食材求めて



<オープニング>


「あ、皆さんちょうど良いところへ」
 ドアベルをカランと鳴らして店に入ってきた彼らに向けて、こっちこっち、と手を振る少女が一人。
 ‥‥仕草そのものは可愛らしいのだが、両腕を繋いだ鎖がガチャガチャと無粋な音を立てているのがその仕草にそぐわない。
「こちらが、今回の依頼人のケインさんです」
 すっかり依頼を受けるものと決め付けている少女が、冒険者達に傍らのけっこう美形な青年を紹介する。
「ケインさんは、歩いて2日程の場所にある街のレストラン『考え込む野兎亭』で働いているそうなんです」
 考え込む野兎亭には、名物料理がある。あまりのまずさに誰も使わなかった食材を、店主の秘密のレシピで絶品の味に仕上げたサラダがそれである。
「その食材は、その街から少し離れた湖の近くの洞窟でしか取れないそうなんですよ」
 で? と、至極まっとうな反応を返す冒険者に、霊査士の向かいに座っていたケインが事情を話す。
 その洞窟にグドンが住み着いたのが数週間前。幸い付近の住民に被害は出ていないのだが、当然洞窟へは入れない。そうすると食材が手に入らない。
 結果、『考え込む野兎亭』では、名物料理をここ数週間メニューから外さなくてはならず、客の入りもすこぶる悪いのだという。
「というワケでですね。ケインさんと一緒に洞窟に行ってグドンを倒して、食材を取って来て欲しいんです」
 今のところは数も十体程度と少ないが、すぐに数を増やし、近隣に被害が及ぶのは想像に難くない。あらかじめ予測される被害を事前に食い止めるのも冒険者の役目です、と霊査士は締めくくった。

「そんなこと言って。本当はその店の名物料理が目当てなんだろ?」
 冗談交じりに軽口を叩いた冒険者の言葉に、
「そそそそ! そんなことないですよぉっ」
 ‥‥まぢにそっちの理由かい。
 その場の皆がそう思った。

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参加者
鉄拳調理人・ファオ(a00028)
魅惑の吟遊詩人・エミリー(a00458)
鋼鉄の護り手・バルト(a01466)
お仕置忍者・スミレ(a01696)
スルメ健康倶楽部・クッキー(a01737)
レディ・リーガル(a01921)
春風の申し子・ポロム(a02089)
小狐・アリア(a02136)


<リプレイ>

●下準備
「ぃよっし! 下ごしらえはこんなもんでしょ♪」
 ヒトの武道家・ファオ(a00028)の目の前では、なにやらスープに漬け込まれた肉が、深皿から溢れんばかりに山と積まれている。
 自らの仕事の出来栄えに満足した彼女は、振り向いて声を上げた。
「こっちはオッケィだよぉ! そっちはどぉ〜?」
 その声に、水辺の石で即席のかまどを作っていたヒトの重騎士・バルト(a01466)が走り寄ってきた。
「?」
「馬鹿っ! グドンに聞こえちまうだろう!」
 きょとんとした表情で出迎えたファオを、バルトがいかめしくかつ抑えた声で叱る。
「おおぅっ。ごめんごめん。で、そっちの準備はどう? こっちの肉はもういつでもオッケィだよ?」
「あぁ、こっちもそろそろ出来るぜ。後は、スミレが野菜を仕入れて戻ってくりゃぁ、すぐに始められらぁ」
 バルトが親指で指し示した先には、即席で作ったにしてはなかなか立派なかまどが出来上がっている。場所的にも、風向きを計算し、洞窟の入口へ煙と匂いが流れていくようにしてあった。
「あのぉ……言われたとおりに持ってきましたけど」
 声の方向へ振り返ると、依頼人でもあるケインが、両手に篭を抱えて立っていた。
「おー、ご苦労さん!」
 バルトがケインの手から篭を受け取り、蓋を開けてみると、中には割合鮮度の良い魚がたっぷりと。
「……これって本当に必要なんですか?」
「任せとけって! これでグドンどもをおびき出して、一網打尽にしてやっから!」
 店の商品を持ってこさせられたケインの疑問を微妙にはぐらかしつつ、勢いでごまかすバルト。
 その横から、
「ほぉ〜。こりゃ結構えぇ魚や」
 ヒトの武道家・リーガル(a01921)が篭からひょいと一尾つまみ出し、しげしげと眺めて感想を述べる。
「これやったらえぇ匂いしそうやね」
 言いながら、ひょいひょいと二尾三尾と手に取ると、かまどの方へスタスタと歩き出す。逆の手には、持ち運びの出来る小型の焜炉を持っている。
 三人の見ている前で、かまどの程近くに腰を下ろしたリーガルは、ごく普通に焜炉に火を入れ始める。
「やっぱり秋は焜炉で旬の魚やねぇ。後は酒があったら……て、何してんの? そろそろそっちも火ィいれんと」
「あ、あぁ……」
 少し毒気を抜かれたバルトが、気の抜けた返事を返し、かまどへ向かう。
 背中に、ケインの不安な視線を感じながら。

「うん……こんなものですわね」
 篭いっぱいに詰まった野草・山菜を眺めて、エルフの忍び・スミレ(a01696)が頷く。
「なんだ。もう良いのかい?」
 スミレの頷きに、額の汗を拭きながらエルフの紋章術士・クッキー(a01737)が無意味に歯を光らせながら答えを返す。
「ええ。これだけあれば十分ですわ。お手伝いいただき、ありがとうございました」
「いやいや、これくらい私にかかれば。ところで、この依頼が終わったら……」
 妙に格好つけて、如何にも大したことない、といった雰囲気をかもし出そうとしているクッキーに気づかないそぶりで、スミレは「さぁ、行きましょう」と篭を手にさっさと歩き出している。
「……」
 後に残されたクッキーの背中が寂しい。
「ま……まぁ、まだチャンスはあるさ」
 負け惜しみがさらに寂しさを際立たせる。

●バーベキューパーティ
「ん〜、良い匂い。ねぇファオお姉ちゃん、ちょっとだけ食べちゃダメ?」
「ダメダメ。仕事が終わってからね」
 ストライダーの牙狩人・ポロム(a02089)が、特製バーベキューの放つ香りに我慢できず、つまみ食いしようとするのを、ファオの手にする変わった形の──やや大降りで、形が四角い──ナイフで脅されて手を止める。
 かまどにかぶせた鉄板の上でジュウジュウと音を立てて肉が焼ける様は、バーベキューパーティさながらである。スミレとクッキーの取ってきた野菜も投入され、さらに香りが引き立つ。
「む〜〜」
 一人、携帯焜炉で魚を焼くリーガルは、バーベキューの強い香りに魚の焼ける匂いが負けていることに少々不満げではあったが。それでも、扇で焜炉をパタパタとあおぐ手を休めることはない。
 洞窟の中から足音がしたのは、肉を焼き始めて五分ほどたった頃。
「……来たみたい、ですよ」
 洞窟の方角を見張っていて、真っ先に気づいたヒトの吟遊詩人・エミリー(a00458)が小声で皆に伝える。
 すぐにグドンが姿を現し、彼らが惹かれて出てきた匂いの元の方──つまり冒険者たちがいる方へ顔を向けた。
 腹を空かせていたのか、こちらを認めるや手にした武器──せいぜい棍棒程度だが──を振り上げ、冒険者たちへ向かって駆けだし……たところで、先頭の数匹が何かに足を取られてスッ転んだ。
「やったぁ♪ あれ、僕が掘ったんだよ」
「そんなことより、早く逃げますよ!」
 自分の仕掛けた罠に見事に敵が引っかかったことを無邪気に喜ぶポロムを、ストライダーの武人・アリア(a02136)が急きたてる。
 「わ〜〜」「きゃ〜〜」とわざとらしく声を上げながら、冒険者たちが三々五々散り散りに逃げ出した後へ、グドンの一団が到着する。
 グドンたちは、かまどと焜炉の周囲に群がり、口々にえさにありついた喜びを喚きあっている。
「匂イノ元……コレダ」
「アイツラ、逃ゲタ?」
「逃ゲタ逃ゲタ。コレ、俺タチノ」
「肉ダ肉ダ」
「マテ。……アノ音、ナンダ?」
 一匹のグドンが、音に気づいた。他のグドンたちも、徐々にその音に気づき、キョロキョロと辺りを見回し始め……じきに一匹、二匹と眠り込み始めてしまった。
 エミリーの持つアビリティ、眠りの歌の力である。
「ナ、ナンダ!?」
 運良く抵抗できた数匹が、慌てて洞窟へ戻ろうときびすを返す。
「駄目ですよ。逃がしません」
「そういう事だ」
「もちっと賢けりゃぁ話し合いにもなるんやけどなぁ。ま、しゃぁないわなぁ」
 そんなグドンを待ち受けていたのは、いつの間に回りこんだのか、洞窟の入口直前に佇むアリア、リーガル、バルトの三人の冒険者。
 グドンの後ろからは、残る五人も近づいてきていた。
「騙シタナー!」
 逆上し、手にした棍棒で殴りかかってきた一匹に、バルトが一撃を食らわす。
 重騎士特有のアビリティが可能にするその威力は、一撃でグドンを地に這わせる。
 その時には、アリアの足がスルスルと前へ出、抜き打ちに振るわれた長剣が別のグドンの身体を打っていた。
 戦いは、一方的な展開に終始した。

●食材求めて
 ケインの手に握られたたいまつに火が灯され、周囲が少し明るくなる。
「これで良し、と。さぁ、行きましょう」
 スミレの号令で、一行は歩き始める。
 グドンをたやすく撃退した一行は、食材を求めて、また残敵の掃討も兼ね、洞窟へと足を向けた。
 先頭にバルトとリーガルが立ち、そのすぐ後ろにたいまつを持ったケインが続き、後ろを残りの者が固める。要所要所でケインが先頭の二人の質問に答えつつ、食材となる生き物が生息しているであろう場所へと向かっていく。
 ピトン。
「わぁっ!」
「きゃっ?」
 天井から垂れた水滴の音に驚いたポロムが、隣を歩いていたアリアに抱きつく。
「えっと……大丈夫ですか?」
「う、うん……暗いの、ちょっとやなの……」
 瞳をうるませて哀願するポロムに母性本能をくすぐられたか、アリアが優しく笑ってポロムの頭を撫でる。
「手、繋いで行きましょうか」
「うん!」
 すぐ後ろでそのやり取りを見ていたクッキーが、なるほどと小さく頷く。
(次は僕もああしよう)
 ぐっと拳を握り、心に誓った、その直後。
「あ、うちな、考えるより先に手がでるんよ。気ぃつけてな」
「……はい?」
 隣を歩くリーガルからかけられた言葉に、一瞬思考が停止する。
「えぇと……それはどういう?」
「今、ポロムちゃんみたいなことしようって考えたやろ? やめといた方がええよってこと」
 どうやらすっかり見抜かれていたらしい。クッキーはガックリと肩を落とし、トボトボと歩くのであった。

「えぇっ!? これが食材なの?」
 生き残りのグドンに会うこともなく、しばらくして一行がたどり着いた場所は、浸水して行き止まりになっている場所だった。
 ケインがしばらく水の中を探り、「居ました」とにっこり笑って差し出した手の上には、幅10センチ、長さ40センチほどの、柔らかい円柱状の物体が載っていた。色は赤黒く、ぬめぬめとした光沢がある。
 ファオを除く女性陣が思わず一歩引いてしまうくらいには、見た目は悪い。
「ホ、ホンキでそれ使うの?」
 ファオが顔をしかめる。
「そんなにまずいんですか? ……まぁ、あまり美味しくはなさそうですけれど」
 思わず歌を止めてしまったエミリーがファオに尋ねる。
「うん、ぐにゃっとした食感もあまり良いものじゃないし、独特のえぐみが、どうやっても抜けないんだよ、アレ」
「すみません、手伝ってもらえますか?」
 ケインを手伝い、持ってきた篭いっぱいに食材を詰め込み。
 グドンが残っていないか、念のため一通り洞窟内を探索した後、冒険者たちは町へと戻ったのは、日もかなり暮れた時刻となった。

●名物料理のお味は?
「えええええっ!? どうしてっ!?」
「……美味しいですね、これ」
 『考え込む野兎亭』の主人は上機嫌で、無事に食材を持って帰ってきた冒険者たちを迎え入れ、せめてものお礼にと夕食を振舞ってくれた。
 その席上で、問題のサラダが出されたのだが。
 出てきたサラダには、確かにあの気味の悪い生き物が使われていたが、恐る恐る口に入れたそれは、コリコリとした食感で、ほんのりとした甘みが舌に心地良い。海草との取り合わせも抜群で、文句なく美味しい。
「あれがこれにとは……うぅむ」
 姿がグロテスクだっただけに、皆信じられない、という面持ちだ。ファオに至っては「どうやって……? う〜〜ん……わかんない」
 と、テーブルに突っ伏して考え込んでいる。
「シェフ、出来ればレシピを教えて……」
 というクッキーの懇願を店主は「がはは」と豪快に笑いながらも、
「そればっかりは商売上の秘密だからなぁ」
 流石に断られた。ナンパも成功せず、レシピも聞きだせず、クッキーにとっては散々な一日だったかもしれない。
「代わりと言っちゃぁなんだが、今日は俺のおごりだ。食いたいもんがあったらなんでも言ってくれ。心を込めてご馳走させてもらうぜ!」
「え、それホンマですか? ほな、この『秋の旬の盛り合わせ』と、それから……」
 その日、お腹いっぱいに『考え込む野兎亭』の料理を堪能した一行。
 翌日報告のために訪れた冒険者の酒場で、
「ええ〜、折り詰めとか持ってきてくれてもいいじゃないですかぁ」
 という霊査士の恨めしそうな小言を聞くことになるのだが、それはまた、別の話。


マスター:結城龍人 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2003/09/07
得票数:ほのぼの15  コメディ3 
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