紅葉流るる温泉の里 〜流れる紅葉に蕩ける豆腐〜



<オープニング>


●紅葉流るる温泉の里
 宵藍と桔梗溶け合う空に一番星の清かな光。
 星明りでは足りぬと地上で焚かれた篝火は、深き空を背にして聳える黒き断崖と白い滝を照らし出していた。今の季節であれば滝は崖上から色鮮やかな紅葉を連れてくる。黒く艶光る岩の上を白滝と紅葉が流れる様は実に粋な眺めではあるが、篝火はただ眺めを楽しむだけの物ではない。
 落つる流れを受け止める滝壺が微かに白く霞むのは、飛沫だけではなく湯けむりのため。
 見れば滝の流れからも白い湯けむり立ち上り、滝自体が湯であることを示していた。
 滝壺は程よい温度の湯に満ちて、ひとの身体を優しく温かに受け止める。

 山の麓の紅葉滝。
 紅葉降る滝を眺めつつ温かな湯に身を委ね、秋の夜長をゆるりと楽しむための場所。
 今宵も地上に、朱金の焔が燈された。

●秘湯・紅葉滝
「と言うわけで、皆様と紅葉滝へ行きたいんですの」
 綺麗な水色の硝子瓶を胸に抱き、藍深き霊査士・テフィンが微笑んだ。
「温泉と紅葉が流れてくる滝がありまして……その滝壺の湯に浸かるのがとても心地よいんですの。秋の宵に篝火に照らされる滝を滝壺から見上げるのがそれは綺麗で、身も心も蕩けそう……」
 テフィンが吐息をもらすと、その傍らで湖畔のマダム・アデイラが愛用の画材を抱きしめる。かなり絵心を刺激されているようだ。
 そしてさらにテフィンが言葉を紡ぐ。
「蕩けるのはそれだけではありませんの……この温泉の湯を使った湯豆腐がまた素晴らしくて……」
 ほう、とまたひとつ吐息がもれた。
 小さな土鍋に温泉の湯と豆腐を入れて火にかける。このまま普通に湯豆腐として食べても素晴らしく風味があるのだが、豆腐を細かく潰しつつさらに火にかけていると、温泉の成分の関係で豆腐がとろとろに溶けていくのだという。
「で、土鍋の表面には湯葉ができますの。これを引き上げて食べるのが最高に幸せ……」
「えーと、普通に湯葉を作って食べるのではダメなんですかモガモガモガッ」
 至極まっとうなツッコミを入れようとしたハニーハンター・ボギーはアデイラに口を塞がれた。
「ですので……是非皆様と、紅葉滝や蕩ける豆腐を楽しみたいんですの。お酒と豆腐は私が……その他の料理はボギー様が用意させていただきますの」
「モ、モガモガモガモガっ!?」(訳:ボ、ボギーがですかっ!?)
 アデイラの手で口を塞がれたまま絶叫するボギーに、有無を言わさぬ笑顔で頷くテフィン。ボギーは救いを求めるような眼差しでアデイラを振り返ったが、
「テフィンちゃんがお酒と豆腐係でボギーちゃんが料理係、あたしはお絵描き係なんよ〜♪」
「モガモガモガモガモガーっ!?」(訳:お絵描き係って何ですかーっ!?)
 さらに困惑してしまったようである。

 紅葉に温泉、酒と豆腐と秋の料理。
 秋の夜長を――紅葉滝で過ごしましょう?

 何事かを喚いているボギーを無視し、テフィンが笑顔で締めくくった。

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参加者
NPC:藍深き霊査士・テフィン(a90155)



<リプレイ>

●山吹
 去りゆく秋と訪れし冬の狭間、凛とした冷たい大気に抱かれた空の色は深かった。
 深く典雅な艶を持つ黒漆。滑らかな漆黒を刷いた夜空は鮮やかなまでの闇で、断崖を流れ落ちる湯の滝と華やかに色づいた紅葉を際立たせる絶好の背景となっている。
 流れや滝壺からは白い湯煙がほのかに立ち上り、人の間で交わされる微かな囁きは湯の音に消え、その場にいるとふと不思議な感覚に捕らわれた。まるで日常から切り離された空間に迷い込んでしまったかのような――。
「……レ……サレ? ほら見てよ」
 まどろみの如く意識を漂わせていたサレストはエルドの声でふと我に返った。人気のない滝壺の隅に腰を落ち着けたせいか湯に浸かっている内にぼんやりしてしまったらしい。エルドが嬉しそうに差し出す山吹色の木の葉を受け取り、滝を見上げて呟いた。
「紅葉……そうか。崖上から流れてきているのか」
「そうだよ。綺麗だよね」
 釣られたようにエルドも滝を仰ぎほぅと息をつく。熱燗が恋しくなるなともらすサレストに、つきあえなくて悪いねと返し、優しくたゆたう湯と紅葉の中で存分に体を伸ばした。
「もう、冬も来るのだし……こうして秋を味わって、思い出に刻むのも……いいわ、ね」
 湯煙に儚く溶けてしまいそうなアティの声。けれど絶え間ない滝の音の中でも、ガルスタは彼女の言葉をはっきり聞き取ることができた。恥ずかしさが勝ってしまい彼女の姿をまともに見ることができずにいたが、傍らにある彼女の温かな気配がふわりとガルスタを包み込む。湯は心地よくて、紅葉と流れる滝は綺麗で。
 アティはそんなガルスタに穏やかな笑みを零し、傍まで流れてきた紅葉を一枚掬い上げた。
「これ……押し花みたいにして、栞にしたら……綺麗、かしら」
 この優しいひとときを、どこかに封じ込めておきたいから。

「ユリちゃん!」
 いきなり飛び跳ねていった白兎を追って、ルシェルも思わず駆け出した。追いついてみれば白兎は誰かの足元で丸くなっている。ルシェルは安堵の息をついて笑いかけた。
「お隣いいですか?」
 勿論なんよ〜、とアデイラが絵筆を置いて手招いた。
 流れる紅葉の色は明るく鮮やかで、辺りを照らす篝火の色は暖かで。目の前に広がる色をひとつ写し取るたびにルシェルの心も温かになっていく。
「ルシェルさんが手当てしてあげたから、あんなに紅葉が綺麗なんだね」
 紅葉滝の依頼を共にしたリュウに言われれば、照れくさくもあり嬉しくもあり。
「……って、ルシェルさん兎ちゃんがー!」
 見れば描いたばかりの絵の上に白兎。すぐ傍で湯に浸かっていたロディウムが紅葉色に染まった兎を洗うための湯を汲んでやり、通りかかったプリマも呼びとめ杯を掲げた。
「皆さん、少し一緒にどうですか?」
 滝壺の縁には酒も酒肴も果汁も揃えられていて、皆でひととき楽しむには充分すぎるほど。甘鯛と百合根の炊き合わせは口の中でほろりと崩れ、硬く味の濃いチーズを細かく削りスモークサーモンで包んだ物は後をひく味で。肴を摘みつつ白ワインのグラスを傾けたアズーロは「ところで今度行く依頼の話だが……」と言いかけて止め、頭を掻いた。
「いや、仕事の話は止めておくか」
「……それがいいかな」
 砕けた口調で同意するロディウムにアズーロも微笑を返し。ワインはきりりと辛口で肴は美味で湯は心地よく。だから、身も心もとことん休めねば勿体無い。
 しばし歓談を楽しんだプリマが約束の場所へ向かうと、そこには既にツヴァイが待っていた。滅多にない彼の微笑に戸惑いつつ湯に浸かり、華やかに彩られた紅葉滝を見上げる。
「依頼お疲れ様、だ。こうしてのんびりできるのもプリマのお陰だ」
 滝を見遣る少女の横顔にツヴァイは瞳を緩めた。誰よりも愛しいこの少女は、今どんな気持ちでいるのだろう。
 彼の視線に気づいたのか、少女は数度瞬きして振り返る。一足先に上がりますねと少女が立ち上がった瞬間、体に巻いていたタオルがはらりと落ちた。

「……何か、プリマの絶叫が聞こえたような……」
 小さな土鍋の中でとろりと溶けた豆腐を掬い、テンユウは辺りを見回そうとしてやめた。彼女と連れの邪魔をすることもあるまいとそのまま豆腐を口に運ぶ。
 出汁のしみた豆腐は匙の上でも口の中でもゆるりと蕩け、テンユウの顔を綻ばせた。

●朱金
「あ〜良い気持ち……身も心も癒されるよ……」
 湯に身を浸したサラスは滝壺の縁にもたれかかり、鍋の豆腐をつついていた。匙でつつく度に煮汁にふわりと白い豆腐が溶け出してなかなか上手く掬えない。けれどようやく掬った豆腐を口に入れれば美味と幸せが溶け出して。
 じわりと広がる旨みに頬を緩めるサラスの傍を両手いっぱいに料理を持ったヤタが駆けて行き、濡れた岩に足を滑らせ大きな皿を宙に飛ばす。その先には。
「ぎゃー! ボギーちゃんごめんねー!」
 平目の薄造りをかぶったボギーがひゃあと声を上げた。
「料理係だけでなく……ボギーさん、つくづくツイてませんね」
 給仕途中の鮭と茸の酒蒸しを脇に置いたミヤクサが、ボギーの頭の平目を取りつつ呟いた。実は彼女の頭にも橙色の紅葉が髪飾りのようについているのだが、それには気づいてないらしい。
「……テフィン達も……ボギーを信頼してるから料理を任せているんだよ……」
 取った平目を集めつつアルムが励ませば、平目の衝撃に硬直していたボギーも「ですよね!」と笑顔で復活する。豆腐を取りに来たテルミエールにボギーが連行される様に瞳を細め、アルムはふと流れる紅葉に目を遣った。
(「もし彼女と来てたら……勢いでプロポーズしてしまったかも……」)
 愛しいひとがここにいたならば、自分を抑えきる自信がない。
 立ち上る湯煙と鮮やかな紅葉が……まるで夢のようだから。

「せっかく来たんですから、入り尽くさないと損ですよね♪」
 ボギーを供に温泉と豆腐を満喫するテルミエールは、豆腐どころか己自身が湯に蕩けてしまいそうな程幸せそうに笑う。二人の脇を夕陽に似た色の紅葉が流れて行き、大きく伸びをしたゼットに触れて止まった。
「ふぅー………のんびりしてんな、あったまんぜ」
 ゼットは肌についた紅葉を再び流れに乗せ、紅葉滝に目を移しつつ湯に深く体を沈める。その傍では温泉豆腐のコツを霊査士に教わったシャロンが早速とろとろの湯葉を披露していた。
「テフィンさん直伝ですよ〜。すっごく美味しいんだから!」
 上手く湯葉を引き上げられたのが嬉しかったのかシャロンはこの上なく幸せそうで、ブラッドも思わず瞳を緩めた。口に入れれば温かな湯葉はほのかに甘く、ロスクヴァにも食べさせようと振り返ってみれば……彼女は顔半分まで湯に沈んでぶくぶくと泡を吐いていた。
「その、ちょっと水着が恥ずかしくて……」
 混浴に慣れぬ様子で頬を染めるロスクヴァの頬には朱の紅葉。
 シャロンとブラッドが笑ってそれを取ってやった。

「むう! 豆腐が足らぬのじゃっ!!」
「ナントお腹ぺこぺこで倒れそうなのら〜」
 師匠のサユキと妹弟子のナントの声に急かされダッシュで追加の豆腐を取りに行ったエニシは、引き返そうとした所で何か柔らかい物を踏んづけた。恐々見れば足の下には紫の髪の少年がいて、エニシは人を探して迷子になってしまったと言う少年――ユキタカを仕方なく師匠のもとへ連れて行く羽目になる。だが偶然とは恐ろしい物で、師匠サユキこそがユキタカの探し人であった。
「おば……じゃなくて、サユキさん……!」
「ユキ〜♪」
 感動の再開を果たしひしと抱き合う二人。
 ユキタカは兄上の息子なのじゃとサユキに紹介され、エニシは「師匠の甥っ子を踏んでしまった」と蒼白になり、「兄上の」を聞き飛ばしたナントは「つまりおししょー様の隠し子なのらね」と一人納得する。ユキタカは慌てて訂正しようとしたが、大いなる誤解を受けたサユキ本人は鍋の中で蕩け始めた豆腐にご満悦で、特に気にした様子はなかった。

●緋
 氷を使って霜が付く程に冷やしたグラスへ、アニスやキャラウェイ香る蒸留酒を注ぐ。
「あなたもお酒を呑める年になったものね」
 ロザリアがグラスを手渡し感慨深げに呟けば、ジョゼフィーナは摘みにとサーモンのカナッペを差し出し微笑んだ。
「ええ……今宵はゆっくり呑みましょう」
 軽く杯をあわせ、笑みを交えて語り合うのは互いが冒険者となってからの話。冒険者としてはジョゼフィーナの方が少し先輩で、ロザリアは冒険譚を語る幼馴染を眩しいような思いで見つめていた。
 楽しげに語らう二人の様子に思わず瞳を細め、サリエルは傍らの霊査士の杯に澄んだ酒を注ぐ。搾ったばかりの梨果汁を加えれば爽やかな香りが立ち上り、藍の瞳が幸せそうに潤む様にサリエルも満足げに息をついた。
「不思議なものだね……会う度に、知るほどに好きになる……」
 音まで聞こえそうな程近くで、藍の瞳が瞬いて。
「よければ焼酎に使ってくださいな」
 その瞬間を狙ったかのようにクランベリー果汁が差し出された。まぁ、と嬉しそうに瞬いた霊査士が焼酎の杯に果汁を垂らして渡そうとすれば、果汁の主ミモレットはストレートの方がいいなと別の杯を手に取り。
「なら、クランベリー入りは私がご一緒するわね」
 霊査士の手から杯を受け取って、クレイが目の高さにそれを掲げる。クレイが注いだ杯を霊査士が受け取ったのを合図に、皆で勢いよく杯をあわせた。
 傍の卓では豆腐の蕩けた鍋がくつくつと音を立て、表面に張った湯葉を静かに引き上げ口に入れたファオが豊かな風味と甘味に思わず瞳を閉じる。陶然とした表情のファオの傍に梨果汁入り焼酎の杯を置く霊査士に、背後から何気ない風の声をかけられた。
「実は先日俺の誕生日だったのだよ……」
 振り返った霊査士にボサツが笑って空の杯を見せれば、霊査士はすぐさま瓶を手に取り彼に酌をする。「おめでとうございますの」と言われ顔を上げれば今度は匙で掬った豆腐が差し出され、意外におねだりが効くんだねぇと思いつつボサツは大人しく口を開けた。

「えへ、ノヴァさぁん……あーんしてくださぁい」
 匙に乗った豆腐は今にも零れそうな程蕩けていて、その匙を差し出すアスティナの笑顔も蕩けてしまいそうな程に優しくて。温泉は気恥ずかしいからと入らずにいたが、この笑顔だけでノヴァリスは充分に温もりを得られていた。少々躊躇いつつも豆腐を食べ、美味しいと言えばアスティナの笑顔がさらに輝いて。
「一緒に来れて……嬉しいですぅ」
 アスティナが吐息のように囁けば、彼からは慈しむような優しい笑みが返った。
 寄り添いつつ紅葉滝を眺める二人の向こうでは、極楽のような所だ……と呟きながらティーが滝壷の中で四肢を伸ばしていた。首を持たせかけている縁の傍にはとろとろに豆腐が蕩けた汁にさらに豆腐を入れた鍋。至福に浸りつつティーが箸を伸ばしてみれば、知らぬうちに人が増えていた。
「頂きます!」
 しっかりポン酢を持参し元気よく手を合わせたのはフェリックス。そういえば混浴だったっけ……と真っ赤になって顔まで湯に沈むティーに、ポン酢使いますか〜? と屈託なくフェリックスは笑いかけた。

●深紅
 篝火から離れた場所で小さな焔が揺れる。
 飛沫がかからぬ場所を選んで湯に浸かり、ミリュウは滝壺の縁でアロマキャンドルを灯していた。湯煙と優しい香りが立ち上る中無意識に歌を口ずさみ酒盃を傾ければ、煮詰まっていた心が柔らかに蕩けていくようだった。
 まるで旋律に乗せるようにして、シフがぽつりと句を詠んだ。
 ――吹く風に 揺れる水面の 月うつくし
 酒肴を手に丁度戻ってきたイツェルが聞きつけ褒めれば、シフは「い、今の忘れてください」と俯いてしまう。イツェルはシフの仕草を微笑ましく見遣り、こんなのはどうでしょうと自らも句を詠んだ。
 ――湯煙に 豆腐崩れて 浮く紅葉
 水面が揺れて、鍋で蕩けた豆腐もふるりと揺れた。
「美味しいv ミラお豆腐大好き!」
 ぷるぷるの豆腐をはくっと咥え、心底幸せそうにミラが笑う。傍らのアズリアも釣られて笑みを零したが……その拍子に眼鏡が湯の中に落ちてしまった。
「眼鏡……眼鏡はどこだー!?」
 湯煙のせいもありなかなか視界が利かないのか、手探りで必死に湯の中を探すアズリア。けれど眼鏡を見つけたのはミラの方で、「どのくらい見えないの?」とからかうミラにアズリアは泣きつく羽目になった。

 すぐ傍で起こった騒ぎも気にならない様子でシオンとレイルは紅葉滝を眺め、寄り添いつつ穏やかな時間を満喫していた。
「わー……真っ赤で綺麗だね……」
 滝を滑り落ちたひときわ鮮やかな紅葉にレイルは声を上げ、同意を求めるようにシオンの方を向いて……息を呑んだ。
「紅葉が……とってやるから動くなよ?」
 吐息がかかりそうなほどに顔を寄せたシオンが髪に手を伸ばす。紅の葉を取ってみればレイルの頬も同じくらい紅く、シオンは思わず笑みを浮かべた。
 そんな二人の向こうでは、ヒカルが何かと隠そうと必死になっていた。
(「ヒナが他人の目に触れないようにしないと……!」)
 タオル一枚のヒナキを他人に見せたくないと焦るヒカルだが、実は彼らが陣取った場所には人が殆どいなかった。そのため気が大きくなったのか、はたまたのぼせてしまったのか「ヒカル……だい……好き……」とヒナキがきゅうと抱きついて、ヒカルの焦りを霧散させる。
「幸せ……だよな……」
 どうやら落ち着いたらしいヒカルは、彼女の髪を撫でてほぅと息をついた。
 幸福に浸る恋人達の丁度向かいでは、紅葉滝のよく見える場所に席を設えたセルシオがフェアと共に温泉豆腐を楽しんでいた。だが酒は我慢しようとひとり頷いたセルシオの顔をフェアが覗き込み、一気にその場に緊張が走った。
(「その上目遣いは卑怯です……!」)
 一瞬硬直してしまったセルシオだが、寄り添いつつも自信なさげに「おひとつどうぞ」と見上げる彼女に負けて「お願いします」と答えてしまう。
 ほのかな湯煙と錦のような紅葉に酒気の香りが漂って。
 雰囲気だけでも酔ってしまいそうな夜だった。

 崖の上からは絶えることなく湯と紅葉が流れ落ち、鮮やかな色彩が湯煙に透ける様がどこか風雅で。
「この景色を布地にしてドレスを作れば……どんなに素敵なドレスが出来上がるでしょうかしら……」
 湯に浮かべた盆の上の豆腐に柚子と醤油を垂らしつつ、ルレイアがうっとりと息をつく。豆腐を口に含んで瞳を細め、何やらわからぬ物で満たした杯から一口呑めば、途端に視界がぐらりと揺れた。
「……滝が増えてますわ〜」
 そのまま杯を取り落として湯に沈んでいく彼女を慌てて皆で引き上げた。

 落つる流れが滝壺を満たし、溢れる湯が深紅の紅葉を浮かべ静かに広がっていく。
 篝火に照らされ煌く紅葉が滝壺を離れ流れゆく様は、あたかも時の流れるままに去りゆく秋を象徴しているかのようだった。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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参加者:49人
作成日:2005/12/06
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