アナタに首ったけ!



<オープニング>


●討伐依頼
「いや、今ンとこは大した被害は出てねぇんですよ」
 ヒトの霊査士・フィオナ(a90255)は、やぶからぼうに集まった冒険者達に言う。
「今回現れたよく分からんモノは、見た目は弓矢で。とある村の近くで通行人をしぴしぴ撃ちまくってンですけどね」
 字面を見ると、問題があるような気がするが、フィオナの口調は余り切羽詰っては居ない。
「……それ、大事じゃないのか?」
「いえ、それがアンマリ」
 彼女はパタパタと手を振って答える。
「その弓矢が撃つのはですねー。
 ハートクエイクアローみたいな性質を持ったはーと型の矢でして。受けても特に傷付いたりはしないんですよ」
「……なんだ、それ。放置してもいいんじゃないか?」
「いえいえ。そんなんでも一応モンスターですし。
 一度、度胸試しにってンじゃないでしょーが、石を投げた方が居たんだそうですが。
 こう、見事なまでに蜂の巣にされたらしく。
 実際、脅威な能力を持っている限りは、今は反撃に限る殺傷でもこの先がどうかは分かりませんから」
 フィオナは身を乗り出して言う。
「つー訳でー。
 この討伐、好き合ってるのに、中々進展しないカップルとか、自分に少しは脈があるか無いか確かめたい、とか。そんな方にオススメですよ」
 不良霊査士はかく語りき。
 冒険者達は、顔を見合わせて肩を竦めた。

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参加者
蒼く揺れる月・エクセル(a12276)
闇に魅入られし欠片・リュミエール(a15514)
黒焔の執行者・レグルス(a20725)
せめて最期は凄絶なる死を・ヴォルガ(a23383)
天使を守護する獅子の王・ラオコーン(a24556)
紅刃の翔天使・ラビリス(a30038)
時の輪の謡い手・エルシー(a30716)
若草のプリンス・オージ(a31491)
士魂・トワ(a33691)
拳で奏でる鎮魂曲・ミカゲ(a36208)


<リプレイ>

●決意の冒険者達
「……モンスターのくせに恋のキューピット気取り……?
 さっさと片付けたほうがよさそうな相手ね……」
 遠くより敵を視認した、蒼く揺れる月・エクセル(a12276)が呟く。
「気をつけろよ?」
「あら。守ってくれるんでしょう?」
 この度、めでたく結婚が決まった婚約者に、彼女は小さく笑む。
 確かに、それは不自然に浮かんでいた。
 全長は一メートル余りであろうか。変哲の無い街道の中央に、浮かぶ弓の姿。妙に可愛らしい曲線と、デザインが印象的な「実用的でない姿」は、
「……ゴクリ」
 かえって、決意を秘めた冒険者達にある種のプレッシャーを与えていた。
 その弓のモンスターは、理性を壊すという。
 その弓のモンスターは、悪戯に恋を操るという。
「ゴクリ」
 息を呑んだのは、実に十四人――明らかに「必要以上に」集まった冒険者達の内の誰なのか。
(「はー……。
 最近、シーザス、ちょっとつれないんだよね。帰りはいつも夜更けだし……」)
 チラチラと、横目でパートナーを眺めつつ有閑プリンス・オージ(a31491)。
(「もう、これしかないよね。その名も名付けて『第一次倦怠期回避大作戦』!」)
 倦怠とか、そういう以前のカップルである気もしないでもないが、彼は怯まない。
 事情を説明されずに「この討伐」に連れてこられたシーザスはと言えば、妻(?)の内心を知る由も無く、モンスターに厳しい視線を向けるばかりであった。
(「……まさか、嫌われては居ないだろうが……」)
 士魂・トワ(a33691)は傍らの巫女を見る。
 つかず離れず、二人はいい関係と距離を保っているが……最後の一歩はやはり難しい。
(「いや、まずは討伐か。……ん、討伐だ」)
 首を軽く振ってトワは苦笑いする。
 かの矢に「当たったらどうなってしまうだろう」何て考える事自体、まるで当たりたいみたいではないか、と。
 一行に広がる恋模様はどれも中々難しい。
「……どして……俺はここにいる?」
「それは、聞いてはいけない永遠のお約束ですの♪」
「っ、まぁいい。とっとと討伐するぞ」
 びし
「あうっ」
 愛情表現は、苛める事――黒焔の執行者・レグルス(a20725)と、そんな彼が大・大・大好きな時の輪の謡い手・エルシー(a30716)。
(「ああ、フィリスちゃん本当に可愛い……」)
 うっとりと、目を細めてエンディミオンの鷹・ヴォルガ(a23383)。
 極めてややこしい事情を抱えた組み合わせが、実に二組もここにある事は――運命か?
(「私が、しっかり守ってあげないと……」)
 抑圧された感情は、実にアレでソレであった。
 ……もう、いっそどう処理していいか悩む位にな。
「と言うか、何故か居るし、このライオン丸……」
「もくてーき! ラビりんと仲良くハートらぶらぶアローに当たることー!」
 すぱこぉん!
「ぎにゃー! 愛が痛いー!」
 ……中には、こーゆー馬鹿馬鹿しいカップル(モドキ)も居ますけど。

●愛が寒い
 戦場に、ドリアッドの詐欺師・リュミエール(a15514)の声が響き渡る。
「フォーナももうすぐだというのに独り身のわたくしに……!」
 そして、
「……その、何だ」
「ええ……」
「俺、カムナが……や、今は……だが……」
 それ以外の声も。
「喧嘩を売っているとしか思えない敵ですわね!」
 流石に弓の姿を備えたモンスター。
 その射程は実に長大であった。必然的に先手を取られる形になった冒険者達は、まず桃色の煙に巻かれ動きを失い――然る後に、ハートの矢に打ち抜かれたのが先述の二名であった。
 リュミエールが荒れるのにも理由がある。
 いちゃつくカップル等見せられてはたまらない、とばかりに――彼女はトワを突き飛ばしたのだ。無論攻撃を避けさせようという意図で――だが。
 しかし、結果は「そのお陰での」命中。
「ええ、心のそこから倒して差し上げましてよ!」
 見事なアシストを決めたリュミエールが吠え、獣の黒炎を弓に叩き付ける。
「……っ! トワさん、拘束を……!」
 黒い炎に巻かれた弓を見て、振り返ったリュミエールが見たモノは……
「……えと、俺は……前から、カムナが……好きだ………」
「……その、嬉しいですけど……」
 がびん
 まるで、そんな効果音が聞こえたようだった。
 美貌のセイレーンの顔が、面白い形に固まる。
 げに恐ろしきは、放蕩のガス&ハートクエイクアローによるコンボであった。
 アナタに首ったけ――その攻撃を受けた冒険者は、ティーピーオーを失ったバカップルと成り、その戦力を失うのだ。
「……お、お寒いぜ……」
 呟く拳で奏でる鎮魂曲・ミカゲ(a36208)の口元は見事に引き攣っていた。
 そう、本来ならば腕利きの冒険者達――それなのに。
「どいつも、こいつも……くそっ!」
 パーティーの動きは皆、固かった。
 最初の一撃で「あの状態」になってしまったトワとカムナを見れば――「そういう事情」や「羨ましく思う気持ちがある」人間の動きも鈍ろうというもの。
 油断ではない。手抜きでもない。
 しかし――確実に羨望は、冒険者達の動きから精彩を奪っていた。
 ……中には、自爆する連中も居たが。
「と、兎に角作戦を……!」
 鮮烈な光を放った紅刃の翔天使・ラビリス(a30038)の前に、獅子の王・ラオコーン(a24556)が躍り出る。
「ラビりん、危ないっ!」
「だー! 囮の私の前に出るんじゃない、馬鹿ライオ――!」
 ズキュン。
「そりゃっ! ラビりんが心配だったし!」
「……ぇ……?」
 ある意味凄いが。
 放蕩にも、恋の矢にも。一分もラオコーンの態度は変わっていない。
「……! な、何よ、平気よ、この位……」
 しかし、普段なら冷たい迎撃の一つもしそうなラビリスの反応が違う。
「でも! そ、その……あ、あり、ありあり、ありがと?」
「無問題じゃ! 俺様、ラビりんを愛してるからなっ!」
「――――! ちょ、ちょっと! 人前なのよ……?」
 素っ気無さを必死に顕そうとするものの、無駄。
 ずざざっと下がったラビリスの顔が真っ赤になる。ツンデレを具現化したような彼女であった。
(「……そ、そりゃ、俺だってさ?」)
 一連の馬鹿馬鹿しい展開をあんぐりと口をあけて見つめていたミカゲが煤ける。
(「あの頃のトキメキよもう一度、なんて思わねぇ訳じゃねぇよ?」)
 迸ったのは、瑞々しかったかつて――甘酸っぱい彼女のメモリー。
「……は」
 ミカゲは、一瞬流されかかるも……
(「だー! 違う! 絶対に違うっ!」)
 ……音がする程、ぶんぶかと首を振り。
 光の弧を描く叩き付けるような蹴りを、振り切るように弓にお見舞いする。
「……この凍えそうな俺の責任を、取ってもらうからな!?」
「同感ですわ――!」
 闘志に燃ゆる者、二名。
 彼女達の戦いは、始まったばかりであった。

●愛が痛い
「――っ! すまん!」
 我を取り戻したトワが、白糸を放ち、漸く弓を縛り上げその動きを縫い止める。
 ……しかし、時は既に遅かった。

 Before
「俺にそんなモノが通じるか」
「誰が試すか。俺は踊らされないぞ」
「当たるわけねーよ、むしろ死ぬ気でとことん回避してくれる!」

 After
「エルシーはいつも明るく元気で見ていてこっちも元気になるよ。ありがとうな?」
「おまえさえ居れば俺は何も要らないぜ? な?」

 その必死さは、ある意味……その不吉を予測していたからなのか。
 レグルスは、長い黒絹のような髪を靡かせて、極上豪奢な美貌のスマイルを、もうこれ以上は無いって位盛大にエルシーへと投げまくっていた。
「レグルスさま……少し変ですの……」
 弓の放つ、恋の矢。それを彼に当ててみたかったのは、エルシー自身である。突き飛ばそうとしたその動きは体格差で失敗に終わったが、結果的にコレが良かった。
「変? エルシーは、こんな俺は嫌いか?」
 顎をくいっと持ち上げて。
 いつものサディスティックな笑みの代わりに、甘い砂糖菓子のような――蕩けんばかりの微笑を浮かべて、レグルス。
「ええと……どうしましょうですの……」
 心拍数が上がってくる。
 動悸は最早、暴走寸前――エルシーは、彼の一挙一投足にくらりくらりと。
「……酷い惨状です。ですが……」
 呟くカムナが、トワの凛々しい横顔にぽっと頬を染める。
 放蕩と恍惚の効果からは抜けたものの……想いは止まってはいない。
 何せ、効果は一日だ。
 ズキュン!
 攻防の末、拘束を破った弓が今度はエクセルとゴードィを撃ち抜く。
「そ、素数を……素数を数えないと……」
「エクセル」
 ゴードィは、後ろから優しく妻になる彼女を抱き寄せる。
「……ぁ……」
 大柄な体に抱きすくめられ、彼の顔を見上げてしまった時が彼女の敗北の時だった。
「しっかり、こうして……」
「ああ、離さない」
 ぎゅっとゴードィの手を握ってエクセル。
 絡んだ二人の視線と瞳が潤む。
「……なんだか、気が散るわね。落ち着かないわ……」
 そら、戦闘中だ。
「ほらココ。こんなにドキドキしてる……」
 胸に手を当てさせて。
「ねぇゴードィ、子供は何人ぐらいがいい……?」
 ……まさに悪夢である。
「く、真面目に戦えええええッ!」
 血を吐くようなミカゲの叫びが響く。
 その言葉は、弓とパーティ両方に向いていた。
 攻撃を受けながらも恋の矢ばかり乱射する弓は……その。
「フィリスちゃん……」
「あ……」
 桃色空気に当てられて、ガスに酔わされて。
 ヴォルガは、ぎゅっと愛しい少女を抱きしめる。
 その抑圧が深ければ深いほど、理性という枷を失えば……抑えは効くまい。
 同性同士には、ハートクエイクアローの効果は無い。
 しかし、それでも。元々、ある種彼女にそれは必要なかったのだ。
「後で……ゆっくり、お買い物でもしていきましょうか。
 お揃いのリングを探してみるのも悪くないわよ」
「あ、はい……」
 流れ、流され……フィリス。
「それが終わったら、ね。夜は長いんだから……」
 はい、次っ!
「……あっ! シーザス、アブナーイ☆」
 楽しそうだな、オージ。
「ははは、こやつめ!」
 放蕩のガスに巻かれ、「効果はなくとも散々周囲に効果を齎してきたその矢を受け」、俄かにシーザスもその気になる。
 怖いと思えば、柳もバケモノ。
 効くと思えばその気になってしまう――ヒトの認識とは、案外アバウトなモノなのである。
「最近さー」
「ああ、どうした?」
 歯がきらりん。
「ちょっと冷たくないかい?
 僕は、シーザスが歓楽街に出入りしてるとか、あまつさえ他の誰かに心奪われてしまっているとか……もう全然気が気じゃないのさ」
「馬鹿だな」
 極上スマイル。
「俺にはお前だけ、決まっているだろ?」
 ……つぎー。
「……こ、この馬鹿弓……ッ!」
 噛み締めたリュミエールの唇に血が滲む。
「あはははは☆」
「ふふふふふ」
 ……致命的な精神ダメージを周囲に撒き散らしながら、戦いは続く。
 それは正気を保つモノにとって、最早、激痛の域に到達していた。
 愛が、痛い。

●愛は……
「……今の私に放てる最大の一撃を叩き込んでやるわ……」
 エクセルが、膂力を爆発させ地面を蹴る。
「破ァッ!」
 爆裂する剣技が、弓を捕らえる。
 戦いが「まとも」になってどれだけ経ったであろうか。
「……やってられねぇ……」
「絶対に、絶対に倒す……倒しますとも!」
 その何よりの功労者は、グッタリしているミカゲと、ぶつぶつと呟くリュミエールであった。
 ともあれ、立ち直った冒険者達は流石に強い。
「とっとと倒さないとな!」
 ヴォルガの斬鉄蹴が閃き、
「エルシー! 俺のいいトコ見ててくれよ!」
「格好いいですー!」
「おまえの為に、愛の為に――!」
 極上・レグルスのニードルスピアが降り注ぐ。
「俺は負けん!」
 どどどん。
「行くぞ、トワ!」
「分かった」
 ラオコーンの爆裂剣と、トワの気の刃が重なる。
 戦いは、続く。
 一連の攻撃に弓は既にボロボロ。
 しかし、それは死力を尽くしてその身に巨大な矢を生み出し、つがえる。
「――っ!」
 弓は、
「……く!」
 攻撃を避けられ、体勢を崩していたラビリスを一直線に狙っていた。
 びゅん! ざっ!
「……え……?」
 目を閉じたラビリスは、一瞬後の痛みを覚悟していたが。
「……ラオ……?」
 その一撃は、彼女を捉えなかった。
「……ラビりん、怪我無いか?」
 おちゃらけた平素の態度が嘘のよう。凶悪な矢に背中を投げ出し、彼女を庇い。
 背に深い傷を受けて、血を流す彼は……それでも穏やかに微笑んでいた。
「え、あ。うん……」
「そっか」
 にっと笑って、ラオコーンは少女の頭を撫でる。
「……っ……」
 傷が深いのか。その手には、力が無い。
 胸が高鳴るのをラビリスは、はっきりと自覚した。
 彼女の瞳が濡れ、それから閉じられる。ついと、頤が少し上を向き、彼の前に無防備な唇が――


 すえぜん【据え膳・据膳】

 すぐ食べられるように準備して、食膳を置くこと。また、その用意された膳の事も指す。


「……」
「……………」
「……食わぬは、男の恥じゃああああ!」
「……っ! やっぱ、こんなの、私じゃないっ!」
 ずごおおん!!!
 宙に、至近距離からアッパーカットを受けたラオコーンの巨体が舞う。
 エクセルの剣が、ヴォルガの蹴りが弓を完全に破壊したのはそれと同時だった。
「……他人の事は言えないけどね……」
 ゴードィが微笑む。
「でも、これでやっとゆっくり。私達も、ね? ゴードィ」
「これで第一次倦怠期ともSAYONARAだ!
 今夜は悩殺トランクスでばっちりキメるよ。フフ」
「馬鹿だな、俺達に倦怠期なんて――」
 何時までやってる、お前等。



 かくして、戦いの幕は下りる。
 その後と言えば……
「一生、愛してね?」
「ああ、勿論だ」
 おめでとう。
「ギャ――俺の記憶消えて無くなれぇぇぇぇぇ―」
「まあまあ…良い経験をしたと思えば良いですの……はい♪」
 レグルスが壁に頭を打ち付けたり、エルシーが幸せそうにそれを止めたり、
(「……本当はちょっぴり惜しい気持ちもしないわけでも無いですけど、やっぱりいつものレグルスさまが大好きですの♪」)
 そんな風に思ったり。
「いいのよ。 貴女の想い、全部受け止めてあげる」
 ややこしい、
「ダメ。愛してるって言ってくれるまで離さないわ……」
 ヴォルガ達が盛り上がっていたり。
「……そんなに、私のどこが気に入って頂けたのですか?」
「あ、いや。今まで、カムナを見てきて、頑張っている所や……可愛い所、綺麗な所、色々見た……それで……」
 ……「効果の後も」少し、微妙な感じになった二人が居たり。
「ああ、今日は何時に無くワイルドだねっ!」
 じょーねつ的な夜に喜んでいる彼が居たりだな。うん(棒読み)



「納得いかねぇ――!」
「行きませんわ――!」
 ここで一句。

「独り者 冬の寒さが 身に凍みる」

 詠み人・ミカゲ。
 ……モンスターの脅威が去ったランドアースは、今日も平和であった。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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