晩秋の狩猟祭



<オープニング>


「……皆さんには、とある村の狩猟祭に参加して貰いたいの」
 荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)は普段通りの素振りで、何でも無いことのように言った。
「……出来ることは、色々あるけれど……勿論、露天を出しても良いし、露天を回っても良いし……夜には、篝火を焚いて、その周りで踊ったりも、するみたい……」
 簡単に椅子と机を並べ、暖かな紅茶を振舞うことも出来るだろう。簡易テントを張って露天とすれば良いし、簡単な物であれば村から借り受けることも出来ると言う。
「あ……この村でのお祭りに参加する人は、まず、村の入り口で、自分にあった『服』を選んで行ってね……」
 霊査士はそう告げてから、小首を傾げて言う。
「……それで、メインイベントに関してなのだけれど……」
 篝火がメインでは無いらしい。霊査士は穏やかな口調で語り出した。少し視線が逸れているように思えるのは、どうか気のせいであって欲しいものだ。
「村の周囲を、ぐるり、と巡るコースが準備されています……」
 コースと来た。
「ロザリー、聞いても良いか」
「……ティアレスの質問は、受け付けないわ」
 霊査士は目を逸らした。
「ろ、ロザリーさん、ティアレスさん体育座りしちゃってますよぅ!?」
 フラジィルが言う。
 霊査士は目を逸らした。
「……コースには、三日間断食状態にされていた、鶏が、放されています……参加者は、ひとつのボールを、ゴールまで運ぶの……最後の一人でも、良いから、ボールを持ってゴール出来れば、お祭りは成功ね……ボールは、鶏の餌を固めて作られているから……食べ尽くされない、ようにね……?」
 逃げ出そうとしていたティアレスは、数人の冒険者によって捕獲されている。
 此処まで来れば死なば諸共である。
「……きっと、皆なら、大活躍してくれる、って信じているわ……」

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参加者
NPC:毀れる紅涙・ティアレス(a90167)



<リプレイ>

●グリュー村の祝祭日
 村中に喝采が響き、年に一度の狩猟祭を祝っている。
 ユズルは高鳴る胸を押さえながら、居並ぶ露天を見渡した。食欲をそそる美味しそうな香りが至るところから漂って来る。素敵な祭りの日を楽しもうと、彼女は村を巡り始めた。
 しかし、狩猟祭のメインイベントは露天では無い。
 スタート地点には続々と冒険者たちが集まり始めていた。がんばるですぅ〜、とカレンは黄緑色の伝統衣装の裾を押さえる。メインイベントとは即ち、腹を空かした鶏とトラップの仕込まれた村回り一周を巨大な餌玉を護りながら駆け抜けると言う熾烈な戦いのことだ。
 妙に殺気立った気配がスタート地点に溢れている。鶏をコースに放つ村人たちも、まるで危険物を取り扱うかのように慎重な素振りだ。此れは、決して鶏などに屈してはならぬ祝祭の儀なのだ。実に楽しそうな祭りじゃないか、と髪をひと括りにしながらアズーロが言った。
「俺も、この日の為に断食してきた……」
 何処と無く血色の悪い顔はそのせいだろうか。彼は無意識に呟くことで、「腹が減って力が出ない」フラグを立てている。ルゥライラは戦に挑む将も斯くやと言う心持でコースを見遣った。所詮相手は鶏、死にはしない筈である。村人の立場になって考えたところ、縦横無尽ランダムに罠が仕掛けられているのだろうとは理解出来た。其の場合の対処法は未だ浮かばないのだが。
 慣れぬデザインのズボンを引っ張りながら、ガルスタはスタートラインについた。用意された大玉は、大人の背丈を越すほどもある。塗り固められた餌の表面に恐る恐る手を付くと――ぱらぱら、と餌が零れ落ちる。
「……一人で持ち上げれば崩れる、と言うことか」
 この村の人々は何故己を窮地に追い込むことが好きなのだろう。競技の難易度の高さに、眼鏡の下の瞳が戦慄に揺れる。
 そして間を置かず、村長による開始の合図――村中央にある鐘の音が、村中へと響き渡った。

●VS「鶏」
 コースへと放たれたボールへ向けて、競技参加者たちは一斉に駆け出した。
 同時に開放される魔鳥、鶏の群れ。
 ボサツは取り合えず毀れる紅涙・ティアレス(a90167)を見た。
「む?」
 ティアレスが気付き視線を返す。
 更に見た。
 穴が開くほど見た。
「……(ニヤリ)」
「何なのだ一体!? しかも今ニヤリと小声で言いおっただろう!?」
 狼狽する彼を見て笑みを深めつつ、今度は餌玉へと視線を戻す。このサイズであれば持ち上げたり押したりせず、一緒に転がる方が早いのだろうかと半ば自棄な思考を浮かべた直後、
「わはははははは!」
 高らかな笑い声が聞こえて来た。
 見れば、決死の覚悟らしく葱を背負ったメルバルが餌玉に張り付いている。恐らく玉乗りの要領で餌玉に乗りたかったのだろうが、柔らかい餌玉の上に立つことが出来ず、其の結果、なのであろう。餌に塗れた彼に鶏たちが襲い来る。
「貴様ら……餌を食べたくば戦えい! 我に全力で向かって来い!!」
 クワッと鶏を威嚇しながらオルドが吼えた。
「コケーッ」
 転がった餌玉を抱え上げ、鶏を引き付け必死で逃げる。直後、足元が陥没した。穴に木霊す断末魔。しかし彼女は落下の直前、参加者の群れ目掛けて必死で玉を投げてくれていた。
 襟元を着崩しながら、ディーンは渋い顔で餌玉を押し走る。地面の不自然な盛り上がりを避けて駆けるも、
「――!?」
 動けない。足を取られ転倒する。
「鳥もちだと……!?」
 愕然とする彼へついた餌を求め、鶏が飛ぶ。
「コケーッコッコッコッコッ」
「トラップもあるなんて聞いてないよ!?」
 ベージュを基調とした服を靡かせながら、クリスが悲鳴染みた声を上げた。倒れた知人の手を離れた餌玉が鶏に奪われぬよう、必死で突き飛ばす。しかし戦友の叫びに後ろ髪を引かれたのが罪であったのか。足元の土が脆く崩れ、受けた浮遊感の直後、彼女は穴へと落下した。
「きゃー! クララだって負けないのよー!」
 声を上げながら何故か鶏を追い駆けている少女も居る。其のうちエプロンドレスの裾を踏んで自爆する様が容易に想像出来るのだが、手を差し伸べる余裕がある者など此処には居ない。
 優しい卵色と若草色が格子模様にされた衣装のファオが、恐る恐る手についた餌と持参したお菓子類を鶏たちに広げて見せる。
「コッコッコッ……コケーッ」
 直後殺到する鶏の群れ。思う存分囮にはなれたが、和解は夢のまた夢だった。
「漢なら……危険だと判っていても闘わなくてはならない時がならないときがあるのさ……」
 遠い目をしながら、遠い空にアーシュが呟く。
 手元の精彩な指輪がきらりと光った。餌を身に受けることだけは避けようと位置取りながらも、一体何匹居るのかと空恐ろしくなるほどの鶏勢の群れ中を走る。

●抗う人々
 深みのある常盤緑に白い小花模様を散らした衣装の裾を持ち上げ走るシュシュは、鶏の思い出を胸に浮かべ、表情を蒼白へと変えていた。此処の鶏たちも凄まじい勢いと恐ろしいばかりの鳴き声で冒険者たちに襲い掛かって来る。
「コケーッッ」
 涙が浮かび滲んだ視界が大きく揺らぐ。鶏の飛び蹴りを受け、彼女は派手に転倒、更に後続のアレクサンドラをも巻き込んだ。運動音痴を自認する彼は倒れこみつつ、必死でボールを味方へパスする。
「希望は貴殿に繋がせてもらうぞっ!」
 黄金のタイピンで留められたベルベットのスカーフが鶏の影に消えて行く。
 彼の遣り遂げた笑顔を目蓋に焼付け、グレイはボールに立ち向かった。
「ふっ……同盟屈指と言われたウェンブリン司令塔の戦術眼を、とくと御覧にいれましょう」
 託されたボールを、彼は高く蹴り上げる。
 高く、そう高く。
 彼目掛けばらばらと降り注ぐ餌。
「コケーッ! コケーッ!」
 鶏の白い羽毛へ埋もれた男の銀のカフスがきらりと光る。ばさりと黒いマントを広げ、シュウは天から降り注ぐ餌玉を受け止めた。
「良くぞ生き残った我が精鋭たちよ!」
 しかし此れから減るのだと言わんばかりに、彼は再び餌玉を擲つ。
「あぅぅぅ……白いドレスがァ泥まみれぇ真っ黒にぃぃぃぃ」
 此処に至るまでに転倒、落下を繰り返していた満身創痍のナオは、へろへろしながらも餌玉を転がした。餌玉を持つと言うことは更に鶏から襲われると言う意味でもある。しくしくと泣きながら、彼女もとうとう地に伏した。
「女性には手を貸してくれるんだよね?」
 餌玉を拾ったアリシアは、素早くティアレスに足を引っ掛けようとする。が、咄嗟にティアレスを護ると宣言していたミナが、女物の青い伝統衣装を翻しながら咄嗟に妨害した。縺れた直後に鳥もちに引っ掛かる二人の横を駆け抜けながら、ティアレスはぽつりと呟いた。
「『女性だから手が貸されて当然』と思う輩はレディとも思えんがな……」
 うふふ、と言う柔らかな笑い声が響く。
「いざという時は、ティアレスが勇者となって私を護ってくれるのだよね」
「……そう言われると応えざるを得んのだが!」
 紫に染められたエプロンドレスの裾が靡く様は愛らしくもあり、オリエの言葉を否定出来ない。そんなティアレスへ唐突に塗りつけられる餌餌餌。ひらひらとはためく深緑の裾を残して、餌を振り撒きながらナミキは素早く駆け抜けた。凄まじい勢いの鶏たちが彼の後を追い駆けて行く。容赦無くティアレスが轢かれていった。
 グラースプは餌玉に纏わり付く鶏を容赦無く叩き落としている。当初は何として陥れようと考えていた人物がリタイアする様を見る余裕も無い。攻撃されたと感じたのか、鶏たちはコケコケ叫ぶように吼えながら、彼に向けても激しく襲い掛かった。しかし其の奮闘の成果はあり、餌玉は何とか原型を留めている。
「のあああっ!」
 何かがぷっつり切れたらしく、大声を上げながら鶏を蹴散らし進むエリス。
「痛いものは痛いですっ! 羽を毟ってローストにするですよっ、この鶏さんはっ!」
 可愛らしいピンクの花柄の上に、鶏たちの羽毛が散った。動物好きな彼女としても、この猛攻は精神的に耐え切れるものでも無かった。必死の形相で振り払いながら、ラストスパートとばかりに前方の味方に向けて餌玉を投げ渡す。
 受け取ったリューシャの着込んだ衣装は、ベビーピンクに小花柄と言ったもの。絶えぬ悲鳴が響き続ける背後を振り返ることなど、恐ろし過ぎて出来なかった。彼女は鶏を寄せ付けぬ速度で走り切り、ゴールラインを超えるのだった。安堵して足を止めた直後、彼女へ向けて追いついた鶏たちが殺到したことは言うに及ばない。

●祝祭大成功!
 競技終了後、スゥは一生懸命に鶏たちの世話をした。しかし競技に使用された鶏はすべて夕食として使われると知り、彼女は非常にショックを受け、深く沈んでしまう。しかし狩猟祭は得た肉を神に感謝し食すと言うところに本来の目的がある為、食べずに居るのは本末転倒なのだと村長に聞いた。
 村をあげての夕食では串に刺して焼いた鳥や、詰め物をして焼いた鳥、煮込み料理と多種多様。冒険者たちは競技の疲れを癒すように、食べて食べて食べて食べた。
 煌く星が空に滲む頃、広場に焚かれた篝火を囲んで、人々は楽しく踊り始める。流れる曲は明るく弾んで、今日と言う日の素晴らしさを物語っていた。踊りが始まると、ヴィンは真っ先にフラジィルを誘う。
「おなか減らしたほうが、料理も美味しいよ」
 言われた彼女もにこりと笑い、頷いた。実のところ彼女は小食であるから、食事の手もそろそろ止まり掛けていたらしい。
「その服、良く似合ってるよ。可愛い」
 褒められればやはり破顔する。二人は手を取り合って輪に駆けた。
「……ふ、ふふふ。この格好は……恥辱に塗れるね……」
 想像以上だと呟きながら、エンはロザリーの手を取った。霊査士は可笑しげに目を細めると、自身の帽子を被り直す。適当に選んだらしい焦げ茶地に白の小花模様を靡かせながら、静々と輪に加わった。
 フォークダンスは踊るうちに相手もくるくる変わるもの。次に彼女の手を取ったジェネシスは、暦を意識し天を見上げた。
「フォーナの宴にてまた私と踊って頂けますか、ロザリー様? ……いえ、ロザリー」
 軽く蒼い髪を手で梳きながら、囁くように言葉を零す。霊査士は瞳をぱちりと見開いた後、
「……気が向いたらね」
 己の肩に頬を寄せるような仕草を見せて、そう言った。
 ダンスが好きであるミュセは、フォークダンスの輪の中で其れは楽しそうに踊っている。手の空いている者は積極的に誘い、踊りなれていない者が居れば優しくリードしてやった。
「ティアレスしゃまー! ダンスはいかが?」
 フリルのエプロンを握り締め、リィリは彼に声を掛ける。気が向かなげな彼に膨れながら、底の高い靴を履いてきたのだと足元を示した。
「……ま、努力は認めようか。転ぶなよ」
 素っ気無い調子で肩を竦め、ティアレスは優雅な素振りで手を差し出す。くるりと一曲踊って見れば、パートナーは入れ替わる。ティアレスの顔を見て、競技は見物だったとレインが笑う。白い裾が夜風に流れた。
「篝火は遠くから眺めても良いかもね……一人じゃ寂しいかしら」
 呟きを耳に、ティアレスは何処か皮肉げな調子で笑う。
「村の外れで星を見るか? 付き合っても良い。一頻り踊った後で良ければ、な」
 星はきらきらと輝いた。
 高過ぎる空、冷た過ぎる風が知らしめるは秋の終わりと冬の訪れ。


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