フラジィルの誕生日〜優しい記憶〜



<オープニング>


「……ジルは少し寂しいです」
 秋は寂しくて嫌いなのです、と深雪の優艶・フラジィル(a90222)は言い出した。
「ホワイトガーデンには、一年中春みたいにピンク色をしていてとても可愛らしい場所があるんです」
 フラジィルはにこにこと微笑んだ。
 ジルは昔、其処に居たんですよぅ、と優しく笑う。
「咲いているお花は白とかピンクとか。真っ白な蝶々や、真っ赤な蝶々が沢山居て、凄く鮮やかな景色なのです。紅い蝶は少し、怖いって思う人も居るかもですけど、お花に止まっているのがすごくすごーく綺麗なのですよ」
 記憶を探るかのように目を閉じ、そして開く。
「お花は少し薔薇に似ていて、食べると砂糖漬けみたいな味がします。蝶々は食べちゃ駄目ですけど、ジルたちが使っていた真っ白いテーブルと椅子が、花園の中央に沢山並べてあります」

 フラジィルは、にこにこと微笑んだ。
「ジルが遊びに行ってあげないと、皆があの花園を忘れてしまいます」
 フラジィルは、にこにこと微笑んでいる。笑顔に曇りは無く、普段と何も変わらぬ様子だ。
「ねえ、もうすぐジルの誕生日なんです。だから、ジルの御願い、聞いてくれませんか?」
 ホワイトガーデンの可愛い花園で、一緒にお茶をしましょう。
 そして楽しく一日遊びましょう。

 普段通り街角で冒険者を捕まえて、少しだけ普段と違う様子で、彼女は言った。
 11月の28の日は、彼女の誕生日であるらしい。

マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:深雪の優艶・フラジィル(a90222)



<リプレイ>

●フラジィルの誕生日
「騙されん、騙されんぞ……」
 ぶつぶつと何か呟きながら、ティキは白いテーブルに花飾りをつけていた。ぴかぴかに磨かれた椅子と机は、来るべき主役を待って輝いている。ニューラは花園の出来、お茶会準備の整った場を見回して満足そうにひとつ頷く。お茶菓子には白と苺の可愛らしいマシュマロを準備し、彼女へのプレゼントもきちんと用意出来ている。
 優しいピンク色をした花園は、誰の姿も無いと言うのに美しい姿で在り続けていたようだ。花は咲き誇り、甘い香りが周囲に漂う。恐らくは此れが「ホワイトガーデン」と言うものなのだろう。
「……幻想的な場所ですね」
 ほぅ、とフロルが息を吐いた。手には絵本を抱えて、ぐるり、と花園を見渡す。スノゥも花畑に駆け出しながら、来て良かった、などと笑みを零した。一度見たら忘れることが出来そうに無い場所です、と飛び交う赤い蝶々を見てキラが呟く。手が止まっていたことに気付くと、慌ててポットに手を伸ばした。今は、誕生日パーティの準備中だ。
「ホントにこの花、砂糖菓子みたいだ!」
 リュウはにっこり笑って、ティカップを並べ始める。彼女と話していると幸せな気持ちになれると思えば、主賓が訪れるまでに作業を終えておかねばと気が急ぐ。ルミエールは、花園が寂しく感じないようにとフワリンを数匹呼び出しておく。
 そう言えば彼女は何歳なのかななどと疑問も浮かべつつ、アウグストゥスはお湯を沸かした。今日は彼女の、深雪の優艶・フラジィル(a90222)の誕生日なのだから、お茶を淹れたりお菓子を準備するのは彼女の役目では無い。ミヤクサも先程から、早足で花園を行き来しながら紅茶の準備、菓子の準備を進めている。

 フラジィルは花園の様子を見て、驚いたように目を開いた。何故なら彼女が訪れる前に、皆がパーティの準備を始めていてくれたのだから。
「花の香りのミルクティーをどうぞ」
 吃驚している彼女の前に、フェザーが微笑んでカップを差し出す。薔薇の高貴な香りが鼻先を掠め、フラジィルは目を細める。優しい色をした紅茶の上には苺色の花弁が浮いていた。
 ジルは、「天使のジルちゃん」とフラジィルを呼ぶ。少し歪な形をしているクッキーを差し出して、もっと修行しなくちゃ、と苦笑した。作ってくれたことが嬉しいんですよぅ、とフラジィルは笑う。
「亡くなった人って蝶になって飛んでくるんだよね」
 ミナが言うと、フラジィルは驚いたように目を瞬いた。そんな様子を見遣りながら、シフォンは黙って紅茶を飲む。
(「……それでも、良い思い出を刻むことは出来る」)
 其れが大切なのだろうと言う確信もあった。オメガは何気無い調子で「ジル、御誕生日おめでとう」と声を掛けた。フラジィルは吃驚したように目を見開いて、わあ、と吃驚したような声を洩らした。

●Joyeux Anniversaire
「御誕生日、おっめでとー!」
 カルフェアが言うと、皆が一斉に口を揃えた。誕生日を祝って歌を歌い、楽器を持って来ていた面々は素早く合わせて曲を奏でる。フラジィルは顔を真っ赤にして、照れた様子でにっこり笑った。
 ライカのくれた一口サイズの可愛らしい苺ケーキを見て、フラジィルはやっぱり嬉しそうに微笑む。誕生日パーティと言うものに多少戸惑っていたグレープも、そんな彼女につられて頬を緩め、口下手ながら彼女の頭を優しく撫でた。フィードは笑顔が見れたことを喜びながら、木の実のタルトを切り分けてやる。
 呼び声に近付くと、苺クリームをたっぷり使った淡いピンク色のケーキがフラジィルのことを待っていた。四葉のクローバーがそっと添えられている。シアは優しく微笑んで言った。
「二人で、ジルさんへの愛情たっぷり込めて作りました」
 リューシャも微笑んで、ジルさんの大切な宝物を見せて頂いた気分です、と花園を見渡す。ハッピーバースディ、とルーツァはフラジィルの頭に可愛らしい花冠を被せてやった。フウアもそのうえから花冠をもうひとつ重ねて、シトリも本日の主役に花の首飾りを掛けてやる。ランドアースとはお花も少し違うんですねぇ、と言いながらエリスは花を編んで、素敵な飾りを幾つか作り、フラジィルの髪につけてやった。
 キィはそんな彼女の頭を撫でてやりながら、目を細める。
「生まれてきてくれて、有難う。大好きだよ」
 うふふ、と悪戯っぽく笑みを零しながらオリエはふわふわのシフォンケーキを差し出した。
「こんなに沢山人が集まってくれて。ジルは皆に愛されてるのだね」
 フラジィルは嬉しいやら照れてしまうやら、頬を染めながらも満面の笑みを浮かべる。ケネスも彼女の髪を撫でてやりながら、何処か安心させるように柔らかい口調で告げた。俺もこの場所を決して忘れはしないでしょう、と。

●可愛い花園
 花畑の真ん中で、突如現れた二人にフラジィルは捕獲された。もとい、抱き締められた。シュリは彼女を抱き締めたまま、笑顔で「おめでとう」を伝えた。チェリートがこそこそと彼女に囁くと、フラジィルは幸せそうに笑みを零す。
 二人から漸く解放された頃、今度はサガに抱き締められた。花畑ではしゃいでいたらしく、花塗れの彼女は甘い香りがする。仕方ないなあとでも言うように苦笑混じりで居たルナシアも、過不足無い挨拶を口にした。
 そんなフラジィルの様子を、少し離れたテーブルからのんびりと霊査士が見守っている。彼女のぼんやりとした様子に何となく親近感を抱いたレイクも、彼女を確りと護衛して連れてきたうちの一人だ。何をすれば良いのか判らぬ様子で不安げなプリマに、ロザリーは「……貴女が来てくれたことに、喜ぶと思うわ」と目を細めて言った。
「フラジィルさんの周りは温かい感じがしますね」
 シェードは淡く笑って、本当に、と付け加えた。静かに紅茶のカップを傾ける。
「ジル様や私が誕生日を迎えられるのも同盟の皆様のおかげ……本当に感謝しております」
 隣に座ったジェネシスが、小さな声で呟きを洩らした。霊査士は遠いものを見るような眼差しで空を見遣る。短く無い沈黙の後、そうね、と息を吐くようにして相槌を打った。

「これからの一年、ジルさんにとって素敵な思い出がいっぱいできるようにお祈りしてますねぇ〜」
 そう言ったアスティナの肩に手を置いていた、親代わりのアクアローズは、微笑んで二人にシフォンケーキを切り分ける。ヒカルもフラジィルの頭を撫でて遣りながら、「良い年でありますように、楽しい時が続きますように……」と願いを掛けてやる。
 少女を見ていたタケルは、何故か弟を思い出しますよ、と寂しげに微笑した。フラジィルは彼を見上げ、きっと大丈夫ですよ、と大真面目な顔で言う。ラスはそんな少女にローズマリーのハーブを贈った。「変わらぬ愛情と思い出」と言う花言葉を教えてやると、フラジィルは目を瞬き、本当に嬉しそうな笑顔を見せる。
「プティ・フレーズのお花畑、何故か故郷を思い出すと思ったら……」
 本当に存在していたのですね、と驚いたように呟くネミン。彼女がそっと差し出した、カラフルな宝石が鏤められた硝子の小瓶の中身は、色取り取りのドロップだった。少しだけ切ない瞳で空の虹を見ていたアーシュは、大丈夫、と小さく口の中で呟く。
「……ジルは? 大事なもの、沢山出来たか?」
 くしゃり、と髪を弄って問い掛ける。フラジィルはにっこり笑って、大きく一度、頷いた。

●楽しい御祝い
「一緒に踊りましょう、フラジィル様。だって、こんなに素敵な日なのですから」
 リラーナは優雅に微笑んで彼女の手を取った。踊るとなれば、とハツネも抱きつくほどの勢いで輪に参加する。ミキも殊更明るく振舞って、フラジィルが楽しく在れるようにと気遣った。綺麗な曲に乗って、花畑の中で少女たちが踊り出す。花園にある想いの暖かさを感じて、アンリは薄っすらと笑みを浮かべた。
 誰も訪れない美しい花園の持つ意味を感じ取り、アルムは溜息に近いものを微かに吐き出す。踊り疲れて戻って来たフラジィルを、ショコラーデが迎えてやる。
「いつもがんばってくれてるから……きょうはゆっくりあそぼうね……なぁ〜ん♪」
 白いテーブルの上には、「フラジィルちゃんお誕生日おめでとなぁ〜ん」とチョコレートで書かれた可愛らしいケーキ。彼女を抱き締めながら、「腕によりをかけて買ってきたのなぁ〜ん」とメアリーが胸を張った。
「……お誕生日おめでとう。これが君の力になりますように」
 幸せそうに微笑んでいるフラジィルに、ヴィンは大きな包みを渡す。此れで良いのかなとぼんやり悩みつつ、嬉しそうな彼女の様子に安堵した。

 誕生日には何をして遣れば良いのか、良く判らぬながらにガルスタは南瓜プリンを振舞った。くすり、と小さく笑みを零し、アティは沢山の縫い包みをフラジィルに贈る。小さく彼女に囁くと、「もっと一緒に居られたら、きっとそう思えます」と微笑んだ。想う気持ちは自由だと思うですし、と付け足した後、「養子と言う意味でしたら、駄目ですよぅ?」と慌てたように手を振った。
 妹や娘が居たとするなら、フラジィルのような感じなのだろうか。ぼんやりと思い馳せながら、カナードは改めて少女に言った。
「おめでとうございます」
 他の言葉より何より相応しい祝辞に、フラジィルはやはり、嬉しそうに笑う。丁度空を赤い蝶が飛び交い始め、アユラはピンクの花弁を見詰めて首を傾げた。
「この花園はこの蝶々さんが護ってるのかな?」
 なんてね、と照れたように頭を掻く。けれどフラジィルは、それがとても素敵な思い付きだと言わんばかりに、目をきらきらと輝かせていた。

●優しい記憶
「しかし……綺麗な花園だね。素敵な思い出の場所って所かな……」
 キュオンが笑顔で呟くと、ニノンもこくんと頷いた。特製の淡いピンクに色付いたノソリンクッキーを受け取って、フラジィルも嬉しそうに頷く。食べてしまうのが勿体無いくらい、と苺色の瞳を細めた。
 鎧聖降臨を使って、ランブルは彼女に着せ替えを楽しませてやりもする。恐る恐る花弁に手を伸ばしたリウナは、直ぐに満面の笑みを浮かべた。フラジィルも「気に入って貰えたなら良かったです」と息を吐く。
「今日は沢山の方がいらっしゃいますから、寂しくないですよね?」
 何でも無いように微笑んだまま、ロスクヴァは彼女の皿にタルトを乗せた。ブラッドは目を細めて桃色の花園を見ている。フラジィルに良く似合う場所――と言うよりも、彼女が此処の一部に溶け込んでしまいそうに見えた。
「最高なのは、みんなの笑顔があるからだよね」
 ルリィは、初めてフラジィルと出会った場所の御土産である、チョコレートケーキをテーブルに置いた。そして彼女に抱きついて、髪にピンクのリボンを結んでやる。
「今日という日が、お花たちにとっても皆さんにとっても、優しい記憶の一ページに綴られると良いなと思います」
 微笑んでファオが囁くと、フラジィルは、何故かもう微笑んでは居なかった。
 困ったように俯いて、唇を横一文字に引き結ぶ。
「冒険者になって色々と大変なこと……辛いことも、きっとたくさんあって」
 リシェルは静かに話し掛けた。
「でも、ジルはやっぱりいつもの素直で前向きなジルで」
 フラジィルの手が、ぎゅう、とピンク色のスカートを握っていた。
「ボクも、きっと皆も、そういうジルが大好きだよ」
 これからもずっと仲良くしてね。彼女がにっこり微笑むと、フラジィルは――大きな瞳に涙をいっぱい溜めていた。ぐす、と啜り上げた拍子にぽろぽろと涙が零れ出す。声を出さずにしゃくりあげて、小さな手で顔を覆った。
「ジルも」
 濡れた声で、大きく言う。
「ジルも、皆が大好きですよぅ」
 ぼろぼろと泣き出してしまったフラジィルの頭を優しく撫でて、可愛らしいお姫様、とスカーレルが呼ぶ。大丈夫よ、と宥めるような声音で言った。
「あたし、呼んでくれたらいつでもすっとんで来るからね。これからもいっぱいいっぱい幸せを手に入れてね」
 おずおずとゼフィが進み出て、笑いあう皆の様子が描かれたスケッチブックを差し出した。花園についてから彼女は描き続けていたのだ。フラジィルは大切そうに受け取って、大事にします、と小さく言った。
 泣き出してしまったフラジィルにも、とても優しくしてくれる人ばかりで、それがあんまり暖かくて、とうとう声を上げて泣いてしまった。泣きじゃくりながら、「大好きですよぅ」と繰り返す。

 とても優しい思い出が、一番の贈り物になった一日。
 誕生日にもうひとつ、優しい記憶が刻まれました。
 柔らかな春の色をした花園に、来年もまた来れますように、と小さく願いを込めました。

 みなさん、本当にありがとう。ジルは皆が大好きです。


マスター:愛染りんご 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:68人
作成日:2005/11/28
得票数:ほのぼの62  コメディ2 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。