≪雫石の聖域・ロリエン≫大樹<後編>



<オープニング>


「……それでは早速行かせてもらいましょうか。助けてさしあげられればよいが」

 オランジ医師は和やかな表情で護衛士達を振り返る。
 その隣に立ったベルフラウは、オランジに軽く会釈をし、それから説明を始めた。

 オランジ医師を連れ、雷に撃たれた大樹のあるイェルラドの街まで護衛してゆくことが今回の任務になる。
 道程はとても遠く数日かかるものになるだろう。
 しかし、その道程にも問題が一つあった。

「ちょうどイェルラドとロリエンを結ぶ道の、中間点あたりに小さな湖があります。
 この湖をぐるりと半周するように街道が出来ているのですが、最近、その湖に白と黒のトナカイの姿をしたモンスターが出没するようなのです。
 白きトナカイは紋章術士のようなアビリティを放ち、
 黒きトナカイは邪竜術士のようなアビリティを持つ。
 そのように霊視しました。」

 とても大切な街道であるのだが、犠牲者が続いた為、その道は現在封鎖されている。
 唯一ある目撃者の話だと、モンスターは湖から現れるそうだ。人の姿を見かけるとまずは湖の打ち際でおとなしく草を食み、通りがかったものが安心して目を離した瞬間に、白きトナカイは白き光に、黒きトナカイは黒き炎にそれぞれ身を包み、後ろから襲ってくるらしい。
 ベルフラウの霊視では、黒いトナカイは獰猛な性格で攻撃をする者を狙い、白いトナカイは冷静に後衛を狙ってくるという。そのスピードも速いらしい。
「色々と工夫が必要になりそうです。どうか皆様お気をつけて……」
 
 退治の際はオランジ医師には近くの村に滞在してもらうほうがいいだろう。
 都合のよい村の場所が今回はあるそうだ。
「近くの村へ紹介状を書いておきますわ。何かお伺いしたいことや用意したいものがあれば協力してくださるでしょう。ただし生き延びられた方もすぐに逃げられたそうですので、事件について詳細に覚えてはいる様子ではないようです」

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参加者
銀嶺の死神・シリウス(a05192)
ドリアッドの医術士・イリーナ(a05904)
緑風の探求者・アリア(a05963)
元気爆発・フェイフー(a07090)
花帰葬・リモーネ(a08466)
水のサフラン・シイナ(a14839)
祝福の旋律・プラム(a19706)
安らぎを奏でる柔らかな光・フロル(a25437)
特別天然記念物級理想主義者・メイ(a28387)
エレメンタルディア・ティー(a35847)


<リプレイ>

●鏡の湖
「綺麗な湖ですね〜」
 蒼之剣姫・リモーネ(a08466)が思わず呟いたその言葉の通り、輝くばかりに美しい湖だった。水面は宝石を散らしたように煌々と輝き、普段であれば水鳥も集まる場所という。
「この村を抜ければイェルラドまで、まっしぐらだ」
 ロリエン事務処理官・シリウス(a05192)が、服の下に隠した剣の柄を確認するような仕草をして、皆を振り返る。その声に全員がゆっくり頷いた。
「これが最後のお仕事になるとよいですよね……」
 優しく吹き抜けるそよ風・フロル(a25437)の言葉は、そのまま皆の気持ちを代弁したものだっただろう。このモンスターさえ倒せれば、イェルラドまで問題なく樹木医を案内してゆけるのだ。
「……これがうまくいったら……大樹を治療してもらえる……んだよね」
 幸せの運び手・ティー(a35847)が自分を鼓舞するように呟く。ドリアッドの医術士・イリーナ(a05904)は、けれど不安そうなその声に、微笑して頷いてみせる。
「大樹の為にも、被害者達の為にも、終わらせましょう」
 特別天然記念物級博愛主義者・メイ(a28387)の声が凛と響いた。
 無論、全員がそのつもり……否、そうするためにここへ出向いたのだから。

●黒き獣 白き獣
「……あれを見てください」
 緑風の探求者・アリア(a05963)が湖畔の畔を指差したのは、護衛士達が湖を見てから間もなくのことだった。
 先程見回した時には何もなかった水辺に2匹、突然現れた立派な角を蓄えたトナカイが休み、畔の草を食んでいる。この森の道をロリエンを離れて長く歩く間、トナカイに限らないが何度も似たような風景を目撃してきた。日常からはあまり離れない見慣れた景色。
「あれですね……」
 星色のサフラン・シイナ(a14839)は小声で呟き、表情を硬くする。その隣で叶想朱華・プラム(a19706)も小さく頷いた。
 敵はこちらを気にしている様子は欠片もない。
 それが演技なのか、本当に見ていないのか、それは定かではないけれど。
 あまり音をたてないように用心しながら、彼らは二手に分かれることにした。
 出発前の打ち合わせ通りに、
 【先行・街道班】アリア、リモーネ、フェイフー、プラム。
 【後続・森道班】シリウス、イリーナ、シイナ、フロル、メイ、ティー
 に分かれると、先行班を残して、後続班は道を外れて森の中へと進みだした。

「普段と違う服は窮屈にゃるよ」
 元気爆発・フェイフー(a07090)が緊張した雰囲気を壊すように、肩を動かしながら皆に笑った。無邪気な彼女の言動は、いつでも皆を和ませてくれる。
「フェイフー様」
 リモーネに鎧聖降臨をかけ終えて、アリアがフェイフーに顔を向ける。
 柔らかな笑顔と共に、身を包む光。術士服がみるみる神々しく変化する。
「ありがとうにゃる」
「いいえ」
 アリアはそれからプラムと自分にも鎧聖降臨を使用し、全員が鎧強度を高めた後、急ぎ出発することにした。
 後続班もまた、同じ頃、シリウスがイリュージョンステップを発動させ、フロルが鎧聖降臨を仲間達にかけていた。
「敵は後ろから来るそうです……気をつけてください」
 武具の魂をかけた幅広の刀に手を添えつつリモーネが、隣のフェイフーに囁く。
 改めて言われるまでもなく理解はしているだろう。しかし、互いに確認しておくことは大事だ。
 先行班達が歩き始めて、数分が経過した。
 トナカイ達はまだ動き出さない。
 森の奥を後続班達が、松から松へ、なるべく姿を見せぬようついてきているのはわかっていた。ついてきていることを分かっている先行班はともかく、敵に気づかれていなければよいのだが。
「……プラムちん……頼むにゃる」
 歩きながらフェイフーが前を行くプラムに、笑いかけるように言う。
「……ええ、必ず」
「それではリモーネさんは私がフォローしますわね」
「お願いします、アリアさん」
 そう4人が打ち合わせた……その刹那。
「きました!」
 アリアが叫ぶ。
「リモーネちん!いくにゅる!! 突貫!!」
「はい!!」
 向き直るフェイフーとリモーネ。二人の視界には、黒き炎に包まれた獣がひずめを強く蹴り、猛スピードで駆け出してくる。さらにその後ろには白き獣も続いていた。
 迎え撃とうと拳に気合をこめるフェイフーに向け、黒き獣はその立派な角をさらに炎に包ませた。そこから放たれる衝撃波。瞬く間にそれは炎を纏う黒色の蛇となりフェイフーに襲い掛かってきた。
「くっ!!」
 アリアのかけた鎧聖降臨の効果で、その衝撃はほとんど弾かれる。
 しかしその後ろから白き獣が、角を光らせて舞わせた胡蝶達の幻惑が続けてフェイフーとリモーネに襲いかかる。後衛の二人にもまたそれは届いたが、4人全員に効果はなさなかった。
「こっちの番にゃる!」
 光を集めた拳を振り上げ、フェイフーの爆砕拳がトナカイに命中した。
 バキ!と嫌な音が拳の下で響いた。黒き獣の骨が砕けたのかもしれない。
 いななき声をあげ、蹄を振り上げる獣。それに払われ、フェイフーの構えも僅かに崩れる。しかし獣の反対側にリモーネが既に次の攻撃を構えていた。
「貰った!!」
 鳴り響くファンファーレ。
 獣は鮮血を辺りに散らばせ、憎しみに満ちた瞳を二人の戦士に向けたのだった。
 一方。
 白き獣もまた黙って見ていたわけではない。
 胡蝶の技が通じないことを知り、ぶるっと身震いしたトナカイは、角を大きく振りかぶり衝撃波を発動させる。
 鎧のガードに守られつつも後衛の二人の医術士達が小さく悲鳴をあげたその後ろ。
 後続班の護衛士達の姿がもう見えていた。

●白き獣
 僅かに時を戻す。
 森の中を進んでいた一行の目にも勿論、二体のモンスターが駆け出したのは見えていた。
「……今ですっ!!」
 フロルが叫んだのを合図に、駆け出す護衛士達。
 街道までの距離は、15〜20mといった所だったが、松林の木々を避けながらの移動である。瞬時に駆け出したとはいえ、数メートル進むのにも通常よりも余計にかかる。
(「もう少し!……!」)
 シイナは急ぎたい気持ちをこらえ、射程ギリギリの距離を読む。
(「今だ……!」)
 走りながら用意していた抱擁杖に宿る光。それを前方につき上げる。
 その光はみるみる獅子山羊蛇の3つの頭を持ち、目標へと牙をむく。
「「!!」」
 森の中から撃ち放たれたスキュラフレイムの衝撃を背中に感じ、白き獣は驚いた。
 慌てて、その方向を振り返ると、シリウスが放つソニックウェーブの光が獣の頭をかすっていく。
「(……狙いすぎたか!)」
 シリウスは凍える瞳を敵に向け、すぐに新たな攻撃体勢に切りかえる。
 だが、白きトナカイもまた冷静であった。
 彼は森を見渡した。
 見え隠れする敵達は、自分を狙っていることは間違いない。
 最初に彼に『痛いのを』ぶつけたのは、木陰に隠れているあれだろう。
 シイナの方向を彼は睨みつける。しかし、樹木を盾にしているシイナがそれを気づいたかは分からない。近づいてくるシリウスを狙うべきか……そう獣は一瞬考えを巡らせる
 しかし、敵は彼らばかりではなかった。
「ブレードダンス♪!!」
 回りこんでいたティーが近接から攻撃を仕掛ける。攻撃は命中したが、反射的に白き獣もまたティーを射程に入れるように睨みつけた。
「わぁっ!」
「……ティー様!」
 イリーナの慈悲の聖槍が、森から飛び出し、獣の顔に当たった。
 かぶりを振り、白き獣は咆哮をあげる。さらに複数の方向からメイの放つエンブレムシャワー、そしてフロルの緑の業火が次々と打ち込まれていく。
 さらに。
 先行班の中から黒き獣への攻撃を中断して、白き獣を追いかけてきたプラムが霊布を構え、二つの獣の再びの合流を阻止する構えを見せた。

「!!」
 その咆哮に反応し、黒き獣はびくりと体を振るわせた。
 身をよじり助けに行こうとする動きを見せたのを、フェイフーとリモーネが許すはずが無い。
「行かせません!」
「お前の相手はぼくちんにゃる!!」
 盾で角を払い、蛮刀を構えたリモーネが獣の前に立ちふさがる。フェイフーの放つ破鎧掌の衝撃が黒き獣の身体に食い込む。。
 獣は悲鳴のようなくぐこもった声をあげた。
 そして角を大きく振りかざすと、暗黒の鎖を目前のリモーネに向けて放つ!
「!!」
「させません!」
 二つの獣の間に立ったプラムが、即座に気づき、毒消しの風を吹かせる。
 痺れて動けない黒き獣に向け、フェイフーが破鎧掌を叩き込む。
 鮮血が……空に舞った。

「The Long Divorce...!」
 シリウスの短い叫びと共にソニックビームが放たれる。
 白き獣は、全身に傷を受け、ぼたぼたと赤い血潮を地面に零しながら、しかしまだ立っていた。憎しみをたたえた赤い瞳を彼らに向けながら。
 獣を包む白い炎が一層強まり、その身から衝撃波が放たれる。木の葉を交え、みるみる後衛に伸びる衝撃。その先にはフロルが立っている。
「フロルさん!!」
「……だ、大丈夫ですっ」
 フロルは両手杖を支えにして立ちながら、にっこりとメイに笑って返す。
「でも……」
 掴んだ杖を握り、表情を引き締めたフロルの華奢な体から立ち上る『気』。
 叫びと同時に、炎が彼女の周りに立ち上り、燃え上がった木の葉が白き獣に向かい絡み付いていく。
 メイもまた敵に視線を据え、小杖を構える。
 星々の光を蓄えたという小杖。そこに不思議な力が溢れだす。その力を紋章に込めて、メイは狙い定めて撃ち出した!
「エンブレムシュート!!」

「……!!」
 うぉんうぉんと聞いたことのない音を喉から漏らし、白き獣はゆらりとその身をよろめかす。終りの時間が迫っていた。
 その目前に一人の少年が駆けて来る。
 道連れにしたいと思ったが、きっともう無理だろうか。
 蹄を再びたてる白き獣。二刀流の武器を構えたシイナは、ブレードダンスを叫びながら獣に切りかかっていく。最後に放った獣の衝撃波はいかほどシイナにダメージを与えられただろうか。
 それは崩れ落ち、暗くなっていく中でそんなことを考えていた。

●獣の最後
「……な、なんとか持たせたにゃる……」
 白の獣が倒れたのを知り、フェイフーは漸くほっとしたように微笑んだ。力が抜けていく片方の膝で地面の感触を知る。
「やりましたね……」
 リモーネもまた頬の傷を袖で拭った。
 その二人の横を、アリアの放つ緑の業火が敵を焦がしていく。
 戦いはまだ続いていた。
 けれど、フェイフーとリモーネの体を暖かく包んだヒーリングウェーブの光は、プラムのものだろう。
 もはや黒き獣の方も時間の問題であった。
 駆けつけてくる後続班。ソニックウェーブ、スキュラフレイム、ブレードダンス、華麗なる衝撃、エンブレムシュート、緑の業火、次から次へと叩き込まれる攻撃アビリティを最後までそれは受けきることもなく、ぐしゃりと音をたてて崩れ落ちていったのだった。

 沈黙を破ったのは、プラムの幼い声の呟き。
「……終わりました……ね」
 呟きながら、彼女は袖の中に隠してあったオカリナの重みに今頃気づく。使うことにならなくて本当によかった……心から思った。
「皆さん大丈夫ですか?」
 メイが周りを見渡して、全員の顔を捜す。アリア、フロル、シイナ、フェイフー、シリウス、ティー、リモーネ、イリーナ、プラム。……みんな揃っている。そしてそれぞれがほっとしたような表情を浮かべていた。
 重傷者がいなかったのは、鎧聖降臨のおかげも、医術士が多かったおかげもあっただろう。大怪我をするような重傷者は一人もいなかった。
 メイもまた安堵の表情になり、再び口を開く。
「これでもう安心ですね。……早くオランジさんをお迎えに行かないと」
「そうですわね」
「……きっと心配して首を長くして待ってそうだね」
 アリアが頷き、ティーが楽しそうににっこり笑う。
 出発前、オランジはとても護衛士達のことを心配していたから、全員が元気で戻ってきたらとても喜んでくれるだろう。
「トナカイの焼肉帰ったらしたいにゃるよ〜」
 おなかをおさえてフェイフーが呟く。
 緑の業火の余波だろうか。少しこげたような匂いがトナカイからたちのぼる。
 これがまたかなり香ばしいのだ。
「村の方達が食事を用意してくださっていると思いますよ」
 リモーネがフェイフーを励ますように笑っていった。変異した動物ならたまには美味しく食べられるそうだが、モンスターではさらに見込みがなさそうな……。
「……一応角を持って帰るか」
 苦笑しながらシリウスは、倒れたモンスターの角を切り落とし、懐にしまった。
 今までに発生したモンスターの残骸も全てベルフラウに届けている。最近のモンスターの度重なる出没が、何か悪い前兆ではないかと心配しているからであった。
(「そんなことはありません。大丈夫です」)
 はっきりと答えたベルフラウの表情を思い出す。
(「ロリエンの護衛士達の評判が広まり、より広域から依頼がもたらされているからです。虹色の魚は、遠くから渡ってきたものがロリエンを抜けていった時に何故か居ついてしまったみたいですが……原因はよくわかりませんでした」)
 これもまた杞憂であればいいのだが。そう思い、シリウスは懐の感触を思った。
 そして、イリーナの提案で、倒したモンスターの死体を埋葬し終えた後、護衛士達はオランジ医師の待つ村へと、帰還したのであった。

●イェルラド
 それから数日。
 漸く辿りついた森の奥にある古き街、イェルラド。
 先にベルフラウから便りを得ていた住人たちは大喜びで彼らを迎えた。
 巨大にそびえたその幹、枝葉は、街の一番高い場所にあり、まるでその街を象徴しているかのようだった。これで人々がその樹を愛さないわけがないと、護衛士達は納得する。
 オランジは木を詳しく見たあとで、護衛士達ににっこりと微笑んだ。
「……あの木はかなり酷い状態だが、けれど生命力はけして衰えとらんよ。生きようとしておる。私はこの街に暫く滞在して、この木のために尽くそうと思います」
 木の治療は1日や2日で終わるものではない。
 帰宅の時期が決まったらまた連絡しよう、とオランジは護衛士達に約束した。
「これで……治るといいですよね……」
 大樹を一人見上げフロルは呟いた。
 悠久の時の間を生きて、人々を見守ってきた万年杉。なんと美しいのだろう。
(「これで終りじゃない……むしろここからが始まり……」)
 フロルはその幹に指を触れ、木の為にそっと祈る。
(「……願わくば、村の人々に愛された樹木が、また人々に喜びを与え、与えられるようになりますように……」)
 その彼女の祈りが届いたのだろうか。
 突然優しい風が吹いて、大樹は枝葉をゆっくりと揺さぶられ、さやさやと歌うかのように音を鳴らしたのだ。
「……頑張って」
 フロルはそう呟き、そして彼女を見つめる仲間達の方を振り返り、笑顔を浮かべたのだった。


マスター:鈴隼人 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2005/12/04
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