【世界一のショコラティエ!】Friandise Fraise



<オープニング>


「フラジィルさん……、苺を抱えて、どうしたんですか?」
 惰眠と美食を愛する霊査士・セレスタイト(a90226)の視線の先には、大きな籠を抱えてよたよた歩いている深雪の優艶・フラジィル(a90222)の姿があった。声の主に気付くと、フラジィルはよたよた近付いて来る。歩けば籠の中身の苺がころころと揺れ、甘酸っぱい香りが広がった。
 フラジィルは相変わらずの様子で、にっこり笑うと「こんにちはです」と頭を下げた。
 籠を持った彼女が頭を下げたわけである。
 当然、籠の口は横へ傾き、当然、ドバーッと苺が零れた。

 周囲に居た冒険者らも巻き込んで、籠から零れた苺拾い作業を行いながら、「で、どうかしたのですか?」とセレスタイトは問い掛けた。零れ落ちた苺は極一部であるし、零れたものも潰れることは無く、洗えば問題無く食べることが出来るだろう。
「実はですね、素敵なショコラティエさんのところに行くところなのです!」
 フラジィルはそれでも元気に胸を張った。
「ほほう……、それはどのような」
「すごくすごーく美味しいチョコレートを作るショコラティエさんなのです! ……照れ屋さんですが」
 其れでも、最近は随分と改善されて来たらしい。
 チョコレートの甘い香りに惹かれたお客が店に入ると、がたがた震えながらショーケースの影に隠れる。お客が素早くチョコレートを選び終えてくれれば問題無く代金を受け取れるのだが、お客が悩んでしまうと其の間にショコラティエはロッカーへ消えているらしい。
「……それは、商売になりませんね」
「……ま、まあ、それで、赤字がまた痛くなってきたらしいので、ちょっと協力者を募集中なのです。苺を使ったチョコレート作りを手伝って欲しいのですっ」
 作ったチョコレートは其の侭お店に並べるんですよぅ、とフラジィルはにっこり微笑んだ。
 セレスタイトはちょっと考えた。彼女には、けつまづいて部屋中に溶かしたチョコをぶちまけたという暗い過去がある。ちょっと考えたのち、にっこり優しく微笑んだ。
「チョコ作りは苦手なので……、私は食べに行くことにしましょう」

●Friandise Fraise
 こほん、とフラジィルは咳払いをした。
「まず、今回作らなくちゃいけないのは『苺のミルフィーユ』なのです。パイ生地を焼いて、間にたっぷりの苺とチョコカスタードクリームを塗りこみます」
 カスタードクリームが嫌いな荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)は、ミルフィーユを食べるのを楽しみにしているらしい。手伝う気は零では無いのだろうが、積極的でも無いようだ。
「次に『ホワイトチョコレートのムース』を作るのです。生クリームやゼラチンと混ぜて固めて、底の部分にはスポンジ、蓋の部分には苺ゼリーを使うです。其の上から、甘く煮詰めた苺のソースを掛けちゃいます」
 じゅるり。
 フラジィルは涎を拭って言葉を続けた。
「シュークリームやロールケーキの中にはたっぷりの苺生クリームを詰め込むです。ショートケーキにも折角だからピンク色の苺生クリームを使っちゃいましょう。きっととても可愛いです♪」
 不機嫌そうな顔で聞いていた毀れる紅涙・ティアレス(a90167)が口を挟む。
「で、食べれるのか」
「食べれるですよぅ。でも、作る側から食べていくとケーキが無くなるですから、味見は少しだけにしてください」
 本当にお食事したいのなら、セレスタイトさんの方へ行って下さいね、とフラジィルは微笑んだ。あちらが食べる担当です。
 ティアレスは非常に憤った。
「何と美味しく無い仕事なのだ……! 手伝った報酬に土産は出んのか、土産は」
「そんなもの無いです。ティアレスさんは別に来なくていいですよ」
 体育座りをして地面に「の」の字を書き始めた邪竜導士を見て、霊査士は溜息を吐いた。
「……フラジィルさん。貴女、可愛く無いわ……?」
「じ、ジルにどうしろって言うんですかぁあぁああ」
 結局。ショコラティエさんに無理を言って、普段店で出しているチョコレートを御土産に頂けることになったのでした。

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参加者
NPC:深雪の優艶・フラジィル(a90222)



<リプレイ>

●甘い香り
「頬っぺたについてるよ」
 ヴィンは笑って、深雪の優艶・フラジィル(a90222)の頬から苺色のクリームを拭ってやる。二人はロールケーキ作りに取り掛かったところだ。生地が破れないよう慎重に具を巻いていく。ビューネは生地を巻きやすいように、中に入れる苺を丁寧に薄くスライスしていた。
「……」
 破れたロールケーキの生地を手に、シフォンが沈痛な表情で沈黙している。挙動不審なショコラティエが、おろおろしながら彼女へ指導していた。
「ダメよ! ジルちゃんも頑張ってるんだから、一切れ分の味見で我慢……」
 ルリィが何かと戦いながら首を振る。一切れが随分大きい気もするが、彼女は随分と努力しているのだ。
 ロールケーキを綺麗に飾り付けて、フロルは息を吐いた。
「(あの人が笑顔に包まれますように)」
 小さな声でおまじないを掛ける。大切な想いを、甘いケーキに込めたのだ。

 人波を掻き分けるようにして、素早くロザリアが厨房に戻って来る。喫茶店は中々の人数で溢れていた。ナツキは常に笑顔を浮かべたまま、丁寧に下準備し温めたティーポットを運んでいく。ジェイダイトも何処か慣れた仕草で厨房を行き来していた。
 ミントは普段から自身が淹れているハーブティを気に入ってくれた客の居たことに笑みを浮かべ、カレンは店中に漂う甘い苺とチョコレートの香りに幸せそうな顔をしている。
「本当に逃げ回っていていいのですか?」
 ショコラティエが逃げ込んだロッカーを叩くも反応は無い。対人恐怖症の気がある彼を、捕まえると言うことが既に「駄目」であったようだ。途方に暮れるソナへ、フラジィルは慰めるように微笑む。
「誰にだってどうしてもダメなものはあるです。少しずつ、慣らして行かないと、ですから」
 事実、ショコラティエに複数回会っている者は、彼が確実に進歩していることを知っている。ルシェルはそんな二人に「差し入れです♪」と笑みを向けた。厨房から拝借したのだろう甘い苺ジャムが入れられた暖かい紅茶だ。わあ、とフラジィルは歓声をあげる。
 ホールから呼ぶ声が聞こえて、エンは渋々と言った調子で仕事に戻った。ロザリーと他愛も無い話を続けて居たかったのだが、客の入りが多過ぎる。すべて片付いたら緑茶でも、と誘えたことだけは幸運だった。

●甘い苺
「ロザリー殿も一緒にやるかぇ?」
 ルーシェンの呼びかけに、霊査士は小首を傾げる。彼女は手についたクリームを舐め取って、ミルフィーユを作っているところだ。
「……少しだけ、手伝って頂けないでしょうか?」
 くぐもった助けを求める呟きに視線を移せば、困った様子のジェネシスが悪戦苦闘を繰り広げている。彼は正に、クリームで満身創痍と言ったところ。ロザリーは目を細めると、二人へ手を貸しに近付いた。
「上手いじゃないか……俺が教えなくても大丈夫かな……?」
 トウゴが優しく微笑むと、言われたミルフェは照れたように頬を染める。
「わ、そ、そうですかぁ〜?」
 ぐしゃ。
 嫌な音がして手元を見ると、恥らった拍子にパイ生地を潰してしまっていたらしい。哀しそうに呻く少女を、青年はもう一度微笑んで励ました。
「あ、ジルさぁん!」
 呼ばれたフラジィルは急いで遣って来る。シアは少しはにかみながら、「こんな感じで大丈夫だと思う?」と自作のケーキを指差した。綺麗に飾られたケーキは見栄えも素晴らしく、フラジィルは満面の笑みで頷きを返す。
「ジルさんジルさん」
「ふぇっ」
 小さな囁きに振り返ると、口の中に苺が放り込まれた。
 甘いクリームのたっぷりついた、美味しい苺にフラジィルは何とも言えず幸せそうな顔をした。ロスクヴァは秘め事めいた調子で、「ささやかな差し入れです」と笑みを返す。
 ナオが小声でティアレスを呼ぶ。ミルフィーユが出来上がったら一緒に味見しないかと誘うと、彼は少し驚いたように目を開いてから、ありがとう、と薄く笑った。ミナも彼のもとへ味見してくれとミルフィーユを持って行ったが、ティアレスは彼の作品を見て深く沈黙するのであった。
「終わったら一緒にお茶にしよう?」
 アリシアが困ったような笑みを浮かべながら、ティアレスに言う。ショートケーキの切れ端を貰った、ティアレスからは何だかとても嬉しそうな気配がした。
 苺に関しては自信があるキラも、大好きなケーキを作るべく奮闘している。キルシェもてきぱきと作業を手伝う。背の高い彼にも、エプロンは不思議と似合った。フィードはケーキに、苺色の薔薇の花を模った可愛らしい装飾をつけている。
 途中、フラジィルに迫り過ぎたオメガが自警団に連れて行かれると言う悲劇もあった。苺を勝手に食べられたのだとの釈明が空しく取調室に響いたと言う。差し出された親子丼は、塩と砂糖が間違われていたと言う噂であるが、真偽の程は定かで無い。

●裏方
 客人が増え、ケーキが出されるにつれ、どんどん増えていくものがある。銀のフォークにスプーン、硝子の器、陶磁の皿だ。大量に運ばれて来る洗い物に、数人の冒険者が立ち向かう。
(「沢山の食器になんか負けないのです……」)
 アウグストゥスは黙々と頑張っていた。表情は真剣其の物で、フラジィルは横合いから一度、エールを送りに来た。そんなフラジィルに、アティは小さな声で御礼を告げる。
 彼女は恋人の隣で皿を洗っていた。二人を見ていると、何故だか新居で暮らす新婚夫婦が想像出来る。彼女は手元の指輪を見て、思わず薄く笑みを浮かべてしまいそうになる。ガルスタも珍しく、何処か浮かれた調子で視線が宙を彷徨っていた。フラジィルは、彼が恋人をいつのまにか呼び捨てるようになったことに気付いていたので、にっこり微笑んで二人から離れる。
「あっらいもの〜♪ みんなが、美味しいって、食べたあと〜♪」
 不思議なリズムで歌を口ずさみながら、オルフェは楽しそうに皿洗いをしていた。ショコラティエなる人物は難儀な人だ、店員を一人置けば良いのに、とぼんやり考える。甘い匂いに満ち溢れた厨房で、ラヴィは綺麗になった皿を嬉しそうな顔で見た。この皿に美味しいお菓子が乗るのだと考えただけで、頑張らなければと更なる気合が入る。
「……ロザリーさん冷たくないんですか?」
 相変わらずの敬語で霊査士に問い掛けると、ロザリーは小首を傾げてフレイを見た。皿を洗う手を止めて、考えるような間を置き、「……冷たいわね」と頷き返す。
 それから霊査士は、口をもぐもぐと動かしているサガラを、少しだけ心配そうな眼差しで見た。彼女の周囲が割れた皿で一杯だったことは別にしてだが、彼女は不思議そうに瞬きするだけだった。

●Friandise Fraise
「ムースは歯触りと甘味……それと温度管理が重要なのよ」
 拳を握ってババロアは力説する。ルフィアは台の上に乗り、鼻歌を歌いながら作業を手伝っていた。一生懸命に働いているリュミナーフィの横で、アスティナはとろとろの苺ソースを煮立てている。
「ふゃ、甘い香りいっぱいでおいしそうですぅ」
 彼女の作ったソースを冷やしたものを受け取ると、ディルフィーは真っ白なムースの上へ掛けてやった。大切な人に食べて貰いたいと言う願いが、彼女の胸の内にはあった。美しい彩を加える為に、ミントの葉を一枚、仕上げにと置く。
「美味いか?」
 味見用に小さなムースを差し出し尋ねると、アースは少し照れながらも言った。
「ライカさんの作るものはいつも美味しいです」
 言われた彼も思わず照れて、視線を宙に泳がせる。分けて貰ったフラジィルも、美味しいですよぅ、と太鼓判を押した。

「んしょ、んしょ」
 丁寧に慎重に、ミヤクサは生地を作る。確りと練ってやらないと、シュー生地が綺麗に膨らまなくなってしまう。彼女の横に居たシュヴァルツは、とある人物に想いを馳せた。
「宜しければ、フラジィルさんが味見をして頂けないでしょうか?」
 不安げな様子に、フラジィルは勿論ですよぅと微笑んだ。気持ちが一杯詰まっていれば、絶対に美味しいものが出来ますよぅ、とも。ジルせんぱいのお手伝いをする、と言ってフラジィルの後をついて回っていたフウアも、つられた様子でにこにこと微笑んだ。
 一方、ハルシオンは少しばかり生地相手に苦戦をしている。「家事」と「調理」は似ているが、天と地ほどにも差があると気付かされる結果となった。
「夢の中に出てくるお菓子みたいです」
 ピンク色のシュークリームを指して呟いたエイリーンは、スイトを見上げて味見を勧めた。彼は可愛い人と一緒に作れるのに断る理由は無いと思っていたし、少し悩んだ後に自分の試食分を代わりに彼女へ差し出す。彼は少し、照れたように微笑んだ。
「――まるでジルさんのようですね」
 ふっくらと焼き上がったシュー生地に、可愛らしい色合いの苺生クリームを入れながら、ケネスは微笑んで呟いた。彼の手伝いをしていたフラジィルは、彼の言葉を全部聞いていたため、ぱかっと口を開けて硬直する。少し悩んだ素振りを見せてから、最適の表現を思いついたとばかりに手を打った。
「……ケネスさんは、鬼のように格好良いと思います」

 夕方になると、材料はすべて無くなってしまった。
 ケーキも殆ど完売で、ショコラティエは顔を赤くしたり青くしたりしながら、手伝ってくれた冒険者たちに頭を下げた。「また来てください」と言おうとして「また」まで囁いた後、彼は全力でロッカーに向かう。
 恐らくは進歩が見られているのだろう。小さく笑みを零しながら、用意された甘いお土産を頂いて、冒険者たちは家路に着いた。


マスター:愛染りんご 紹介ページ
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参加者:47人
作成日:2005/11/26
得票数:恋愛12  ほのぼの26  コメディ1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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