<リプレイ>
抜けるような青空の下、市は朝早くから大賑わい。 「はぐれちゃうと大変、だから……手、繋ごう?」 「う、うや? 手、とな? う、うむ……」 恥ずかしそうなラーナが不思議そうなシェカ。屈託無く差し出された手に白い指がおずおずと。 「市場って初めて来た! 人がいっぱい、すごいすごいー!」 感動一杯のユヤは早速見て回る。肝心の注文はものすごく後になりそうな? 「龍珠、人が一杯だから動き回っちゃダメですよぉ!」 腕の中の猫がスルリと逃げて、シャムシエルは大慌て。こちらも、当分ショッピングどころではなさそうだ。 (「私が見回れば、少しは皆さんも安心ですよね?」) 勿論、冒険者の勤めは忘れないけど、女の子ならお洒落はしたいもの。ミントグリーンのリボンを手に嬉しそうなミキ。 「こんな感じの物を作って貰いたいのですが」 セトは桜花の細工をオーダーメイド。今から出来上がるのが待ち遠しい。 「今年で最後の大きなお買い物だから……」 財布を握り締め楽しそうなファオは、ファーのチョーカーが気に入った様子。 「あの、ええっと……ありがとうございます」 強面の店主を前に及び腰のミヤクサも、すぐ誕生石のペンダントを手に笑み零れる。 「すみません……ごめんなさい」 ぶつかる人々に謝りながらカナエが探すのは、自分の形見代わり。目に留まったピアスに養父の瞳を思い出す。 「わ〜い、お買い物にゃ〜♪ おこづかいもいっぱ〜いにゅ♪」 ウキウキと小走りのイヴ。見慣れた緑の尻尾にパッと笑顔になる。 「リリルにゅ、んと……ラナンキュラスにゅ? こんにちわぁ♪」 「イヴちゃん……」 親愛のだっきゅる☆されたのに、陽だまりを翔る南風・リリル(a90147)はションボリ顔。 会釈したラナンキュラスも心配そうな面持ちだ。保護者役を仰せ付かった身としては少しでも元気付けたいが、ほいほい気の利いた台詞が出るなら苦労はない訳で。 「クロさん……もといラナンキュラスさん、お疲れ様です」 にこやかに労うシュシュだが、敢えて助ける気は無いらしい。 「大丈夫。腕のいい職人は、いっぱい。きっと元通りに、直してくれるよ」 リリルを慰めるオルフェは懐の鍵を握り締めた。大切な実家の鍵を無くしたら……だから、少女の気持ちはよく判る。 「リリルさんが怪我しちゃうかもしれない時に、壊れたんだよね……? だったら、そのアンクレットが守ってくれたんだよ」 「そう、かなぁ〜ん……」 「よし、修理出来る店を一緒に探そうな。綺麗に直して貰えれば、もっと思い出深い品になるに違いないぜ」 ティーの言葉にリリルは小さく首を傾げる。それでもアールグレイドに頭を撫でられて、ほんの少し明るくなったようだった。
「あ、ありがとう」 危うく怒涛のオバチャン波に押し流されそうになったシュリは、セラトの救出で一息吐いた。 「シュリ、小っちゃいんだもん。1人だと危ないよ」 この雑踏の中、何故か彼女の髪が眩しくて……だから気付いたなんて、本人さえ自覚ないけれど。そっと人混みから少女を庇う。 「あら、透き通った水色が綺麗ですわね」 「青や赤の石を使った物が欲しいのよね」 「私は……あ、これ、金木犀ですわ」 財布と相談するテティスとロザリア。ネフェルは小花のピアスを選ぶ。 「あ、これ可愛い…けど、足りないなぁ」 鈴蘭のような耳飾りを諦めようとしたシズカだけど。 「それ、欲しいですか。うーんと……一緒に買いましょう♪」 赤琥珀の腕輪とセットにして……ちょっぴり不足をナチが出したのは小さな秘密。 (「ナチはいっつも嬉しい事してくれて……わたしは返せてるのかしら?」) 「シズ……? どうかしました?」 女の子の気持ちは中々複雑。ションボリのシズカに、ナチは大慌て。 「……ノエル、それは止めとこうよ」 「えー、ただの綺麗より面白いじゃない〜」 幼馴染は相変わらずのセンス。思わず苦笑いのマリッセントは小さな指輪に目を留めた。 「このピンキーリング可愛いわ。左の小指にすると願い事が叶うって言うし……」 「じゃあ、一緒に買おうよ♪」 お互い誕生石のリングを選んで、一足早いプレゼント交換。 銀の腕輪を注文したシャルと背中合わせで、ミルテフィーナは連れの袖を引いた。 「オウリさん、これ可愛いですよー」 「うん、細工もお揃いですし、予算も……大丈夫そうです!」 今日は共通の友人へのプレゼント探し。革のバングルと首輪に揺れる雪の銀細工は、これからの季節にぴったりか。 「この指輪、良いデスねー……ヘー、前の持ち主が非業の死を遂げ――やっぱいいデス」 ギバは慌てて古びた指輪を返した。店主にからかわれたのだろうけど、無難に真鍮の腕輪にしておく。 その指輪の本当の謂れは、スティファノが聞いた。 「……その命、続くまで。民の盾、牙として戦う為の……誓い」 リングに刻まれた『その命続くまで、汝牙となれ』。或いは冒険者へ贈られた言葉かもしれない。
「あぁ、やっと見付けましたよ」 「もう、迷子になったのはジーンさんの方ですよ! 本当に、手の掛かる27歳なんですから」 イリシアのご無体な主張を笑って流し、ジーンはこれ以上はぐれないように手を繋ぐ。 髪飾りを探して1つ通りを違えれば……この界隈は変り種が多い。 「人とアクセサリー、今日はどっちが多いのかな?」 悪戯っぽく笑うヴィラが選んだのは、銀鎖の絡む十字の武器飾り。 「メーアも良かったね。素敵なのが見付かって」 「はい、オパールには思い出がありますから……」 オパールを散りばめたパンジャを早速着けて、微笑むメーア。 (「見るだけでも楽しいから、買えなくても十分だったけどね〜♪」) すっかり店主と意気投合したパライバは、血赤珊瑚のネックレスもそれなりの値段で譲って貰い御満悦。 「こんなの、作って貰えないでしょうか……」 プレストの注文は、以前に愛用の武器を模した飾り物。 「ああ、これはいいですね」 男物で且つ気に入るとなると、これが中々難しい。それでも精緻なタイピンを見付けて、クリュウは満足げに頷く。 (「フォーナとやらの相手もおらんし、自分用と言ってもな……」) やはりあれこれ悩んだブレードは、結局武器を飾る銀鎖に落ち着く。 「コイツに合う柄頭を作ってくれないか?」 蛇腹剣『吼雷咬牙』を見せて、九尾狐の意匠を頼むレイファ。 「これ位の予算で出来ませんか?」 くすんだ蛍石を選んだシァリゥは、黒小太刀に合う留め具を注文する。 「ちっちゃいのでいいんだ。銀とエナメルなら、そんなに高くないよね?」 フィンフも武器飾りのオーダーメイド。いつも一緒にいたいトカゲのハラタマちゃんの代わりに。 (「あの人のプレゼント……何が良いでしょうか」) 誕生石の黒珊瑚を使うとだけは決めているが……黒死蝶・アゲハの悩みはもう暫く尽きない気配だった。
「お願いするのよォ!」 狙うは男の店番。早速ミナはセイレーンの本領発揮? 開いた胸元を強調して甘い声。 「うーん、この値段なら損はないでしょ? 駄目?」 エリスの狙い目は原価より上でも、普通の値引きより安値の辺り。着眼点は悪くない。 「……この石でこの細工、それでこの値段は職人に対してあんまりじゃないか?」 だが、伝統工芸だからこそ、ミュンシャの商人は匠への敬意が深い。 「2人分、纏め買いするから!」 結局、これで漸く幾らかは値引きして貰えた模様。 「足りない分は身体で払うが」 婚約者の為、どうしても凝った銀糸のチョーカーが欲しかったガルスタは俄か店員に。 「……良かった。何とか予算内だね」 誕生日プレゼントを妥協したくなかったコクセイは、胸を撫で下ろしている。 「……お金、足りるでしょうか?」 同じく財布を覗き込んで、イグネシアは嬉しそう。銀翼に黒曜石をあしらったブローチは無事に彼の胸元を飾る。 「おにいさん、ボクどうしてもこれが欲しいんだ……ダメ?」 一方、ちょっぴり予算オーバーのメイは早速泣き落とし。 「……お客様」 だが、海千山千の商人は厳しい。それなりにアクセサリーで飾った格好だから尚の事。結局、びた一文まからず……聖槍をぶっ放さない分別があって幸いだったか。 「最愛の妻とお揃いを今日の記念に買いたいのです。これでどうか売って戴けませんか?」 「……僭越ながら。贈り物を勉強しろと仰るので?」 「え……」 明らかに良い身なりの少年の最初から値切ろうという態度が、流石に気に障ったらしい。 店主の言葉に、思わずアウィスは詰まった。嬉しそうに寄り添うネムは、そんな事は気にしないだろうけど……結局、呼び込みを手伝う事に。 同様に、アルタも些か虫が良過ぎたと言えた。予算より少し上を選び、足りない額は『御願い』で――そんな打算と情の使い分け、とりわけ財布の厚さには商人も敏感なのだ。 尤も、連れのヴァイオレットは、当人が交渉の間に内緒でプレゼントを買えた事が1番の収穫であったろうけど。 「手持ち全額頭金にするから、分割で……えー、駄目?」 たとえ冒険者でも、初見に信用払いを許す商人はいない。精緻なイヤーカフスの為、結局、臨時のアルバイトで手を打つクレイファである。 やはり『翌日』の労働は不可と言われたフェレーは、今日1日店番する事に。そのお代は空色の石のペンダント。 「……ヒトノソさんって、いいよねぇ」 ほわほわと和むへルディスターにリボンの包みを押し付け、勢い彼女に付き合う事になったリスリムはアクセサリーに囲まれた少女に目を細める。 (「フェレー、可愛いから何でも似合いそうだよね」) 1番似合うと思った三日月のペンダントはポケットの中。さて何時渡そう? 「おや? あちらのお店ではこの値段だったのだけど、随分違うのだね」 「別の職人ですから。格が違いますよ」 売り子の切り返しも慣れたものだが、オリエも負けていない。 「せめて端数をナシ、ぴったりこれでどうだろう」 「私、これがとっても気に入って。すごく欲しいですの」 エルヴィーネも頭を下げる。品物の値は商人の計算と誠意。あまり大きな値引きでなければ、この辺りはノリと勢い次第。 「まあ、それ位でしたら」 市に付き物の駆け引きのドラマは、今日もそこここで繰り広げられているようである。
この季節のアクセサリーは、何も自分用ばかりでもないようで。 「女性へのプレゼントでお勧めはありますです?」 店を渡り歩いてはストレートに尋ねて回るシャルル。 (「やっぱり、フォーナ祭の贈り物が多いのかな?」) 誕生日プレゼントを探しに来た明月に漂う白華・アゲハは、道往く人にも興味津々。 「やはり品揃えが違いますわね。次は自分の物も買うと致しましょう」 ユリーシャは以前のお返しに。簪の桜は相手の通り名に因んでみた。 アーウィスの耳飾りも相棒へのお礼。贈った時どんな反応かと想像するだに楽しくて、自然と笑み零れる。 「さて、どうしたものですかね……」 品の多さも然る事ながら……悩むレイクが目に留めたのは、紅玉1粒あしらった銀細工。 「店主さん、これ──」 「下さいでござる」 男の声が重なる。シオンの方はサファイアのペンダント。物は違えど大切な人への贈り物なのは同じ。 「これ……彼みたい♪」 コトナの黒猫のペンダントを、彼は喜んでくれるだろうか……嬉しはずかしで頬が染まる。 「あの子にはどんなアクセサリーが似合うだろう?」 最初は知り合いに贈ろうかと気軽だったホカゲも、選び始めると俄然真剣に。 「喜ぶ顔を想像すると、嬉しい気持ちになるものだな……何と言って渡そうか」 リュシュカは一目で決めた。竜を模ったペンダントトップは、妻の銀髪と漆黒の瞳を思わせる。 「2人で大切な人のアクセサリーを作って貰う日が来たなんて、ちょっと不思議だね」 「そうだな……」 ヴィンとヴァル、ストライダーの兄弟は各々のアクセサリーに少女の面影を浮かべて感慨に耽る。 時の流れは速いもの。彼女が大人になるのも、きっともうすぐ……。
プレゼントといえば、指輪がやっぱり定番。指輪の工房は朝から引きも切らぬ人の波。 「え、でもサ……」 「いいからいいから」 ジョーカーの選んだ指輪をはめて、ユルの眼鏡がキラリと光る。こんな時は見栄を張るもので、沈丁花のブローチ共々、払いは彼の懐からだ。 「お金に糸目は付けないですよ〜」 「は、はぁ……」 胸を張るミュヘン。10歳のお子様の得意げな言葉に、商人は思わず目をパチクリ……何処の裕福なお坊ちゃま? 「足りないなら……これで」 手持ちの装飾品と交換して、カイサが受け取ったのは銀の指輪。雪の細工はきっとあの子に似合うだろう。指輪に選ばれたようにさえ思える。 「意外とそそっかしいから、派手な細工は服に引っ掛けてしまいそうですしね」 憎まれ口を呟くアウラの表情は優しい。掌で指輪を転がして、想うのは唯一の女性。 「……ああ、これなら」 ガルガルガはムーンストーンの指輪を選んだ。イニシャルを刻めば素敵な贈り物になるだろう。 「その……どんな物を贈ったら良いかよく判らない。ただ、彼女には喜んで欲しい」 正直に店主に相談するアルジェント。夕焼けの髪と紅玉の瞳の少女を語る、その横顔は期待と不安がない交ぜで。 その頃、マイヤはラウドと初めての逢引……デートを満喫していた。 「周りはどう思っているかしら? 恋人同士に見えているといいな」 来るフォーナ祭は2人の誕生日。3倍の祝福を指輪に込めて……交換はもう暫く先のお楽しみ。
そろそろ黄昏時。 「直ったなぁ〜んっ!!」 店仕舞いもチラホラの目抜き通りに、お子様復活の鬨の声。 「良かったね、リリル殿」 「うん!」 タケルに大きく頷いた少女の右足に、天然石を連ねたアンクレットが元通り。タケル自身も修理した同じ細工師と意気投合して、ガーネットの首飾りをあつらえた。 「ラナンキュラスもお疲れ」 「どうも……」 黒いバレッタで髪を纏めたユーセシルに力なく笑みを浮かべ、黒衣の青年は明らかにお疲れモード。1日中を引張り回された報酬は、しっかりその襟元を飾っている。 「義姉さま、今日は有難うございました」 フォーナ祭で本当の家族皆に贈り物したくて。クウェルは水晶飾りをあしらった羽根ペンを大切そうにおし抱く。 「あら……」 出来たばかりの可愛い妹に付き合った1日もそろそろ終わり。ふと路地に目を留め、アオイは訳知り顔で目を細めた。 「えっと……」 「色々のお礼です。似合ってますよ」 照れるフローライトの胸元に咲く金緑の花。穏やかに笑むジラルドの指には祈り詩を刻んだ指輪が煌く。 (「2人の絆がいつまでも続くように願いを込めて……なんてな」) きっと今の自分は浮かれている。浮かれついでにぎゅっと腕を組もうとして……青年の肩越しに悪友の笑顔。フローライトが慌てるのは、また別のお話。
こうして、ミュンシャの1日は最後まで賑々しく暮れていくのだった。

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参加者:83人
作成日:2005/12/10
得票数:ほのぼの35
コメディ2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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