【さいはての未踏地の先へ Break Out!】巨石破壊!



<オープニング>


●三色光の向こう側
 インフィニティゲート……それは三色の光に包まれた、煌く洞窟。
 この洞窟に竜が現れたのは、一年半以上も前の事である。

 蓄えるもの・ワートゥール。
 喰らうもの・ストームゲイザー。
 形成するもの・カダスフィア。

 洞窟に巣食う三体の竜。
 その竜達を倒した後、もう同盟に竜など居ない……。
 誰もが信じ、同盟諸国も頑なにそう言い続けていた。

 だが、そのインフィニティゲートを探索し続ける一つの旅団があった。
 悪を断つ竜巻・ルシール(a00044)率いる旅団『雲櫂の風』である。
 1年以上におよぶ冒険と探索。
 巨大な異形モンスターとの戦闘、探索、そして鍵。
『掲げよ、さらば扉開かれん』
 その言葉に導かれるように、最奥の地まで到達した彼らは、そこで道程を塞ぐ巨岩を見たのだった。

 この探索の結果は円卓に報告され、円卓の評決により『大岩を破壊し調査を続行する』事が決定した。

 地下遺跡での土木工事は危険が高く専門的な知識が必要となるだろう。
 そのため破壊の専門家を呼び寄せ、冒険者の力と合わせての作業を行う事となった。

 勿論、ただ、破壊すれば良いという事では無い。
 大岩の破壊と共に災厄が降りかかる危険は大きい。
 破壊後の状況に対応した、充分な警戒が必要だろう。


●切り開け、無限の道の先を
「と、言う訳でや。円卓の決定は、皆聞いたモノとして話するで?」
 翡翠の霊査士・レィズは集まった冒険者達を見回して説明を始める。
「調査は続行される。その為の障害となる大岩をどーにかせんとならん。そこで破壊。破壊と言えば」
「……まぁ、あの人さよねぇ?」
 レィズの横で頬杖ついて座っていた紅き柘榴の翼剣・キィルスは、やはりか、と言わんばかりの表情で呟きながら他の冒険者達に視線を向けた。

 半年前のカディスブレイクを覚えている者なら、その好事家の名前も耳にした事が有るだろうか。
 破壊に芸術的価値を見いだした、破壊マニアという変わり者貴族、コーギー・ブレーク卿の名を。
 通称ブレイク卿の名で知る人ぞ知るその男、公共事業や私的趣味の為の破壊をたびたび依頼してきている。自らもお抱えの親衛解体技師を有しており、先日のカディス砦解体の折りには同盟冒険者の為に進んで技術的サポートをしてくれた、豪気な男でもあった。

 そう、破壊依頼ある所にブレイク卿有り。

「とオレは思うとるんやけど」
「で、当の御仁の姿は?」
 キィルスが見渡すも、いつものカイゼル髭と高笑いが見当たらぬ事に首を傾げている。
「ユリシアの要請でもう既に現場に向かっとるわ。何せ場所が場所やからな。専門知識による調査及び、破壊計画に着手しとる頃や」
「じゃあ、俺等は……」
「その指示に従い、確実に大岩をぶち壊しにかかって貰う。それが今回オレが担当する依頼や」
 勿論、工事は簡単なモノではない。
 破壊に伴って生じる岩の欠片の搬出作業等の補佐作業は深雪の優艶・フラジィルの呼び掛けでサポート班が編成されるだろう。
 また、ドラゴンズゲートの最奥と言う場所柄、そして心配される万が一の災厄に備え、別でエルフの重騎士・ノエルを中心に警護の為の人員が集められている所である。

「来て欲しいのは、純粋な破壊力」
 レィズはそう語る。
「キーゼルにノエルへの伝言頼んどいたわ……『ブレイク卿は任せたで』と。やから、皆は他の事は気にせんでエエ。とにかく――」
 巨岩を、ぶち壊せ。
「今頃、ブレイク卿親衛解体技師が破壊点をマーキングしてある筈さね。俺等がすべき事は――」
 キィルスは太刀を抜き、その刃を手に乗せて皆に語りかける。
「そこに、『間断無く、攻撃を集中させて破壊』!! 俺も力の限りを尽くす。だけど出来ればもっと力が、純然たる力が破壊には必要さね」
 翔剣士たる彼の技や、術士の衝撃波も悪くは無い。だが、遺跡崩壊等の二次破壊という事故防止の為には、早く、早く、確実に壊さねばならない。


「言っとくけど。これは危険な工事や。生半可な現場やあらへん。それに、巨石を除けて何があるかも知れへん」
「今回ばかりは本気で真面目な話。遊びのつもりじゃこの現場は務まらないさね」
 いつになく真剣な眼差しの二人。冒険者達も深刻な表情で聞いていた。
「そんな訳で」
「我こそはと言う現場作業員冒険者、大募集やで!」

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参加者
NPC:紅き柘榴の翼剣・キィルス(a90077)



<リプレイ>

 希望のグリモアの聖域。そこに口開けた水晶の洞窟、インフィニティゲート。
 巨石破壊の為にレィズの呼び掛けに応じた冒険者達はその最奥に入ると、そこには既に現場入りしていたブレイク卿とその親衛解体技師団の姿が見えた。
 測量し、岩の硬さを見極め、岩盤が崩れぬ様に補強し、足場を組む。
 その準備作業だけでも時間はかかる。彼等が先に作業を進めていたのは当然の事だろう。
「んー……こりゃまた大きい岩」
 キサが見上げて呟いた。それはまるで道を塞ぐ大扉。ノアンは不敵に笑んで言う。
「でも、壁が大きければ大きいほど、その先にある『モノ』も大きい筈!」
「この先には何があるのか……新しいものを見てみたいという好奇心には勝てませんから……ねっ!」
 フロルもそう応じた。それこそ、『冒険者』たる所以なのだろうか。
 しかし、未知なるからこその不安要素はある。
「好奇心、猫を殺す……ならない、こと……祈り、ます」
 旅団『雲櫂の風』の今までの苦労も報われる様に。シファはそう強く願い祈り。
「幼い頃、禁忌の箱の物語を聞いた事を思い出します」
 アリアは大岩を見つめて呟いた。
「物語は箱から多くの厄災を開放し、たった一つの希望を生みだした……。願わくば――」

 この先にあるものが希望であります様に――


「メルクゥリオ……参ります!」
 マーキングも済み、いよいよ現場作業開始!
1番手、メルクゥリオの慈悲の聖槍が大岩を貫く光がスタートの合図!
「一度ブレイク卿と仕事をしたいと思ってたなぁ〜ん!」
「ひたすら打つべし打つべし打つべしぃ!!」
 絶叫と共にアシャンティの大地斬、セルシオの達人の一撃に合わせてタケルの斬鉄蹴が岩に決まる。
 ナオやサハラは攻撃する者にディバインチャージを施し、ディフィス・アーシュ・シトリ・ヴィアローネ・サイデルらがデストロイブレードを放っていく。
 武器が無くとも、アッシュやシャルーガ、レナの斬鉄蹴の一撃は超強力!
「後はよろしくなのなぁ〜ん」
 ルーリが岩を外に運び出す者に声をかける。攻撃を叩き込めば叩き込んだだけ、大岩は削れ少しづつ砕けて邪魔な欠片が出てくるのだ。
 ユーシスは大きく砕ける都度、技師達に岩を確認する様に頼んでマーキングを再び施して貰う。
 雄叫びを上げながらカッツェがデストロイブレードで斬り込む!
リオがデモニックフレイムを放つ!
「砕けろ!」
「これがある限り……前には進めん」
 ソリッドやランブルが大地斬をぶちかます!
「ははははは、岩を砕く仕事ってのがあるとは思わんかったな。行くぞ!! おらっっ!!」
 オーランドは鉱山で働いていた頃を思い出しながら愛用のハンマーでガスンガスンと岩を殴りつける。その横では釘バットで大地斬を放つシェードの姿もあった。
「いくぜェッミルファッ!」
「オッケ〜ジョセフ!」
「突!貫!!」
 ズガァン! 声を掛け合った二人のデストロイブレードが岩を大きく抉る。
 セイガは気合を入れるべく目を閉じて思い浮かべていた。赤い髪の腐れ縁の憎い奴を。
 カッと瞳を開く。目の前に当のカリュウトがエンブレムノヴァを打っていた。
「うおりゃあーっ! ブレイクしてやるーーっ!!」
「僕ごとぶっ壊そうとして狙うなぁっっ!!?」
 ずっがぁっん! デストロイブレードは岩に直撃。舌打ちが聞こえたのは何故だろう。
 その横でブラードやシシャモは爆砕拳を連打していた
「ブラードスペシャルパンチ!」
「打つべし! 打つべし! 打つべし!」
 更に別の場所ではハンマーで大地斬放っていたノンが地面で悶え苦しみ、即救護班が駆けつける。
「ぐおぅっ、こ、腰がぁっっ!!」
「おじーちゃん無理しないでーーっ!?」
 ハプニングが発生するのも、現場ならではである。
 そんなこんなで作業は滞り無く(?)進み。
「はいぱぁ☆にゃ〜んこきぃっく!」
「くらえ! 黄金の右足!! なぁ〜ん♪」
「これが私の新・必殺技ですわっ!」
 ミャア&ミノン&ルシアの3連斬鉄蹴が大岩に決まる!
 岩も大分ヒビが走り、大きく抉れ、そろそろ崩壊も間近と見られる。
「止めの一撃は貰ったわ!」
 フィオリナが最後の一撃を狙って前に躍り出た。
「私達をまだ見ぬ世界へ導く為に、巨石よ砕け散れっ!!」
 拳で岩にそう語りながら彼女は力一杯殴りつけた!
 グワァンッ!
 破砕音。だが……岩はまだその形を保っている!
 飛んできた岩の破片を殴り壊しながら、ナタクがうーんと唸って岩に近づく。
「やっぱり適したアビリティじゃないと破片も余計に飛んで――」
 そう言いながら爆砕拳一撃。
 ごぉんっ!!

 ガラ……―――ガラガラガラガラガラッッ!!!

「おおっ!?」
「壊れたか!?」
「嘘!?」
「ブラボー!! 流石に儂が『破壊乙女』の名を与えただけ――」
「いやあぁぁっ!?」
 頭抱えている破壊乙女はおいといて。
 多くの攻撃で無数の亀裂が走り、とうとう強度を保てなくなり崩壊した大岩。
「壊れた後は二次崩壊も危ないから注意をせねばの」
 ダストが注意を促し、ドルシェやギアやカノンが崩れた岩を慎重に除けて掻き分けていくと。
「これは……?」
 岩の向こうに違う岩の様な物が出てきたのだ。
 透き通った分厚い硝子の様に最初は見えた。が、良く見るとそれはまるで純粋な水晶の結晶で出来た壁の様であった。
 試しにと解体技師達がノミや鋲を打とうとするが、逆に工具が折れ曲がってしまった。
 ウィルやシズナが大地斬や兜割りを放っても大した傷が付かない。
「クリスタルの壁、か……?」
「綺麗なぁ〜ん。でもこれも壊さないと先に進めないなぁ〜ん?」
 カイエがウォポン・オーバーロードを使った上で大地斬を放つと、水晶が少しだけ削れた。
 より強力な武器で、より強力な冒険者が、より強力なアビリティを連打しないと到底壊れそうにない。
 硬質な結晶の壁……まだまだ破壊作業は終わりそうになかった。
「やれやれ、出番も無く終わるかと思ったが……そうでもなさそうか」
 後ろで殴る順番待ちして眺めていたエグザスはそんな事を呟いたのだった。


 クリスタルの壁を解体技師達が調べた結果、強力な攻撃力を持った冒険者達でかわるがわるに『一点集中攻撃』をするのが一番妥当であると言う結論に達した。
 大きく墨で×印が幾つも描かれる。ここからが真の本番と言えよう。
「後半戦1番イツェル、大地斬行きます!!」
 イツェルがそう叫んで大地斬を放つ。武器と水晶がぶつかり響いた音が第二ラウンド開始の合図。
「この壁を破壊出来たら、そこには何があるんだろうな」
 ガラッドが呟きながらデストロイブレードを放つ。ミーナは彼に次いで同じアビリティで一撃あてて言う。
「何があるか解らないと言って歩みを止める訳には行かないしね。とにかく前に進んでみて、何かあったらその時対処すれば良い話よ」
 その間もウォーレンは洞窟そのものへの振動による影響を警戒し、ラザナスも逐一技術者の指示を確認して皆に伝える。
「ぬ、抜けない!?」
 レノリアは刺さった武器を抜くのに必死。デューンは壁に拳で語りかけ、ジュウゾウは続いて大地斬を放つ。
 ハンゾーとハルのWデストロイブレード、アルキバ&クラズの兄弟連携、アルス&ゼオルのエンブレムノヴァ&大地斬など、タッグを組んだ連携や、レジィのエンブレムブロウの打撃、アイレンのデモニックフレイムなど、術士による攻撃も目に付いた。
 フェミルダの鎧聖降臨で万が一の防御力を上げたカイがデストロイブレード放ち、ヒヅキとシリウスが電刃衝を叩き込む!
「このデスティニーで、全てをなぎ払う……!」
 デストロイブレードを使う冒険者達に声をかけたプレストが先頭だって斧を振りかざす。総勢12人の連続攻撃に流石の硬質な水晶も亀裂が走った。
「医術士だってたまには殴りたいー!!」
 フレイル手にしたシュリの言である。
 大きな亀裂が入った所で休憩と技師による再調査。
 念入りに一日かけて打撃ポイントを決めて再び大きく×をつける。
 一昼夜で出来る程、簡単な破壊作業ではない。
 フラジィル達の差し入れとか受けて休み休み作業は数日がかりで行われる。
「やっぱり間髪入れずに攻撃するのが良いみたいだね」
 グレイはそう言ってアキラとティムにディバインチャージを施し、二人のデストロイブレードが連続して×印に叩き込まれた。
 クロス&フォンや、フィオリス&フィーナ、セザリアにイオなど、コンビを組んで挑んだ者は見事な連携で水晶を殴り、蹴り、削っていく。
「こうなりゃ岩が先か、脚が砕けるかの勝負ですね♪」
 足こそが武器。そう述べるカイエンは武道家を集めてタイミングを合わせ、一斉に連続して斬鉄蹴を放った。助走、跳躍、足が描く光の軌跡。華麗なる技の芸術。
「ブラボー!!」
 一気に岩に亀裂が走るのを見、また多くの冒険者達が見事な技を披露するのを、ブレイク卿は大喜びで手を打って讃え見守るのだった。


「あと、一箇所……そこにコレまでにない最強の連撃を叩き込んで頂ければ、壁は瓦解すると思われます」
「うム……連携の見せ所じゃな」
 間髪入れず、繋げて行く事でこの壁をぶち抜いてくれ。技師の報告はそう言った意味であった。
「ここでワタクシ達の出番ですの!」
 最後に付けられた×印の横に『ぶれいくあうとひあ☆』と書いて、ティーフェが宣言した。
 その周りに集う猛者を見て、ブレイク卿は感嘆の息を漏らした。
 かのカディスブレイクにも多くが携わった、まさにブレイク依頼の為だけに存在する集団……『ランドアース☆ぶれいく工業』の面子である。
 ターニャの呼びかけで円陣を組み、手を合わせて気合いを入れる。
「『L☆BK』全員の総力を挙げた連携攻撃……一気に行くわよ!」
『ブレェェイク!! アァァアウトッ!!』
 岩壁の前に並んで立つ猛者達。
「……私が信頼する仲間が巨岩を破壊できない訳がないでしょう。露払い、行きます」
「まずは俺が行こうか……続けて頼むよ?」
 ムーンリーズとグリッドがディバインチャージを付与し、グリッドが斬鉄蹴を壁に決めた。
 轟音。それが合図となる。
「皆、気張ってね♪」
「しっかりね!」
 オリエとシトラのディバインチャージで、キオウやシャオ達の武器が神々しく変化する!
「ヒャッホウ!」
 どがどごどっぐぁぁぁんっっっ!!!
 炸裂するデストロイブレード!
シャオと入れ替わりにオランジュが同様の攻撃を放ち、タニアの斬鉄蹴が×印を切り裂き、ジンの剣戟が薔薇の花びらを散らして亀裂を広げていく!!
「監督、アンゲリカ、今だ!!」
 自らも大鎌を振るったイザークが身を引きながら叫んだ。
「行くぞ! ぶれいくあうとぉぉっ!!」
「ファイナルユンボ・ブレイカァァァーーーーッ!!」
 アンゲリカの渾身の一撃が、そしてバートランドの屈指の一撃が!

 ズッ――ゴワァァァッッッッンンッッ!!!!!

 冒険者達全ての想いと情熱と熱い魂の猛りが、その得物に乗せられ、放たれた!

 轟音に次ぐ轟音。音が洞窟中を反響し、やがて静寂が戻ってきた。
「やった……か?」
 誰とも無く問う、声だけがこだまする。

 ピ―――……

 キィィィ―――――ンッッ!

 クリスタルの虹色の輝きが、濁っていく。
 集中攻撃を受けた箇所から、まるで蜘蛛の巣がそこから広がっていく様にヒビが広がっていく。
 細かくヒビが広がり、その周囲が白く濁って見え、虹色がどんどん失せていく……!
 そして、ヒビが水晶の全面を覆い尽くした時!!

 パキ……パキ…パキパキパキッッ!

 パッ―――キィィィ―――ンンッッッ!!!!!!

 割れた。爆ぜる様に、それは砕け散った。
 涼やかな、それでいて鋭い崩壊音。空中に、虹色の欠片が舞う。舞い散る。
 それは煌めく洞窟の中に降り注ぐ虹色の雨。
 壁のあった場所は砂の様に、硝子の破片の様に壁が崩れていく。壊れていく。
 宙を舞うクリスタルの欠片はその瞬間、そこに集う冒険者達の瞳に、とてもゆっくりと舞い落ちる様に映った。
「何て……儚くも、美しいのでしょうか……」
 うっとりとセレネが呟いた。壁が砕けた安堵か、疲労の為か、皆言葉がそこまで出なかった。
「ブラボー……ブラボォォッッ!!!」
 遥か後方でブレイク卿が吼えた。その美しさに、儚さに、彼は感動の声を高らかに上げる。
 この一瞬が、何かが壊れるその瞬間の輝きこそが、彼を惹き付ける所以なのだろうか。
 岩は破壊された。その感激に皆が歓声をあげた。
 次はこの奥に何があるか、調査する所から始まるのだ。
 そんな事を誰かが思った時。

「あれは、何だっ!?」
 壁の向こうに何かの影が見えたのを遠眼鏡手にしたグウェンが指し示した。
 青い光の様な影。それはまるで先程壊したばかりの水晶の壁に良く似ていた。
 似てぬと言えば、その醜悪な形状。
 ――それは、とてつもなく巨大なクリスタルインセクトであった!!
 シンイチロウが笛を鳴らした。危険を皆に知らせる合図だ。
 インセクトはその足を忙しなく動かしながら、瓦礫を乗り越えて穿たれた穴から此方に這い出て来ようとする。
「逃げて!!」
 アロイジウスが叫んだ。破壊の為に壁の近くに居た皆は急いで後ろに下がる。入れ違いに数人の冒険者がインセクトに立ち向かう!
 同時に、ラミアやアールグレイド、クララがブレイク卿や解体技師達等の一般人達に駆け寄り、声をかけて大急ぎで逃げる様に促した。
 だが、同様の判断をした者は少なくはなかった。アイヴィやチョウブ、ルース等が卿達を連れて狭い通路に殺到する。
 ゲマゲマがフォーチュンフィールドをグリモアの加護無き一般人達の為に用い、カイザーが彼等が急いで避難するのを背に確認する。
 その間にも迫るインセクト。コウセイが寸での所で攻撃を避ける。エルフィードがエンブレムノヴァを放ち、ショウが電刃居合い斬りを放つも、巨大すぎるインセクトはその動きを止めない。
 サラティールとエクセルが武器を構え、デストロイブレードを放つ!
固く、強大な敵であれど、全く歯が立たぬ訳ではない。
 ドークスが居合い斬りを、フーリがシャドウスラッシュを放つ!
ミルミリオンやテンユウ、エイトにラオコーンらが斬鉄蹴等の残っていたアビリティをインセクトに叩き込む!
 ピキ……!
インセクトの身体にヒビが入る。いくら巨大で強いインセクトとは言え、大勢の冒険者達がこれだけ集まっているのだ。集中攻撃を受け、そのヒビは次第に広がり、そして。
 バッキィィィッンン!!!
 鋭く激しい音と共にインセクトが砕け散った。
「やったかな?」
 ズュースカイトが破壊されたそれを見て問う様に呟く。
 一体は倒した。が、危機はまだ終わってなかった。

 何故ならば。
 その水晶の破片の向こう側……無数の巨大クリスタルインセクトがわらわらと沸き出てきたのだから。

「う……うろたえるんじゃあないッ! 同盟諸国冒険者はうろたえないッ!」
 アルヴィースが激しく狼狽えた声で絶叫する。一体でそこそこ苦戦したのだ。あれを今居る者だけで食い止めるのは至難の業なのは目に見えている。
「せめて足止めを」
「護衛の皆が来てくれるまで、僕らで持ちこたえるんだ!」
 クレシャがブーメラン構え、ラティが叫ぶ。
 通路の狭さと人数とを考えると、一般人が抜け出てから入れ替わりに護衛班の者が駆けつけてくるだろう。彼等が来るまで、自分達の身は自分達で守らねば。
「危機に倒れる前衛なんざ、半人前だぜ?」
 ウルカが手近な仲間に鎧聖光臨をかける。ポーラリスが手近な岩を投げつけ、レスタァが幻惑の剣舞を用いるもインセクトには通じない。
 ゼイムが暗黒縛鎖を放つも敵を止める事は適わず。リューンが薔薇の剣戟を、カインがニードルスピアをインセクトにぶつけていく。巨大でも色による属性は通常の物と変わらないのか。
 インセクト達も雑音を放ち、尖った身体をぶつけ、複数の足で忙しなく攻撃してくる。
 バジリスクに身を呈して守られながら、イーオーやウィーがヒーリングウェーブ等の回復を皆に施す。
 シュヴェスターの大地斬、ユミの電刃衝、ミシェルのデモニックフレイム……冒険者達は残るアビリティを駆使して戦う。
 イサヤやルークの斬鉄蹴やティトレットの爆砕拳等、岩破壊の為に準備していたアビリティがインセクト達に放たれ、更に一体を葬り去る。
「まだ出てくるぞ!」
「押し――切られる――!?」
 倒しても現れるインセクト達。クリスタルブレイクの為に、熟練の冒険者がアビリティを費やしたというロスも大きい。回復アビリティを持ってきていた者も多かったのだが、巨大な敵の猛攻を前に、もはや食い止めるのもそろそろ限界が近づいてきた。
「ぐっ!?」
 レオンハルトがインセクトの足に蹴り飛ばされた。入り口からそのままその足が此方側に踏み出される。
 とうとう突破された!? 一般人の避難は終わっただろうか。だが、このまま行かせて追いつかれてはなるまい。
 皆が力を振り絞って最後の抗戦を思った時。
 頭上を雷光纏った矢が数本、駆け抜けた。
 仰け反ったインセクト。見ると、弓をつがえた牙狩人達、そして敵に向かって駆ける警護班の冒険者達。
「後は……頼みます!!」
 最後のエンブレムシャワーを放ちながら、ミアは擦れ違い様に悪を断つ竜巻の名を持つ男に叫んだ。
 雪崩れ込む様にインセクトに立ち向かう警護班の冒険者達。彼等と入れ違いに、最後まで殿として戦った破壊班の冒険者達は撤退を始める。
 流星の如く上を掠めるアビリティの矢の下をくぐり抜け、事前に脱出路を確認しておいたナイジェルやルシエラ達の誘導の元、慌てず迷う事無く地上への脱出ルートを目指したのだった。


 振り返る間もなくインフィニティゲートを駆け抜け、上へ上へと駆け上った破壊班の冒険者達。
 煌めく洞窟をくぐり抜けた先、地上の光と希望のグリモアの輝きが目に眩しく飛び込んできた。
 ブレイク卿ら一般人が退避し、他の冒険者達が撤退するまで最後まで殿として戦った冒険者が地上に戻って膝を付いた時。やっと皆はポッカリと口を開ける水晶の洞窟を振り返った。
 砕かれた巨石。現れた巨大なるクリスタルインセクト。
 あれは一体……皆がそんな事を考えている時、駆け寄ってくる者の声が聞こえた。
「皆っ! 無事か!?」
 血相変えたレィズが戻ってきた冒険者達を見回す。見れば食い止めるべく戦った者の満身創痍な姿もある。
「そういえば、ブレイク卿は――!?」
 誰かが声を上げた。見ると解体技師達に混じって、へたり込んだ卿の姿があった。
「卿、お怪我はあらへん!?」
「う、うむ。少々腰を抜かして鼻を擦り剥いたが皆のお陰で無事じゃ。しかし――」
 ブレイク卿は神妙な面持ちで傷だらけの冒険者達を見回すと、その立派なカイゼル髭も萎れさせて俯き呟いた。
「皆、エライ目にあってしまったの。あんな化け物が出てくるとは。のぉ、レィズ殿……果たしてあの巨石は壊して良かったモノだったのだろうかの……?」
「俺達なら大丈夫、さよ。あの程度の敵にやられる冒険者じゃないさね」
 皆の無事を確認し終えたキィルスがレィズの元に報告に近づき、そう笑ってみせた。レィズもやっと気を取り直して卿に微笑み言う。
「円卓の決定やし、な。オレ等で決めた事や。例え何が出ても、オレ等冒険者でケリつけたるさかい、卿は気にせんでエエ。協力感謝や♪」
「そうか、それなら良いのじゃが。ふむ……何はともあれ、実に見事な破壊を見せて貰ったしの」
 結局は破壊マニアの血が存分に刺激されたらしい、ブレイク卿。
 皆の力が一つになり、あの固い壁の如き巨石は除かれ、新たな道が出来たのだ。
 その先にあるものが、希望か絶望かはまだ解らないが……。
「破壊の先に有るモノは創造の未来じゃ! そう儂は祈っておるぞ!! 同盟冒険者に幸あれ!!」

『Break Out!!!!』


マスター:天宮朱那 紹介ページ
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作成日:2005/12/01
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雷獣・テルル(a24625)  2009年09月12日 13時  通報
団体戦ではモブ化するのが雷獣クオリティ……(ぉ)
あれ?キィルスさん、なんで重傷おってるんだっけ?