのキリ番ハンター・フィリスは、敵が悪党の化けたものではなく、土の底から甦った本物の亡者であると気づき、衝撃波を放った。
 複数の死者が土へと戻され、『東風』の冒険者たちから事実を告げると、村人のひとりがフィリスに言った。
「あいつらは安全だから退治するところを見せてやると言って、何人もの子供たちを一緒に連れて北の廃墟に……本当にアンデッドが出てるとしたら、あの子たちは今頃……」
 毅然とフィリスは言った。
「大丈夫ですわ、ご心配なさりませんように。どうか、わたしたちにお任せください。病や怪我に苦しむ人々の救済を志す『東風』のあるべき姿、ここで皆様に披露させていただきます」

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参加者
キリ番の華を望みし戦女神・フィリス(a22078)
雪原に一輪の花・メイ(a25325)
愛を振りまく翼・ミャア(a25700)
愛しき戦女神を護る者・シヴァル(a29828)
果て無く煌く紅き閃光・レイス(a32532)
白き金剛石のヒト・ミヤクサ(a33619)
黒百合と歩む意志・ティア(a34311)
神を斬り竜をも屠るメイドガイ・イズミ(a36220)
NPC:天水の清かなる伴侶・ヴィルジニー(a90186)



<リプレイ>

 その夜に浮かぶ青白い頬をした月が何事かを囁いているのであれば、おそらくそれは子を思う母親の言葉であったことだろう。
「なんて酷い……。ホンモノの東風の力をみせてあげるよ!」
 頬に沿う柔らかな髪がかすめる瞳に強い意志を感じさせる光を宿して、秋風の芙蓉・メイ(a25325)は言った。彼女は母の愛を知らないが、それ故にわかることもある。子は親を渇望するものであり、その逆もまた然りである、と。
 冒険者であると偽り、また、アンデッドに化けるという卑劣な手段で、善良なる人々も、あまりそうとは言えないが鷹揚に受け止めれば普通の人々と呼べる人々も含めて、『千の顔』なる通り名を持つ悪党たちは村人たちをたばかった。そして、あまつさえ許せぬ所行であるのに、彼らは子供たちを連れ去るという悪事まで働いていた。
 さらに始末に負えぬことに、彼らは致命的な失敗を犯していたのである。土から甦った本物の、カビくさい墓場の匂いを全身にまとう亡者が、北の廃墟に現れたと知らないのだ。
「東風を名乗るとは、また無謀な盗賊団ですよねぇ」
 無邪気な様子で、愛を振りまく翼・ミャア(a25700)は言ったが、その愛らしい口元に含まれた笑みには、相応の意味がある。ほぼナースウィッチ専用を合い言葉に制作された旅団専用のアイテムを、この冒険で試すつもりだったのだ。
 黒い柄の剣を腰に帯びた青年が、皮の手袋に収められた指先を丸めて鼻先に運び、小さな咳払いを行った。ゆるゆると緩んだ仲間の口元を閉じさせる狙いがある。業と罪を背負いし者・シヴァル(a29828)は続けて悲嘆にくれる母親たちにこう語りかけた。
「東風の名を語る山賊たちか……本来ならば護りたくはないが、一緒に村の子供たちがいるとなると別だな。俺たちが必ず無事に取り戻してくる、待っていてくれ」
 彼女は……もとい彼は、しとやかな少女にしてはやや背が高いようだったが、その指先も、憂慮に歪められた目元も、そして、口吻の誘惑を醸しだす唇に至るまでが、彼というよりも彼女に近い造形となっている。けれど、そうであっても、いくら家事が得意であっても、たとえ召使いの服を着用していたとしても、おどおどドジっ娘系メイドガイ・イズミ(a36220)はれっきとした少年なのだ。
「人々の命を護り、幸せな人生をお届けする…それが旅団『東風』の使命であり、また、私が冒険者になった理由の一つですから……」
 少年の言葉に深く肯いてみせたのは、旅団を統べる医術士にして、いささか生臭く何やら声がして騒がしい巨大な緑のリュックを背負う奇妙なドリアッドの女性、ドリアッドのキリ番ハンター・フィリス(a22078)だった。彼女は村へと残り、人々の治療、そして護衛にあたる仲間たちに別れを告げた。
「ミヤクサさん、レイスさん、ティアさん、イズミさん、行ってきますわね」
「連れ去られた方たちの方は……お願いします!」
 そう言って、祝福されし思い出・ティア(a34311)はフィリスたちに思いを託す。
 自身の腰までしか背丈のない小さな身体の少女が、その瞳に折れぬ心を湛える姿に、シヴァルは敬意を込めた首肯で応えていた。
 
 村に残った紅い閃光・レイス(a32532)は、まず泥を練り上げて下僕を整形することからはじめた。北の方角に土塊の人形たちを並べて死者の村への進入を防ぎ、その間に死者が村に現るとの報を受けて転倒するなどした者を含む、怪我人たちの治療にあたろうというのである。
 だが、この計画には難があった。北を警戒すべしとの着眼点は素晴らしかったものの、泥人形の小さな身体が仮初めの命しか持たぬ点を失念していたのだ。そのため、ティアが哨戒を買って出て、村の北側へと向かうこととなった。その前に、少女は痩せた身体から癒しの光を紡ぎ出し、地に横たえられた人々の身体を波打つ光の裡に包み込んだ。肌に残された傷が早々に癒されるわけではないが、身体に力が取り戻されるのではと期待をして。
「東風オリジナル救急箱『梅花舞空』」の出番〜です!」
 気を取り直し、レイスが取りだした木の箱こそが、救護に最適と選別された品々の収められた特製のアイテムである。中身の詳細は……適宜としておくべきか。
 背にはらりと這わせた茜色の髪を、薄い風合いの黒紐で結び留めると、温かな気持ちを運ぶ調理士・ミヤクサ(a33619)は箱の蓋を静かに開いた。銀の蝶番からはかすかな物音が、それらが閉じこめていた内側の空気には、薬効の所在を否応なく感じさせる芳香が多分に含まれており、冷たい冬の風に舞って拡散する。
「あ、あの……お怪我は、ございませんか? 何かお手伝いできることはありませんか?」
 そう言って手を差し伸べたイズミの力を借り、木の根本に座り込んでいた男は自らの足で立ち上がった。その腕には酷い切り傷があったが、死者に追い立てられて凶行に陥った冒険者――無論、偽物である――が短刀を闇雲に振り回し、その切っ先が彼の皮膚を裂いてしまったとのことだった。
 彼女が……もとい、イズミが男が救急箱を広げる仲間たちが活動を続ける一角へと届けると、そこではレイスが大きな声を張っているところだった。
「僕は男です!」
 そこで、はじめて腕に怪我を負った男はレイスばかりでなく、イズミのことも訝しがった。けれど、イズミが憂いを湛えた瞳で見つめ、白魚のような指先で傷口をいたわりはじめると、これなら相手は少女であったほうがいいと判断したのだろう、男は考えることを止めたようだった。
 木立の表面に赤い光が映りこんだ。並び立つ黒い傘を持つ幹の向こう側に、強い警戒の念をいただかせる輝きが浮かんでいるのが見える。すべてを察したレイスは包帯を箱のなかに収め、絶対的な焔の名を持つ剣を引き抜き、村人たちに言った。
「事はすぐに済みますから〜、ここでじっとしてるんですよ〜」
 男の子? と新たな疑問の種を人々に植え付けつつ、レイスはスカートの裾を大きくめくりあげるような元気の良い走りを見せ、赤い光が発せられた方角へと躍り出た。木陰から現れる歪な輪郭をした影を認めるなり、彼は頭上から熾烈な輝きを放射した。
「あるべき姿に戻って下さい」
 空へとかかげた右の掌に、ミヤクサは神々しい光の線条を束ねていった。それらは絡み合い、やがて硬質な冷たい肌を持つに至り、見事な造形の穂先へと収斂されて、聖なる槍となった。亡者の胸部へと突き立てられた槍は、その周囲に光を溢れかえらせて枯れた身体を砕き、大穴を穿ったが、やがて開かれた風穴は大気と通じて消え去った。亡者の身体は粉々となっていた。
 死者を葬り去る槍の力を目の当たりとしながら、ティアもまたその掌に輝く槍を手にしていた。だが、その狙いは死者へと向けられてはいない。現れた群れなす簒奪者に追われ、燻された格好となった山師たちが、命からがら逃げ延びてきたのだ。
「む、村の人たちには……指一本触れさせませんから!」いくぶんかの躊躇の後、ティアは穂先を生者へと投げつけた。「ええと……ま、まーしふる☆じゃべりんっ!」
 仲間の背に突き刺さった槍を見て、悪党のひとりが気を失っている。だが、腹に突きでた穂先を見つけ、当の本人はいっこうにしなない自らの身を、別の意味で案じたようだ。ぼろをまとった身体が恐怖のあまり小刻みに痙攣する。
 男は自分が本当のアンデッドとなってしまったのではないか、と考えていたのかもしれない。
 
 まだレイスたちが怪我人たちの治療にあたりはじめた時分のことである。フィリスたちは北の廃墟へと続く藪の道を駆け抜けている最中だった。
「あう、子供たちの事が気になりますわ。急ぎますの」
 残存する壁面と壁面の合間に、倒木が倒れ込んで屋根の役割を果たしている。本来は屋根であったものは、すでに朽ちて床板と同化してしまっているのだろう、足下には柔らかな土しか見られない。
 団長の視線を受け取り、ミャアは頭上に光の輪を冠した。陽光を思わせる穏やかな光が広がり、廃墟の暗部を照らす。
「あう、いかにも何か出そうな場所ですわね」
 と、フィリスは言ったのだった。リュックのなかに収められた荒縄の所在をあらためている。その時である、彼女の身に何事かが起こった。顔をあげた彼女の双眸には、のどかな春の野を思わせる光は宿っておらず、厳しさを増した榛型の輪郭の内側には、凍りついた淵を想起せずにはいられない冴え冴えとした煌めきが浮かんでいた。緑の宝珠をかかげて彼女は言った。
「だが、怯むわけにはいかない。皆、行くぞ」
 斜めに崩れ落ちた壁面のあちら側を、いかにもアンデッドといった感のある死衣が次々に通り抜けてゆくのが見えた。シヴァルは動き出そうとした仲間を制し、次の出来事を待った。そして、壁の亀裂に現れた、鮮やかな発色の赤い上着をまとう女性へと、刻曜剣で斬りつけた。
 悲鳴があがったが、それは彼の側面で腰を笑わせる、死者へと化けた『千の顔』の団員たちからあがったものだった。赤い上着ごと上体を切り裂かれた彼女には、瞳も唇さえもなく、ただ頬のなごりかかすかに貼り付いただけ……アンデッドだったのである。
 シヴァルへと背を預け、フィリスは射抜くような視線を悪党へと向ける。
「自己紹介がおくれたな、『東風』団長、フィリス・カーズブラッドだ」
 さらに悲鳴をあげた男たちは、扮装をその場に脱ぎ散らかし、逃走を図ろうと壁の合間を捜した。だが、彼らの背後から不意の声が響き、振り返ったある男はその視界に映したのだった。何もなかったと思われた空間から、白い少女の足が二本、すらりと生えてくるのを――。指先に力を通わせながら、ミャアは言った。
「おとなしくしてれば命は助けますよぉ?」
 と、同時に展開された、光を帯びた糸の束が悪党たちの頭上へと広げられる。扇状となって宙を漂った蜘蛛糸によって、『千の顔』の面々は行動に蓋をされ、呆気なく拘束された。
 残りの偽アンデッドと、彼らに連れられているであろう村の子供たちを捜して、メイは廃墟の影から影への合間を、矢のように駆け抜けた。少女の赤い瞳が見開かれて、地下室の入り口らしき暗闇から現れた人影を見つめた。彼らは派手に格好に、巨大な武具を所持している。怪しい出で立ちの冒険者たちが、少女らの手を握りしめている姿を目にして、メイは瞳に安堵の光を含ませた。小さな跳躍で、驚愕のまま口を閉じない男たちの目前へと躍り出ると、彼女は子供たちに言った。
「ごめんね。少し、静かにしててね」
 寂寥の漂う空間へ、深い眠りへと誘う旋律が響き渡る。すると、役にも立たぬ大きな得物を抱えたまま、偽の冒険者たちだけが地へと眠り込んでしまった。つぶらな瞳を瞬かせる子供たちは、フィリスたちが速やかにその身柄を確保して防衛に入る。
「貴様等を救う義理はない」
 そうフィリスは言い放ったものの、フィリスは滴るような光を帯びる槍で一体の痩せた身体を貫き、眷属に襲われようとしていた死衣をまとう者――しかし、その身体には血が通い、頬には赤みが差していた――を救った。再び空へと掲げられた掌中に光が収束し、新たな聖槍が精製される。すると、彼女はその穂先を先ほど助けた偽のアンデッドへと傾けて……悲鳴の後に言ったのだった。
「本物と間違えた。すまない」
 シヴァルの剣が空に波濤のごとき軌跡を浮かび上がらせ、枯れた体躯のものどもを次々と両断してゆく。腰から上を失ったまま、なおも歩もうとする彼らへは、フィリスが紡ぎだした無数の針が向かい、その爪先が向かう先を再びあの夜へと向けてやった。
 生者には蜘蛛糸を放ち、死者によって傷つけられた仲間の身体には癒しの光を広げる。凄まじい戦いぶりを見せる団長夫妻の動きに、ミャアはメイと瞳を交わし合うこともしばしばだったが、その戦線の維持に後ろ盾ながら助力を惜しまなかった。
 すべての死者が二度目となる永久の死を手に入れ、村の子供たちも皆が無事だった。そして、『千の顔』の面々もまた、生かされ、メイの手によって縄目へとついたのだった。
「『東風』の名を騙るとは、本当の恐ろしさを知らないようですねぇ?」ふふん、と鼻を鳴らし、ミャアは縛り上げられた男のまわりをゆったりと歩く。「罰として、痛い目にあってもらいますよぉ?」
 剣の柄で鞘を打ち、シヴァルが「自警団にでも突きだ――」と言いかけた瞬間だった。止める間もなく、ミャアが聖槍を掲げている。
「ま〜しふる☆じゃっべりぃ〜ん!」
 しばしの後、シヴァルは小さく首を振った。捉えられてもなお不遜な態度を崩さぬ者もあったはずが、今や『千の顔』と名乗った男たちは頬を蒼白とし、ひとりの少女に許しを請うている。あまりにみっともない姿だった。
 
 薄暗くなった道を、月の面を思わせる白光が進んでゆく。シヴァルが背を貸した少年は、彼の肩に暖かな吐息を吹きかけながら、すっかりと眠りこけていた。
 子供たちを待つ母親たちとともに、村の入り口で待っていたミヤクサは、彼女たちの再会に瞳を細めた後、縛り上げられたままうなだれる男たちへ言ったのだった。
「自業自得です」
 彼女の手が伸ばされ、狂戦士を語ったのだろう、張りぼての巨大剣を背に負う男が目をつむった。その額に冷たい指先と巻きつけられる布地を感じ、彼が瞳を開くと、そこにはミヤクサの顔があった。手当を施しながら、少女は言った。
「これに懲りたら、人の役に立つことしなきゃ駄目ですよ?」
 だが、悪党たちにとっての安らぎは、まだ当分訪れるべきではないのだろう。ぱたぱたと駆けてやってくるなり、頬を膨らませ怒気を鼻孔に含ませたティアが、右手を空へと突きだし、こう言ったのである。
「……子供は道具じゃないんです!」
「もう終わっている、あ……」
 またしても制止に失敗したシヴァルの横では、聖槍が狂戦士の背に突き立てられていた。
 必死に許しを請う『千の顔』に、イズミはふと言った。それだけだった。
「私と似た服を着せて、村の皆さんに対して御奉仕でもさせましょうか」
 それはそれで、厳しい――とシヴァルは思ったが、言葉として口にはしなかった。なぜなら、聖槍を浴びせ続けられた悪党たちが、悔い改めたのか何なのか、彼の申し出を「はい!」と合唱して受け入れてしまったのである。
 かくして、その夜から村には20名を越える屈強なメイドが配置され、必死のご奉公を展開した。
 太い二の腕が愛らしいメイドが注いでくれた茶を、ぶかっこうながらもおいしい焼き菓子とともにいただきながら、メイはテーブルを囲む村の小さな友人たちに告げたのだった。
「君も冒険者になったら東風においで。歓迎するよ」


マスター:水原曜 紹介ページ
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