リザードマン領へ:未来切り開く剣



<オープニング>


●リザードマン領へ
 その日、旅団の長を集めた円卓の間で一つの決定が行われた。
 リザードマン領内に対して、扇動や襲撃を行うという決議である。
 他国への侵略には賛成できないとする者も少なくなかったが、リザードマン側が再度の東征を準備しているとの情報があり、なんらかの対処が必要であったのだ。

 リザードマン領内に潜入した冒険者からの報告、客人として迎えているリザードマン国の王弟、黒水王・アイザックとの会談なども加え、討議は長期間に及んだ。
 一時は、リザードマン軍を同盟領に引き入れて地の利を生かして防衛線を展開するという案も浮上したが、ドリアッドの森を初めとする同盟領を再びの戦火に巻き込む訳にもいかず、リザードマン領内への攻撃が決定したのだ。

 今回の作戦は、リザードマンとの決戦の『前哨戦』にあたる。
 かつて、レグルスを占拠したリザードマン軍が、少人数の冒険者パーティーを周辺に展開して周辺地域の平定を目論んだが、今回は、それを攻守を変えて行う事となったのだ。

 今回の作戦の目的は下記の通りである。
=======================
 東征を企てるリザードマン軍に打撃を与える遅滞作戦
 私腹を肥やし暴利をむさぼる大商人から食料・物資を強奪する
 大商人から奪った食料を、リザードマン領の奉仕種族に分配して、同盟の存在を宣伝する。
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 これに加えて、アイザック・ガウローの部下であった冒険者達との接触や、同盟への参加を呼びかける作戦を並行して進められる……。

 この一連の作戦の決行は『12月26日』からと定められた。

 同盟諸国の民の安全を護りリザードマン領で苦しんでいる多くの同胞を救う……。
 同盟諸国の行く末を決める作戦が、今、始まろうとしていた。

●未来切り開く剣
「ふーん。何か厄介になりそうやねぇ。カティちゃんはどないするつもり?」
「私ですか? 私は一つ覚えですから、剣に託してみようと思います」
 ヒトの武道家・アンジー(a90073)に問われて、ヒトの武人・カティ(a90054)は微苦笑して腰に下げた剣を見せた。
「……ま、無茶しなさんな」
 それぞれに依頼を求めて別れた二人だったが、カティはエルフの霊査士・ユリシア(a90011)の元に集まった冒険者達の中に入っていった。
「皆さんにお願いしたいのは、リザードマン領との境界にある砦の施設破壊になります。同盟領から向かうと、切り立った崖に囲まれた渓谷を進む事になります」
 ユリシアの見せた地図は、現地を下見に出た者の描いた簡略な物だった。
 曲がりくねった渓谷の突き当たる場所に小さな滝があり、瀑布が生まれる滝の頂上に川を挟んで左右に砦がある。
 左右の砦は橋で結ばれており、どちらかが落とされても橋を切り落とせば一方は生き残るという仕組みになっている様子だ。
「皆さんには、この砦を完全に沈黙させて頂きたいと思います。川の流れは一部同盟領を通っていて、万が一敵を討ち漏らせば報復は直ぐに訪れるでしょう」
「報復の攻撃か?」
 ユリシアの言葉に返した冒険者に、少し間をおいて頷くユリシア。
「それに……左右の崖を崩し続ければ、下流に住まう人達は生きていかれないでしょう……自然を乱せば、そのつけを払うのは必ずその自然を乱した私達になります……」
 悲しい現実だが、戦争とは互いが疲弊し尽くすまで終わらない物なのかも知れない。
 一つの砦を落とすだけの依頼。
 だが、実際には川を挟んで2つの砦を同時に落とさなければならないのだ。
 限られた時間で効率よく敵を屠り、砦を沈黙させる方法……。
「砦に油を撒き、焼いてしまうのが良いのか、それとも崖そのものを破壊して、滝諸共崖の下に落とすか……同盟領から行く方法は、渓谷の岸辺沿いしか在りませんが、砦に詰めているリザードマンはおよそ30名、砦の構造は、恐らく対称になっている物と思われます。この砦がある事で、付近の山を越えて行く道の全てが警戒されています」
 砦攻略は、今後の依頼成功にも関係してくる事になるだろう。
「目的地に向かって頂くのは明け方になります。リザードマン達の動きが最も少なくなる日を霊査出来ました……この日を逃せば、砦攻略は難しい物になるでしょう。皆さんの健闘を心よりお祈りします……」
 渓流を上り、滝の左右に設けられた階段を上がって行く時が最も敵に見つかりやすいだろうが、それでもユリシアが霊査した時刻には見張りが最も少なくなるのだという。
「時間との勝負になりますから、どのような光景を見ても心を乱さずに砦の攻略を進めて下さい。そう、何を見ても、です……」
 ユリシアが語らぬ中に、冒険者達はこの依頼の重要性を知った。
 余計な情報を持つ事で、依頼達成に支障をきたすよりはよいのかも知れない……。

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参加者
白銀纏いし紅の剣姫・フユカ(a00297)
宵闇亭女将・フィサリス(a00394)
黒紫蝶・カナト(a00398)
蒼天の幻想・トゥバン(a01283)
小朋友・フィオリーナ(a02140)
炎刻烙印・ショウ(a02576)
小連翹・リーナ(a02973)
金剛神将・コロッサス(a03242)
深遠を視通せし者・ユイス(a03427)
闇祓いの剣士・ミカエル(a03477)
深緑の穏風・アルト(a03604)
鉄芯・リジュ(a04411)
紫珠の疾風・シュネー(a04436)
カラミティ・ジェーン(a04612)
伽藍の緋・イラ(a04901)

NPC:ヒトの武人・カティ(a90054)



<リプレイ>

●砦
 リザードマン領に至る道を川に沿って登ると、瀑布の起こす轟音が響く沢に出る。
「行きましょう。後できっと合流出来ることを……」
 白銀纏う紅の剣姫・フユカ(a00297)が対岸に見える仲間達に向かって頷いた。
 僅かに月明かりで見える仲間達も、砦から見えぬ様に木の陰から対岸の彼女達に向かって軽く返答を寄越してきた。
「行くか。早く来てくれよそっちも……」
 天翔黒翼竜・カナト(a00398)が階段に足を掛けて深く息を飲んだ。
「大丈夫で御座いますか?」
「ん? おお」
 壮麗の思い・ショウ(a02576)の口調に戸惑いながら、カナトが頭上の砦を見上げた。
「任務遂行の為に、誰かを見殺しにするのはとても嫌ですけど……」
 藍微塵・リーナ(a02973)の憂い顔を覗き込む様に濫殺卿・コロッサス(a03242) が歩を進める。
「リーナちゃん、絶対に無理しちゃ駄目だよ?」
「え? あ、はい……」
 ほんの少しだけ遅れてリーナがコロッサスに返した言葉に、ヒトの重騎士は満足家に頷いて歩み出した。

 ――すぅ

 深呼吸で自分に気合いを入れた深遠を視通せし者・ユイス(a03427)が閉ざしていた瞳を開き、剣を一閃する。
「これで、一安心ですね」
 羽毛の塊の様な姿の守護天使を召喚しているユイスは、依頼を受ける際のユリシアの言葉を思い出して自己に暗示を掛ける様に呟いた。
「もう、これで何を見ても動揺することはないでしょう……」
 心を鬼にすると、誓って動き出した冒険者達はその日のことを二度と忘れることはなかった。
 凄惨な、一夜の夢……悪夢の物語を。

●強襲
「敵―――――――――ッ!」
 リザードマンの兵士の喉を紫珠の狙撃士・シュネー(a04436)の貫き通す矢が捕らえた。
「ったく、ケバい光だぜ……」
 悪魔狩り・ミカエル(a03477)が残る見張りを眠りの歌で無力化させて呟いた。
「いつまでも俺を嘲笑っていやがる……俺はまだそんなに弱いのかよ……」
 自嘲気味のミカエルが剣を手に先に走った武人に続いて走り出す。
 シュネー達の援護と武人の矢返しの剣風で護られながら砦に取り付くと、入り口を警護していたリザードマンを扉事斬りつけて叩き伏せる。
「……間に合うのか!?」
 隣の砦にも仲間達が取り付いた様子だが、頭上の橋を落とされれば闘いはこちらに不利になる。砦の上に登る階段を求めて、冒険者達は砦最下層の場所を駆け抜ける。
「あ、あれっ!?」
 走り込んだ武人達の後ろから、シュネーが声を上げた。彼女が指さす部屋の片隅に奥に続く通路があり、そこにリザードマンが走り込んで行くのが見えたのだ。
「何を企んでやがる!?」
 牽制で放たれた矢の後から飛び込んだミカエルは、通路一杯に開かれる造りの扉を見た。
 そこに、奉仕種族らしいヒトの両腕を鎖で上に伸ばし、扉上部に鎖だけ通して扉の盾とするリザードマンの姿があった。
「通りたければ、コイツを殺すんだな。キシシシシ……」
 リザードマン特有の発声が耳にまとわりつく。
 恐怖に目を見開いた敵の奉仕種族の服は薄汚れていて、決して衛生的でなく、冒険者達の直感でも彼女達が不当な扱いを受けているのが判った。
「それが……どうしたってんだ!」
 咆吼し、剣に闘気を込める準備をしてミカエルが滑り込む様に走る。
「はぁぁぁっ!」
 一瞬身震いしたミカエルだが、深い溜息と共に頭を一振りすると身体の痺れを払って走り込んだ。
「こんな“盾”だけで、俺の剣をかわせる思っているのかっ!?!」
 肩口から滑らせる様に、高い天井にまで届く様な勢いで剣を振るって叩き込む。
 腕を引き上げられ、張りつけられた奉仕種族ごと扉を吹き飛ばしてミカエルが敵に肉薄する。
「よくもっ!」
 ストライダーの牙狩人・アルト(a03604)が瞬きさえせずにリザードマンを睨み付ける。
 その手には、握られた弓に輝くアビリティの矢が……。
「喰らえ!」
 ミカエルの切り込む姿の向こうに見えた敵目がけて、放たれた矢が殺到する。
 のけぞる巨体に切り込んだミカエルの剣が、左肩口から右脇腹を薙ぐ様に走り、返り血が狂戦士の革鎧を染める。
「何だよ文句在るのか? この時代を生き残る力がなかった奴がまた一人、踏み台にされた。ただそれだけだ。それに時間がないんだろ?」
「ちが! ……俺はただ……」
 小朋友・フィオリーナ(a02140)が死後の痙攣を見せるリザードマンの奉仕種族を視界の隅にして堅く唇を噛みしめる。
「止まらない! あたし達が迷ったら、仲間が危険になるんだよ!」
 疾駆鉄塊・リジュ(a04411)が棍棒を手にしてリザードマンを蹴散らしながら走る。
 パワーブレイクで力に勝る種族を打ち倒す彼女の攻撃が、一人、また一人と確実に敵の数を減らしてゆく。
「上には誰が行ったの? まだ?!」
 自身の傷をものともせずに戦い続け、上の階に向かう直前に癒しの水滴で自身を癒すリジュが顎で上の階を示しながら尋ねると、先に3人が上がったとミカエルが言い放つ。
 彼もまた満身創痍だが、まだ我慢できぬ傷はないと言い張るのをフィオリーナが無理矢理に腕を掴む形で癒しの水滴を使った。
「助かる……」
「おう……」
 一言、二言だけの会話だが、意見の相違はあってもこの依頼に赴いた者に共通の使命感を2人は思い返して互いの表情を確認した。
「俺は戦うって決めたから……。考えるのは終わらせて……帰ってからにするよ」
「行けよ。後からだ、全部な……」
 上の階へ走った者達を確認して、階下からの足音に身を隠す場所を探すミカエル達。
「挟み撃ちで一気に屠るぞ」
「任しときな。同盟の冒険者が伊達じゃないこと、教えてやるさ」
 ミカエルに囁く様に返して、リジュがシュネー達に背に静かに隠れている様にと指を唇の前で立てた。
 落ち着いたフィオリーナは上の階に走り、橋のある階を占拠した仲間と共に階下から押し寄せるリザードマン達の迎撃についていた者達の前に立った。
「フィオ……一緒に居て下さい。ジェーンさんと一緒にここを死守します」
 俯く様にして拳を固めたフィオリーナにヒトの武人・カティ(a90054)の手が置かれる。
「カティだけじゃ頼りないからね。頼める?」
 カラミティ・ジェーン(a04612)がカティに続けると、微苦笑して肩をすくめて見せたカティが盾を構えて警護に就く。
「イラさん、トゥバンさん、お願いします」
 声を掛けて、フィオリーナと共に階段を上がってきた敵に向かうカティ。
「早く行け! ここは私達に任せるんだ!」
 ジェーンが階段を上がってくるリザードマンを切り捨て、勢いを殺さずに突っ込んだ蹴り足で階段下の敵の中に叩き落として叫ぶ。
「さぁ、来やがれ!」
 身軽なフィオリーナが壁を蹴って襲いかかり、技と外した拳が壁を打ち砕いて恐れを知らぬ勇猛さを誇ると思われたリザードマンも少女の力を見て一瞬動きが止まった。
「キサマも冒険者か……」
 年端もいかぬ少女が見せた脅威の力に、彼等はようやくこの砦に突入した者達の存在を思い至った様子だった。
「ドしたァッ、かかってきなよっ!!」
 リジュの大音声が階下で響き渡る。
「やーん! もう、こっちこないでっ!」
 シュネーの声が聞こえたかと思うと、階下の踊り場で小さな牙狩人がリジュ、臥龍の武人・トゥバン(a01283)と共にリザードマン達を挟み撃ちに攻撃していた。
「こちらは、任せろ!」
 ジェーン達3人に頷いて、烈なる対色・イラ(a04901)が剣と盾を構え直して共に橋を渡る者達を集める。
「希望のグリモアの加護があらん事を……」
 イラが警護に残るフィオリーナ達に声を掛け、狙撃者に備えて剣を一振りすると風が彼女の身体を包んだ。
「フィサリス、付いて来て下さいね。いざ!」
 シールドを身体の前に、橋を走るイラの身体が滝の瀑布が生む風に揺らされながらも何とか対岸の砦に取り付くことが出来た。その背後を共に駆け抜けた宵闇亭女将・フィサリス(a00394)が視界に収まった敵目がけて放つニードルスピアが断末魔を戦場に響かせる。
「これだけ立派な砦を作れたという事は奉仕種族の方達が酷使されたのでしょうね……そしておそらくまだ中にいるのでしょうね……」
 見張りを射抜き、橋を渡りきったアルトの瞳には先程の盾に使われた奉仕種族の女性の最期がはっきりと焼き付いてた。
「次に見かけたとしても、心に留めない様に
……躊躇は自分と、皆様の死に繋がりかねませんから……」
 誰に言うでもなく、アルトは溜息と共に言葉を吐き出した。
「……そうは言っても嫌なものですね……」
 放つ弓が敵兵に食い込んで行くのを確かな『手応え』として感じながら彼の心のもやは晴れなかった。

●合流
「剣の重さは命の重さ……貴様等に耐えられるかな?」
 コロッサスの鎧に弾かれる敵の矢が壁に当たる。堅い鎧で後方の仲間達を護りながら、ユイス、フユカに遊撃を任せてコロッサスは確実に戦線を前進させることに重点を置いた闘いに徹していた。
「此処は落ちてもらいます、諦めなさい!」
 隣の砦には橋の部分にまで仲間達が辿り着いたことが判った。
 それを敵に知られることがないようにと慎重に言葉を選びながらフユカが敵兵に向けて言い放った言葉にもリザードマン達は反応しない。
「大丈夫ですか?」
「あなたこそ。もう少しです、頑張って下さい」
 リーナが傷付いたユイスを癒すと、武人の青年はコロッサスの横に飛び込んで居並ぶリザードマン達を流水撃でなぎ払った。
「フユカさん、私達も!」
「ええ!」
「こっちが何時までも襲われるのを待ってると思ったのか?!」
 言外に、橋を押さえようと伝えあったユイスとフユカに続く様にリーナとカナトも続く。
 カナトとリーナの盾になって移動するコロッサスの脇から、カナトが放ったニードルスピアが敵を壁に貼り付ける勢いで貫き、冒険者達と敵リザードマン兵との間に微妙な空域が生まれた瞬間に、フユカ達が階段を走り上がる。
 しばらくして、合流した冒険者達は砦の攻略が無事に終わったことに安堵した。

●精算
「こちらには居ませんのね?」
 ほっと吐息を漏らしてフィサリスはフィオリーナがこちらの班だったら良かったのですのにと、取り返すことの出来ない出来事に胸を痛めながら呟いた。
「どうしたんです?」
 フィサリスの憂い顔に何かあったのだろうかとユイスが尋ねると、エルフの邪竜術士は無理矢理に笑顔を作って微笑んだ。
「いいえ。何でもないですわ。……あの、こちらには奉仕種族は……」
「え? あ、いや……注意して見ていた訳じゃないですが、見てませんよ……」
 ユイスは自分の記憶をたぐって砦突入から最上部のここに至るまでの道を思い返してみたが記憶にない。奉仕種族らしき存在は見なかったとコロッサスやリーナが請け負うことでユイスは自分の記憶の確かさを確認した。
「誰も? 一人もですか?」
 滝を挟んで左右対象の造りで作られている砦の片方にだけ奉仕種族さえ用いて防衛を行う敵兵が居たことを語ると、囮として突入した冒険者達も眉をひそめて考え込んだ。
「ユリシアさんが言っていた『何か』って、その奉仕種族の盾のことでしょうか? 本当に、それだけ……?」
 フユカが考え込んでいた。
 コロッサスと共に、現れる敵兵全てを血の海に沈めて進んできた彼女にも、もし奉仕種族が盾に使われていたら非常に徹して斬っていただろうという憶測だけは出来る。
 だが、実際にはそのような事はなかった……。
「ほとんど同じですね。全てを覚えている訳じゃないけれど」
 アルトが呟きながら、砦は本当に対称なんだなと周りを見渡して言った。
「……囚われている場所も、きっと同じですわね?」
 フィサリスの言葉に、冒険者達は地下に続く階段を駆けた。
 その階段の向かう先には、地下貯蔵庫といえる湿った岩壁の続く小さな部屋があった。
「誰か居るんですか?」
 ユイスが前に出て盾を構え、コロッサスも背後のリーナ達を護る様に通路を抑えた。
「大丈夫だよ」
 シュネーが頷くのを確認して、木の扉に掛けられた錠前を番人らしきリザードマンから奪った鍵で開けると、中には光に脅えるヒトとエルフの姿があった。
「これは……」
 身構えたユイス達に脅える姿を見て、リーナとフィサリスが重騎士と武人を押しのける様にして前に出た。
「大丈夫ですよ。私達は同盟の冒険者です」
「この砦は私達によって開放されました。あなた方はもう自由なんです」
 リーナとフィサリスの言葉にも、閉じこめられていた者達の表情は晴れなかった。
「おかしいわ。時間もないし、外に怪しいのもが無いか急いで確認しましょう」
 フユカの提案でリーナとコロッサス、ショウを見張りに残して冒険者達は砦の全ての場所を探し歩いた。
 怪我をしてまだ動いているリザードマンにとどめを刺し、万が一の連絡を切る作業も彼等には大切な仕事だった。
「ッ……」
 敵兵のあげる断末魔の中、父母を呼ぶ声がフィオリーナの耳に飛び込んでくる。
「大丈夫?」
 カティが覗き込む様にすると、押し殺していた感情に潰れそうなフィオリーナがカティの腕の中に飛び込んだ。
「……いつも思うことだけど子供がこういう血生臭いことに関わるのはいい気分じゃないわ……」
「仕方ない……で、終わらせたくないです」
 ジェーンの言葉に、フィオリーナの小さな頭を撫でつけながらカティが呟いた。
 隣の砦の掃討戦も終わり、フィオリーナも前を向いて歩けるからと一同が会する場所からイラが戻ってきた。
「聞いて。この砦には同盟に潜り込んでいたスパイが居た。そろそろ、スパイを引き取りに後方からリザードマン達がここに来るそうだから」
「スパイ? リザードマンが?」
 信じられないと言った表情のフィオリーナだが、ジェーンはそれも有り得る話だわと呟いて頷いた。
「……あの人達、ですか……」
 フィオリーナには見えぬ様に、櫓の覗き穴から下を見るカティ。
 そこには死んだリザードマンの兵士の前に連れ出されて覚悟を決めた様に跪く奉仕種族のヒトと剣を構えるミカエル、トゥバンの姿があった。
「本国に家族が人質として居るそうだ。彼等が姿を消せば人質が殺される。私達に殺されれば、家族はまだ生きていられると……それが彼等の選択だ」
 見張りにフィオリーナとカティを置いて、共に階段を下りながらイラとジェーンは鞘に収めた剣を握り締めた。
 同盟諸国の危機を救った剣が、今、罪無き人の命を刈り取る為に振るわれる。
 彼等の家族には、ほんの少しの生きる猶予が与えられるだけなのかも知れないが、果たしてこの戦争の行き着く先で彼等の家族と向き合うことが出来る日が来るのだろうか……。

 砦を時間の許す限り破壊した冒険者達は、帰投後ユリシアに全てを語った。
 依頼成功の報を聞いた霊査士は、ただ黙して冒険者達に頭を下げただけだった。
 深く深く、下げられた彼女の金の髪の間から、雫が床に落ちたのを冒険者達は忘れられなかった。

【END】


マスター:IGO 紹介ページ
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冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:15人
作成日:2004/01/01
得票数:戦闘16  ダーク24 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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