【さいはての未踏地の先へ Break Out!】仲間を支える優しい気持ち



<オープニング>


●さいはての未踏地の先へ Break Out!
 インフィニティゲート……それは三色の光に包まれた、煌く洞窟。
 この洞窟に竜が現れたのは、一年半以上も前の事である。

 蓄えるもの・ワートゥール。
 喰らうもの・ストームゲイザー。
 形成するもの・カダスフィア。

 洞窟に巣食う三体の竜。
 その竜達を倒した後、もう同盟に竜など居ない……。
 誰もが信じ、同盟諸国も頑なにそう言い続けていた。

 だが、そのインフィニティゲートを探索し続ける一つの旅団があった。
 悪を断つ竜巻・ルシール(a00044)率いる旅団『雲櫂の風』である。
 1年以上におよぶ冒険と探索。
 巨大な異形モンスターとの戦闘、探索、そして鍵。
『掲げよ、さらば扉開かれん』
 その言葉に導かれるように、最奥の地まで到達した彼らは、そこで道程を塞ぐ巨岩を見たのだった。

 この探索の結果は円卓に報告され、円卓の評決により『大岩を破壊し調査を続行する』事が決定した。

 地下遺跡での土木工事は危険が高く専門的な知識が必要となるだろう。
 そのため破壊の専門家を呼び寄せ、冒険者の力と合わせての作業を行う事となった。

 勿論、ただ、破壊すれば良いという事では無い。
 大岩の破壊と共に災厄が降りかかる危険は大きい。
 破壊後の状況に対応した、充分な警戒が必要だろう。

●仲間を支える優しい気持ち
「ジルはね、あんまり壊すのとか得意じゃないんですよぅ」
 何かを決意した様子で深雪の優艶・フラジィル(a90222)は拳を握る。冒険者たちを見回して、真摯な色を宿した瞳で言葉を続けた。
「……でも、円卓の決定は、同盟の冒険者さん皆の総意です。つまり、ジルや、皆が、『前に進まなくちゃいけない』って決めたことなんです。得意じゃないからしない、なんて我儘言えないのです」
 過去に同盟を震撼させることとなった、竜たちの存在。
 インフィニティゲートに隠されたままの謎。
 少なからぬ不安も胸にある。きっと恐ろしいことが起きるだろう、戦わなければならないだろう。しかし、護るべきものがある冒険者たちだからこそ、決して退かずに立ち向かい続けることだろう。
「土木作業を頑張る皆、敵に備えて警護してくれる皆を助けるために、御手伝いするために、ジルと一緒に頑張ってくれないでしょうか?」
 フラジィルは少し照れたように微笑んで、もう一度冒険者たちを見回した。
「ジルたちに出来ることは、きっと沢山あるはずなのです。例えば、壊した岩の欠片はどうするのでしょう。『誰か』が地上に運ばないと、洞窟が埋もれてしまうです。それに、頑張っている皆さんは、肉体的にも精神的にも辛いはずなのです……だから、そんな皆さんに少し、差し入れもしてあげましょう?」
 冷たい飲み物、甘いお菓子。
 フラジィルは元来力仕事が得意では無い。けれど、力仕事に拘らずとも、仲間たちを支えたいと願う気持ちは形に出来るはずなのだ。

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参加者
NPC:深雪の優艶・フラジィル(a90222)



<リプレイ>

●作業開始!
 大岩の破壊作業が開始された。
 岩を削る耳障りな音、冒険者たちがあげる威勢の良い声が洞窟の中に反響する。ラピスは祈るように手を組んだ。フォビアの脅威は、未だ記憶の中で鮮明なままだ。
「……遣り遂げないとね」
 ヴェレクは励ますように呟いた。
(「今回の探索が、同盟に更なる希望を示しますように」)
 シャロンは胸中で小さく祈ると、作業を開始する。ムツミは指を保護出来るよう、確りと軍手を嵌め直した。ヒノトも自らの作業に適した服装を再確認する。クレセントは暗がりでひとり、何かの作業をしていた。武人のリュウは溜息を吐く。破壊すべき大岩が、あちこちの階層にあると勘違いしていたことに気付いたのだ。
 運搬作業が始まる前に、アキレスは岩の投棄場所を見繕っている。破壊班が確りと作業をしてくれているお蔭で、岩の破片は大き過ぎないものが多い。巨大なものに当たれば、スフィアなど数人の冒険者が、爆砕拳などを使って細かに破砕する。ヴァニレアンスは少しだけ、心配そうな眼差しで破壊班と護衛班を見た。その横では、ヤシロが岩を詰めた袋を、アルタイルとミュノアに渡している。三人は運搬役と収集役とを交代しながら、効率良く作業を行っていた。
「おいっちに、さんし!!」
 棒に袋状の布を結びつけた運搬器具の担いでいるガンバートルは、何処か楽しげだ。もう一方を担ぐジュウゾウが苦笑しながら、掛け声をかけて続く。ヴィンとヴァルの兄弟は岩を入れた篭を背負い、速度を生かして何度も階層を行き来する。棒の真ん中に吊るした篭へ岩を放り込み、リューシャとケネスも地道な作業を続けていた。
 深雪の優艶・フラジィル(a90222)も非力ながらも手伝い、手伝われ、必死で運搬を行っている。フウアがそんな彼女を気遣っている横で、程好く力を抜いているファントムがティアレスと何事か言葉を交わしていた。
 オメガは足元へきっちりと注意を払い、転倒を防ぐ。ドンも皆と一緒に岩を運んだ。途中アリアが呼び出した土塊の下僕たちの効果時間が切れ、下僕たちの持っていた岩が通路を転がり落ちると言う事故もあった。あわや惨劇かと思われたが、ラスが素早く岩を受け止める。
 硬く大きな岩を、ログナーは縄でもって自身の背に縛り付けた。ふらつきながらも杖をついて道を登っているのに気付いたカナエが、大急ぎで彼の手伝いにと駆け寄って行く。運搬作業が進むにつれ、次第、冒険者たちにも疲労が浮かんだ。
「私は、私に出来る限りのことを……」
 荒い呼吸ながら呟くユキノの肩に手を置き、ブラッドは「無理をするな」と静かに宥める。ラクナクもそろそろかと思えば、共に作業していたイツキを休憩にと誘った。ルシエラは手を休めると、差し入れを貰いに行こうかしら、と休憩所へと視線を向ける。

●ほっと一息
 通行や破壊の邪魔にならない位置に、何時の間にかこじんまりとした休憩所が出来上がっていた。皆の為にとタンドリーらが設営したのだ。おまじない程度の意味と、証明補助を兼ねてティアがフォーチュンフィールドを展開している。
 ぼんやりと柔らかな光を放つ休憩所には、気付けば大勢が遣って来ていた。ミナは娘を心配しつつも、怪我人が来れば癒しを送る。重傷者は無論居ないものの、岩を運ぶ作業は冒険者の手に幾らかの傷を生んだのだ。
 ユメジの伝令によると、大岩を削り続けたところ、強固な壁らしきものが出て来たらしい。結果、破壊作業が中々進まず、削り屑も減っていた。この隙に休憩をしようと言う冒険者が、一気に詰め掛けて来ていたのだ。
「差し入れで〜すよ〜♪」
 シルヴィアが笑顔を振り撒く横で、フラジィルとアウグストゥスが一緒にココアを配っていた。アクアラルは甘いものが苦手な人の為に、ビターのチョコレートドリンクを用意している。ご精が出ますねー、とシュセルは感心したように声を掛けた。
 持ち込んだ清潔なおしぼりを、ハルはひとりひとりに手渡してやる。用意された差し入れの中には、数が少ないながらイズミの手作り弁当もあった。
 俵型の胡麻塩おにぎりは、食べ易さだけでなく塩分の補給まで考えられている。皆の緊張を解きほぐそうと、パニエは明るく振舞った。彼女を手伝いながら、ロスクヴァも「御疲れ様です!」と元気良く声を掛ける。リウナも笑顔を浮かべながら、おにぎりの供にと沢庵を差し出した。
「沢山食べて下さいねぇ」
 柔らかく微笑んでサクヤが言う。アルシアも胡麻団子や吉備団子の配布を手伝っていた。全体の動きを見遣り続けるヨウのところへは、照れながらもミリィが差し入れに行った。
 心配そうに眉を寄せながらも、頬を染めたラヴァがクッキーを差し出す。受け取ったブドウパンは「ふんどしをキめてかかっていますなぁ〜ん」などと少し間違った返答をしながらも、確りと頷き返した。
 一方、幸せの運び手で差し入れに換えようとしていたセレスティアは、残念そうに溜息を吐く。セレネも肩を落とし、リィリも俯いていた。残念ながら破壊の為の音が鳴り響く洞窟の中では、どんなに美しい音色も芸術と判断する余裕が無く、皆の力にはならなかったのだ。
 更に、ゼノンが呼び出した土塊の下僕たちは、とても重たい飲み物を運ばされ、下り道の途中で転倒する。子供程度の能力しか持たない下僕に任せては、ある意味当然の結果だろう。ゼフィも運搬方法を考えていなかった為、折角作った鍋の中身を零してしまった。リィムは素早く、濡れた通路の掃除を始める。呼び出した下僕たちが彼の作業を手伝った。

●虹色の欠片
 大量の水袋を背負いよろよろと歩んでいたソナは、自分の横をフワリンが通り過ぎて行くのを見て少なからぬショックを受ける。ローリィの呼び出したフワリンには樽――身体のことを考え常温にした蜂蜜ミルク入りだ――が括り付けられていた。彼は擦れ違う冒険者たちに、「頑張って」と力付けるような声援を送っている。
 エアリアルのバスケットには、ジャムや蜂蜜塗られたパンが詰め込まれていた。
 リアナはフルーツと生クリームが挟まれているサンドイッチ、サーリアはマンモー干し肉と野菜入りのサンドイッチを配っている。二人とも、一口サイズに切り分ける配慮は忘れていない。
 多少食べ難いのが難点だが、レイは特に空腹である人用にクラブハウスサンドを用意した。甘いもの好きには、アスティナが持って来たココアショートブレッドの評判が良い。喉を詰まらせぬようにとアリエノールが小振りの水筒を差し出してやる。中身は身体に優しい野菜ポタージュだ。ジョゼフィーナの用意した水筒にも、ポトフをポタージュ状にした栄養たっぷりのスープが詰められている。
 セイカは暖かい紅茶を皆に振る舞い、ヒカルはぬるめのお茶をフラジィルに勧めてやった。身体を温めることが出来るようにとアオイが用意したホットワインを、ミルッヒが成年者を選んで運んでいる。
 アレクサンドラは蜂蜜に漬け込んだレモンの輪切りを水に溶かし、栄養価の高いドリンクを作っていた。ミディアは果物を搾って新鮮なジュースを作る。直ぐ作業に戻ろうとする者には、アルクスがお茶を入れた竹筒を渡した。数が少ないながら、ユーシィが作る蕎麦掻も中々好評だ。
 ルミエールは一口大の砂糖菓子を配り歩き、セリアは色々な味の飴を両手に抱えている。フラジィルは一口サイズのチョコレートクッキーをフィフスから受け取り、大喜びしていた。
 沢山の金平糖を持ったエイリーンも、ばたばたとあちらこちらへ走り回っている。崖を駆け上れるくらいの力が湧いて来るとの触れ込みで、クロカも彼女に協力した。
 アキトの用意して来ていた金平糖は、七色をしている。フラジィルに手渡し、「虹の色と同じ色数だ」と教えているとルナが何か気付いたように岩の欠片を持ち上げた。
「これも、虹色です」
 今現在破壊作業が続けられている場所から持って来た、削りかすだ。
「此れは……」
 さあっと背筋が寒くなった冒険者も数人居たことだろう。
「……クリスタル、インセクト?」
 虹色の意味を理解した誰かが、ぽつりと零す。ロザリアが素早く伝令役を買って出て、警戒を呼び掛けに前線へ駆け出した。シュハクの胸に、言いようの無い不安が溢れ出す。ルフィアは知人の姿をきょろきょろと探した。大丈夫かなぁ〜ん、とリィルアリアはか細い声で呟くのだった。

●急変する事態
 通路整備を行う面々が居ることによって、冒険者たちは安定した作業を続けることが出来ていた。ネフェルは撤去を最優先として行動している。運搬途中に転がり落ちた石は少なく無い。通行の邪魔になる前にテティスは手早く拾い上げた。
 アスティアも尖った岩の破片を回収し、ジュリは道の真ん中に落ちていた欠片を布の中へ纏める。アルティも移動の妨げになるような物を見つければ、丁寧に通路から取り除く。
 ランディアナが箒と塵取りで砂埃を集めていた。その横のミネルヴァは埃対策にターバン、マスク、サングラスを装備している。アストは作業の手を止め、破壊作業の続けられる大岩を見遣った。頑張ろうと小さく呟き、作業に戻る。
 作業開始時にユリアスが通路の真ん中に白いラインを引いたおかげで、往路と復路が分けられ、衝突は今のところ起きていない。所々にある足場が特に悪い箇所では、ファンバスが声を張り上げ危険を知らせ、ユルカが目印にと頭上でホーリーライトを照らした。
 道が込み合えばエクストラが一時停止を呼び掛け、ロイも指示に従って動く。冒険者たちの仕事ぶりを眺めて、レヴィアタンは何れ追い付くことを胸に誓った。此の侭順調に、何事も無く終わることをダリアは願う。

 ニナが「頑張ろうね」とフラジィルへ呼び掛けていた時のことだ。一際大きな物音が聞こえ、続いて高らかな歓声、最後には動揺の入り混じった冒険者たちの声が響く。巡回を続けていたグレープは、何事かと視線を巡らせた。今正に破壊作業を続けている箇所が音源である。
「穴が開いたみたいなぁ〜ん!?」
 焦った声でイコリーナが言う。ジェネシスは咄嗟に、フラジィルを庇うように手を広げた。牽制や防衛のつもりでか、武器に手を伸ばす冒険者も多かった。フラジィルは真剣な顔をして、声を張り上げる。
「――私たちの仕事を忘れないでください!」
 主には運搬と差し入れを担当しているこの班がすべきことは、戦闘では無かった。今は破壊班が何かに応戦しているようだが、護衛の為の班も在る。彼らは迅速に、騒動の中心へと駆け出していた。
 フラジィルの声が終わらぬ間に、レーダは作業を中断し、撤退誘導に回っている。リトゥールも自らの役目は通路整備であると理解していたため、退路の確保を優先とした。ベルも必死で声を張り上げ、全体へ退避を呼び掛ける。邪魔にならぬ範囲で穴の開いた箇所へ近付きながら、忍びのリュウも撤退を補助した。
 ゼリアンが通路の先を示すのに従って、シエラらがブレイク卿ら一般の人々を誘導する。護衛班がホーリーライトを照らし、彼らを護りながら通路を駆け上った。怪我をしている者を見つければ、ルリィが急いで癒しを放つ。安全な位置まで登って来た彼らに、リコリスは微笑んで、水筒に入れたレモン水を差し出してやった。

 そして、破壊班が撤退を終えた後、護衛班は開いた穴から更に地下へと潜って行った。
「(どうか、無事で……)」
 フィードは祈るように目を伏せる。スズは、フラジィルと共に黙々と後片付けを行っていた。避難した者も多いが、残った者たちは丁寧に掃除をしている。虹色の欠片がきらきらと煌いた。破壊された巨大クリスタルインセクトの欠片も、同様の色合いで輝いている。二つの欠片の共通項は、やはり意味を持つのだろうか。
「……まぁ俺は出来る事をするだけだが」
 何れ訪れるものが早く訪れたのだろう、と開いた穴を見詰めてアイズは思う。虹色に輝くクリスタルが割れ、続く回廊が覗いていた。
 ふと、気に掛かるものを見つけてエリスは穴へと近付いて行く。良く良く見れば、此処には扉があったのだと判った。扉はクリスタルで覆われ、道が塞がれていたらしい。扉の表面には、幾つもの鋭い爪痕が残されていることにも気付けた。
 其の時、下層から歓声が響いて来る。護衛班も、彼らの任務を遣り遂げたようだ。
「この先には、何があるんだべな!」
 ドーンがわくわくとした様子で言う。
 回廊の先にある未知の世界は、冒険者に何を齎すのか。
 けれど今は、全てが無事に終わったことへ歓声を上げ、勤めを果たした仲間を労わる。道は確りと拓かれた。先に待つものの正体を知る日は、そう遠く無いだろう。


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月下邪竜・シルヴィア(a38394)  2009年08月31日 23時  通報
この後にインフィニティマインドと戦うんでしたね。
この頃に冒険者になって初めて行った冒険でした。
思えばここから全部始まったんですね、ボクの冒険は・・・