≪雫石の聖域・ロリエン≫大樹<断章>



<オープニング>


 あれから数日。

 ベルフラウは護衛士達を再び集めていた。
「先日逃した樹木型モンスターの行方が分かりました。少々場所が悪いのですが、敵は動きそうにありません。不安はありますが皆様ならきっと大丈夫だと思いますわ」
 立ち上がる護衛士達にベルフラウは、珍しく少し早口で状況を説明し始めた。


 樹木型モンスター2体、<<突風>>と<<束縛>>は、森の中に姿を消した。
 その2体は街道を大きく外れ、森の奥まで逃げてしまっていた。
 そして身を休めるかのように動かずじっとしているというのだが、そこはまたグドン達の巣でもあるらしい。

「……彼らが再び動き出す事があるならば、それは護衛士の皆様から受けた傷が癒える時。グドンの数は80体余りあるようですが、これ以上時を重ねても、条件が良くなる事はないと判断いたしました。一番近い村からは1日以上かかる場所ですが、霊視した場所はかなり絞り込んでありますので道に迷われることは無いと思います。
 けれど油断は禁物です。どうか気をつけて行かれてくださいませ」
 そう言うとベルフラウは深く頭を下げたのだった。

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参加者
闇夜の鴉・タカテル(a03876)
銀嶺の死神・シリウス(a05192)
ドリアッドの医術士・イリーナ(a05904)
緑風の探求者・アリア(a05963)
元気爆発・フェイフー(a07090)
緋色の花・ジェネシス(a18131)
安らぎを奏でる柔らかな光・フロル(a25437)
特別天然記念物級理想主義者・メイ(a28387)
光と闇の魔法少女・ミント(a31336)
エレメンタルディア・ティー(a35847)


<リプレイ>

 森の空気は冷え切っている。
 清流の流れは凍える程冷たく、山から吹いてくる風も体温を彼らから奪うようであった。
 その森の斜面の一角で、ギィギィと醜い声をあげグドン達が、野うさぎの死体を引きずって歩いていく。
 一瞬、酷く汚らしく、そのうえ強い臭いを発するそのグドンの背後にあった木が、小さく揺れた……ような気がした。しかし再びただの樹木へと戻る。
 彼らは体に受けた傷を癒さなければならなかった。だがそれには時間が必要である。
 『復讐』という言葉を胸の奥に秘めながらも、今の彼らはただひたすら普通の木に擬態して生きているのだった。

●グドン殲滅戦
【前回までのあらすじ?】
「逃げたモンスターがたどり着いた先がグドン集落だったにゃる! どうするぼくちんたち!」
「何を話してらっしゃるのですか? フェイフー様?」
「な、なんでもないにゃる〜っ」
 何かを背中に慌てて隠し、元気爆発・フェイフー(a07090)は大きな身振りで、緋色の花・ジェネシス(a18131)に笑って誤魔化す。
「そ、そうですか……っと。くっ!!」
 ジェネシスは怪訝な表情を見せながらも、すぐに顔を立ち向かってきたグドンの群れの方向に向け、ニードルスピアを放った。汚らしい悲鳴をあげグドンが次々と倒れていく。 実は只今、戦闘の真っ最中である。
「ジェネシスちんやるな! ぼくちんも負けてないにゃる!!」
 フェイフーは大きく拳を後ろに引き、思いっきり振り上げる。
 パンチが決まり、グドンは後ろになだれるように崩れた。
 小川の道を辿ってきた護衛士達が捜索するまでもなく、そこに溢れるように発生してたグドン達は一斉に護衛士達に向かって襲いかかってきたわけである。
 しかしグドンごとき護衛士の敵ではない。
「蹴って殴って気合い気合〜い!!」
 フェイフーの通常攻撃と、時折繰り出す連撃蹴の前にひとたまりもなくまとめて倒れていく。
 さらにその後方から、優しく吹き抜けるそよ風・フロル(a25437)と、緑風の探求者・アリア(a05963)がエンブレムシャワーを左右に放つ。まともに攻撃を浴び、なだれるように崩れていくグドン達。

 別な場所では、ロリエン事務処理官・シリウス(a05192)と闇夜の鴉・タカテル(a03876)が前衛に出て、グドン達の一掃に取り掛かっていた。
 タカテルの構える黒月槍が振り下ろされる度に、光の刃が放たれ、切り裂かれたグドンが仲間の死骸の上に崩れ落ちる。アビリティ温存をはかるシリウスは、右手でマントを翻し近づくグドンを払いつつ、左に持った蒼い刃のレイピアを器用に操りグドンに切りかかる。
 二人の後ろからは、特別天然記念物級博愛主義者・メイ(a28387)がエンブレムシャワーを放つ。さらに光と闇の魔法少女・ミント(a31336)と幸せの運び手・ティー(a35847)のニードルスピア。
 殲滅という言葉がぴったりといって良い、護衛士達の連携のとれた攻撃であった。
 ただし、一つだけ欠点があったようだ。
「!!」
 タカテルは突然腕に痛みを感じ、腕を見つめた。
 古びた矢がそこに深々と突き刺さっている。
 一瞬身を崩したその隙を狙って、武器を振り上げるグドン達を、メイのエンブレムシャワーが一掃しつつ、タカテルの名を叫んだ。しかし危険は彼ひとりではなかった。
 バラバラと矢の雨が降ってくる。跳ね除けたものも多かったが、それぞれダメージは受けてしまう。
「いけません!!」
 後衛に控えていたドリアッドの医術士・イリーナ(a05904)が大急ぎでヒーリングウェーブを放つ。
 フェイフー達もまた、弓グドン達の攻撃の前に一瞬動揺をみせた。
 このグドンの群れの中で最も多いのは弓矢を武器にするグドンであった。護衛士達の攻撃の射程では弓グドン達の位置まで届くものは無かったようだ。
「ストリームフィールドがあれば……」
 ジェネシスは矢を避けながら呟いたが、今更仕方が無い。
 相手にした敵の強さを思い知り、後衛の援護のうちに戦線を離脱し逃げていくグドン達。護衛士達が退治したグドンの数は結局、全体の80匹のうちの30匹強であった。
 だが場所は森のかなり奥まった地帯であり、人里からは遠く離れている。逃げたグドンがすぐに人を襲う可能性は高くなく、大きく心配する必要は今のところはないといっていいだろう。

●モンスターを探せ
 アリア、ティー、ミント、メイの植物知識を得意とする4人は森の中の植物を調べて回っていた。
 何か特徴のある木があれば、注意深く見ていれば見極めることも可能ではないかという作戦である。
「……杉の木が多いようですわね」
 アリアが見上げて小さく息を吐く。森ではよく見かけるよくある杉であった。
「枯れているのも結構ある……ね。幹に大きな傷がついてるはずだから見つかりそうだけど」
 ティーは、以前の戦いで護衛士達の攻撃でつけられた傷を目印にきっと見つけられるはずだと頑張った。また獣達の歌も使用し、動物たちに情報を得ようとも頑張ったのだが、この地域の動物たちはグドンに怯え逃げ出しており、また小鳥達はその木のことを知らなかった。
 ミントとメイも二人で一生懸命探したのだが、範囲はとても広く、この作戦はとても時間のかかるものであったことを自覚せざるを得なかった。
「それにしても、沢山杉が生えてるです……」
「時間がかかりますね……」
 木の中にある木を探し出す手段の一つとしては、ファナティックソングを放つというものがあった。森の木々を傷つける可能性があると反対意見も強かった為、これは最後の手段として残し、護衛士達はもう一つの方法を試してみることにする。
 それは……名づけて「火のないところに煙はたたぬ大作戦」(命名:ミントさん)なのであった。

「風上はこちらでしょうか……?」
 メイが天候予測を使って風を読み、風上へと移動する。都合よく風は森の中を強く吹いていたので、木々を一斉に燻すという作戦もけして不可能ではなさそうだった。
「火事にはならないように気をつけて……と」
 水を小川から運びタカテルが皆を見回した。
「大丈夫にゃる!」
「うまくいくといいのですが……」
 元気に頷くフェイフーと心配そうなジェネシスである。
 この方法が駄目ならファナティックソングを試さねばならない。それがきっと不安なのであろう。
「きっと……大丈夫だよ」
 ティーが慰める。ジェネシスは小さく微笑んで頷いた。
「それではいきますよ!」
 メイが枯れた葉を集めたものに火を放つ。
 ミントがそれをぱたぱた仰いで、煙を強めた。あとは皆で手分けをし、火が消えてしまわない程度に少ししめった葉を乗せていく。
 炎はあがらず、ただもくもくと白い煙がたちあがり、森に向けてぐんぐん広がっていった。

●モンスター発見
「……!」
 煙に包まれていく森の中。
 風もないのに、ゆさっ、と揺れた木があった。
「!」
 その音に気づき、イリーナが首を傾げる。……再び、ゆさっ!と音が響いた。
「……あの……」
 イリーナが皆に声をかけようと振り返った時、ともに見ていたらしいフロルが大きく頷いた。ミントもまた他の二人に告げる。
「揺れたのはあの木ではなくて、隣の枯木のようです。あの枯木が揺れてあたったので、音が響いたのです……」
「行ってみるか……?」
 シリウスが提案する。メイが「いえ、まだです」と彼を止め、ジェネシスに土塊の下僕を頼んだ。ジェネシスは了解し、土塊の下僕を作り出す。
 えいえいおー、のポーズよろしく颯爽と出かける下僕一匹。
 大きく振りかぶり、怪しい枯木に、てやっ!と殴りかかる。
 しかし。
 何も起こらなかった。
「とても怪しいですけれど……違うのかしら?」
「試してみましょうかね?」
 首を傾げるアリアに、タカテルは煙を吐き出す木材を一本抜き取って見せる。
 果たして、近くから煙を枯木に当てると、今度は護衛士全員の目の前で確実に、

 わたわたわたっ!

 と一瞬揺れた。
 けれどそのあと静かになる。
 もう一度当てる。
 
 わたわたわたっ!!

「……間違いないようですわね」
 イリーナは困ったような笑顔を浮かべた。
「下僕のぱんちでは威力が足りなかったのかもです。私にやらせてもらってよいですか?」
 ミントは心配そうな護衛士達に笑顔を浮かべて、枯木の前にひとり立った。
 そして構えを作り、動かぬ枯木に向けて叫んだ。
「黒き針よ! 一気に行くです! ニードルスピア奥義!!」
 紫色の長い髪が舞い上がり、突き出した両方の猫手袋から無数の針が次々と枯木の幹に食い込んでいく。

 !!!!!!

 ばき!!

 乾いた音が響き、幹の一部がはがれおちた。刹那、枯木は30センチくらい飛び上がったような……気もした。
「当たり……です」
 呟くミント。けれどその彼女に向け、枯木から突然の突風が吹きつけられた。
「きゃああ!」
「ミントさん!!」
 ティーが庇おうと咄嗟に走り出す。しかし、フロルがそれを止めた。
「待ってください!」
「でも……」
 突風を受け、彼女が後ろに倒れたその瞬間、衝撃波が反射的に枯木にぶつかる。
「掛かったですね、わたくしを傷つける事は己も傷つくです!」
 イリーナに回復魔法をかけてもらいながら、ミントは笑った。復讐者の血痕を使用していたのである。

 何かに気がつき、咄嗟にタカテルが駆け出していく。
 ミントが攻撃を仕掛けた木のすぐ後方にあった枯木もまた、突然動き出したのだ。
 追いかけ、タカテルはシャドウスラッシュをその幹に叩き込んだ。
「逃がしはしない……我が黒月槍がお前達の命を刈り取る死神の鎌となる……」
 ばきん!がらん!と乾いた嫌な音が響いた。そのタカテルの横をフェイフーが勢いよく抜けていった。二人の後を追っていったアリアが、緑の束縛を放つと、枯木は逃れようとする動きを止めた。
 ジェネシスはワンドを構え踏み込む。
 高らかなファンファーレが響き、同時に枯木の幹は大きくえぐれた。
 さらにメイがその後ろからエンブレムシャワーを打ち込むと、ますます枯木はボロボロに崩れていく。
 けれどまだ枯木は逃げようとしていたのか。
 束縛の効果から逃れると、彼は大きく身をうならせ、次の攻撃を構えたタカテルに向け、緑の束縛を放った。その動きでさらに枯木は壊れたが、それでも必死に身を翻し、森の中を進みはじめる。
 枝が、幹の皮が、がらがらと音をたて崩れ落ちながらもまだ進む。
 追う護衛士達。
 しかし、その必要はなかったのかもしれない。
 もはや滅びを目前とした枯木<<束縛>>の前に立ちふさがったのは、フェイフーだった。 仲間達の横を通り抜けたフェイフーは、モンスターの後方に回り、機会を狙っていたのである。
「お帰りは……天国しかないにゃるよ!!」
 拳に込めた破鎧掌。その一撃で、大きな音をたてて、モンスターは崩れ落ちたのだった。

 そしてもう一つ。
「Waltz into Darkness...」
 イリュージョンステップを発動させたシリウスは、ミントの前に飛び出すと薔薇の剣戟の構えを取った。
 その横にすぐティーが、そしてフロルが追いついてくる。
 イリーナは後方で静謐の祈りを祈り始める。彼女の祈りの効果で辺りが包まれていく中、ティーが真っ先にニードルスピアを枯木に打ち込んだ。
「………………ォォォォォ!!!」
 枯木モンスター<<突風>>は、どこからともなく声を上げる。
 それは……悲鳴であったのか。咆哮であったのか。
 哀愁を感じさせるような音であった。
 しかし。
「……これ以上被害は出しません!」
 フロルは、母から貰った緑樹の杖を強く握り締める。これ以上人の悲しみを生み出すものを許すわけにはいかない。
「エンブレムシュート!!」
 紋章の光線がモンスターに命中する。
 大きくよろめき、その身をボロボロに崩しながら、モンスターは左右に大きく揺れる。
 それでももう一度体勢を立ちなおし、攻撃の態勢をとろうとする。
 けれどそんな猶予は無かった。
 シリウスのレイピアは、確実に<<突風>>に定まっていた。
「――Death is my dancing partner...」
 舞散る薔薇の花びら。
 繰り返される剣の軌跡。
 4度の攻撃も必要ないほど、<<突風>>は、呆気なく崩壊していったのである。

●帰還
 二つのモンスターの死骸を見下ろし、護衛士達はほっとしたように息をつく。
「終わったな……お疲れ様」
 タカテルが皆を振り返る。
「お疲れ様でした。……無事にできてよかったですね」
 メイがにっこり微笑む。グドンの件はあるから100%とは今回もいかなかったかもしれないけれど、ベルフラウを安心させることはできるだろう。
「はじめに思ったより大変なことになっちゃったけど、終わったよかったです」
 アリアが目を細めて皆の労をねぎらうと、ミントも大きく頷いた。
「本当に木を隠すなら森の中とは良く言ったものです。敵ながら考えたですね」
「早く戻りましょう。……ベルフラウ様に早くお伝えしたいですわ」
 イリーナが、にっこり微笑む。
 シリウスはモンスターの破片を拾い、イリーナに同意した。
「先日の魚も含めて、元々この旧ドリアッド領にいたものなのか判別してもらったほうがいいかもな」
「ええ」
 ジェネシスも先の二人に同意しつつ、森をもう一度見回す。
 平和な森が一番。エンジェルの彼だけれど、森を愛する気持ちは、ドリアッド達と触れているうちに、ますます強まっているのかもしれない。
「見て!」
 ティーが大きな声で、小川の方を指差した。
 可愛らしいリスが2匹、水場に佇んでいる。気づくと小鳥達も空に飛び始めた。
 ありがとう、そう言ってくれてるのかもしれない。
「ボクは、冒険の後のご飯が楽しみにゃるよ! おなかすいたにゃる!」
 いっぱい暴れたフェイフーが明るく叫ぶ。
 その視線は料理が大得意のタカテルをじっと見つめてる。間違いなく確信的なものだろう。しかし、そういわれてみると、みんなおなかがすいてきたような気もしてくるから不思議だ。
 そして仲良く森を後にしていく、護衛士達を見送るように、森の木々達はやさしくさやさやと鳴り響いたのだった。

 了


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