全ての人に愛を〜今年もお世話になりました〜



<オープニング>


●初雪祭を楽しみたい!
 その村では『初雪祭』を毎年行っている。その年の初雪が降った日から3日間、村人達が祭りをするのだ。冬の間の無病息災を願うというのが主旨らしいが、実際は1年の労をねぎらう祭りであった。積もった雪を使って、雪像を作って審査したり、近隣の村から美麗な防雪装束のコンテストをしたりもする。
 しかし、今年はその準備がまったくはかどっていない。勿論理由がある。奇妙な虫のせいであった。この虫は甲虫によく似ていた。冬に甲虫がいるわけもないし、大きさも成人の男ぐらいある。どう見ても普通の虫ではない。この虫は村の真ん中にある広場に陣取っていて、近づくとものすごい悪臭を放つのだ。近寄らなければ何をするわけでもないのだが、広場は毎年祭りの会場となっているところだ。

 アトリはこの村の様子を見てびっくりした。例年ならば祭りの準備に賑わっている時期なのに、村はひっそりとしている。空はどんよりと曇りいつ初雪が降ってもおかしくない。村長から事情を聞き、広場へととって返す。確かにそこには黒い甲虫がいた。時折もぞもぞと動いている。
「あの虫のせいってことなら話は早いぜ。俺と俺の連れてきた仲間達であれを退治しちまえば良いって事だよな、そうだろ?」
 アトリを追ってきた村長はそうだとうなずく。
「よ〜し。パパッとやっつけるぜ」
 仲間に声を掛け、アトリは走り出した。

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参加者
華麗なる恋の求道者・ノア(a22669)
エンジェルの医術士・ヴィオレッタ(a26131)
昼梟の劔・シンジュ(a26205)
蒼翠弓・ハジ(a26881)
朱の蛇・アトリ(a29374)
ドリアッドのくのいち・ライカ(a30945)
還天唄・マサキ(a31754)
ストライダーの旅人・ライナス(a36639)


<リプレイ>

●対甲虫作戦発動
 淡い粉雪が降っていた。それは静かに降り積もってゆく。例年ならば雪も解けるほど賑やかに、村はお祭りムード一色であったが今年は違う。村の広場に陣取って動かない巨大な甲虫のせいで、家から出てくる者はいない。還天唄・マサキ(a31754)は一軒ずつ民家を訪問しては、甲虫について質問をしてまわった。
『何時から居るのか』
『何故居座るのか』
『急な気温の変化はなかった』
 村人達の答えは必ずしも合致しているわけではなかったが、甲虫が現れたのは初雪の頃であったらしい。つまりは急に寒くなった頃だ。移動しない理由についてはそれこそ、様々な意見が出たが、それらは全て予想にすぎない。
「う〜ん。これでは的確な対策を講じる事が出来ないのでございます」
 マサキ首をひねる。情報が少なすぎた。しかし、猶予はなかった。
 広場ではもう仲間達が集まっていた。
「始めるぞ」
 尖晶の邪竜・アトリ(a29374)は普段通りの、ちょっとぶっきらぼうな口調で宣言するように言う。
「私はいつでも……」
 手には愛用の楽器を構え、華麗なる恋の求道者・ノア(a22669)は気負いもなく答えた。他の仲間達も準備は既に出来ている。アトリが前に出た。甲虫との距離をアビリティの射程内となるように間合いを詰める。甲虫は相変わらず足をもぞもぞするだけで、敵対的行動はしてこない。
「てめぇらがヤバイ目に遭うんじゃねぇぞ!」
 アトリは『アビスフィールド』を展開した。アトリを中心とした周囲にいる全ての者がちょっぴり不運になる。すぐにノアが『眠りの歌』を歌い始めた。雪の舞う戸外は音楽を奏でるのに適した環境とは言えない。指はかじかんで冷たくなるし、弦の振動も楽器が出す音の響きもくぐもってしまう。それでもノアは心を込めることだけは妥協しなかった。何もかも白く染める雪の中、ノアの音楽だけが響く。
「……成功、のようですね」
 矢をつがえていた蒼翠弓・ハジ(a26881)は油断なく甲虫を見つめていたが、ホッと溜め息をつくと矢をえびらに戻した。どうやら『影縫いの矢』は使わなくても良さそうだ。するとドリアッドの忍び・ライカ(a30945)が甲虫へと走り出した。ライカはすぐに甲虫へと辿り着き、慣れた手つきで甲虫をロープで縛り上げる。それでも甲虫は動かない。
「ライカはこういうのお得意なのよ、えっへん!」
 言うだけあってなかなかに鮮やかな手際だ。誰一人手伝う間もなく、甲虫はライカによってグルグルに縛り上げられた。独創的な縄目が巨大な甲虫をいましめている。
「へぇ、結構きっちり縛ってあるんだな」
 ストライダーの狂戦士・ライナス(a36639)はライカが縛った縄目をちょっと触って確かめる。これなら、運搬中にほどけたりする事はなさそうだ。
「えっへん!」
 ライカが胸を反らせて『威張っているポーズ』をとる。
「じゃ運んじゃおうぜ」
 ライナスはあらかじめ決めていた仲間達に視線を向ける。ノアとアトリとハジだ。
「わかりました」
 ノアがすぐに近寄ってくる。しかし、アトリとハジの足取りはやや重い。その理由は皆が知っていた。
「後は私達と……それから『土塊の下僕』でなんとかなりますから、休んでいた方がいいんじゃないですか?」
「そうだな」
 ノアとライナスは小さくうなづく。ハジとアトリは直前にあった別件で傷を負っていた。体調は非常に悪かったのだが、それを押してこの村に来ていたのだ。
「だ、大丈夫に決まってンだろ!」
 殊更に声を大きくしてアトリが言う。しかし、いつもの様な生彩には欠いている事は仲間だからこそ容易に判ってしまう。
「……お願いです、身体を休めてください」
 いつの間にか側に寄ってきていたエンジェルの医術士・ヴィオレッタ(a26131)が、そっと小さな声で言った。淡雪の様に儚げな印象を持つヴィオレッタの瞳が涙で潤んでいる。アトリとハジを案じる気持ちがヴィオレッタを動かしている。とても邪険にする事など出来ない。すればヴィオレッタを著しく傷つけてしまいそうだ。どうしてよいか判らない微妙な静寂を破ったのは銑鉄の・シンジュ(a26205)であった。
「祭の準備をするのに時間がないのだぞ。行動あるのみだ。甲虫の移動は男衆に任せた筈だ。さっさと撤去してくれ。この場所は私とライカで調査をしてみる」
 皆がさっと行動に移る。しかしアトリとハジは袖口をヴィオレッタに取られて動けない。力任せに振り払う事も出来そうにない。強がっても体調が悪いのは事実なのだ。
「仕方がありません。ここはおとなしく引き下がりましょう」
 ハジに言われヴィオレッタの瞳に諭され、アトリは渋々うなずいた。
「雪像作りまで休んでいるといい。ヴィオレッタ、面倒みてやってくれ」
 シンジュは淡い笑みを浮かべてアトリとヴィオレッタに言った。
「……わかりました」
 真摯にヴィオレッタはうなずいた。

 人員は半分に減ってしまったが、その分『土塊の下僕』が働いてくれた。彼等は甲虫を村の外まで運び、さらには甲虫を埋める作業まで指示に従い行動した。おかげでノアとライナスの負担は随分と軽減された。埋めると言ってもそう深いところに埋めているわけではない。異様に巨大な甲虫だが、殺してしまうのはためらいがあった。出来ることなら人里離れた場所でそっとじっとしていて欲しい。そうすれば、衝突はない。
「しばらく見ていましょうか。暴れたり、村に戻ってしまっては元も子もありません」
「……そうだな。今頃は祭の準備も始まった頃かもしれないからな」
 ノアの提案にライナスはすぐうなずいた。今甲虫が戻ったら、今度こそ村人達は祭を中止にしてしまうだろう。それはどうにも哀しすぎる。甲虫が埋まっている少し盛り上がった地面にも、粉雪が少しずつ降り積もってゆく。

 しゃがんで地面を調べていたシンジュとライカは、揃って立ち上がった。
「何もないです」
「そうだな……奇怪な事だが仕方がない」
 2人は連れだってアトリとハジがいる村長の家へと向かった。そこにはヴィオレッタも同行して2人の介抱をしている。シンジュとライカが報告をすると、同席していた村長が口を開いた。
「つまり、理由は判らないがあの甲虫はもうどかしてしまったということですね」
「そう言うことだ。どうだ、俺と俺の仲間の手にかかればざっとこんなモンだ!」
 アトリが景気よく大きな声で言う。
「……急激な寒さで動けなくなった……というのが私の私見でございます」
 自信なさげにマサキが付け加える。ともかく脅威が去ったというわけで祭の準備が再開された。

 静かだった広場は急に騒がしくなった。村人は総出で準備を始める。雪像コンテストに出るシンジュとアトリも作業を始めた。ヴィオレッタは村の女達に混じって暖かい食べ物や飲み物を作る手伝いを始め、ライカとマサキは防雪装備コンテスト参加への準備をし始める。ノアには鳴り物の手伝いが依頼されたので、村に戻ってきたら伝えなくてはならない。
「なんか、いいですね。こういう情景は……」
 村に戻った活気ある光景に、ハジはそっと笑顔を浮かべた。
「祭の最中かもしれないが、晩飯はみんなで一緒に食おうな!」
 アトリは雪の造形に悪戦苦闘しながらも、やはり大きな声で言った。

 甲虫は土を破って出てくることはなかった。『初雪祭』は滞りなく行われ、村人と冒険者達は楽しい一時を満喫した。そして、雪像コンテスト村長特別賞に『ノソリンに凭れる超美女』、防雪装備コンテスト子供人気1位にライカの白ふわ装備、女性人気1位にマサキの暖色装備が選ばれた。


マスター:蒼紅深 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2005/12/22
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